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まったく知らない言葉の歌声が聞こえてきた。
牧歌的でありながら悠久を感じ、賛美歌にも祝詞にも聞こえる。
この声はアンナだな。
・・・ん?言葉が通じるのに知らない言葉で歌っているのか?
マハカムの地方の言葉か古い言葉かなにかか?
不思議に思って歌声に引きよせられるように食堂に行くと、ちょうどアンナが歌い終わって拍手をもらっていたところだった。
「お仕事のお邪魔をしてしまったでしょうか?申し訳ありません」
アンナは優雅に俺にお詫びした。
「いや、歌声が綺麗だったから来てしまった。もう身体は大丈夫なのかな?」
「はい。素晴らしい体験でした」
俺の瞳を見つめてアンナはにっこりと微笑む。
・・・マズいな。昨日の夜に自信を深めたのか、妖艶な色気がアンナからもれ出ている。
「さっきの歌のような言葉は聞いたことが無い。マハカムの言葉かな?」
「いえ。かつてエルフが使っていたという古い言葉の歌です。歌もエルフのものです」
エルフ・・・いるのか、この世界に。そういやユーリさんもドワーフがいるって話をしていたな。
「マハカムはエルフとも交流があるのかな?」
「エルフが作る弓と、マハカムの織物や食料などをたまに物々交換する程度です。そもそもエルフたちはあまり人間が好きではありません。たまに変わり者がマハカムにやって来ることはありますが・・・」
そうなのか。なんか気位が高そうだもんな・・・エルフ・・・
一瞬ハーレムにエルフも居たらいいなと思ったけれども、そもそも種として違う生物とセックスしてもイクのかなぁ?アンナの口ぶりだと言葉は通じそうだし人間のかたちをしていそうだけれど・・・
「亜人、という言い方で合ってるのかな。エルフやドワーフ以外にも亜人はいるのか?」
「いると言われていますが、あくまで噂話程度ですね。タージのさらに北に龍族、リーベリの山間部に獣人族が住んでいると言われています」
「まぁ。サーシャ様は物知りですね!」
「さて。そろそろ仕事に戻りましょう。屋敷と主人のために働くのが私たちの仕事です」
なんか今日はサーシャの機嫌が悪いな。アンナが来た日にゴタつくと思って覚悟していたんだけれど、なんかあの日は機嫌が良かったし。女心なんて一回死んだくらいじゃ分からないもんだな。
「サーシャ。お茶と火を頼む。部屋に持ってきてくれ」
煙草に火を点けて、お茶とともに一服する。話が長くなるかもしれないから、サーシャにも座るように促してお茶も勧めた。
「アンナとクレア、うまく屋敷に馴染めそうか?」
「クレアは問題無いでしょうが、アンナの方は・・・」
なんだ?
「もともと王女だったせいか、たまに侍女としての一線を超えるような言動を感じます。私に代わって仕切ろうとして、アンナが自分で気づいたりしていますね」
生まれ持ったものはどうにもならないだろうなぁ。かと言って諜報部員を作るようにサーシャがアンナに教育するというのも、やはり難しいだろう。自分で気づく分だけ、この屋敷に馴染もうとしていることは伝わる。
「気苦労をかけるだろうが、なんとか頼む」
「私の方は仕事ですからいいのですが、アラヒト様の方は?」
「しばらくはアンナ一人に集中しないといけない。主導権を握られたら危険な相手だという表現がいいかな。ややこしくなる前にどうにかするつもりだけれど、冬の半分くらいは時間がかかる相手かもしれない。本当に難しい相手だ」
「以前、相性が床の技術と関係すると言っていたと思うのですが、アンナは難しい相手ということですか?」
「ある程度数をこなさないと、こればっかりはどうなるか分からない」
「アラヒト様の技術を持ってしてもですか・・・必要であれば適切に処分いたしますが」
・・・前もなんかそんな事を言ってたな。
「どうするんだ?」
「護衛一人くらいでしたらどうにでもなります」
処分って、殺して処分するってことか。
「マハカムを誤魔化しきれないだろう。むしろ戦争の口実が出来る。アンナにもクレアにも手を出すな。部下たちにも徹底させろ」
「承知しました」
おっかねぇな。こういう感覚がどうにも俺がいた世界とは違う。どういうわけかサーシャはアンナに対してちょっと感情的になっているフシがあるな。俺とペテルグのどちらかを天秤にかけた時の答えがバグっている。
「ああ、あと例のアンナが持ってきた織物についてはあまり深く考えるな」
俺はさっきまで考えていたことをざっとサーシャに話した。
「・・・なるほど。考えるほど相手の思うつぼというわけですか。ではアンナの言う通り、侍女たちの制服として仕立ててもよろしいでしょうか?」
「うん。余ったら俺の服も仕立ててくれ。俺のものは君たちの後でいい」
こちらの世界に来てからは王家から下賜された服を着ているが、こっちの服は作りも素材も仕立ても雑で、あんまり肌に合わないんだよな。これでも一流の仕立てらしいんだが。
着ているものがそれなりならば、あんまりオッサン臭さが出ないはずだ。
「屋敷の人間関係。俺とアンナの関係。俺が今後このペテルグのために働けるか。どれもこの冬にかかっている。大きな問題をマハカムから贈られて、俺じゃなければ解決できない状況だ」
「承知しています。男性が女性を求めるのも冬が多いですから」
寒さをしのぐために女性を抱くのか。なんとも艶っぽい暖の取り方だ。
「屋敷の中の平穏に、アンナの教育。しばらく来ないとは思っているけれど王家や内政部や軍とのやり取り。学校の進捗報告。仕事を丸投げして悪いが、すべてサーシャじゃなければ無理な仕事だ。キツければ部下に回してもいい。アンナの相手をしている間に頼むぞ」
「承知しました」
・・・ん?少し機嫌が直ったか。
まぁこれだけ立て込んでいるとカリカリもするか。
牧歌的でありながら悠久を感じ、賛美歌にも祝詞にも聞こえる。
この声はアンナだな。
・・・ん?言葉が通じるのに知らない言葉で歌っているのか?
マハカムの地方の言葉か古い言葉かなにかか?
不思議に思って歌声に引きよせられるように食堂に行くと、ちょうどアンナが歌い終わって拍手をもらっていたところだった。
「お仕事のお邪魔をしてしまったでしょうか?申し訳ありません」
アンナは優雅に俺にお詫びした。
「いや、歌声が綺麗だったから来てしまった。もう身体は大丈夫なのかな?」
「はい。素晴らしい体験でした」
俺の瞳を見つめてアンナはにっこりと微笑む。
・・・マズいな。昨日の夜に自信を深めたのか、妖艶な色気がアンナからもれ出ている。
「さっきの歌のような言葉は聞いたことが無い。マハカムの言葉かな?」
「いえ。かつてエルフが使っていたという古い言葉の歌です。歌もエルフのものです」
エルフ・・・いるのか、この世界に。そういやユーリさんもドワーフがいるって話をしていたな。
「マハカムはエルフとも交流があるのかな?」
「エルフが作る弓と、マハカムの織物や食料などをたまに物々交換する程度です。そもそもエルフたちはあまり人間が好きではありません。たまに変わり者がマハカムにやって来ることはありますが・・・」
そうなのか。なんか気位が高そうだもんな・・・エルフ・・・
一瞬ハーレムにエルフも居たらいいなと思ったけれども、そもそも種として違う生物とセックスしてもイクのかなぁ?アンナの口ぶりだと言葉は通じそうだし人間のかたちをしていそうだけれど・・・
「亜人、という言い方で合ってるのかな。エルフやドワーフ以外にも亜人はいるのか?」
「いると言われていますが、あくまで噂話程度ですね。タージのさらに北に龍族、リーベリの山間部に獣人族が住んでいると言われています」
「まぁ。サーシャ様は物知りですね!」
「さて。そろそろ仕事に戻りましょう。屋敷と主人のために働くのが私たちの仕事です」
なんか今日はサーシャの機嫌が悪いな。アンナが来た日にゴタつくと思って覚悟していたんだけれど、なんかあの日は機嫌が良かったし。女心なんて一回死んだくらいじゃ分からないもんだな。
「サーシャ。お茶と火を頼む。部屋に持ってきてくれ」
煙草に火を点けて、お茶とともに一服する。話が長くなるかもしれないから、サーシャにも座るように促してお茶も勧めた。
「アンナとクレア、うまく屋敷に馴染めそうか?」
「クレアは問題無いでしょうが、アンナの方は・・・」
なんだ?
「もともと王女だったせいか、たまに侍女としての一線を超えるような言動を感じます。私に代わって仕切ろうとして、アンナが自分で気づいたりしていますね」
生まれ持ったものはどうにもならないだろうなぁ。かと言って諜報部員を作るようにサーシャがアンナに教育するというのも、やはり難しいだろう。自分で気づく分だけ、この屋敷に馴染もうとしていることは伝わる。
「気苦労をかけるだろうが、なんとか頼む」
「私の方は仕事ですからいいのですが、アラヒト様の方は?」
「しばらくはアンナ一人に集中しないといけない。主導権を握られたら危険な相手だという表現がいいかな。ややこしくなる前にどうにかするつもりだけれど、冬の半分くらいは時間がかかる相手かもしれない。本当に難しい相手だ」
「以前、相性が床の技術と関係すると言っていたと思うのですが、アンナは難しい相手ということですか?」
「ある程度数をこなさないと、こればっかりはどうなるか分からない」
「アラヒト様の技術を持ってしてもですか・・・必要であれば適切に処分いたしますが」
・・・前もなんかそんな事を言ってたな。
「どうするんだ?」
「護衛一人くらいでしたらどうにでもなります」
処分って、殺して処分するってことか。
「マハカムを誤魔化しきれないだろう。むしろ戦争の口実が出来る。アンナにもクレアにも手を出すな。部下たちにも徹底させろ」
「承知しました」
おっかねぇな。こういう感覚がどうにも俺がいた世界とは違う。どういうわけかサーシャはアンナに対してちょっと感情的になっているフシがあるな。俺とペテルグのどちらかを天秤にかけた時の答えがバグっている。
「ああ、あと例のアンナが持ってきた織物についてはあまり深く考えるな」
俺はさっきまで考えていたことをざっとサーシャに話した。
「・・・なるほど。考えるほど相手の思うつぼというわけですか。ではアンナの言う通り、侍女たちの制服として仕立ててもよろしいでしょうか?」
「うん。余ったら俺の服も仕立ててくれ。俺のものは君たちの後でいい」
こちらの世界に来てからは王家から下賜された服を着ているが、こっちの服は作りも素材も仕立ても雑で、あんまり肌に合わないんだよな。これでも一流の仕立てらしいんだが。
着ているものがそれなりならば、あんまりオッサン臭さが出ないはずだ。
「屋敷の人間関係。俺とアンナの関係。俺が今後このペテルグのために働けるか。どれもこの冬にかかっている。大きな問題をマハカムから贈られて、俺じゃなければ解決できない状況だ」
「承知しています。男性が女性を求めるのも冬が多いですから」
寒さをしのぐために女性を抱くのか。なんとも艶っぽい暖の取り方だ。
「屋敷の中の平穏に、アンナの教育。しばらく来ないとは思っているけれど王家や内政部や軍とのやり取り。学校の進捗報告。仕事を丸投げして悪いが、すべてサーシャじゃなければ無理な仕事だ。キツければ部下に回してもいい。アンナの相手をしている間に頼むぞ」
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