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65 製鉄
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ドワーフ族の移動がリザの指揮のもとで始まった。
第一弾は若い女性と子どもに腕利きの若衆が防御を固めた。第二弾は青年と中年。人間と比べるとドワーフは長命なのだそうだ。そのせいか見た目では年齢が分かりづらい。
リザがタージを内戦状態にしたことがここで効いてきた。危険は伴うが、ドワーフの移民たちはタージを経由してペテルグへと無事に来られたようだ。
・・・あれ?
「サーシャ。お年寄りが少なくないか?」
「老人たちは移動に耐えられるかどうか分からないため、チュノスに残ったそうです。チュノスへの積年の恨みを晴らすために、ペテルグがチュノスを攻める時に族長たちが暴動を起こす約束です」
そうか。ドワーフって誇り高いんだなぁ。
・・・怖いから怒らせないようにしよう。
「ドワーフ族の人たちの扱いは丁寧にやってくれ。好みの食料と酒をたっぷりと。足りないようなら俺のカネを使ってくれ。少なくとも恩義を忘れるような人たちには見えない」
「既にカラシフ宰相が手配済みです」
仕事マニアが一人いるとラクでいいなぁ。まぁ次の戦いはこの国が生きるか死ぬかの正念場だもんな。そりゃカラシフも燃えるか。
移民として暮らし始めたドワーフたちに衣食住を与えると、彼らはすぐに働きだした。
山を探しては鉄鉱石を見つけ、いい石と土があると分かると窯を作り、鉄製武器の試作品を次々と作り出していった。
鉄があれば歯車も木製じゃなく鉄が使える。馬車の車軸も鉄が使える。防衛拠点の扉の強化にも鉄が使える。蒸気機関は・・・まだ危ないか。早く使えるようになればいいけれども、今は水力と風力で賄う。なによりリソースの大半を戦争に使わないとまだまだこの国は危なっかしくて仕方が無い。
「いい武器ですよ、アラヒトさん。やはりドワーフたちの技術は素晴らしい。チュノスの重装歩兵の鎧もあっさり切れるどえらい剣ができました」
軍の工房に入り浸りのムサエフはご満悦だ。
「勝算が出てきましたね。衝車の開発の方は?」
「こちらです」
ふむ。だいたい俺が書いた図面の通りにできているな。車軸がまっすぐじゃなければ、衝車はあさっての方向に突っ走ってゆく。ここでも鉄が効いてきている。ペテルグの木工加工技術と組み合わせれば、衝車を走らせるための発射台も現地で作れるだろう。
「試験も終わりました。何発かブチ込めば城門どころか城壁まで壊れるでしょう」
レンガ製の壁という話だったな。たしかにこれならイケるかもしれない。
「マハカムとの軍事協定も終わったんですよね?」
「そちらは諜報部が秘密裏に行いました。マハカムと地理的に近い有力貴族が領土の保護を条件に、マハカムと戦争をしているフリをしてくれるそうです。マハカムもこの作戦に乗りました」
「武器は相手以上、戦力はほとんど五分です。勝てますよ!これは!」
「あとはどう戦うか、ですね。チュノスに残ったドワーフの老兵たちは?」
「諜報部がタイミングを見計らって合図を出します。諜報員も潜入済みです」
「籠城戦をさせて餓死させてもいいですし、援軍が来たら片っ端から片づけるという手もあります」
なるほど。難攻不落の城塞であるということは、チュノスにとっても落とされたら困る城ということでもあるのか。野戦の可能性も出てきたな。しかし・・・
「自軍がチュノスと城から出てきた兵隊たちに挟まれたら厄介ですね。野戦をするのであれば、先に城を落としてからの方がいいんじゃないでしょうか?」
「ああ・・・たしかにそうですね。いやいや・・・あまりにいい武器ができてしまったので冷静さに欠けていたようです」
どうにも血の気が多いんだよなぁ。ムサエフが軍人だからということではなく、この国の人間全員からこういう血の気の強さを感じる。城みたいなものは落とした後の方が統治とか大変だと思うんだけれどなぁ・・・
「アラヒトさん!探しましたよ。こちらでしたか」
ドワーフ族のハリスは正式に族長になった。
「どうしたんですか?」
「いえ、王家にお伝えする前に異世界人であるあなたにお伝えしようと思いまして。金鉱があったんですよ!」
金!
財宝よりも女性の方がスキだが、金は武器になる。リーベリ金貨を叩き落とすには十分な量だといいが・・・
「あ・・・アラヒトさん?」
ん?
「どうかしましたか?」
「いえ。メチャクチャ邪悪な顔をされてましたので・・・どうしたのかと・・・」
俺は戦争のことを考えている時には、邪悪な顔をしているように見えるのか。
たまーに忘れてしまうな。俺がお味のある顔だったってこと・・・悪だくみをしていれば、ドワーフにも分かるほど邪悪に見えてしまうのか。
第一弾は若い女性と子どもに腕利きの若衆が防御を固めた。第二弾は青年と中年。人間と比べるとドワーフは長命なのだそうだ。そのせいか見た目では年齢が分かりづらい。
リザがタージを内戦状態にしたことがここで効いてきた。危険は伴うが、ドワーフの移民たちはタージを経由してペテルグへと無事に来られたようだ。
・・・あれ?
「サーシャ。お年寄りが少なくないか?」
「老人たちは移動に耐えられるかどうか分からないため、チュノスに残ったそうです。チュノスへの積年の恨みを晴らすために、ペテルグがチュノスを攻める時に族長たちが暴動を起こす約束です」
そうか。ドワーフって誇り高いんだなぁ。
・・・怖いから怒らせないようにしよう。
「ドワーフ族の人たちの扱いは丁寧にやってくれ。好みの食料と酒をたっぷりと。足りないようなら俺のカネを使ってくれ。少なくとも恩義を忘れるような人たちには見えない」
「既にカラシフ宰相が手配済みです」
仕事マニアが一人いるとラクでいいなぁ。まぁ次の戦いはこの国が生きるか死ぬかの正念場だもんな。そりゃカラシフも燃えるか。
移民として暮らし始めたドワーフたちに衣食住を与えると、彼らはすぐに働きだした。
山を探しては鉄鉱石を見つけ、いい石と土があると分かると窯を作り、鉄製武器の試作品を次々と作り出していった。
鉄があれば歯車も木製じゃなく鉄が使える。馬車の車軸も鉄が使える。防衛拠点の扉の強化にも鉄が使える。蒸気機関は・・・まだ危ないか。早く使えるようになればいいけれども、今は水力と風力で賄う。なによりリソースの大半を戦争に使わないとまだまだこの国は危なっかしくて仕方が無い。
「いい武器ですよ、アラヒトさん。やはりドワーフたちの技術は素晴らしい。チュノスの重装歩兵の鎧もあっさり切れるどえらい剣ができました」
軍の工房に入り浸りのムサエフはご満悦だ。
「勝算が出てきましたね。衝車の開発の方は?」
「こちらです」
ふむ。だいたい俺が書いた図面の通りにできているな。車軸がまっすぐじゃなければ、衝車はあさっての方向に突っ走ってゆく。ここでも鉄が効いてきている。ペテルグの木工加工技術と組み合わせれば、衝車を走らせるための発射台も現地で作れるだろう。
「試験も終わりました。何発かブチ込めば城門どころか城壁まで壊れるでしょう」
レンガ製の壁という話だったな。たしかにこれならイケるかもしれない。
「マハカムとの軍事協定も終わったんですよね?」
「そちらは諜報部が秘密裏に行いました。マハカムと地理的に近い有力貴族が領土の保護を条件に、マハカムと戦争をしているフリをしてくれるそうです。マハカムもこの作戦に乗りました」
「武器は相手以上、戦力はほとんど五分です。勝てますよ!これは!」
「あとはどう戦うか、ですね。チュノスに残ったドワーフの老兵たちは?」
「諜報部がタイミングを見計らって合図を出します。諜報員も潜入済みです」
「籠城戦をさせて餓死させてもいいですし、援軍が来たら片っ端から片づけるという手もあります」
なるほど。難攻不落の城塞であるということは、チュノスにとっても落とされたら困る城ということでもあるのか。野戦の可能性も出てきたな。しかし・・・
「自軍がチュノスと城から出てきた兵隊たちに挟まれたら厄介ですね。野戦をするのであれば、先に城を落としてからの方がいいんじゃないでしょうか?」
「ああ・・・たしかにそうですね。いやいや・・・あまりにいい武器ができてしまったので冷静さに欠けていたようです」
どうにも血の気が多いんだよなぁ。ムサエフが軍人だからということではなく、この国の人間全員からこういう血の気の強さを感じる。城みたいなものは落とした後の方が統治とか大変だと思うんだけれどなぁ・・・
「アラヒトさん!探しましたよ。こちらでしたか」
ドワーフ族のハリスは正式に族長になった。
「どうしたんですか?」
「いえ、王家にお伝えする前に異世界人であるあなたにお伝えしようと思いまして。金鉱があったんですよ!」
金!
財宝よりも女性の方がスキだが、金は武器になる。リーベリ金貨を叩き落とすには十分な量だといいが・・・
「あ・・・アラヒトさん?」
ん?
「どうかしましたか?」
「いえ。メチャクチャ邪悪な顔をされてましたので・・・どうしたのかと・・・」
俺は戦争のことを考えている時には、邪悪な顔をしているように見えるのか。
たまーに忘れてしまうな。俺がお味のある顔だったってこと・・・悪だくみをしていれば、ドワーフにも分かるほど邪悪に見えてしまうのか。
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