23 / 111
23 燃料
しおりを挟む
宿に馬を預けて平服に着替え、護衛を従えて東の国境の町を散策する。軍が来ているとなると大事になるらしいので、お忍びの身ということだ。ペテルグに居ると俺のお味のある顔は目立つが、この町ではそれなりにお味のある顔の人が多いので目立たずに済む。
とにかく売っているものに目をこらす。やはりマキ、炭、木材か。しかもけっこうなお値段で売っている。これがリーベリに入って、さらに高値で売っているのだろう。
どうやらここでは石炭の売買は無いようだ。ということは、リーベリの燃料はすべて木材なのかもしれない。しかも慢性的に燃料が不足しているように見える。
燃料不足を理由にリーベリがペテルグに攻めてくる可能性はあるな。
ペテルグまで足を運べばその辺に木が転がっているのだ。つまり燃料だ。もしかしたらリーベリには燃料になるような木がほとんど無いかもしれない。鉄を打ち、銀を鋳造し、金貨を作っているにも関わらず、だ。
「燃料ですな。しかもなかなか高値で取引されている」
「あんまりいい状況ではありませんね。あとで説明します」
リーベリの側からは肉や魚の塩漬け、塩、食料などが木材と交換で売られていた。俺もこちらに来てから魚は鮭と川魚しか食べていない。珍しいものが多いんだからそりゃ活気もあるだろう。王宮周辺の城下町はまだ見ていないが、こんなに多くの交易品は無いだろうな。
宿に帰ってからムサエフ将軍に、リーベリに足りていないものの説明をした。
「燃えるもの、ですか」
「ええ。樹木は片っ端から切っていくと最後には無くなります。無限に生えてくるものではないのです。樹木が消えると土地から土が消えます。土のもととなっているものが枯れた樹木や枯れ葉だからです。樹木が根を張って岩の上でも土が流されないように山を維持しています。土が木によって保存されている山は、水を貯えます。これが山から水が流れてくる仕組みです」
「水は大河があるから山が無くても手に入りますが、木は・・・そうですね。山が無いところに大量の樹木はありませんな」
「過去にタージとリーベリの国境の近くで山火事かなにかありませんでしたか?」
「一昨年ありましたね。しかしなぜ分かったんですか?」
「リーベリが国境を超えて木材を勝手に手に入れようとしたとか。タージがそれを察知してリーベリに渡すくらいなら木材を焼いてしまえと思ったか」
将軍の顔色が変わった。
「となるとリーベリにはこの冬を越すだけの燃料が無いかもしれないと?」
「そこまで逼迫しているのであるなら、もっと高く売っているでしょう。もしくは国として木材を売ってくれという打診があったのではないですか?」
「ああ、ありましたね。実際にかなりの量がリーベリに売られています。木材輸出の大半はリーベリ向けですね」
やはり慢性的な燃料不足か。かつて栄華を極めた文明の中でも、木材が不足して文明が消滅した例があると読んだことがある。文明というのは一方通行に発展するものばかりではない。時に衰退し、消滅することもある。リーベリはそれに近い状態にあるようだ。金銀があっても他国に頼らないと通貨が作れないようでは、国としての終わりも近い。
「・・・足を運んでみるものですな。まさか戦争の火種になるものがあるとは・・・」
「東のリーベリ、西のチュノス。相手をするならどちらの方がマシでしょうか?」
「チュノスの方がマシですな。王もチュノスを叩かずにリーベリと防衛戦をやるなどとは思いませんでしょう」
「こちらの体勢が整うまでは、宰相と相談してなんとかリーベリへの戦争を控えるようにしましょう。チュノスとリーベリに挟撃されたら勝ち目はありません」
「新兵器の拠点配置などは?」
「帰りに砦周辺をもう一度見てからですね。リーベリに木材を輸出するというのであれば、やはり道は整備しておいた方がいいでしょう。行軍も早くなりますし木材の輸送もラクになります。この地域だけ山が消えるとなると預言者様も黙ってはいないでしょうから」
それにしても・・・燃料が無くなるほど伐採した土地か。軍の再編さえできればわりと簡単に落ちるんじゃないか?いや、飛躍しすぎか。俺の女を守るためにわざわざ他国を攻める理由が無い。ギリギリ国が亡びないように気を付けながらリーベリに木材を供給してやればいい。
食事や生活風景だけを見ていても、文明のレベルというものはけっこう分かるものだな。
宿の格としては中ぐらいという話だったが、肉と魚とパンが出てきた。酒も荒っぽいウオッカのようなものが出てきたが蒸留酒だ。この辺の食料事情はなかなか悪くない。
「アラヒトさん、欲しければ葡萄酒も飲めますよ。リーベリの葡萄酒は美味いんですよ」
わざわざ将軍が国境まで来たのはこれが理由か。
「せっかくですからいただきましょうか。みなさんもどうぞ」
こういう酒の席は久しぶりだな。というか、この世界に来て初めてこういう酒宴っぽいことをしている。この世界を理解するだけでも大変だったが、数字も文字も無い状況では誰もこの世界を理解しているとは言いづらい。今現在カラシフを中心にして、自分たちの武器がどの程度なのか確認しているはずだ。
「私の田舎は山の中の小さい集落なのですが・・・先ほどの山の話のように本当に土まで消えてしまうんですか?」
若い将校がさっきの話に興味を持ったようで聞いてきた。
「私が居た世界では過去に消えた土地があります」
「では木を切ったあとに、どうすればいいんでしょうか?」
「苗木というものがあります。木の子どもですね。そいつを植えてやることで木は増えるし育ちます。切り倒した切り株に刺して繋げる方法もありますね。まぁ木こりの方が詳しいと思いますが」
なにも無い国だと思っていたが、木が売るほどあるというのは強みだな。
「私からも質問をしたいんですが、山から出てくる燃える石というものは聞いたことが無いでしょうか?」
「聞いたことが無いですね。石が燃えるんですか?」
石炭はまだ無いのか、あっても気づいていないのか。
いきなり石炭を燃料にする、というのはかなりぶっ飛んでいるが、木材を輸出すればペテルグがエネルギー不足になる可能性もある。一部燃料を石炭にするというやり方もあるはずだ。
よく分かっていないうちはとにかく手持ちのカードを増やしておきたい。
とにかく売っているものに目をこらす。やはりマキ、炭、木材か。しかもけっこうなお値段で売っている。これがリーベリに入って、さらに高値で売っているのだろう。
どうやらここでは石炭の売買は無いようだ。ということは、リーベリの燃料はすべて木材なのかもしれない。しかも慢性的に燃料が不足しているように見える。
燃料不足を理由にリーベリがペテルグに攻めてくる可能性はあるな。
ペテルグまで足を運べばその辺に木が転がっているのだ。つまり燃料だ。もしかしたらリーベリには燃料になるような木がほとんど無いかもしれない。鉄を打ち、銀を鋳造し、金貨を作っているにも関わらず、だ。
「燃料ですな。しかもなかなか高値で取引されている」
「あんまりいい状況ではありませんね。あとで説明します」
リーベリの側からは肉や魚の塩漬け、塩、食料などが木材と交換で売られていた。俺もこちらに来てから魚は鮭と川魚しか食べていない。珍しいものが多いんだからそりゃ活気もあるだろう。王宮周辺の城下町はまだ見ていないが、こんなに多くの交易品は無いだろうな。
宿に帰ってからムサエフ将軍に、リーベリに足りていないものの説明をした。
「燃えるもの、ですか」
「ええ。樹木は片っ端から切っていくと最後には無くなります。無限に生えてくるものではないのです。樹木が消えると土地から土が消えます。土のもととなっているものが枯れた樹木や枯れ葉だからです。樹木が根を張って岩の上でも土が流されないように山を維持しています。土が木によって保存されている山は、水を貯えます。これが山から水が流れてくる仕組みです」
「水は大河があるから山が無くても手に入りますが、木は・・・そうですね。山が無いところに大量の樹木はありませんな」
「過去にタージとリーベリの国境の近くで山火事かなにかありませんでしたか?」
「一昨年ありましたね。しかしなぜ分かったんですか?」
「リーベリが国境を超えて木材を勝手に手に入れようとしたとか。タージがそれを察知してリーベリに渡すくらいなら木材を焼いてしまえと思ったか」
将軍の顔色が変わった。
「となるとリーベリにはこの冬を越すだけの燃料が無いかもしれないと?」
「そこまで逼迫しているのであるなら、もっと高く売っているでしょう。もしくは国として木材を売ってくれという打診があったのではないですか?」
「ああ、ありましたね。実際にかなりの量がリーベリに売られています。木材輸出の大半はリーベリ向けですね」
やはり慢性的な燃料不足か。かつて栄華を極めた文明の中でも、木材が不足して文明が消滅した例があると読んだことがある。文明というのは一方通行に発展するものばかりではない。時に衰退し、消滅することもある。リーベリはそれに近い状態にあるようだ。金銀があっても他国に頼らないと通貨が作れないようでは、国としての終わりも近い。
「・・・足を運んでみるものですな。まさか戦争の火種になるものがあるとは・・・」
「東のリーベリ、西のチュノス。相手をするならどちらの方がマシでしょうか?」
「チュノスの方がマシですな。王もチュノスを叩かずにリーベリと防衛戦をやるなどとは思いませんでしょう」
「こちらの体勢が整うまでは、宰相と相談してなんとかリーベリへの戦争を控えるようにしましょう。チュノスとリーベリに挟撃されたら勝ち目はありません」
「新兵器の拠点配置などは?」
「帰りに砦周辺をもう一度見てからですね。リーベリに木材を輸出するというのであれば、やはり道は整備しておいた方がいいでしょう。行軍も早くなりますし木材の輸送もラクになります。この地域だけ山が消えるとなると預言者様も黙ってはいないでしょうから」
それにしても・・・燃料が無くなるほど伐採した土地か。軍の再編さえできればわりと簡単に落ちるんじゃないか?いや、飛躍しすぎか。俺の女を守るためにわざわざ他国を攻める理由が無い。ギリギリ国が亡びないように気を付けながらリーベリに木材を供給してやればいい。
食事や生活風景だけを見ていても、文明のレベルというものはけっこう分かるものだな。
宿の格としては中ぐらいという話だったが、肉と魚とパンが出てきた。酒も荒っぽいウオッカのようなものが出てきたが蒸留酒だ。この辺の食料事情はなかなか悪くない。
「アラヒトさん、欲しければ葡萄酒も飲めますよ。リーベリの葡萄酒は美味いんですよ」
わざわざ将軍が国境まで来たのはこれが理由か。
「せっかくですからいただきましょうか。みなさんもどうぞ」
こういう酒の席は久しぶりだな。というか、この世界に来て初めてこういう酒宴っぽいことをしている。この世界を理解するだけでも大変だったが、数字も文字も無い状況では誰もこの世界を理解しているとは言いづらい。今現在カラシフを中心にして、自分たちの武器がどの程度なのか確認しているはずだ。
「私の田舎は山の中の小さい集落なのですが・・・先ほどの山の話のように本当に土まで消えてしまうんですか?」
若い将校がさっきの話に興味を持ったようで聞いてきた。
「私が居た世界では過去に消えた土地があります」
「では木を切ったあとに、どうすればいいんでしょうか?」
「苗木というものがあります。木の子どもですね。そいつを植えてやることで木は増えるし育ちます。切り倒した切り株に刺して繋げる方法もありますね。まぁ木こりの方が詳しいと思いますが」
なにも無い国だと思っていたが、木が売るほどあるというのは強みだな。
「私からも質問をしたいんですが、山から出てくる燃える石というものは聞いたことが無いでしょうか?」
「聞いたことが無いですね。石が燃えるんですか?」
石炭はまだ無いのか、あっても気づいていないのか。
いきなり石炭を燃料にする、というのはかなりぶっ飛んでいるが、木材を輸出すればペテルグがエネルギー不足になる可能性もある。一部燃料を石炭にするというやり方もあるはずだ。
よく分かっていないうちはとにかく手持ちのカードを増やしておきたい。
0
あなたにおすすめの小説
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。
↓
PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。
タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜
夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。
その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。
彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。
異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
*小説家になろうでも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる