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いつもの王城内の会議室で、リーベリ通貨を鋳造運営するにあたっての法整備の草案を聞き、マハカムとの同盟について確認したところで、アンナの要望について話した。
「私はなかなか図々しい話だと思いますけれどね。わが国を狙って送られて来た刺客の要望通り隣国の王に面会させるというのは。そもそもアラヒトさんの嘆願が無ければ、首を切られても仕方のない話ですよ」
まぁカラシフならそう言うだろうな。実際のところアンナの請願通りにいくとは思っていなかった。
「ではやはり断りますか?」
「いや、待て」
王妃の考えは違うようだ。
「アラヒトがアンナを無害化しなければ、わが国はアンナ一人にやられていたかもしれん。逆に向こうの王族が手元にあるということで、マハカムとの同盟でより大きな譲歩を求められる。アラヒト、お前が手を打たなければ手に入らなかった外交手段だ。使い方はお前に任せる」
アンナの願いを叶えるのが先決だな。
「アンナの面会が叶うのであれば、この状況を外交に使ってもらって構いません。ただしアンナの身柄は私のものとしてください」
「アンナの存在をちらつかせるだけでも譲歩は得られるか。妾の裁量次第だな。アラヒト、カラシフ、アンナの要望に可能な限り沿うかたちにしろ。マハカムがやらかした代償はマハカムからいただく」
「分かりました」
マハカム側からアンナへ接触してきたということは、マハカムも多少の出費は見込んでいるということだろう。
会議は続いた。
「試験用作付の経過報告なのですが、順調に行けばこの秋には五倍もの収穫を得られるようになります。アラヒトさんの予想以上でしたね!」
石灰が売るほどあったのが効いているな。今の文明のレベルでは弱った土壌に蒔いて使う程度しか使い道は無いけれど、化学工業ができるようになれば石灰は超重要素材のひとつになる。
「水も豊富で土も良いとなれば、わが国が飢えることは無いか。国の豊かさよりも次の秋には他国で食糧の価値が揺らぐ方が恐ろしいな」
王妃の知見の恐ろしさはここにある。モノと貨幣と価値についての関係が、おそらく俺以上によく分かっている。さらに商品が市中に溢れることによって、商品の価値が落ちることまで理解していた。
貨幣の本質について王妃の理解はもっと深い。貨幣を大量に発行することによって貨幣の価値が落ちることを王妃に説明した時、同時に貨幣の発行によって景気が良くなると見事な展望を見せた。商業都市リーベリの宰相ですら、貨幣とは商品と対になったものであり対価を支払うためのもの、という程度の理解しか示していなかった。王妃はリーベリに先んじて貨幣発行による景気刺激というものに独力で気づいたことになる。
先々を見据えると、おそらく金利を利用したエグ目の金貸しなんかも出てくることだろう。貸したカネの話には常に暴力が近くにある。その暴力が国家だったりすると・・・大陸すべてを巻き込んだ大戦となる可能性すらあるか。
「来年には国庫を金貨で潤すこととなるのか、農作物で潤すこととなるのか。楽しみですな」
カラシフ宰相はよく分かっていないのか、まだ呑気なことを言っているな。豊作で儲けが小さくなる可能性を王妃は口にしたのだが。
続いて国内の測量による地図の完成の報告、水車の生産力評価、ドワーフたちの鉄器製作についての途中経過の報告、樹木伐採計画についての草案と植樹計画、学校からの人材輩出の報告、王室研究所内が発見した高次知見についての確認、軍の工房で作っている大弓の模型の評価と進捗、街道使用率と通行量の増減についての報告、ムサエフ将軍による前線からの定時連絡、諜報部からの各国情勢についての報告、商会経由からのマハカム情勢の報告。
こうやって聞いていると、ムチャクチャ仕事が増えたな・・・前に居た世界よりも働いている気がしてきた。
少し業務内容を整理して俺の関与を減らしていこう。もともとこの国もこの世界も彼らのものなのだから、俺が干渉しすぎるのもどうかと思う。王妃の知見の深まりといい、だんだん国というものが俺の手から離れていっている気もするしな。仕事が増えてくれば分業を制度化してゆき、次は官僚の時代だ。
「妾が贈った銀髪の、トリスだったか。ちゃんと可愛がっているか?」
「ええ」
王妃が雑談とは珍しいな。
「本来であれば、あれはペテルグ王家がしっかりと保護をしなくてはいけない存在なのだ」
トリスが山の民と呼ばれる山岳民族であるということ、山の民はチュノス、タージ、ペテルグの三国にまたがる山間で暮らしていること、もともと緩衝地帯であるので各国が勝手に山の民に手をかけるようになったそうだ。
「保護ですか」
「うむ。あのような髪と瞳の色を持つ人間はこの大陸にはいない。稀に生まれるあの髪と瞳の人間は、献上品として一級品なのだ。戦利品としてもな」
その美しさがゆえに身柄を狙われる立場にあったというわけか。俺もふらふらとなにも考えないままにトリスを貰っちゃったからなぁ。あまりに魅力があるものだから、過去の偉い人たちも俺と同じように考えも無く山の民をもらったのかもしれないな。
しかし・・・
「それほど価値のある人間であるなら、なにも他国に襲われるような場所に住むことも無いと思いますが」
「山の民、と言うたであろう?あの一族は山とともに生きている。ドワーフに次ぐ山見の能力を持ち、預言者様とも近い。そもそもペテルグ王家が山の民を保護しなくてはいけないのは、わが国の預言者様が山の民の出自であると言われているからなのだ」
言われてみると思い当たるフシはあるな。サーシャもどこかトリスには敬意を示していたし、トリスはトリスであの神秘的な見た目が預言者様と似た雰囲気を持っている気もする。
「しっかりと可愛がってやれ。山の民の銀髪一人で、隣国の領土を割譲したこともあったと言われているぞ」
俺への貢物としては最適だと言える人物だったわけだ。
「私はなかなか図々しい話だと思いますけれどね。わが国を狙って送られて来た刺客の要望通り隣国の王に面会させるというのは。そもそもアラヒトさんの嘆願が無ければ、首を切られても仕方のない話ですよ」
まぁカラシフならそう言うだろうな。実際のところアンナの請願通りにいくとは思っていなかった。
「ではやはり断りますか?」
「いや、待て」
王妃の考えは違うようだ。
「アラヒトがアンナを無害化しなければ、わが国はアンナ一人にやられていたかもしれん。逆に向こうの王族が手元にあるということで、マハカムとの同盟でより大きな譲歩を求められる。アラヒト、お前が手を打たなければ手に入らなかった外交手段だ。使い方はお前に任せる」
アンナの願いを叶えるのが先決だな。
「アンナの面会が叶うのであれば、この状況を外交に使ってもらって構いません。ただしアンナの身柄は私のものとしてください」
「アンナの存在をちらつかせるだけでも譲歩は得られるか。妾の裁量次第だな。アラヒト、カラシフ、アンナの要望に可能な限り沿うかたちにしろ。マハカムがやらかした代償はマハカムからいただく」
「分かりました」
マハカム側からアンナへ接触してきたということは、マハカムも多少の出費は見込んでいるということだろう。
会議は続いた。
「試験用作付の経過報告なのですが、順調に行けばこの秋には五倍もの収穫を得られるようになります。アラヒトさんの予想以上でしたね!」
石灰が売るほどあったのが効いているな。今の文明のレベルでは弱った土壌に蒔いて使う程度しか使い道は無いけれど、化学工業ができるようになれば石灰は超重要素材のひとつになる。
「水も豊富で土も良いとなれば、わが国が飢えることは無いか。国の豊かさよりも次の秋には他国で食糧の価値が揺らぐ方が恐ろしいな」
王妃の知見の恐ろしさはここにある。モノと貨幣と価値についての関係が、おそらく俺以上によく分かっている。さらに商品が市中に溢れることによって、商品の価値が落ちることまで理解していた。
貨幣の本質について王妃の理解はもっと深い。貨幣を大量に発行することによって貨幣の価値が落ちることを王妃に説明した時、同時に貨幣の発行によって景気が良くなると見事な展望を見せた。商業都市リーベリの宰相ですら、貨幣とは商品と対になったものであり対価を支払うためのもの、という程度の理解しか示していなかった。王妃はリーベリに先んじて貨幣発行による景気刺激というものに独力で気づいたことになる。
先々を見据えると、おそらく金利を利用したエグ目の金貸しなんかも出てくることだろう。貸したカネの話には常に暴力が近くにある。その暴力が国家だったりすると・・・大陸すべてを巻き込んだ大戦となる可能性すらあるか。
「来年には国庫を金貨で潤すこととなるのか、農作物で潤すこととなるのか。楽しみですな」
カラシフ宰相はよく分かっていないのか、まだ呑気なことを言っているな。豊作で儲けが小さくなる可能性を王妃は口にしたのだが。
続いて国内の測量による地図の完成の報告、水車の生産力評価、ドワーフたちの鉄器製作についての途中経過の報告、樹木伐採計画についての草案と植樹計画、学校からの人材輩出の報告、王室研究所内が発見した高次知見についての確認、軍の工房で作っている大弓の模型の評価と進捗、街道使用率と通行量の増減についての報告、ムサエフ将軍による前線からの定時連絡、諜報部からの各国情勢についての報告、商会経由からのマハカム情勢の報告。
こうやって聞いていると、ムチャクチャ仕事が増えたな・・・前に居た世界よりも働いている気がしてきた。
少し業務内容を整理して俺の関与を減らしていこう。もともとこの国もこの世界も彼らのものなのだから、俺が干渉しすぎるのもどうかと思う。王妃の知見の深まりといい、だんだん国というものが俺の手から離れていっている気もするしな。仕事が増えてくれば分業を制度化してゆき、次は官僚の時代だ。
「妾が贈った銀髪の、トリスだったか。ちゃんと可愛がっているか?」
「ええ」
王妃が雑談とは珍しいな。
「本来であれば、あれはペテルグ王家がしっかりと保護をしなくてはいけない存在なのだ」
トリスが山の民と呼ばれる山岳民族であるということ、山の民はチュノス、タージ、ペテルグの三国にまたがる山間で暮らしていること、もともと緩衝地帯であるので各国が勝手に山の民に手をかけるようになったそうだ。
「保護ですか」
「うむ。あのような髪と瞳の色を持つ人間はこの大陸にはいない。稀に生まれるあの髪と瞳の人間は、献上品として一級品なのだ。戦利品としてもな」
その美しさがゆえに身柄を狙われる立場にあったというわけか。俺もふらふらとなにも考えないままにトリスを貰っちゃったからなぁ。あまりに魅力があるものだから、過去の偉い人たちも俺と同じように考えも無く山の民をもらったのかもしれないな。
しかし・・・
「それほど価値のある人間であるなら、なにも他国に襲われるような場所に住むことも無いと思いますが」
「山の民、と言うたであろう?あの一族は山とともに生きている。ドワーフに次ぐ山見の能力を持ち、預言者様とも近い。そもそもペテルグ王家が山の民を保護しなくてはいけないのは、わが国の預言者様が山の民の出自であると言われているからなのだ」
言われてみると思い当たるフシはあるな。サーシャもどこかトリスには敬意を示していたし、トリスはトリスであの神秘的な見た目が預言者様と似た雰囲気を持っている気もする。
「しっかりと可愛がってやれ。山の民の銀髪一人で、隣国の領土を割譲したこともあったと言われているぞ」
俺への貢物としては最適だと言える人物だったわけだ。
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