ち○○で楽しむ異世界生活

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23 燃料

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 宿に馬を預けて平服に着替え、護衛を従えて東の国境の町を散策する。軍が来ているとなると大事になるらしいので、お忍びの身ということだ。ペテルグに居ると俺のお味のある顔は目立つが、この町ではそれなりにお味のある顔の人が多いので目立たずに済む。
 とにかく売っているものに目をこらす。やはりマキ、炭、木材か。しかもけっこうなお値段で売っている。これがリーベリに入って、さらに高値で売っているのだろう。
 どうやらここでは石炭の売買は無いようだ。ということは、リーベリの燃料はすべて木材なのかもしれない。しかも慢性的に燃料が不足しているように見える。

 燃料不足を理由にリーベリがペテルグに攻めてくる可能性はあるな。
 ペテルグまで足を運べばその辺に木が転がっているのだ。つまり燃料だ。もしかしたらリーベリには燃料になるような木がほとんど無いかもしれない。鉄を打ち、銀を鋳造し、金貨を作っているにも関わらず、だ。
 「燃料ですな。しかもなかなか高値で取引されている」
 「あんまりいい状況ではありませんね。あとで説明します」
 リーベリの側からは肉や魚の塩漬け、塩、食料などが木材と交換で売られていた。俺もこちらに来てから魚は鮭と川魚しか食べていない。珍しいものが多いんだからそりゃ活気もあるだろう。王宮周辺の城下町はまだ見ていないが、こんなに多くの交易品は無いだろうな。

 宿に帰ってからムサエフ将軍に、リーベリに足りていないものの説明をした。
 「燃えるもの、ですか」
 「ええ。樹木は片っ端から切っていくと最後には無くなります。無限に生えてくるものではないのです。樹木が消えると土地から土が消えます。土のもととなっているものが枯れた樹木や枯れ葉だからです。樹木が根を張って岩の上でも土が流されないように山を維持しています。土が木によって保存されている山は、水を貯えます。これが山から水が流れてくる仕組みです」
 「水は大河があるから山が無くても手に入りますが、木は・・・そうですね。山が無いところに大量の樹木はありませんな」
 「過去にタージとリーベリの国境の近くで山火事かなにかありませんでしたか?」
 「一昨年ありましたね。しかしなぜ分かったんですか?」
 「リーベリが国境を超えて木材を勝手に手に入れようとしたとか。タージがそれを察知してリーベリに渡すくらいなら木材を焼いてしまえと思ったか」
 将軍の顔色が変わった。
 「となるとリーベリにはこの冬を越すだけの燃料が無いかもしれないと?」
 「そこまで逼迫しているのであるなら、もっと高く売っているでしょう。もしくは国として木材を売ってくれという打診があったのではないですか?」
 「ああ、ありましたね。実際にかなりの量がリーベリに売られています。木材輸出の大半はリーベリ向けですね」
 やはり慢性的な燃料不足か。かつて栄華を極めた文明の中でも、木材が不足して文明が消滅した例があると読んだことがある。文明というのは一方通行に発展するものばかりではない。時に衰退し、消滅することもある。リーベリはそれに近い状態にあるようだ。金銀があっても他国に頼らないと通貨が作れないようでは、国としての終わりも近い。

 「・・・足を運んでみるものですな。まさか戦争の火種になるものがあるとは・・・」
 「東のリーベリ、西のチュノス。相手をするならどちらの方がマシでしょうか?」
 「チュノスの方がマシですな。王もチュノスを叩かずにリーベリと防衛戦をやるなどとは思いませんでしょう」
 「こちらの体勢が整うまでは、宰相と相談してなんとかリーベリへの戦争を控えるようにしましょう。チュノスとリーベリに挟撃されたら勝ち目はありません」
 「新兵器の拠点配置などは?」
 「帰りに砦周辺をもう一度見てからですね。リーベリに木材を輸出するというのであれば、やはり道は整備しておいた方がいいでしょう。行軍も早くなりますし木材の輸送もラクになります。この地域だけ山が消えるとなると預言者様も黙ってはいないでしょうから」
 それにしても・・・燃料が無くなるほど伐採した土地か。軍の再編さえできればわりと簡単に落ちるんじゃないか?いや、飛躍しすぎか。俺の女を守るためにわざわざ他国を攻める理由が無い。ギリギリ国が亡びないように気を付けながらリーベリに木材を供給してやればいい。

 食事や生活風景だけを見ていても、文明のレベルというものはけっこう分かるものだな。
 宿の格としては中ぐらいという話だったが、肉と魚とパンが出てきた。酒も荒っぽいウオッカのようなものが出てきたが蒸留酒だ。この辺の食料事情はなかなか悪くない。
 「アラヒトさん、欲しければ葡萄酒も飲めますよ。リーベリの葡萄酒は美味いんですよ」
 わざわざ将軍が国境まで来たのはこれが理由か。
 「せっかくですからいただきましょうか。みなさんもどうぞ」
 こういう酒の席は久しぶりだな。というか、この世界に来て初めてこういう酒宴っぽいことをしている。この世界を理解するだけでも大変だったが、数字も文字も無い状況では誰もこの世界を理解しているとは言いづらい。今現在カラシフを中心にして、自分たちの武器がどの程度なのか確認しているはずだ。

 「私の田舎は山の中の小さい集落なのですが・・・先ほどの山の話のように本当に土まで消えてしまうんですか?」
 若い将校がさっきの話に興味を持ったようで聞いてきた。
 「私が居た世界では過去に消えた土地があります」
 「では木を切ったあとに、どうすればいいんでしょうか?」
 「苗木というものがあります。木の子どもですね。そいつを植えてやることで木は増えるし育ちます。切り倒した切り株に刺して繋げる方法もありますね。まぁ木こりの方が詳しいと思いますが」
 なにも無い国だと思っていたが、木が売るほどあるというのは強みだな。
 「私からも質問をしたいんですが、山から出てくる燃える石というものは聞いたことが無いでしょうか?」
 「聞いたことが無いですね。石が燃えるんですか?」
 石炭はまだ無いのか、あっても気づいていないのか。
 いきなり石炭を燃料にする、というのはかなりぶっ飛んでいるが、木材を輸出すればペテルグがエネルギー不足になる可能性もある。一部燃料を石炭にするというやり方もあるはずだ。
 よく分かっていないうちはとにかく手持ちのカードを増やしておきたい。
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