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22 遠出
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「新兵器を作っていると評判ですが、仕上がりのほうはどうですか?」
「私は不安だと言っているんですが、サーシャは次の試験をクリアしたらムサエフ将軍にもぜひ見てもらった方がいいと言うんですよね」
「ほう。それは期待したくなりますね。内政での活躍はカラシフが絶賛していましたよ。大陸中の政治が変わるとまで言ってました」
「カラシフが働きまくっていますからね」
「数字を教わってから、我々としても軍を数で掌握しようという方法に変更しようかと考えています。一騎討ちの文化はなかなか消えないでしょうが・・・」
将軍と近衛兵を連れて東の国境へと向かっている。俺が乗馬を憶えたということで、練習がてら遠乗りしながら国境の防衛がどう行われているのか見に行くことになった。
「リーベリでしたか。戦ったことはあるんですか?」
「ペテルグとリーベリは戦ったことは無いですね。ですが虎狼の国と呼ばれている北のタージと互角に戦っているのですから、やはり強いと思いますよ」
ペテルグに攻めて来ないのは利にならないからだろうな。
道中の村々はかなり苦しい生活を強いられているようだった。そう言えば麦の蒸留酒が超高級品だという話だった。麦が少ないとなると、育てているのはジャガイモだろう。雪が降るような土地でも育つような、いい食料は無いものだろうか。北海道だとジャガイモ、小豆、それに畜産用の飼葉というあたりか。東北は米の印象が強いが、実際に米作りを行ったのは戦後の品種改良が進んでからだ。それ以前は粟など雑穀が中心だったはずだ。
それにしても道の足場が悪いな。足を取られて馬の機嫌が悪くなる。
近くに立派な岩山が見えるな。
「これだけ足場が悪いとなると、国境まで軍を動かすのも大変なのではないですか?」
「大変ですね。たんに戦ったことが無いというだけであって、リーベリも攻めてくる可能性が無いわけではないですから。それでもやはり仮想敵はチュノスになります」
だからチュノスとの国境を先に視察したのだ。こちらの視察はほぼ遠乗りのついでだ。
「あそこの立派な山、岩山ですよね?あそこで石を確保して、道に敷き詰めるだけでも行軍速度は上がりますよ」
「石で道を作るんですか・・・それはまた随分と不思議なことを思いつくものですね・・・」
「商売をする上でもいい事なんですよ。ペテルグの王宮の近くまでものが運ばれる速度が変われば、ものの価値も上がります」
街道の発想は紀元前のローマにもあった。近くで良質な石材が獲れれば街道は作れる。
「簡単に言いますが、ずいぶんと大変な事業ですな」
「肉体労働ですからねぇ。まぁ軍事訓練の一環として考えておいてください。利を説けば裁可も得られるでしょう」
街道は古代の高速道路だ。物流が変われば回ってくる財も変わる。そもそもなにをどうやって送るのかというのは俺の本職だった。物流に関わっていなかったら、なにがなにの原材料なのかなんて知らないままだっただろう。今後市場が作られるなら物流の改善も必須だ。
道中に宿は無い。川の近くで野営をし、身体を洗い、また行軍する。
食事も寝場所もイマイチでオッサンの身体には堪えるが、こういう世界なので仕方が無い。
さらに山を越えて隘路にそびえたつ砦で一泊した。もっと先に国境があるのに、ずいぶんと変な場所に砦があるんだな。
リーベリに近くなってくると見るからに余裕のある人間や建物が多くなってきた。
・・・これ、もはやリーベリの属国というか緩衝地帯のようになっていないか?
「見ての通り、防衛線のようなものはありません。リーベリの商人が出入りして我がペテルグのものを売ったり買ったりしています。いちおうはこの先にある川までが我が国ということになっているんですが・・・まぁ実質リーベリの一部のようになっていますね」
文化的に食われている、というのはかなり痛いな。太平洋戦争後の日本人がアメリカに妙な憧れを持ったことと同じ事だ。ましてや行ける距離にある国なのだから、より豊かな土地で暮らそうとするのが普通だろう。
「ペテルグの国民でありながら、リーベリで働いているという人もいそうですね」
「実際にそうしているでしょうね。ペテルグでもこの辺では税での優遇措置などがあるはずなのですが、リーベリで暮らしたいという人間も少なくないでしょう。ここまで住民が取り込まれているとなると防衛も難しいんですよ。国への忠誠心も薄ければ軍への協力や心象もいまひとつです。リーベリの国民になるために莫大な富が必要なので、リーベリの国民になりたいがなれない人間の集落というところです」
集落、というには立派すぎるな。交易の要となる町という具合に見える。
これじゃぁ防衛戦なんかできないな。
「軍としてはここをどうやって防衛する気なのでしょうか?」
「街の中に軍を入れるような戦はできませんからね。王はどう考えているか知りませんが、防衛線を下げて手前にあった隘路で防衛する計画です。昨夜泊まったあの砦ですよ」
ああ。だからあんな中途半端な場所にあったのか。
「ただ、リーベリがなんの理由もなく攻めてくるとは思えないんですよね。国境線は川になっていますから。負けたら川に落とされるような戦い方をするかと言われると・・・」
渡河作戦は事前に知られたら失敗する。
俺が居た世界の歴史上では成功した事例ばかりが有名だが、あれは物量に勝っている状態で大規模な奇襲だったから効果的だったのだ。
たしかにそこまでして攻めてくるかなぁ。
「リーベリの側からタージに攻め入るということはあったんでしょうか?」
「ここ百年では本格的な侵攻は無かったはずです。タージもそれほど資源がある土地ではありませんから」
「この二国が手を組むということは・・・」
「まず考えられませんな。マハカムと戦争すると言うのであれば休戦協定くらいは結ぶでしょうが。あとはタージの食料事情が悪化したのであれば状況は変わりますな」
状況はおそらく数年で変わる。
貨幣経済と市場が機能し始めればペテルグの内政は活気づく。移動してみて気づいたがペテルグにこれだけ山があるなら眠っている資源もあるかもしれない。・・・ん?山か。
「リーベリは鉄や金があるんですよね?」
「ええ。金貨も銀貨もリーベリのものを流用していますからね」
「どういう土地なのでしょうか?」
「海に面していて温暖で暮らしやすい土地だと聞いていますよ。魚料理が美味いと聞いています」
「山はあるんでしょうか?」
「山、ですか。それは知りませんね・・・おそらくそんなには無いと思いますが・・・」
ちょっとマズいかもしれないな。
「この町でちょっと調べたいものがあります」
「私は不安だと言っているんですが、サーシャは次の試験をクリアしたらムサエフ将軍にもぜひ見てもらった方がいいと言うんですよね」
「ほう。それは期待したくなりますね。内政での活躍はカラシフが絶賛していましたよ。大陸中の政治が変わるとまで言ってました」
「カラシフが働きまくっていますからね」
「数字を教わってから、我々としても軍を数で掌握しようという方法に変更しようかと考えています。一騎討ちの文化はなかなか消えないでしょうが・・・」
将軍と近衛兵を連れて東の国境へと向かっている。俺が乗馬を憶えたということで、練習がてら遠乗りしながら国境の防衛がどう行われているのか見に行くことになった。
「リーベリでしたか。戦ったことはあるんですか?」
「ペテルグとリーベリは戦ったことは無いですね。ですが虎狼の国と呼ばれている北のタージと互角に戦っているのですから、やはり強いと思いますよ」
ペテルグに攻めて来ないのは利にならないからだろうな。
道中の村々はかなり苦しい生活を強いられているようだった。そう言えば麦の蒸留酒が超高級品だという話だった。麦が少ないとなると、育てているのはジャガイモだろう。雪が降るような土地でも育つような、いい食料は無いものだろうか。北海道だとジャガイモ、小豆、それに畜産用の飼葉というあたりか。東北は米の印象が強いが、実際に米作りを行ったのは戦後の品種改良が進んでからだ。それ以前は粟など雑穀が中心だったはずだ。
それにしても道の足場が悪いな。足を取られて馬の機嫌が悪くなる。
近くに立派な岩山が見えるな。
「これだけ足場が悪いとなると、国境まで軍を動かすのも大変なのではないですか?」
「大変ですね。たんに戦ったことが無いというだけであって、リーベリも攻めてくる可能性が無いわけではないですから。それでもやはり仮想敵はチュノスになります」
だからチュノスとの国境を先に視察したのだ。こちらの視察はほぼ遠乗りのついでだ。
「あそこの立派な山、岩山ですよね?あそこで石を確保して、道に敷き詰めるだけでも行軍速度は上がりますよ」
「石で道を作るんですか・・・それはまた随分と不思議なことを思いつくものですね・・・」
「商売をする上でもいい事なんですよ。ペテルグの王宮の近くまでものが運ばれる速度が変われば、ものの価値も上がります」
街道の発想は紀元前のローマにもあった。近くで良質な石材が獲れれば街道は作れる。
「簡単に言いますが、ずいぶんと大変な事業ですな」
「肉体労働ですからねぇ。まぁ軍事訓練の一環として考えておいてください。利を説けば裁可も得られるでしょう」
街道は古代の高速道路だ。物流が変われば回ってくる財も変わる。そもそもなにをどうやって送るのかというのは俺の本職だった。物流に関わっていなかったら、なにがなにの原材料なのかなんて知らないままだっただろう。今後市場が作られるなら物流の改善も必須だ。
道中に宿は無い。川の近くで野営をし、身体を洗い、また行軍する。
食事も寝場所もイマイチでオッサンの身体には堪えるが、こういう世界なので仕方が無い。
さらに山を越えて隘路にそびえたつ砦で一泊した。もっと先に国境があるのに、ずいぶんと変な場所に砦があるんだな。
リーベリに近くなってくると見るからに余裕のある人間や建物が多くなってきた。
・・・これ、もはやリーベリの属国というか緩衝地帯のようになっていないか?
「見ての通り、防衛線のようなものはありません。リーベリの商人が出入りして我がペテルグのものを売ったり買ったりしています。いちおうはこの先にある川までが我が国ということになっているんですが・・・まぁ実質リーベリの一部のようになっていますね」
文化的に食われている、というのはかなり痛いな。太平洋戦争後の日本人がアメリカに妙な憧れを持ったことと同じ事だ。ましてや行ける距離にある国なのだから、より豊かな土地で暮らそうとするのが普通だろう。
「ペテルグの国民でありながら、リーベリで働いているという人もいそうですね」
「実際にそうしているでしょうね。ペテルグでもこの辺では税での優遇措置などがあるはずなのですが、リーベリで暮らしたいという人間も少なくないでしょう。ここまで住民が取り込まれているとなると防衛も難しいんですよ。国への忠誠心も薄ければ軍への協力や心象もいまひとつです。リーベリの国民になるために莫大な富が必要なので、リーベリの国民になりたいがなれない人間の集落というところです」
集落、というには立派すぎるな。交易の要となる町という具合に見える。
これじゃぁ防衛戦なんかできないな。
「軍としてはここをどうやって防衛する気なのでしょうか?」
「街の中に軍を入れるような戦はできませんからね。王はどう考えているか知りませんが、防衛線を下げて手前にあった隘路で防衛する計画です。昨夜泊まったあの砦ですよ」
ああ。だからあんな中途半端な場所にあったのか。
「ただ、リーベリがなんの理由もなく攻めてくるとは思えないんですよね。国境線は川になっていますから。負けたら川に落とされるような戦い方をするかと言われると・・・」
渡河作戦は事前に知られたら失敗する。
俺が居た世界の歴史上では成功した事例ばかりが有名だが、あれは物量に勝っている状態で大規模な奇襲だったから効果的だったのだ。
たしかにそこまでして攻めてくるかなぁ。
「リーベリの側からタージに攻め入るということはあったんでしょうか?」
「ここ百年では本格的な侵攻は無かったはずです。タージもそれほど資源がある土地ではありませんから」
「この二国が手を組むということは・・・」
「まず考えられませんな。マハカムと戦争すると言うのであれば休戦協定くらいは結ぶでしょうが。あとはタージの食料事情が悪化したのであれば状況は変わりますな」
状況はおそらく数年で変わる。
貨幣経済と市場が機能し始めればペテルグの内政は活気づく。移動してみて気づいたがペテルグにこれだけ山があるなら眠っている資源もあるかもしれない。・・・ん?山か。
「リーベリは鉄や金があるんですよね?」
「ええ。金貨も銀貨もリーベリのものを流用していますからね」
「どういう土地なのでしょうか?」
「海に面していて温暖で暮らしやすい土地だと聞いていますよ。魚料理が美味いと聞いています」
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