異世界マッチョ

文字の大きさ
90 / 133

90 マッチョさん、ピースがはまる

しおりを挟む
 ざわざわと騒ぐ声が聞こえてきた。大親方とその弟子たちが帰ってきたらしい。
 「おうマッチョ、着いていたか。こっちは仕事で忙しくてなぁ。人間国では世話になったな。」
 「里長、お久しぶりです。」
 「悪いが先に仲間へ話したいことがある。おい!俺の大業物が出来上がりそうだぞ!」
 里長は大声でドワーフたちに伝えた。おおお、という歓声が広がる。
 「やりましたね、大親方!」
 「けっこう大変だったなー。現物を見たって言っても、高炉だからなぁ。鎧やら武器やらを作るように簡単には出来ねぇなぁ。仮の火入れをして、試験運転をしてみてから本稼働ってところだろう。」
 人間王の時代に作られた高温の高炉か。
 「ドワーフ独自というか、俺が考えた工夫もしてある。うまい事いったら、この大陸で歴史上最高の高炉が出来上がるというワケだ。山ごと爆発しなきゃいいけれどな。ところでカイト。俺がいない間に里はどうだった?」
 「特に変わりは無いです。皆いいものを作ってましたよ。」
 ロイスさんも部下の人に呼ばれたらしく、私たちのテーブルの近くにやって来た。
 「他は変わりないか、ロイス。」
 「他国との外交は上々です。特に人間国からの燃料と鉄鉱石が増えています。あちらで山見をさせていたドワーフたちがいい仕事をしているようです。牛のほうも変わりありません。人間国での消費も増えているようです。ロキがきちんと後進を育成してくれていたおかげですね。あと少し豚が入ってきていますね。入ってきたとたんに食べつくしていますが。」
 「あんまり物事がうまく行き過ぎると順調すぎて怖いな。」
 ドワーフの里は通常営業らしい。親方の仕事の話を聞きたくて、ドワーフたちが集まってきた。
 「お前ら客人が来ているんだ。先に客人と話をさせてくれ。」
 「いえ。私の話はあとでいいです。ドワーフの皆さんも聞きたい事がいっぱいあるでしょう。里長、大業物完成おめでとうございます。」
 おめでとうございまーす、という歓声が上がる。
 これはドワーフのお祭り、里長一世一代の晴れの舞台なのだ。
 質問攻めにあっている里長から離れて、私は客室で一息ついたあとに、ロゴスが居る部屋に戻ることにした。旅のシメに食事だけ摂るつもりで大食堂へと寄ったのだ。ベアリングについての話はあとでいいだろう。

 いつかドワーフの里に来たときの客室に案内された。一部改築されてシャワー付きになっている。あとで聞いたところによれば、筋トレが特にドワーフの若い人たちに受け入れられたことによって、気楽に汗を流せるような設備が必要になったということだ。人間国の街にある銭湯のように共用のシャワーができたらしい。
 今後はドワーフ国も別の国と交易をするかもしれないのだ。客室にシャワーくらいあってもいいだろう。
 ストレッチを入念に行い、部屋でできるトレーニングを終わらせた。たいして空腹でも無いので手持ちのサバスでタンパク質を補給してシャワーを浴びる。ようやく一息ついた。
 そろそろ読み終わっただろう。ロゴスのところに行って話でもしておくか。

 ドアをノックして入ってみると、ロゴスはまだ写しを読んでいた。いや、読み込んでいたというところか。
 「あの二人はやはりいい仕事をしますね。」
 ロゴスもこの手記のなにかに引っかかっているようだな。
 「その翻訳内容、どこか間違いらしきものがありましたか?」
 「いえ。現時点で完璧だと思います。初代王が行った仕事の素晴らしさがよく分かります。ただ・・・」言っていいのか悪いのか判断ができないというところか。
 「どこかで手記の方が失われてしまったのかもしれませんが、初代王が急に戦場に立つようになりましたよね。指揮官は後方で全体を指揮するのが仕事だと思うんですが・・・」
 さすがロゴスだ。自力でそこに辿り着くか。
 「私もペンスもイレイスもそこに引っかかりました。ロゴスから見てこの変化をどう捉えますか?」
 「うーん、難しいですねぇ。断片的な情報だけですし。なんというか組織や国としての強さよりも、今のギルドのように個人としての強さを求めていたとか。人間王自身が強くなりたかったとか。」
 なるほど。自分自身が強くなること自体が目的だとしたら、少しは納得がいく話だ。指揮官としての経験以上に、自身の強さを求めた結果が前線での仕事というわけか。
 「ギルドの創設も強い個人を求めてのことでしたからね。初代王は魔王という存在がいるかもしれないと仮定して、自分自身も強くなることを求めたと。こういう事でしょうか?」
 「魔王まで仮定していたかどうかは分かりませんが、個人としてさらに高い武を求める姿は、今まで読み込んできた初代王の姿勢と反しないという気がします。」
 アドバイザーや軍師や指揮官という立場から、一人の武将へと変わっていこうというのか。それは転職などという可愛げがある言葉で表現できるものではないな。今まで手に入れたものをいったん捨てて、全身全霊を賭けてなお届かないかもしれない、まったく別の領域に自分を持っていこうとする発想だ。
 「言うほど簡単なことではないでしょう。ロゴスはできると思いますか?」
 「私がですか?いやムリです。やろうという気にもならないですね。初代王ほどの才覚があればなんでもできたかもしれませんが。」
 「仮にロゴスの想像通りだとして、なにが初代王をそこまで追い込んだのでしょうか。」
 ふと追い込んだという言葉が出てしまった。初代王は追い込まれていたのだろうか?
 「なにか転機があったのだろうとは思います。手記の失われた部分に書かれていたかもしれませんし。」
 いや、ちょっとアプローチが違う気がする。
 「もしかしたら失われたのではなく、手記すら書けなくなるような転機があったのかもしれませんね。」
 自分が発した言葉によって、私の中でかちりとピースが繋がった。
 初代王はこの時期に、あの最愛の女性と子どもを失ったのではないのだろうか?
 その痕跡があの西の廃墟にあった墓標だったのではないだろうか?
 いやいや、これもまた私の想像に過ぎない。分かっていることは、なにか転機があって初代王が戦場の最前線で戦うようになったということだけだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

処理中です...