77 / 111
77 大炎
しおりを挟む
「君たちは惚れた女性はいるか?抱きたい女性はいるか?」
ガラじゃないことは分かっているが、万の兵士を前に壇上で攻城戦前の激を飛ばす。数がもたらす人間の圧が強いが、その圧の中にありながらなんとしても言いたいことが、転移してからずっと苛立っていることが俺の中にあった。
「まぁいるよな。恋人でも母親でも姉でも妹でもいい。大切な女性っているよな」
兵士たちが頷いている。いないワケがない。
「俺がこの国に来てからというもの、女性が売られていることに一番驚いた。俺がいた国では人間の売り買いなんてのはおおっぴらには無かったからな。この国では堂々と女性が売られている」
一息入れる。わずかな緊張感の高まりにも、軍というのは圧を感じさせる。
「自分たちが恥ずかしくないか?女性たちを売ることで自分たちが守られることに。自分たちに怒りが湧いて来ないか?女性たちに守られることでかろうじて生きていけることに。いいか?この先の戦争は国を勝たせるための戦争じゃねぇ。自分が思う大切な女性の事を思いながら戦え!女性を守るために戦え!国のための戦いとは思うな!女性に守られて生きてきたこの国の誇りを取り戻すための戦いだ!」
万の兵士たちが吠える。
それでいい。失い続けてきたものを思えば、その思いは敵への殺意に変わるだろう。
苛立ちというものが怒りや殺意に容易に変化し、それはまた人から人へと伝播もする。いまは彼ら自身へ向けられた怒りが敵を滅ぼすことに賭けてみたい。
「出陣!」
ムサエフ将軍の一言で全軍が動く。
ここから半日先にある難攻不落の城。そこを攻略する。ペテルグ史上最大の軍事作戦だ。
行軍する兵たちはうまいこと殺気立っている。その怒りを敵の城にぶつければいい。難攻不落であることすら忘れて、まずはこちらの全力をぶつければいい。
ムサエフ将軍も王様もムサエフの部下たちも、神妙な顔つきをしている。
奪われていたのは土地だけではない。我々が抱けるはずだった美しい女性たちが奪われ、男としての誇りも奪われていたのだ。
威容を誇る城を前にしても、ペテルグ軍の戦意が失われることは無かった。
降り注ぐ矢に対しては一般兵が装備している鎧と同じ作りの大盾を使って、工兵たちの進路を確保する。盾の間からはボウガンが狙い撃ちし、敵の弓兵を減らす。
工兵たちは一本足のレールがつけられた板を持って走る。空堀も情報通りだ。きちんと強化された大板一枚が通れば衝車が走るための道ができる。
味方の陣ではやぐらと土嚢を組み合わせ、衝車の発射台が作られている。位置エネルギーと巨大な質量で、正確に敵の城の門を叩く。一度で落ちなければぶち破るまで何度でも叩く。どれほど補強されていようが、分厚かろうが、高速で走り出した巨大質量でぶち破れないものは無い。
降り注ぐ矢の数が減っている。前日に敵兵を減らしたせいか、チュノス軍は城を維持できないほどの数になっているのかもしれない。衝車で叩く本命に兵が回せないよう、他の門では別働隊が働いている。降り注ぐ矢が少なくなれば、別働隊が正門以外を突破するだろう。
「衝車、走らせろ!」
ムサエフ将軍の号令をきっかけに衝車が走り出す。
車軸と軸受けはドワーフ製の金属製。車輪はこの国の木工技術の粋を尽くした円形。レールのついた板の上を衝車が走って、門に激突した。
地鳴りと共に轟音が響く。わずかに門が開いた。
「衝車を回収しろ!第二弾急げ!」
演習が効いている。工兵たちは他の兵科の力を借りながら衝車を再び発射台へと戻してゆく。
いい感じにボウガンが効いているな。敵の弓兵の抵抗がどんどん弱まっている。
別の門からも地鳴りが聞こえてきた。おそらく王が率いている別働隊だろう。城門用の破壊槌だけで落としてしまうかもしれないな。どこの門から城が落ちたところで同じ勝利には違いが無いが、ペテルグ軍の総意としてあの頑強で忌々しい正門からこじ開けて、チュノスをコケにしてやりたいという気分でいっぱいだろう。
正門近くに油を入れた壺が落とされたようだ。火矢が落とされて火が点いているが、一手遅かった。衝車を見た瞬間に火でレールを潰していれば効いていたかもしれないが、あいにくと板もレールもたっぷりと水を含んでいる。もう二時間は余裕で持つ。
「衝車発射準備完了しました!」
「即時発射!」
レールの上を演習通りに衝車が走り、門に向かう。
油と火を用いることに敵が躊躇するのも正しい。門自体にも火が燃え移っている。
あと一撃。イケる。
燃え盛る正門に衝車は激突し、長年この土地に君臨してきた忌まわしい城の正門を叩き潰した。
長年に渡ってペテルグを押さえつけてきた城の門が開く。
「吶喊!」
ムサエフ将軍の合図とともに、ペテルグ軍が城に雪崩れ込む。
これで城の内部を制圧すればわれわれの勝利だ。
「わずか一日での落城作戦、お見事でした。これでペテルグを他の四大国の緩衝地と見る者もいなくなるでしょう」
サーシャの言葉に俺も頷く。
美女が生き残れる世界、という俺の理想に一歩だけ近づいた。世界など簡単に代わるものじゃない。それでもこの一歩は誇ってもいいだろうと思う。
ガラじゃないことは分かっているが、万の兵士を前に壇上で攻城戦前の激を飛ばす。数がもたらす人間の圧が強いが、その圧の中にありながらなんとしても言いたいことが、転移してからずっと苛立っていることが俺の中にあった。
「まぁいるよな。恋人でも母親でも姉でも妹でもいい。大切な女性っているよな」
兵士たちが頷いている。いないワケがない。
「俺がこの国に来てからというもの、女性が売られていることに一番驚いた。俺がいた国では人間の売り買いなんてのはおおっぴらには無かったからな。この国では堂々と女性が売られている」
一息入れる。わずかな緊張感の高まりにも、軍というのは圧を感じさせる。
「自分たちが恥ずかしくないか?女性たちを売ることで自分たちが守られることに。自分たちに怒りが湧いて来ないか?女性たちに守られることでかろうじて生きていけることに。いいか?この先の戦争は国を勝たせるための戦争じゃねぇ。自分が思う大切な女性の事を思いながら戦え!女性を守るために戦え!国のための戦いとは思うな!女性に守られて生きてきたこの国の誇りを取り戻すための戦いだ!」
万の兵士たちが吠える。
それでいい。失い続けてきたものを思えば、その思いは敵への殺意に変わるだろう。
苛立ちというものが怒りや殺意に容易に変化し、それはまた人から人へと伝播もする。いまは彼ら自身へ向けられた怒りが敵を滅ぼすことに賭けてみたい。
「出陣!」
ムサエフ将軍の一言で全軍が動く。
ここから半日先にある難攻不落の城。そこを攻略する。ペテルグ史上最大の軍事作戦だ。
行軍する兵たちはうまいこと殺気立っている。その怒りを敵の城にぶつければいい。難攻不落であることすら忘れて、まずはこちらの全力をぶつければいい。
ムサエフ将軍も王様もムサエフの部下たちも、神妙な顔つきをしている。
奪われていたのは土地だけではない。我々が抱けるはずだった美しい女性たちが奪われ、男としての誇りも奪われていたのだ。
威容を誇る城を前にしても、ペテルグ軍の戦意が失われることは無かった。
降り注ぐ矢に対しては一般兵が装備している鎧と同じ作りの大盾を使って、工兵たちの進路を確保する。盾の間からはボウガンが狙い撃ちし、敵の弓兵を減らす。
工兵たちは一本足のレールがつけられた板を持って走る。空堀も情報通りだ。きちんと強化された大板一枚が通れば衝車が走るための道ができる。
味方の陣ではやぐらと土嚢を組み合わせ、衝車の発射台が作られている。位置エネルギーと巨大な質量で、正確に敵の城の門を叩く。一度で落ちなければぶち破るまで何度でも叩く。どれほど補強されていようが、分厚かろうが、高速で走り出した巨大質量でぶち破れないものは無い。
降り注ぐ矢の数が減っている。前日に敵兵を減らしたせいか、チュノス軍は城を維持できないほどの数になっているのかもしれない。衝車で叩く本命に兵が回せないよう、他の門では別働隊が働いている。降り注ぐ矢が少なくなれば、別働隊が正門以外を突破するだろう。
「衝車、走らせろ!」
ムサエフ将軍の号令をきっかけに衝車が走り出す。
車軸と軸受けはドワーフ製の金属製。車輪はこの国の木工技術の粋を尽くした円形。レールのついた板の上を衝車が走って、門に激突した。
地鳴りと共に轟音が響く。わずかに門が開いた。
「衝車を回収しろ!第二弾急げ!」
演習が効いている。工兵たちは他の兵科の力を借りながら衝車を再び発射台へと戻してゆく。
いい感じにボウガンが効いているな。敵の弓兵の抵抗がどんどん弱まっている。
別の門からも地鳴りが聞こえてきた。おそらく王が率いている別働隊だろう。城門用の破壊槌だけで落としてしまうかもしれないな。どこの門から城が落ちたところで同じ勝利には違いが無いが、ペテルグ軍の総意としてあの頑強で忌々しい正門からこじ開けて、チュノスをコケにしてやりたいという気分でいっぱいだろう。
正門近くに油を入れた壺が落とされたようだ。火矢が落とされて火が点いているが、一手遅かった。衝車を見た瞬間に火でレールを潰していれば効いていたかもしれないが、あいにくと板もレールもたっぷりと水を含んでいる。もう二時間は余裕で持つ。
「衝車発射準備完了しました!」
「即時発射!」
レールの上を演習通りに衝車が走り、門に向かう。
油と火を用いることに敵が躊躇するのも正しい。門自体にも火が燃え移っている。
あと一撃。イケる。
燃え盛る正門に衝車は激突し、長年この土地に君臨してきた忌まわしい城の正門を叩き潰した。
長年に渡ってペテルグを押さえつけてきた城の門が開く。
「吶喊!」
ムサエフ将軍の合図とともに、ペテルグ軍が城に雪崩れ込む。
これで城の内部を制圧すればわれわれの勝利だ。
「わずか一日での落城作戦、お見事でした。これでペテルグを他の四大国の緩衝地と見る者もいなくなるでしょう」
サーシャの言葉に俺も頷く。
美女が生き残れる世界、という俺の理想に一歩だけ近づいた。世界など簡単に代わるものじゃない。それでもこの一歩は誇ってもいいだろうと思う。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる