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王宮に来たら寄って行けと言われていたので、預言者様の部屋に来ている。
「ずいぶんと浮かない顔をしていますね、アラヒト」
預言者様じゃなくても俺がげんなりしていることなど顔を見たら分かるだろう。
「王家以外の名家にも私をお披露目をしなくてはいけないそうです」
「異世界人なのでしたらそうでしょうね。うふふ」
なんだか楽しそうだな。
「預言者様の力で権力争いとかどうにかならないんでしょうか?国家存亡の危機だというのに、内輪でもめている場合じゃないでしょう」
「人のやることは人が解決するものですよ。せいぜいあがきなさい」
想像通りの返事だな。手ずから淹れていただいた紅茶に礼を言い、ありがたくいただく。
「前に居た異世界人も権力争いに巻き込まれかけて、結局は王家専属の職人として天寿を全うしました」
・・・あー。前にもこの世界に飛ばされた人が居たのか。そりゃ居ただろうな。だからヘンテコというか不自然な文明発展の仕方をしているのか。
「高い製陶技術を持った方でしょうか?」
「アラヒトなら分かるでしょうね。この国の製陶技術と木工技術は他の国には無いものなのだそうです。すべて異世界人がもたらしたものです」
たぶん俺より古い時代から、おそらく文字が読めない職人なんかが来たんだろうな。
「その先人たちのおかげで助かりましたよ。なにも作れないままでは私の知識など役に立たないですから」
「アラヒトならこの国に必要なものは作れてしまいそうな気がしますけれどもね」
「私一人で作れるものなど大したものじゃないです。材料が手に入って、技術を持った人たちがいて、ようやくそれなりのものが作れるんです」
理解者となる人間と技術者と材料が無ければ、異世界の現代知識などマジでなんの役にも立たない。想像や空想ですらなく、稚拙な妄想というレベルだ。唯一通用しているのは床の技術くらいだなぁ。
「ユーリさんという方とお話させていただいて、その方からも助力を得ました」
「ああ。ユーリもずいぶんと名が知られるようになったんですね。むかし山のかたちを変えそうだったので計画を止めさせたことがありますよ。桧や樫など家具として役に立つ苗木だけを埋めようとしたのです」
「精霊が嫌がる山の木の増やし方ってあるんですね?」
「ブナや杉が山のどこそこに生えているというのも、ちゃんとした理由があるのです。最近では東のリーベリに近い土地で、樹木を適当に切っているようで嘆かわしいですね。進言はしたんですが、どうしても住んでいる人間にとっては生活の方が大切なようなので・・・」
そうだろうなぁ。生活がかかっていて売れるのであれば木は切るか。きちんとした植林計画のもとで樹木を増やせればこの世界では十分に武器になる。計画だけでも立案してみて預言者様にお伺いを立てた方がいいだろうな。
「私が居た世界では、樹木が一本も無くなった土地というのがありました。ちゃんとした人の営みの痕跡があったにも関わらず、燃料が無くなったことでその土地には人が住めなくなったらしいのです」
「アラヒトが居た世界では精霊や世界に対して敬意というものが薄いのでしょうか?」
「そもそも精霊と話したり交わったりできる人間というものがいませんでしたね」
居たことになっている宗教はあるが、俺は実際に会ったことが無い。
「そうですか。では災害というものと向き合うのは大変そうですね」
「結局はだいたいの防災計画を立てて、だいたいで間にあわせますね。先ほどのリーベリ近郊の話なのですが、リーベリの預言者様はどういう扱いをされていると思いますか?」
「どこの国でもだいたい預言者の扱いは同じだと聞いています。王宮に住み助言を行い、長い一生のほとんどを王宮で終わらせます」
「助言が受け入れられていない今のリーベリの預言者様は、王宮に居づらいのでは無いでしょうか?」
「・・・そうですね。それだけ精霊への信仰もリーベリでは弱まっているということなのでしょう」
考えようによっては、精霊を無視してまで国力増強に力を入れたからこそ強国のひとつとして成立しているとも考えられる。が、代償は小さくない。国の力を増やすというのも、一気にではなくゆっくりと。それこそ精霊が納得する程度の速度で行うべきものなのかもしれない。
にしてもだ。預言者様の預言防災能力は完全に人知を超えている。これを無視してまで大国にならないといけない理由がリーベリにはあったのか?
「あら?アラヒトはまた別の女性を抱いているのですか?あなたも本当にお好きですね」
笑顔とともに深紅の瞳の奥で好奇心を見せている。神性すら感じる預言者様が性行為に人並み以上の好奇心を見せるのも不思議なものだな。
「まぁ私はこの国の女性を抱くために働いているので。防衛に協力するのも内政に協力するのも、この国の美しい女性たちのためです」
それにしても・・・だ。
「預言者様はずいぶんと性的なお話がお好きなようですね?」
「精霊たちが喜びますからね。そうそう。はるか昔ですが精霊と結ばれた記憶は受け継がれて私にもあるのですよ。人の身では味わえないような圧倒的な快楽でしたのよ?」
思い出したのかうっとりとしている。記憶に残るような快楽というものはちょっとしたきっかけで何度も反芻できるものだ。
精霊もなかなかオツなことをするもんなんだな。人間の限界を超えるほどの快感か。まぁ預言者様の立場を考えるとそれくらいの役得があってもいいだろうなぁ。
「だからこそ精霊はあなたに興味を持っているのでしょう。そう・・・異世界の知識ではあるのですが、アラヒト個人が特別な性的技術を持っているかのようにお話していますよ」
前もテクニックがどうとかいう話になったなぁ。
「床の技術、なんて呼ばれていますね。誰が相手でもうまくいくものではないので、この年でもいまだ分からない事だらけです」
実際にリザの時はイキそうでイカなくて苦労した。
「また長居をしてしまいました。少し愚痴っぽくなってしまいましたね」
「いえ。楽しかったですよ。今度はアラヒトがどんな生活をしていたのかお話してくださいませんか?」
・・・好き放題に女性と寝て、刺されて死んでこっちの世界に来た話とか?
まぁ当たり障りのない技術的な話でもしたらいいだろう。
「お茶ご馳走さまでした。なにを話すか考えておきます」
来年の作付なんかも預言者様の意見を聞いた方がいいな。
土地の使い方を誤れば水害やら飢饉やらあっさり起きてしまいそうだ。
「ずいぶんと浮かない顔をしていますね、アラヒト」
預言者様じゃなくても俺がげんなりしていることなど顔を見たら分かるだろう。
「王家以外の名家にも私をお披露目をしなくてはいけないそうです」
「異世界人なのでしたらそうでしょうね。うふふ」
なんだか楽しそうだな。
「預言者様の力で権力争いとかどうにかならないんでしょうか?国家存亡の危機だというのに、内輪でもめている場合じゃないでしょう」
「人のやることは人が解決するものですよ。せいぜいあがきなさい」
想像通りの返事だな。手ずから淹れていただいた紅茶に礼を言い、ありがたくいただく。
「前に居た異世界人も権力争いに巻き込まれかけて、結局は王家専属の職人として天寿を全うしました」
・・・あー。前にもこの世界に飛ばされた人が居たのか。そりゃ居ただろうな。だからヘンテコというか不自然な文明発展の仕方をしているのか。
「高い製陶技術を持った方でしょうか?」
「アラヒトなら分かるでしょうね。この国の製陶技術と木工技術は他の国には無いものなのだそうです。すべて異世界人がもたらしたものです」
たぶん俺より古い時代から、おそらく文字が読めない職人なんかが来たんだろうな。
「その先人たちのおかげで助かりましたよ。なにも作れないままでは私の知識など役に立たないですから」
「アラヒトならこの国に必要なものは作れてしまいそうな気がしますけれどもね」
「私一人で作れるものなど大したものじゃないです。材料が手に入って、技術を持った人たちがいて、ようやくそれなりのものが作れるんです」
理解者となる人間と技術者と材料が無ければ、異世界の現代知識などマジでなんの役にも立たない。想像や空想ですらなく、稚拙な妄想というレベルだ。唯一通用しているのは床の技術くらいだなぁ。
「ユーリさんという方とお話させていただいて、その方からも助力を得ました」
「ああ。ユーリもずいぶんと名が知られるようになったんですね。むかし山のかたちを変えそうだったので計画を止めさせたことがありますよ。桧や樫など家具として役に立つ苗木だけを埋めようとしたのです」
「精霊が嫌がる山の木の増やし方ってあるんですね?」
「ブナや杉が山のどこそこに生えているというのも、ちゃんとした理由があるのです。最近では東のリーベリに近い土地で、樹木を適当に切っているようで嘆かわしいですね。進言はしたんですが、どうしても住んでいる人間にとっては生活の方が大切なようなので・・・」
そうだろうなぁ。生活がかかっていて売れるのであれば木は切るか。きちんとした植林計画のもとで樹木を増やせればこの世界では十分に武器になる。計画だけでも立案してみて預言者様にお伺いを立てた方がいいだろうな。
「私が居た世界では、樹木が一本も無くなった土地というのがありました。ちゃんとした人の営みの痕跡があったにも関わらず、燃料が無くなったことでその土地には人が住めなくなったらしいのです」
「アラヒトが居た世界では精霊や世界に対して敬意というものが薄いのでしょうか?」
「そもそも精霊と話したり交わったりできる人間というものがいませんでしたね」
居たことになっている宗教はあるが、俺は実際に会ったことが無い。
「そうですか。では災害というものと向き合うのは大変そうですね」
「結局はだいたいの防災計画を立てて、だいたいで間にあわせますね。先ほどのリーベリ近郊の話なのですが、リーベリの預言者様はどういう扱いをされていると思いますか?」
「どこの国でもだいたい預言者の扱いは同じだと聞いています。王宮に住み助言を行い、長い一生のほとんどを王宮で終わらせます」
「助言が受け入れられていない今のリーベリの預言者様は、王宮に居づらいのでは無いでしょうか?」
「・・・そうですね。それだけ精霊への信仰もリーベリでは弱まっているということなのでしょう」
考えようによっては、精霊を無視してまで国力増強に力を入れたからこそ強国のひとつとして成立しているとも考えられる。が、代償は小さくない。国の力を増やすというのも、一気にではなくゆっくりと。それこそ精霊が納得する程度の速度で行うべきものなのかもしれない。
にしてもだ。預言者様の預言防災能力は完全に人知を超えている。これを無視してまで大国にならないといけない理由がリーベリにはあったのか?
「あら?アラヒトはまた別の女性を抱いているのですか?あなたも本当にお好きですね」
笑顔とともに深紅の瞳の奥で好奇心を見せている。神性すら感じる預言者様が性行為に人並み以上の好奇心を見せるのも不思議なものだな。
「まぁ私はこの国の女性を抱くために働いているので。防衛に協力するのも内政に協力するのも、この国の美しい女性たちのためです」
それにしても・・・だ。
「預言者様はずいぶんと性的なお話がお好きなようですね?」
「精霊たちが喜びますからね。そうそう。はるか昔ですが精霊と結ばれた記憶は受け継がれて私にもあるのですよ。人の身では味わえないような圧倒的な快楽でしたのよ?」
思い出したのかうっとりとしている。記憶に残るような快楽というものはちょっとしたきっかけで何度も反芻できるものだ。
精霊もなかなかオツなことをするもんなんだな。人間の限界を超えるほどの快感か。まぁ預言者様の立場を考えるとそれくらいの役得があってもいいだろうなぁ。
「だからこそ精霊はあなたに興味を持っているのでしょう。そう・・・異世界の知識ではあるのですが、アラヒト個人が特別な性的技術を持っているかのようにお話していますよ」
前もテクニックがどうとかいう話になったなぁ。
「床の技術、なんて呼ばれていますね。誰が相手でもうまくいくものではないので、この年でもいまだ分からない事だらけです」
実際にリザの時はイキそうでイカなくて苦労した。
「また長居をしてしまいました。少し愚痴っぽくなってしまいましたね」
「いえ。楽しかったですよ。今度はアラヒトがどんな生活をしていたのかお話してくださいませんか?」
・・・好き放題に女性と寝て、刺されて死んでこっちの世界に来た話とか?
まぁ当たり障りのない技術的な話でもしたらいいだろう。
「お茶ご馳走さまでした。なにを話すか考えておきます」
来年の作付なんかも預言者様の意見を聞いた方がいいな。
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