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88 マッチョさん、再びドワーフ国へ行く
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ドワーフ国への街道整理がされたことと魔物が出づらくなったことによって、物流と人材交換がスムーズになったのだろう。人間国で新たに産出された鉄鉱石や燃料がドワーフ国へと送られ、ドワーフ国からは牛の塩漬けのような食料や牛そのものが送られてくるようになった。盛況である。
平時に国を強くするためには貿易が最適だと聞いたことがある。国境をまたいだ分業によって国が持つ財はお互いに増え続ける。魔王が出ようが出まいが、お互いに潤うというのであればこういった交流が途絶えることは無いだろう。
街道沿いには宿や替え馬、酒場までもができていた。人が動いたり通ったりする場所にはお金が落ちるのだ。こういう光景は前に居た世界ではあまり見なかったな。高速移動が発達すると、人は点から点へと移動する。点にしかお金が落ちないので、富が偏在してしまうのだ。富の偏在は人の集中も促す。人の集中はこの世界では魔物災害も引き起こすため、人間がバラつくメリットはこの世界では十分にある。人間王がここまで狙っていたのかどうかは知らないが、狙い以上の成果が出ているだろう。
この世界で一人旅など初めてのことだったが、街道があるとまったく苦にならないな。
一度通った道だし、移動していれば誰かがいる。今後は冒険者以外の商売人、観光客といった人たちも私のように気軽に移動するようになるだろう。
ドワーフ国に着いたのはいいが、この雰囲気はなんなのだ。
全体的に筋肉濃度が上がっている。もともと厚みと横幅のあったドワーフたちはさらに厚みと横幅を増している。体脂肪率もやや下がり、増量期のトレーニーのような筋肉と脂肪のバランスになっていた。
ドワーフの里の大食堂で食事をしてから視察をしようとしたが、なんということだ。ヒレやランプの値段が上がっている。ドワーフたちはサーロインや肩ロースを好んで食していたではないか。だいたい想像がつくが、たぶんそういうことだろう。
「あれー、やっぱりマッチョさんだ。こんにちはー。」
カイトさんだ。職人仲間と食事中のようだ。うーむ、やはりドワーフ国でも筋トレが流行ってしまっているのか。カイトさんも肉体が変化している。
「いい身体になりましたね。一回り厚くなったというか。」
「例の手記から色々作っていったら、なんだか身体を鍛える機械がいくつか作れたんですよ。で、そこから少し流行ってしまったんですね。ドワーフと言えばいいものを作るドワーフがモテていたんですが、最近は体形でモテる男もいるんですよ。」
肉体労働とマシントレーニングで作られた肉体か。
筋肉の付け方も場所が変わると変化するところが面白い。タベルナ村では実用的で疲れづらい筋肉の付き方をしていた。ソロウでは対魔物戦闘用の肉の付き方だった。リベリでは観賞用というか、美しく見せるための筋肉だった。ドワーフの里の筋肉の付き方は、リベリとタベルナ村の中間といったところか。下半身が小さいわけでは無いが、他の場所に比べて上半身の大きさが際立つ。本来のドワーフ族の骨格も影響しているのだろう。
「ロゴスはこちらで上手くやってますか?」
「マッチョさんが使っていた個室で作業していましたよ。大親方は自分の大業物のほうに夢中だったんで、僕が主に試作品を作っていました。」
カイトさんと話していたら、ロイスさんも私に気づいて近づいてきた。
「マッチョ様、お待ちしていました。こちらへ来るという連絡が来ていたのですが、いつ到着するか分からなかったもので、出迎えもせずに申し訳ありません。」
ロイスさんは体形が変わっていない。流行には乗らないタイプなのだろう。
「あまり大仰にされるのも目立ちすぎて疲れますからね。今回は視察というか、進捗の確認に来ました。」
「ロゴス様の仕事の件ですね。お食事が済みましたら私がご案内します。」
「あ、僕も行きます。ロゴスと話し合ってみてもよく分からないものが出てきているんですよ。」
翻訳が行き詰っていたか。あの手記はクセのある単語の使い方だったから、ロゴス一人では苦戦したのだろう。いや、私一人でも苦戦するか。
「まずは食事をいただきます。ヒレが食べたいのですが、ずいぶんと高くなりましたね・・・」
「やっぱり鍛えることが流行ってしまったことが原因ですね。たまーに脂たっぷりのところも食べたくなるんですが、どうにも余計な脂肪が気になってしまうんですよね。」
「こちらがお勘定を持ちますので、存分にお楽しみください。ロキは元気にやっていますか?」
「ええ。リベリという街で牛飼いについて教えています。子どもが産まれたので、そのうちつがい用の牛を取りに来るとのことでしたよ。」
適当な野菜と、たっぷりのヒレ肉をいただいた。この里で食べて以来の牛肉だから、ずいぶんと久しぶりな気がする。・・・ん?少し旨くなった気がする。
「・・・牛か調理人か調理法か、なにか変わりました?」
「美味しくなりましたよね。これもヒレとランプが流行った原因です。」
「旅の方が部位別の調理方法を教えてくれましてね。今後牛の調理も必要だからと、牛を買っていったんですよ。なんとなく焼くというのがドワーフ流だったんですが、その人が教えたことで人族流という名前で調理されていますね。今はなにも言わなければ人族流の焼き方で出てきますよ。」
なるほど。調理方法が変わっていたのか。ドワーフ国との交流で牛が出てくることに注目し、さらに調理法を伝えてドワーフの食卓にまで影響を及ぼしたのか。・・・やっぱりあの人だろうか?
「どういう方でしたか?」
「リベリで食堂を経営しているという方でした。高級保養地という話でしたので、味に拘る方が多いのかもしれませんね。」村長では無かったか。リベリでそこまでやりそうな人というと、星海亭の主人が来たのかもしれない。それにしても、わざわざドワーフの里にまで足を伸ばしていたのか。
「その人の料理、僕も食べたんですけれどビックリしましたね。火の入れ方が違うだけでいつも食べている牛ってここまで美味しくなるものなのかと。いまは調理法を教わった料理人が作っていますけれど、まだまだあの人族には及ばないですねぇ。」
たしかに星海亭の料理は美味かった。筋肉に良い食事がより味も良くなるというのは実にいい話だ。
平時に国を強くするためには貿易が最適だと聞いたことがある。国境をまたいだ分業によって国が持つ財はお互いに増え続ける。魔王が出ようが出まいが、お互いに潤うというのであればこういった交流が途絶えることは無いだろう。
街道沿いには宿や替え馬、酒場までもができていた。人が動いたり通ったりする場所にはお金が落ちるのだ。こういう光景は前に居た世界ではあまり見なかったな。高速移動が発達すると、人は点から点へと移動する。点にしかお金が落ちないので、富が偏在してしまうのだ。富の偏在は人の集中も促す。人の集中はこの世界では魔物災害も引き起こすため、人間がバラつくメリットはこの世界では十分にある。人間王がここまで狙っていたのかどうかは知らないが、狙い以上の成果が出ているだろう。
この世界で一人旅など初めてのことだったが、街道があるとまったく苦にならないな。
一度通った道だし、移動していれば誰かがいる。今後は冒険者以外の商売人、観光客といった人たちも私のように気軽に移動するようになるだろう。
ドワーフ国に着いたのはいいが、この雰囲気はなんなのだ。
全体的に筋肉濃度が上がっている。もともと厚みと横幅のあったドワーフたちはさらに厚みと横幅を増している。体脂肪率もやや下がり、増量期のトレーニーのような筋肉と脂肪のバランスになっていた。
ドワーフの里の大食堂で食事をしてから視察をしようとしたが、なんということだ。ヒレやランプの値段が上がっている。ドワーフたちはサーロインや肩ロースを好んで食していたではないか。だいたい想像がつくが、たぶんそういうことだろう。
「あれー、やっぱりマッチョさんだ。こんにちはー。」
カイトさんだ。職人仲間と食事中のようだ。うーむ、やはりドワーフ国でも筋トレが流行ってしまっているのか。カイトさんも肉体が変化している。
「いい身体になりましたね。一回り厚くなったというか。」
「例の手記から色々作っていったら、なんだか身体を鍛える機械がいくつか作れたんですよ。で、そこから少し流行ってしまったんですね。ドワーフと言えばいいものを作るドワーフがモテていたんですが、最近は体形でモテる男もいるんですよ。」
肉体労働とマシントレーニングで作られた肉体か。
筋肉の付け方も場所が変わると変化するところが面白い。タベルナ村では実用的で疲れづらい筋肉の付き方をしていた。ソロウでは対魔物戦闘用の肉の付き方だった。リベリでは観賞用というか、美しく見せるための筋肉だった。ドワーフの里の筋肉の付き方は、リベリとタベルナ村の中間といったところか。下半身が小さいわけでは無いが、他の場所に比べて上半身の大きさが際立つ。本来のドワーフ族の骨格も影響しているのだろう。
「ロゴスはこちらで上手くやってますか?」
「マッチョさんが使っていた個室で作業していましたよ。大親方は自分の大業物のほうに夢中だったんで、僕が主に試作品を作っていました。」
カイトさんと話していたら、ロイスさんも私に気づいて近づいてきた。
「マッチョ様、お待ちしていました。こちらへ来るという連絡が来ていたのですが、いつ到着するか分からなかったもので、出迎えもせずに申し訳ありません。」
ロイスさんは体形が変わっていない。流行には乗らないタイプなのだろう。
「あまり大仰にされるのも目立ちすぎて疲れますからね。今回は視察というか、進捗の確認に来ました。」
「ロゴス様の仕事の件ですね。お食事が済みましたら私がご案内します。」
「あ、僕も行きます。ロゴスと話し合ってみてもよく分からないものが出てきているんですよ。」
翻訳が行き詰っていたか。あの手記はクセのある単語の使い方だったから、ロゴス一人では苦戦したのだろう。いや、私一人でも苦戦するか。
「まずは食事をいただきます。ヒレが食べたいのですが、ずいぶんと高くなりましたね・・・」
「やっぱり鍛えることが流行ってしまったことが原因ですね。たまーに脂たっぷりのところも食べたくなるんですが、どうにも余計な脂肪が気になってしまうんですよね。」
「こちらがお勘定を持ちますので、存分にお楽しみください。ロキは元気にやっていますか?」
「ええ。リベリという街で牛飼いについて教えています。子どもが産まれたので、そのうちつがい用の牛を取りに来るとのことでしたよ。」
適当な野菜と、たっぷりのヒレ肉をいただいた。この里で食べて以来の牛肉だから、ずいぶんと久しぶりな気がする。・・・ん?少し旨くなった気がする。
「・・・牛か調理人か調理法か、なにか変わりました?」
「美味しくなりましたよね。これもヒレとランプが流行った原因です。」
「旅の方が部位別の調理方法を教えてくれましてね。今後牛の調理も必要だからと、牛を買っていったんですよ。なんとなく焼くというのがドワーフ流だったんですが、その人が教えたことで人族流という名前で調理されていますね。今はなにも言わなければ人族流の焼き方で出てきますよ。」
なるほど。調理方法が変わっていたのか。ドワーフ国との交流で牛が出てくることに注目し、さらに調理法を伝えてドワーフの食卓にまで影響を及ぼしたのか。・・・やっぱりあの人だろうか?
「どういう方でしたか?」
「リベリで食堂を経営しているという方でした。高級保養地という話でしたので、味に拘る方が多いのかもしれませんね。」村長では無かったか。リベリでそこまでやりそうな人というと、星海亭の主人が来たのかもしれない。それにしても、わざわざドワーフの里にまで足を伸ばしていたのか。
「その人の料理、僕も食べたんですけれどビックリしましたね。火の入れ方が違うだけでいつも食べている牛ってここまで美味しくなるものなのかと。いまは調理法を教わった料理人が作っていますけれど、まだまだあの人族には及ばないですねぇ。」
たしかに星海亭の料理は美味かった。筋肉に良い食事がより味も良くなるというのは実にいい話だ。
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