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公衆浴場で昼間からひとり一番風呂に浸かっている。
水道橋が完成したことによって、一般的なペテルグ国民も風呂の恩恵に預かれるようになった。とは言っても王城の城下町だけの話だが。温かい風呂に入るという習慣が無い人間に公衆衛生をどう周知させるのかが課題だったが、風呂に入らないとモテないと周知したらあっさりと片付いた。
まだ昼間は暑気が残っている。銭湯は夕方になると混んでくるそうだ。
身体を洗うための湯船と、汚れを落とすための湯船のふたつに分けたのは我ながら名案だったな。テレビで見た炭鉱町の風呂場をそのまま作ってもらったが、この世界ではまだまだ土やら有機物で汚れる人間が多数派だ。湯船がひとつしか無ければあっという間にドロドロになって使いものにならなくなるだろう。
・・・ひとつだけ思っていた感じと違うことがあったな。
「アラヒト様、私たちは外でお待ちしています」
「うん」
壁の向こうからサーシャの声が聞こえた。うちの女性たちと一緒に風呂に入るもんだと思っていたけれど、そりゃ公衆浴場なら男湯と女湯は別にするよな。完成してから混浴にしろとは言いづらいし。まぁ女性の身体を味わいたければ帰ってから味わえばいいのか。
「牛の乳って美味しいものなのですね」
「風呂上がりにこれを飲むのが俺の国の流儀でね」
水道橋から冷たい水が送られてくるので、流水で冷やした牛乳も飲めるようになった。物資が物々交換ではなく買える、というのは少額決済用のペテルグ貨幣が試験的に導入されるようになったからだ。王妃の大戦略を現実のものとするには、ペテルグの住民たちにも貨幣というものを知ってもらわないといけないと考えた結果、少しずつペテルグ独自の少額決済用貨幣を浸透させることになった。
風呂屋を出て街をふらふらとしていると、真っ昼間から食い物の匂いがする。これらもまたペテルグ貨幣で買えるようになった。まだまだ高価ではあるけれど、少しずつ浸透してゆけば仕事も増えるし娯楽も増えてゆくだろう。
「アラヒト様、そろそろ・・・」
完成した水道橋と銭湯の出来を見ておきたかった。
「うん、行こうか」
預言者様に会いに行こう。
「私に会う前に湯あみとは、なかなか殊勝な心掛けですね」
「ええ。きちんとした身なりで来ようかと思いまして」
銭湯は視察のつもりだったんだけれど、次からはちゃんと身体を洗ってから預言者様のところに来よう。お茶をすすりながら、お茶請けをいただく。サーシャとトリスという二人の組み合わせはなんだか珍しいな。
「こちらがトリスです。預言者様がお会いしたいというので連れてきました」
トリスが挨拶をする。少し緊張しているな。つかつかと預言者様はトリスに近づき、じっとあの深紅の瞳でトリスの灰色の瞳を見つめる。
「いまだ浄化には至らないというところでしょうか」
昨日の夜はトリスが凄すぎて、そちらにまで手が回りませんでした。
「山の民・・・懐かしいわね。私の話を王妃にでも聞いたのかしら?」
「ええ、少しだけ」
預言者様の表情は遠い昔を思い出しているようだ。
「トリスはなかなか美しいわね。人であった頃を思い出すわ」
まるで人間じゃなくなったような言い方だな。いや・・・
「精霊と交わると人間では無くなるのですか?」
「ええ。私には排泄をする穴も男性を受け入れる穴も、どちらも無いですよ」
近づきがたい美しさだとは思っていたけれど、そうか、人間では無かったのか。
「人間でなくなるというのは・・・恐ろしいことでは無かったのですか?」
「アラヒト様・・・」
サーシャにたしなめられた。
「構いません。アラヒト、預言者になるためには三日三晩精霊と交わらなくてはいけません。そして精霊と交われる人間というものはほとんどいません。大きすぎる快感とその長さで肉体が持たないのです。交わっている最中に事切れる女性もいます」
俺の夜の営みと比べるのもナンだけれど、肉体の限界を知る交わりという意味では同じなのかもな。
「その交わりの中で私のかつての身体は新しいものが作られ、必要が無くなったものは消えてゆく。それが人のかたちをした預言者という存在なのです」
人間のかたちをしながらも人間ではない存在であり、天変地異を広く察知する存在であり、高次元の戦争に介入できる存在。俺が居た世界と決定的に違うのは預言者様という存在だ。
「その預言者に影響を及ぼすアラヒトってどうかしているわね。そういう存在がある、とは先代から聞いてはいたのだけれど。現実に体験するとああまで凄いのかと思うわ」
「波動の話ですか?」
「ええ・・・あれほどのものだとは・・・精霊との交わりに匹敵するほどの大きさでしたよ・・・」
そういえば戦争をしている世界に送るのに数日かかったって言っていたな。俺の方は一晩で終わっていたのに。預言者様の肉体ってのは色々なものを増幅するようにできているのかもしれないな。
「トリス、今日は来てくれてありがとう」
預言者様の言葉にトリスが恐縮した。トリスにとってはご先祖様、というより郷里の大先輩か。
「いえ・・・一目でもお会いできて光栄でした」
「古き人の時代を少しだけ思い出せました。遠い日の肉体の記憶、多くの人とともに暮らす日常・・・」
預言者様が預言者様になられたことに後悔は無かったようだけれど、長い時間を生き続けて親しい人が死んでゆくところを見るのは辛そうだな。預言者様へお目通りをすることが制限されているわけは、預言者様が悲しまないようにするという配慮もあるのだろう。
水道橋が完成したことによって、一般的なペテルグ国民も風呂の恩恵に預かれるようになった。とは言っても王城の城下町だけの話だが。温かい風呂に入るという習慣が無い人間に公衆衛生をどう周知させるのかが課題だったが、風呂に入らないとモテないと周知したらあっさりと片付いた。
まだ昼間は暑気が残っている。銭湯は夕方になると混んでくるそうだ。
身体を洗うための湯船と、汚れを落とすための湯船のふたつに分けたのは我ながら名案だったな。テレビで見た炭鉱町の風呂場をそのまま作ってもらったが、この世界ではまだまだ土やら有機物で汚れる人間が多数派だ。湯船がひとつしか無ければあっという間にドロドロになって使いものにならなくなるだろう。
・・・ひとつだけ思っていた感じと違うことがあったな。
「アラヒト様、私たちは外でお待ちしています」
「うん」
壁の向こうからサーシャの声が聞こえた。うちの女性たちと一緒に風呂に入るもんだと思っていたけれど、そりゃ公衆浴場なら男湯と女湯は別にするよな。完成してから混浴にしろとは言いづらいし。まぁ女性の身体を味わいたければ帰ってから味わえばいいのか。
「牛の乳って美味しいものなのですね」
「風呂上がりにこれを飲むのが俺の国の流儀でね」
水道橋から冷たい水が送られてくるので、流水で冷やした牛乳も飲めるようになった。物資が物々交換ではなく買える、というのは少額決済用のペテルグ貨幣が試験的に導入されるようになったからだ。王妃の大戦略を現実のものとするには、ペテルグの住民たちにも貨幣というものを知ってもらわないといけないと考えた結果、少しずつペテルグ独自の少額決済用貨幣を浸透させることになった。
風呂屋を出て街をふらふらとしていると、真っ昼間から食い物の匂いがする。これらもまたペテルグ貨幣で買えるようになった。まだまだ高価ではあるけれど、少しずつ浸透してゆけば仕事も増えるし娯楽も増えてゆくだろう。
「アラヒト様、そろそろ・・・」
完成した水道橋と銭湯の出来を見ておきたかった。
「うん、行こうか」
預言者様に会いに行こう。
「私に会う前に湯あみとは、なかなか殊勝な心掛けですね」
「ええ。きちんとした身なりで来ようかと思いまして」
銭湯は視察のつもりだったんだけれど、次からはちゃんと身体を洗ってから預言者様のところに来よう。お茶をすすりながら、お茶請けをいただく。サーシャとトリスという二人の組み合わせはなんだか珍しいな。
「こちらがトリスです。預言者様がお会いしたいというので連れてきました」
トリスが挨拶をする。少し緊張しているな。つかつかと預言者様はトリスに近づき、じっとあの深紅の瞳でトリスの灰色の瞳を見つめる。
「いまだ浄化には至らないというところでしょうか」
昨日の夜はトリスが凄すぎて、そちらにまで手が回りませんでした。
「山の民・・・懐かしいわね。私の話を王妃にでも聞いたのかしら?」
「ええ、少しだけ」
預言者様の表情は遠い昔を思い出しているようだ。
「トリスはなかなか美しいわね。人であった頃を思い出すわ」
まるで人間じゃなくなったような言い方だな。いや・・・
「精霊と交わると人間では無くなるのですか?」
「ええ。私には排泄をする穴も男性を受け入れる穴も、どちらも無いですよ」
近づきがたい美しさだとは思っていたけれど、そうか、人間では無かったのか。
「人間でなくなるというのは・・・恐ろしいことでは無かったのですか?」
「アラヒト様・・・」
サーシャにたしなめられた。
「構いません。アラヒト、預言者になるためには三日三晩精霊と交わらなくてはいけません。そして精霊と交われる人間というものはほとんどいません。大きすぎる快感とその長さで肉体が持たないのです。交わっている最中に事切れる女性もいます」
俺の夜の営みと比べるのもナンだけれど、肉体の限界を知る交わりという意味では同じなのかもな。
「その交わりの中で私のかつての身体は新しいものが作られ、必要が無くなったものは消えてゆく。それが人のかたちをした預言者という存在なのです」
人間のかたちをしながらも人間ではない存在であり、天変地異を広く察知する存在であり、高次元の戦争に介入できる存在。俺が居た世界と決定的に違うのは預言者様という存在だ。
「その預言者に影響を及ぼすアラヒトってどうかしているわね。そういう存在がある、とは先代から聞いてはいたのだけれど。現実に体験するとああまで凄いのかと思うわ」
「波動の話ですか?」
「ええ・・・あれほどのものだとは・・・精霊との交わりに匹敵するほどの大きさでしたよ・・・」
そういえば戦争をしている世界に送るのに数日かかったって言っていたな。俺の方は一晩で終わっていたのに。預言者様の肉体ってのは色々なものを増幅するようにできているのかもしれないな。
「トリス、今日は来てくれてありがとう」
預言者様の言葉にトリスが恐縮した。トリスにとってはご先祖様、というより郷里の大先輩か。
「いえ・・・一目でもお会いできて光栄でした」
「古き人の時代を少しだけ思い出せました。遠い日の肉体の記憶、多くの人とともに暮らす日常・・・」
預言者様が預言者様になられたことに後悔は無かったようだけれど、長い時間を生き続けて親しい人が死んでゆくところを見るのは辛そうだな。預言者様へお目通りをすることが制限されているわけは、預言者様が悲しまないようにするという配慮もあるのだろう。
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