異世界マッチョ

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96 マッチョさん、瓶詰を受け取る

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 トレーニングマシンが一台完成したので、ドワーフの人たちもだいたい安全対策というものの要領を得ただろうと思ったが、そういうワケにもいかなかった。もう一台分だけ監修をお願いするとのことだったので、私はドワーフ王の求めに応じドワーフ国に滞在することになった。
 なるほど。ドワーフ王が不安に思うワケだ。
 ドワーフだけでものを作ってもらうと、まだまだ安全対策というものについて分かっていないようだ。
 引き続きチンニングマシンとソーイングマシンを二つ同時に指導する。こちらは背筋に関わるマシンなのでなにがなんでも私が欲しい。
 うーむ、この状況は製作者を責めるのも酷というものか。
 実際に扱う人間からの意見が無いと、トレーニングマシンを作る現場の人間はどういうものが求められているのかよく分からないようだ。ものを作る現場というのはこういうものなのだろう。こういう混乱した現場を見据えて私を送った人間王の差配には、相変わらず感嘆するしかない。たしかにこれは私にしかできない仕事だ。

 ロゴスの翻訳もかなり気合が入ってきた。私が来た事で初代王の翻訳書に書かれていた機械が現実のものとなってゆくのだ。もはや古代に暗号で書かれたロマン溢れる謎の古代機械などでは無い。ロゴスも面白くて仕方が無いだろう。半分くらいは水車や風車の作り方、木材伐採や管理の方法という原始農業からの脱却程度の機械技術が書かれているだけのようだった。そういうものなら既にこの世界に存在している。うーむ・・・しかし・・・
 「大親方、この水車や風車というのは初代王の残した書き物と同じようなものを今でも使っているんですか?」
 「おお。あれはよく出来ていてなぁ。工夫しようにもやりようが無くて、あまり手を入れてないんだよな。」
 「軸受けもですか?」
 大親方の顔がぴくりと動いた。
 「そうだな。ふつうに木で受けているだけだ・・・あれ?」
 「新型の軸受けを使えばより効率が上がるんじゃないでしょうか。」
 「・・・面白そうだなそれ。マッチョの仕事が終わったらやってみるよ。」
 「大親方。うまくいったら窯の方にも使えるんじゃないでしょうか?風を大量に入れるって話だったじゃないですか。」カイトさんが会話に入ってきた。
 「ああ、それも面白そうだな。でも爆発しねぇかな・・・」
 爆発するようなものを作ったのか。そのうちドワーフ王に大業物の自慢話でもしてもらおうかと思っていたが、案内されても近づかないようにしよう。
 「それこそ安全対策ですね。ヤバいと思ったら止められるような仕組みを考えてから作ればいいんじゃないでしょうか。」
 ほぇーという顔で大親方は感心している。
 「なるほどなぁ。安全対策ってそういう意味だったのか。」
 どういう意味だと思っていたのだ。
 「いつも通り、いちかばちかで爆発するかもしれないけれどやってみるところでしたね・・・マッチョさんの言う通りです。せっかくの窯が爆発したら大損害ですよ。」
 いちかばちかでやるつもりだったのか。
 ドワーフ族の技術の高さや発想を見て改めて感じさせられる。自分に降りかかるリスクすら考えずにとりあえずやってみるの精神のようなものが、新しい発明を作るのかもしれない。天才と紙一重なところがあるなぁ。
 逆に言えばドワーフ族はリスク管理ができないとも言える。もっとお金持ちになったり、種として増えていてもおかしくないのは、いちかばちか精神でドワーフ族自体が減っているのではないだろうか?
 しかしドワーフ族のノリを考えると、これはどうにかなる話では無さそうだ。
 ロイスさんあたりがドワーフ族の行く末までしっかりと考えているだろうが、特になにもしていなさそうだ。    
 つまり、なにかをやってみてもムダなのだろう。
 もはやドワーフ族の本能として諦めるしかないのだろう。

 「マッチョ様。人間国よりマッチョ様宛に見慣れないものが送られて来たのですが、確認していただけますか?」
 ロイスさんのことを考えていたらロイスさんがやって来た。見慣れないものとはなんだろうか?いつものハムでは無いのか。確認してみたら瓶詰の試作品である。スクルトさん、あれだけの高いハードルを越えて試作品を作ってみたのか。手紙が添えられていた。
 なになに・・・
 「試作品の瓶詰が出来たのでマッチョさんと宮廷薬師へ送ります。なにかご意見などがありましたらお知らせください。またリベリと王都との間を軍が定期的に輸送することになりましたので、ロキさんの移動も輸送隊に任せようと思います。云々」
 瓶詰の中身をドワーフの料理人と確認すると、サバ、ニシン、イワシの塩漬けだった。安い食材から試していこうというわけか。ドワーフの料理人が言うには塩分濃度が高すぎて単体で食べるものでは無いようだった。調理をお任せしてみたら、具だくさんでハーブがたくさん入ったスープが出来上がった。田舎料理のような素朴さがあるが、なかなか消化に良さそうだし筋肉にも効きそうだ。しかし魚自体が塩っぱ過ぎるな。塩漬けの魚よりは塩が効き過ぎてはいないが、塩抜きをしないと食べられなそうだ。
 大食堂にたむろしていたドワーフ王たちにも振舞ったが、どうやらドワーフたちは魚が苦手なようだった。そういえば清流が近くにあると言うのにドワーフたちは魚を食べないな。ほとんど肉だ。
 「保存が効くってのはいいが、味がなぁ。あと戻す手間もかかるだろう。」
 「戦闘用の糧食というのは分かりますが、ひと手間が面倒ですね。炊煙も出てしまいますし。」
 うーむ、ドワーフには不評なようだ。だがこれはまだ試作品なのだ。
 「なんだか見たことが無い繊維質のようなものもあるな。なんだこれ?」
 それは・・・
 「たぶんカニですね。」
 やはりスクルトさんの頭にはカニ缶があったらしい。スクルトさんにとってはどこでもカニが食べられる夢の補給食だろう。
 「へぇー、海でもカニって獲れるのか。」
 「子どもの時に川で獲って食べたりしてましたよ。」
 「懐かしいな。食ってみていいか?」
 「どうぞどうぞ。」
 「ふぉっ!美味いぞこれ!」
 「大親方、僕にもください。うおっ!美味いですねこれ!」
 そこまで美味いのか。私も食べてみることにした。
 くっ、美味いな・・・
 カニの味付けだけ極端に洗練されている。トレーニングマシンのために働いてきた私が言う事ではないが、ややスクルトさんの私情が入り過ぎているではないだろうか?
 「ひとつしか無いのが残念だな・・・」
 「そうですね・・・」
 うーむ、食べられなかったドワーフたちの視線が痛い。
 「ドワーフ国にも完成の折にはこれを送ってもらえるように話しておきます。」 
 「そうか!いやー助かるな。美味いものなんていくらあってもいいからな!」
 ドワーフ王直々の頼みだ。無碍に断ることなどできないだろう。

 カニ缶だけ研究が先行しているようだが、いつかは納得のゆくサバ缶が手に入る日もやって来るだろう。
 サバ缶もトレーニングマシンも手に入るのであれば私にとって必要なものである。
 いつも同じ補給食など味気が無いではないか。トレーニングだってバリエーションがあればあるほど飽きというものが来ないものである。
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