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51 マッチョさん、久々にタベルナ村へ行く
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「せっかく炉に火が入ったんだ。俺もなにか作りたいな・・・」
ドワーフ王が王様っぽくないことを言い出した。目の前に欲しくて仕方なかった初代王の高炉があるのだ。完全に興味のあるおもちゃを前にした子どもだ。
「日も暮れますし、明日以降のお楽しみにしてください。私とコイツで火の番をしますから。だいたい三日目くらいがちょうど本領を発揮するんですよ。」
「そうか・・・残念だが明日の楽しみが出来たと思うことにしよう。」
「大親方、僕にも使わせてくれるんですよね?」
「俺たち二人が使ってもいいものか?ジンカ。」
「勿論です。明日から指導させてもらいます。今日のところはタベルナ村で休んでください。炊飯の煙が立っているところに途中で寄った村がありますから。」
タベルナ村か。ドワーフ国に行く前に挨拶に寄ったのがずいぶん前のことのような気がする。
「大親方、あの高炉を作るのに使われているレンガって、この辺の土から作れるんじゃないんでしょうか?」
「たぶんそうだろうなぁ。高炉の形状や場所も考えていただろうが、材料が近くにあったから作ったと考えるほうが自然だよなぁ。」
そういうものなのか。
「新しい高炉の材料も作れますが、あの高炉の補修にも使えますね。」
「似たような土が俺らの領土にもあるんだろうなぁ。せっかく世話になるんだ。あの高炉をしっかりと補修して、また数百年つかえるような状態にするぞ。ジンカの恩義に応えないとなぁ。」
「はい!」
「なぁマッチョ。あの高炉は今後は人間王の管理下に置かれるんじゃないのか?」
え?ああそうか。この世にひとつしか無い高炉だ。軍の管理下に置いて、厳重に管理することになると考えるのが妥当だ。
「そうかもしれないですね。大切なものですから。」
「ジンカの一族が大切にしていたものを、なんだか国が勝手に管理するってのも妙な気分でなぁ。」
「われわれ職人にとっては、ほとんど命と同等の価値ですからね。」
そういうものなのか。いや、私だってこの大斧に愛着がある。道具というものはいつだってそうだ。ダンベルひとつとっても、自分の身体の延長線上になってしまうのだ。
「できればジンカに管理してほしいんだが、そうもいかないだろうなぁ・・・」
「ドワーフ王が献策すれば、多少は人間王も配慮してくれるんじゃないんでしょうか?誰にでも扱えるものでもないでしょうし。」
「ああ、俺が言えばいいのか。そうだな。うん。アイツの恩義に報いるためにもそうしよう。」
ドワーフという種族は義理堅いのだな。多少外交に難があっても、こういうところが人間王とウマが合うところなのだろう。
一カ月や二カ月で村が変わっているとは思わなかったが、タベルナ村では豚小屋を建設中だった。村長さんは止まることを知らないな。
「マッチョさん、先ほどいらしたことは聞いていたのですがどちらまで行ってたんですか?せっかく村に寄っていただいたというのに、素通りなんて酷いですよ。」
久しぶりに村長さんに会ったが、あんまり久しぶりの感じがしないのはタベルナ村の発展がどこかで引っかかっていたからだろう。
「マッチョさんから借りたお金のおかげで豚小屋がもうすぐ出来上がりますよ!豚ももう手に入れました!」
「村長さん、ご無沙汰しています。この方々を案内するように人間王に頼まれまして。ハムはすべて無事に届いてます。美味しいです。」
「そりゃよかったです!で、後ろの方々はもしかしてドワーフ族の方ですかな?」
ドワーフ王の顔を見たら、王ということは黙っていてくれという顔をされた。
「ふーむ、なにか山からわずかに煙が出てきたところから戻ってきましたな。あの辺になにかあるのですかな?」村長さん鋭すぎるでしょう。高炉の排煙口は大きな木の枝と枝に生えた葉っぱでフィルターがかけられていて、見て分かるほど盛大に煙を吐いたりしていなかったぞ。
「私の口からは言えないです。できれば内密にお願いします。」
そのうち村長さんのところにも、高炉の話が来るだろう。いま話が広げられては困る。
「マッチョさんがそういうのでしたら、まぁ黙っておきましょう。せっかくドワーフ国からいらしたのだ。タベルナ村の名物でも食べていかれませんかな?」
「おお!是非よろしくお願いします。」
久々にアレが食べられるのか。今日は山登りに肉体労働が加わってちょっと疲れているので楽しみだ。
タベルナ村の食堂だ。そういえばツイグと来たな。彼はいまどうなっているのだろう。
久々に村を見たが、かなりいい具合に筋肉が整ってきた。あとは質とキレの問題だ。この村の人たちは、ソロウのギルドメンバーよりも強くなってしまったのではないだろうか。
この食堂、ずいぶんと繁盛しているように見える。聞けば週末にはソロウや遠く王都からまで、タベルナ村の料理を楽しみに来る人たちでいっぱいになるそうだ。村長さんの慧眼はどこまで見渡せるというのだ。
「ドワーフの方々のお世話とは、マッチョさんもずいぶんと顔が広くなりましたなぁ。」
たんに適任者が私しかいなかっただけの話なのだが。
「なんだか流れでお世話させていただくことになりまして。」
国がらみの話なのだ。相手が村長さんと言えども私が軽軽に話してもいい事ではないだろう。
「ここの村のお肉、美味しいですよ。たぶん人間国で一番美味しいです。いつか食べてもらったハムも、ここの特産品なんです。」
「それほどの肉か。いいな。酒もあればなおいい。」
「お酒もありますぞ!さすがに火酒はありませんが、新酒のワインをお楽しみください!」
「おお、ワインか。久々に飲むが、あれはあれで旨いんだよなぁ。」
「では私は厨房に入りますのでこれで。マッチョさんのお話も伺いたいのですが、マッチョさんが食べる料理でしたら他の人間には任せられませんからな。」
「ありがとうございます。楽しみです。」
村長自らが作るのだ。間違いなく筋肉に効く食べ物が出てくるだろう。
ドワーフ王が王様っぽくないことを言い出した。目の前に欲しくて仕方なかった初代王の高炉があるのだ。完全に興味のあるおもちゃを前にした子どもだ。
「日も暮れますし、明日以降のお楽しみにしてください。私とコイツで火の番をしますから。だいたい三日目くらいがちょうど本領を発揮するんですよ。」
「そうか・・・残念だが明日の楽しみが出来たと思うことにしよう。」
「大親方、僕にも使わせてくれるんですよね?」
「俺たち二人が使ってもいいものか?ジンカ。」
「勿論です。明日から指導させてもらいます。今日のところはタベルナ村で休んでください。炊飯の煙が立っているところに途中で寄った村がありますから。」
タベルナ村か。ドワーフ国に行く前に挨拶に寄ったのがずいぶん前のことのような気がする。
「大親方、あの高炉を作るのに使われているレンガって、この辺の土から作れるんじゃないんでしょうか?」
「たぶんそうだろうなぁ。高炉の形状や場所も考えていただろうが、材料が近くにあったから作ったと考えるほうが自然だよなぁ。」
そういうものなのか。
「新しい高炉の材料も作れますが、あの高炉の補修にも使えますね。」
「似たような土が俺らの領土にもあるんだろうなぁ。せっかく世話になるんだ。あの高炉をしっかりと補修して、また数百年つかえるような状態にするぞ。ジンカの恩義に応えないとなぁ。」
「はい!」
「なぁマッチョ。あの高炉は今後は人間王の管理下に置かれるんじゃないのか?」
え?ああそうか。この世にひとつしか無い高炉だ。軍の管理下に置いて、厳重に管理することになると考えるのが妥当だ。
「そうかもしれないですね。大切なものですから。」
「ジンカの一族が大切にしていたものを、なんだか国が勝手に管理するってのも妙な気分でなぁ。」
「われわれ職人にとっては、ほとんど命と同等の価値ですからね。」
そういうものなのか。いや、私だってこの大斧に愛着がある。道具というものはいつだってそうだ。ダンベルひとつとっても、自分の身体の延長線上になってしまうのだ。
「できればジンカに管理してほしいんだが、そうもいかないだろうなぁ・・・」
「ドワーフ王が献策すれば、多少は人間王も配慮してくれるんじゃないんでしょうか?誰にでも扱えるものでもないでしょうし。」
「ああ、俺が言えばいいのか。そうだな。うん。アイツの恩義に報いるためにもそうしよう。」
ドワーフという種族は義理堅いのだな。多少外交に難があっても、こういうところが人間王とウマが合うところなのだろう。
一カ月や二カ月で村が変わっているとは思わなかったが、タベルナ村では豚小屋を建設中だった。村長さんは止まることを知らないな。
「マッチョさん、先ほどいらしたことは聞いていたのですがどちらまで行ってたんですか?せっかく村に寄っていただいたというのに、素通りなんて酷いですよ。」
久しぶりに村長さんに会ったが、あんまり久しぶりの感じがしないのはタベルナ村の発展がどこかで引っかかっていたからだろう。
「マッチョさんから借りたお金のおかげで豚小屋がもうすぐ出来上がりますよ!豚ももう手に入れました!」
「村長さん、ご無沙汰しています。この方々を案内するように人間王に頼まれまして。ハムはすべて無事に届いてます。美味しいです。」
「そりゃよかったです!で、後ろの方々はもしかしてドワーフ族の方ですかな?」
ドワーフ王の顔を見たら、王ということは黙っていてくれという顔をされた。
「ふーむ、なにか山からわずかに煙が出てきたところから戻ってきましたな。あの辺になにかあるのですかな?」村長さん鋭すぎるでしょう。高炉の排煙口は大きな木の枝と枝に生えた葉っぱでフィルターがかけられていて、見て分かるほど盛大に煙を吐いたりしていなかったぞ。
「私の口からは言えないです。できれば内密にお願いします。」
そのうち村長さんのところにも、高炉の話が来るだろう。いま話が広げられては困る。
「マッチョさんがそういうのでしたら、まぁ黙っておきましょう。せっかくドワーフ国からいらしたのだ。タベルナ村の名物でも食べていかれませんかな?」
「おお!是非よろしくお願いします。」
久々にアレが食べられるのか。今日は山登りに肉体労働が加わってちょっと疲れているので楽しみだ。
タベルナ村の食堂だ。そういえばツイグと来たな。彼はいまどうなっているのだろう。
久々に村を見たが、かなりいい具合に筋肉が整ってきた。あとは質とキレの問題だ。この村の人たちは、ソロウのギルドメンバーよりも強くなってしまったのではないだろうか。
この食堂、ずいぶんと繁盛しているように見える。聞けば週末にはソロウや遠く王都からまで、タベルナ村の料理を楽しみに来る人たちでいっぱいになるそうだ。村長さんの慧眼はどこまで見渡せるというのだ。
「ドワーフの方々のお世話とは、マッチョさんもずいぶんと顔が広くなりましたなぁ。」
たんに適任者が私しかいなかっただけの話なのだが。
「なんだか流れでお世話させていただくことになりまして。」
国がらみの話なのだ。相手が村長さんと言えども私が軽軽に話してもいい事ではないだろう。
「ここの村のお肉、美味しいですよ。たぶん人間国で一番美味しいです。いつか食べてもらったハムも、ここの特産品なんです。」
「それほどの肉か。いいな。酒もあればなおいい。」
「お酒もありますぞ!さすがに火酒はありませんが、新酒のワインをお楽しみください!」
「おお、ワインか。久々に飲むが、あれはあれで旨いんだよなぁ。」
「では私は厨房に入りますのでこれで。マッチョさんのお話も伺いたいのですが、マッチョさんが食べる料理でしたら他の人間には任せられませんからな。」
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