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103 作戦
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うーん。どう攻めても落ちる気がしないな。
サーシャが集めてきてくれたチュノス王城の図面をもとに、自室でどう攻略するか考えていたが、正攻法では勝てそうにもない。
まずは城塞都市であるということ。都市の外には人間が登れない程度の塀があり、その中に城がある。さらに山城であるということ。トカイ城のように平地にある城なら衝車を使えたが、高低差があると使えない。チュノス側からは高さの利を生かして投石や弓矢といったものが効果的に使える。オマケに本丸には水堀まである。
爆撃とか長距離砲とかあってようやく落ちそうなシロモノだ。
戦闘で勝利をする、という方法論ではダメなような気がしてきた。しかしチュノスで内部分裂は期待できない以上、戦闘で優位に立つような状態を作らなくてはいけない。うーん・・・
しかしまぁ・・・暑いな。
晩夏だという話だったのに暑気真っただ中という感じだ。日陰とはいえ、屋内で仕事をする天気じゃないな。
さっきから露天風呂の方から、侍女たちの水浴びの声がまるで天使の歌声のように聞こえる。屋根をつけたのは正解だったな。日焼けしないなら川遊びよりも彼女たちの疲労は小さいはずだ。
秋になって収穫が終われば戦争だというのに、いまだチュノス攻略の目途も立たないか。
・・・俺がこっちに飛ばされて来てだいたい一年か。
なんとか死なずに生き延びられたな。国が滅びることもなく大切な女性たちが一人も死んでいない。
・・・そうか。改めて考えてみると、チュノスとの戦争が人間同士の最期の戦争になるかもしれないんだな。リーベリとの戦い方はともかく、マハカムやタージと戦争しないで済むというのは大きい。ペテルグが大国になる必要は無いけれど、攻め滅ぼされることが無くなればなんとか彼女たちも天寿を全うできる国になっているだろう。
最後か・・・
一年が長かった気もするし、短かった気もする。
次でもう戦わないで済むと思うと、少しやる気が出てきたな。
今日のところはムサエフ将軍に使者だけ出して、疑問点だけでも洗い出しておこうか。
遠くからは水道橋が作られている音が聞こえてくる。ものを作っている音が平和の証だとは、前に居た世界では考えもしなかったな。
ムサエフ将軍が指揮しているトカイ城へとやって来た。街道を作ったおかげで移動がラクになったな。国境近くの拠点まで馬で半日で来れる。
「お話はだいたいリザから聞いています。なんでもラドヴィッツ家から大きな譲歩を手に入れられたとか」
俺はムサエフの立場を考えることなく先走ったことをした話を詫びて、詳しく説明した。
「・・・それは王妃が言ったのですか?」
「ええ」
ムサエフ将軍はなにか引っかかるようだな。
「おそらく王妃はリーベリに対して大きい手を考えているのだろうと思います。以前チュノスに滅ぼされかけた時にも、王妃はマハカムとタージを相手に粘り強く外交を行い、チュノスを撤退させました。今回もその類のものでしょう」
大きい手?
「私と宰相が考えた手以上のものですか?」
「アラヒトさん。王妃様は本物の統治者であり政治家です。私やカラシフのような者が知恵と経験で辿り着ける発想を軽々と超えてゆきます。おそらく今回はアラヒトさんの異世界の知恵すら超えてゆくでしょう」
・・・そこまでのものなのか。
なにかを言おうとしたが、俺が口を出せるものでは無いな。王妃にしか分からない一手だ。
「ムサエフ将軍も、その大きな手というものがどういうものなのか知らないということですか?」
「微妙に変化する国や人同士の関係性を読み解き、最上の結果を出すのが王妃様です。なぜあのようなことができるのか分かりませんが」
ふーむ。リーベリにどう対峙するかは王妃に任せておいた方がいいか。
「王妃様がリーベリに対してなんらかの手を考えているのだとしたら、我々はチュノス攻略だけを考えましょうか」
俺はムサエフ将軍に、事前に考えた攻城戦案の説明を始めた。ところが途中でムサエフが遮ってしまった。
「ちょっと待ってください。これ、攻城戦ですよね?」
「ええ」
なにか間違えたか?
「いや・・・こういう手があるならやりようもあるか・・・しかし・・・」
なんだろう?
「アラヒトさん、チュノスを滅ぼすおつもりなのですか?」
そういう話じゃないのか?
「なにか前提のようなものを間違えていたんでしょうか?」
「国を攻めるというのは、そこに住んでいる住民を根絶やしにするということではないんです。恨みも買いますし、これでは国を奪ったあとになにも残らないじゃないですか」
たしかに民間人にも死者が出るような戦略を選んだ。だがそれはチュノス王城の防衛力が高いためだ。
「この場合、野戦でいいんですよ。王城に籠城してもチュノスに援軍は来ませんし、まず間違いなく打って出て決戦を望んできます。相手の兵数さえ減れば、あとは城を囲んで明け渡すようにすればいいのですから」
ムサエフ将軍が描いた絵図にドワーフによる内部の反乱を加えると、見事な野戦戦略へと変わった。たしかにこちらの方が兵数の減りは少ないし、戦後の統治もしやすい。
「悩んでいるとリザから聞いていたので、なにを悩んでいると思っていたら、こんな難しいことを考えていたのですか。チュノスの不作と先の戦の勝利、それにアラヒトさんの力でもはやチュノスは強国では無いのですよ」
こうやって将軍の口から聞くと楽な戦いになりそうだ。既に作られていた野戦配置にも説得力がある。
「このバリスタというものだけは開発しておいてもらえるとありがたいです。これがあれば戦争の日程を大幅に減らすことができそうです」
「ええ、やっておきましょう」
この戦争が俺の最期の仕事になるかもしれない。
サーシャが集めてきてくれたチュノス王城の図面をもとに、自室でどう攻略するか考えていたが、正攻法では勝てそうにもない。
まずは城塞都市であるということ。都市の外には人間が登れない程度の塀があり、その中に城がある。さらに山城であるということ。トカイ城のように平地にある城なら衝車を使えたが、高低差があると使えない。チュノス側からは高さの利を生かして投石や弓矢といったものが効果的に使える。オマケに本丸には水堀まである。
爆撃とか長距離砲とかあってようやく落ちそうなシロモノだ。
戦闘で勝利をする、という方法論ではダメなような気がしてきた。しかしチュノスで内部分裂は期待できない以上、戦闘で優位に立つような状態を作らなくてはいけない。うーん・・・
しかしまぁ・・・暑いな。
晩夏だという話だったのに暑気真っただ中という感じだ。日陰とはいえ、屋内で仕事をする天気じゃないな。
さっきから露天風呂の方から、侍女たちの水浴びの声がまるで天使の歌声のように聞こえる。屋根をつけたのは正解だったな。日焼けしないなら川遊びよりも彼女たちの疲労は小さいはずだ。
秋になって収穫が終われば戦争だというのに、いまだチュノス攻略の目途も立たないか。
・・・俺がこっちに飛ばされて来てだいたい一年か。
なんとか死なずに生き延びられたな。国が滅びることもなく大切な女性たちが一人も死んでいない。
・・・そうか。改めて考えてみると、チュノスとの戦争が人間同士の最期の戦争になるかもしれないんだな。リーベリとの戦い方はともかく、マハカムやタージと戦争しないで済むというのは大きい。ペテルグが大国になる必要は無いけれど、攻め滅ぼされることが無くなればなんとか彼女たちも天寿を全うできる国になっているだろう。
最後か・・・
一年が長かった気もするし、短かった気もする。
次でもう戦わないで済むと思うと、少しやる気が出てきたな。
今日のところはムサエフ将軍に使者だけ出して、疑問点だけでも洗い出しておこうか。
遠くからは水道橋が作られている音が聞こえてくる。ものを作っている音が平和の証だとは、前に居た世界では考えもしなかったな。
ムサエフ将軍が指揮しているトカイ城へとやって来た。街道を作ったおかげで移動がラクになったな。国境近くの拠点まで馬で半日で来れる。
「お話はだいたいリザから聞いています。なんでもラドヴィッツ家から大きな譲歩を手に入れられたとか」
俺はムサエフの立場を考えることなく先走ったことをした話を詫びて、詳しく説明した。
「・・・それは王妃が言ったのですか?」
「ええ」
ムサエフ将軍はなにか引っかかるようだな。
「おそらく王妃はリーベリに対して大きい手を考えているのだろうと思います。以前チュノスに滅ぼされかけた時にも、王妃はマハカムとタージを相手に粘り強く外交を行い、チュノスを撤退させました。今回もその類のものでしょう」
大きい手?
「私と宰相が考えた手以上のものですか?」
「アラヒトさん。王妃様は本物の統治者であり政治家です。私やカラシフのような者が知恵と経験で辿り着ける発想を軽々と超えてゆきます。おそらく今回はアラヒトさんの異世界の知恵すら超えてゆくでしょう」
・・・そこまでのものなのか。
なにかを言おうとしたが、俺が口を出せるものでは無いな。王妃にしか分からない一手だ。
「ムサエフ将軍も、その大きな手というものがどういうものなのか知らないということですか?」
「微妙に変化する国や人同士の関係性を読み解き、最上の結果を出すのが王妃様です。なぜあのようなことができるのか分かりませんが」
ふーむ。リーベリにどう対峙するかは王妃に任せておいた方がいいか。
「王妃様がリーベリに対してなんらかの手を考えているのだとしたら、我々はチュノス攻略だけを考えましょうか」
俺はムサエフ将軍に、事前に考えた攻城戦案の説明を始めた。ところが途中でムサエフが遮ってしまった。
「ちょっと待ってください。これ、攻城戦ですよね?」
「ええ」
なにか間違えたか?
「いや・・・こういう手があるならやりようもあるか・・・しかし・・・」
なんだろう?
「アラヒトさん、チュノスを滅ぼすおつもりなのですか?」
そういう話じゃないのか?
「なにか前提のようなものを間違えていたんでしょうか?」
「国を攻めるというのは、そこに住んでいる住民を根絶やしにするということではないんです。恨みも買いますし、これでは国を奪ったあとになにも残らないじゃないですか」
たしかに民間人にも死者が出るような戦略を選んだ。だがそれはチュノス王城の防衛力が高いためだ。
「この場合、野戦でいいんですよ。王城に籠城してもチュノスに援軍は来ませんし、まず間違いなく打って出て決戦を望んできます。相手の兵数さえ減れば、あとは城を囲んで明け渡すようにすればいいのですから」
ムサエフ将軍が描いた絵図にドワーフによる内部の反乱を加えると、見事な野戦戦略へと変わった。たしかにこちらの方が兵数の減りは少ないし、戦後の統治もしやすい。
「悩んでいるとリザから聞いていたので、なにを悩んでいると思っていたら、こんな難しいことを考えていたのですか。チュノスの不作と先の戦の勝利、それにアラヒトさんの力でもはやチュノスは強国では無いのですよ」
こうやって将軍の口から聞くと楽な戦いになりそうだ。既に作られていた野戦配置にも説得力がある。
「このバリスタというものだけは開発しておいてもらえるとありがたいです。これがあれば戦争の日程を大幅に減らすことができそうです」
「ええ、やっておきましょう」
この戦争が俺の最期の仕事になるかもしれない。
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