異世界マッチョ

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84 マッチョさん、アテが外れる

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 「・・・使えないんですか、あの部屋。」
 「・・・すまぬな。マッチョだけならともかく、勇者とはいえ他種族に王家の秘密を解放するというのはずいぶんと抵抗があってな。」
 王都へ帰って来たらジェイさんと王家のトレーニングルームを使えるものだと思い込んでいたのだが、アテがはずれてしまった。
 王の強さの秘密でもあるのだ。ドワーフ以外にあんな機材は作れないとはいえ、他種族に真似をされたら人族の力が弱まるという懸念があってもおかしくは無い。魔王に対する警戒心よりも他種族に対しての抵抗の方が強かったのか。
 「マッチョだけなら使ってもいい、ということになった。お前だけ使うか?」
 「・・・いえ。私だけというのも納得し難いものがあります。」正直なところトレーニングの機会を逸するのは惜しいが。
 「・・・そうだな。私の鍛錬方法についてもマッチョの意見は欲しかったのだが。引き続き反対派の説得は試みてみるつもりだ。精霊が大陸に勇者を与えてくれたというのに勇者を鍛えられないというのは、俺も納得のできない話だ。魔王が出てくる前にやれる事はすべてやっておくべきだ。だがな。やはり魔王の脅威というものを実感できぬ者の方が多数派なのだ。」
 魔王や固有種に対しての危機感の差がものごとを進める上で邪魔になっている。いきなり数百年前と同じ危機感を持てと言われても難しいだろう。
 「仕方がありません。とりあえず翻訳の仕事をまとめたあとに、ドワーフ国に行きたいと思います。よろしいですよね?」
 「うむ。引き続き解読を頼む。」
 人間王にも調整のための時間が必要なのだ。王を責めるワケにもいかないだろう。

 「・・・・しかしその、褐色の肌というのはいいものだな。」
 やはり筋肉に目が行くか。王もまたトレーニーなのだ。
 「より精悍に逞しく見えますからね。スジまで綺麗に見えます。」
 「初代王はそこまで狙ってリベリを保養地としたのか。うーむ・・・俺も焼いてみるか?しかしこの状況下でリベリに行くとなると・・・うーむ・・・」
 人間王の肌は青白い。王というのはデスクワークを中心とした管理職なのだ。部下に丸投げしない程度に几帳面な性格の人間王の仕事っぷりでは、日焼けをする余裕など無いだろう。なにか私だけ出し抜いたようで人間王には悪いが、いつかの肩の筋肥大の出し抜かされっぷりに比べたらたいしたことは無い。
 「あまり筋肉の見え方に拘ると、本質から外れてしまいますよ。」
 我々トレーニーはカッコいい筋肉を身につけることが目的であり、カッコよく見せるにはその本質である筋肉が大きくなければいけないのだ。日焼けはあくまで筋肉をよりカッコよく見せるための方法であり目的では無い。
 「分かっている。分かってはいるが・・・やはり良いものは良いのだ・・・」
 そう。良いものは良い。
 人間王もまた一人のトレーニーなのだ。

 暗号解読の研究室に戻ると、それなりに仕事が貯まっていた。
 仮訳の精度がまた上がっているように思える。
 「なにか大きな発見はありましたか?」
 「うーん。以前にマッチョさんが見つけた、魔物が腐臭を放つという点くらいですかねぇ。魔物が出たきっかけなどもほとんど分かりません。魔王についてもまだ解読が進んでいませんね。」
 初代人間王が人間国を統一したあたりから魔物が出始めてたらしい。
 当初は害獣を倒すレベルの話だったのだが、魔物が多くなってきて軍を対魔物用に再編した話などが書かれていた。
 当初は少なかった魔物の出現。固有種の撃退。魔石の発見と研究。魔物が消えずに腐臭を放つので焼いて処分した話。対固有種用に軍とは別にギルドという飛び抜けた強さを持った人間の召集と訓練。初めての魔物災害とこれの撃退。ギルドへの軍属の配備。魔物撃退数からの魔物災害の予測。都市の数を減らして人を散らせて魔物災害を減らす工夫。魔物災害対策としての遊軍の設立。魔物の王たる魔王の存在を仮定する話もあった。
 やはり初代人間王は前線に立つことを好んでいたようだ。いや、好んでいたという感じではないな。この違和感はなんだ?
 「初代王が前線に立つということにすごく違和感を感じます。ペンスとイレイスはこの辺をどう読みましたか?」
 「私は軍を鼓舞するためのものだと思いました。違和感なんてありましたか?」
 「いや。軍を鼓舞するにしても、やはり総大将が前線に立つというのは危険なことだと思う。討たれたら総崩れになってもおかしくないからね。総大将とは別に指揮官を立てていたようですが、それでもあまり良策という感じはしませんね。」
 「それもそうか。初代王が前線に立つほど飛びぬけて強かったにしても、言われてみると引っかかるものがあるな。」
 そう。前線に立つ理由や動機がイマイチしっくり来ないのだ。魔王とは直接的な関係がある話なのかどうかも分からないが。
 「前線に立つ理由ではなく、前線に立つ動機というものは思いつきますか?」
 「うーん・・・戦うことがスキだったとか・・・」
 「魔物と直接戦わないと分からないことがあったとか。」
 なにか動機としては弱いな。二人とも自信なさげだ。
 「ロゴスにも聞いてみましょう。近々ドワーフ国にまた行くことになりそうなので。あちらの解読状況も気になりますし。」
 「でしたらこちらの写本も持って行ってあげてください。翻訳の方も一山ありますので。」
 「アイツもこちらの状況が気になっていると思いますよ。部外秘なのであまり手紙に書くこともできませんからね。」
 優秀な同僚である。そんなものまで用意していたのか。
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