102 / 133
102 マッチョさん、準備をする
しおりを挟む
見知った顔も見知らぬ顔も会議場に集まり、魔物との戦いの準備が始まった。
これほど大規模に軍やギルドが動くのは初めての経験なのだそうだ。
王都の東にハイネスブルク卿の領土がある。その先にニャンコ族の集落があり、さらにその先の崖を超えたところが東の限界領域だ。
ハイネスブルク卿の領土に侵攻している魔物は、私の知らない中将が現場指揮を行い撃退する。城壁で魔物の侵入を阻止してはいるが、籠城戦となっているので外部から軍が魔物を蹴散らさないといけないそうだ。魔物災害が起こっている状況と同じということなのだろう。
次にニャンコ族の集落の解放である。軍の本体がハイネスブルク卿の領土を短時間で平定できなければ、こちらは最近になって少将となったタカロスさんの部隊とドロスさん率いるギルドメンバー、それにニャンコ族の中隊の混成軍で行われる。
最後に限界領域の中だ。精霊の祠を見つけ出しニャンコ族に勇者が出たならば最高の成果だ。
「もっとも厄介だと思われるのは、限界領域の先にいる魔物ニャ。ニャンコ国を襲ってきた魔物は、まるで噂に聞く魔物災害みたいだったからニャ。」
・・・あれ?
「限界領域に魔物を退治する冒険者はいませんよね?」
「魔物にも縄張りがあるのだ。人間国や龍国やドワーフ国で特定の魔物しか出ないのは、その魔物の縄張りだからだ。縄張りを追い出された魔物の集団がニャンコ国を襲ったのだろう。」
つまり、限界領域の先には魔物が逃げるほど強い魔物が出るということか。
「おそらく我々が言うところの固有種相当の相手になるだろう。マッチョ以外にはタカロスにドロス、それに勇者のロキ殿とジェイ殿にもこの作戦には参加してもらう。勇者となった人間が別の精霊に近づけば、精霊の恩寵についてなにか分かるかもしれないからな。」
こういうところは抜かりが無いな。
「まぁ今回の件は悪い話ばかりではない。おそらく魔王と戦うという状況もこれに近いかたちになるだろう。魔物の大軍を軍で抑え込んでギルドメンバーの精鋭でくさびを作り、少数の勇者パーティで魔王に向かうという方法だ。魔法など使われたら軍が一瞬で消えてしまうからな。魔王と戦う前によい演習が出来ると考えたら、軍を動かすのも悪いことでは無い。演習はいずれやるつもりだったしな。」
「人間王よ。ワシらが限界領域に行くのは構わんが、ワシらでも手に負えない魔物が出る可能性もあるぞ。その時はどうする?」
「ドロスが判断してくれ。橋を焼いても構わん。タカロスもそれでいいな?」
「剣聖の判断に従います。夜盗やらその辺の魔物なら私でも判断できますが、固有種レベルの魔物が複数となると私ではちょっとムリですね。」
「それでも山岳はタカロスの戦場じゃ。行軍指揮のほうはお前に頼むぞ。」
「はっ!」
うーむ、困ったな。
軽い気持ちで引き受けてしまったが、魔物退治というよりも戦争ではないか。
しかも私が行くところがもっとも危険な地域のようだ。限界領域を安全に行軍できたのなら問題が無いのだが、人跡未踏の地の平定などさすがに難しいだろう。とっとと例の碑文を見つけ出し、自分の身の安全を最優先にするしか無いか。
対策会議が終わり、明日にでも出発ということになった。私と勇者の人たちはタカロスさんの指揮下に入るという事になった。
私個人も準備をしないとな。ハムにサバス。それに少し戦闘訓練もおさらいしておきたい。最終目的地には固有種相当の魔物が出てくるのだ。
ギルド本部の訓練所に行くと、ロキさんとジェイさんが訓練をしていた。うーむ、二人とも見違えるほどに強くなっている。私が他の仕事をしている間もずっと戦闘訓練と筋トレを続けていたのだ。強くもなるだろう。
「いい鍛えっぷりじゃろう、マッチョ君。」
「強くなりましたよね。私では相手にならないんじゃないでしょうか。」
「試しにやっていくといい。ロキ、ジェイ。マッチョ君に相手をしてもらいなさい。」
久しぶりの模擬戦である。ロキさんジェイさんそれぞれと十本勝負だ。
ロキさんとは五分で分けたが、ジェイさんにはついに勝ち越された。しっぽと体格差をうまく利用する戦い方ができるようになっていた。
「お二人とも強くなりましたね。もう護衛なんていらないんじゃないですか。」
「マッチョさんと五分というのはかなり自信になりました。」
「普段はドロス殿に一方的にやられているからな。我もマッチョ殿に勝ち越せてようやく勇者としての自信がついたと思う。」
これくらい強くなったのであれば、ふつうの魔物なら対峙する前に逃げてくれるだろう。
「私も戦闘訓練は久しぶりだったので、いい練習になりました。ありがとうございました。」
・・・あれ。ドロスさんがなんだか渋い顔をしているな。
「マッチョ君、せっかくだからワシともやっていきなさい。五本勝負で構わん。少し気になることがある。」
斧の大きさを変えてからドロスさんと模擬戦をやるのは初めてだ。
「よろしくお願いします!」
ドロスさんが相手では当然のように一本も取れなかったか。やはり全体的に動きが固いな。斧の軽さにも慣れないし、肘当てで可動域が限定されるとなかなか難しい。
「やはりのう・・・マッチョ君、ちょっと弱くなってしまったの。意外性も無くなってしもうた。」
ドロスさんが言うのだから私は弱くなったのだろう。
「今の斧に慣れたら、それなりに戦えると思うんですけれどね。」
「うーむ・・・」
言った方がいいのかどうか迷っているというカンジだ。
「マッチョ君。今回の戦闘は封印したほうの大斧も持っていきなさい。今日のような動きだと死ぬかもしれんのう。マッチョ君もワシらも固有種を相手にする可能性が高い。肘の状態も心配ではあるが、死んでしまったらどうにもならないからのう。」
「そうですね。アレを持っていくことにします。」
どうも最近はトレーニング機材を作ったり、保養地に行ったり、翻訳をしたり、戦闘をする経験が少なすぎた。筋トレに比べると戦闘訓練がおろそかになっていたことは否定できない。
ここは異世界であり、明日には強い魔物が襲ってくる場所に行くことになるのだ。
これほど大規模に軍やギルドが動くのは初めての経験なのだそうだ。
王都の東にハイネスブルク卿の領土がある。その先にニャンコ族の集落があり、さらにその先の崖を超えたところが東の限界領域だ。
ハイネスブルク卿の領土に侵攻している魔物は、私の知らない中将が現場指揮を行い撃退する。城壁で魔物の侵入を阻止してはいるが、籠城戦となっているので外部から軍が魔物を蹴散らさないといけないそうだ。魔物災害が起こっている状況と同じということなのだろう。
次にニャンコ族の集落の解放である。軍の本体がハイネスブルク卿の領土を短時間で平定できなければ、こちらは最近になって少将となったタカロスさんの部隊とドロスさん率いるギルドメンバー、それにニャンコ族の中隊の混成軍で行われる。
最後に限界領域の中だ。精霊の祠を見つけ出しニャンコ族に勇者が出たならば最高の成果だ。
「もっとも厄介だと思われるのは、限界領域の先にいる魔物ニャ。ニャンコ国を襲ってきた魔物は、まるで噂に聞く魔物災害みたいだったからニャ。」
・・・あれ?
「限界領域に魔物を退治する冒険者はいませんよね?」
「魔物にも縄張りがあるのだ。人間国や龍国やドワーフ国で特定の魔物しか出ないのは、その魔物の縄張りだからだ。縄張りを追い出された魔物の集団がニャンコ国を襲ったのだろう。」
つまり、限界領域の先には魔物が逃げるほど強い魔物が出るということか。
「おそらく我々が言うところの固有種相当の相手になるだろう。マッチョ以外にはタカロスにドロス、それに勇者のロキ殿とジェイ殿にもこの作戦には参加してもらう。勇者となった人間が別の精霊に近づけば、精霊の恩寵についてなにか分かるかもしれないからな。」
こういうところは抜かりが無いな。
「まぁ今回の件は悪い話ばかりではない。おそらく魔王と戦うという状況もこれに近いかたちになるだろう。魔物の大軍を軍で抑え込んでギルドメンバーの精鋭でくさびを作り、少数の勇者パーティで魔王に向かうという方法だ。魔法など使われたら軍が一瞬で消えてしまうからな。魔王と戦う前によい演習が出来ると考えたら、軍を動かすのも悪いことでは無い。演習はいずれやるつもりだったしな。」
「人間王よ。ワシらが限界領域に行くのは構わんが、ワシらでも手に負えない魔物が出る可能性もあるぞ。その時はどうする?」
「ドロスが判断してくれ。橋を焼いても構わん。タカロスもそれでいいな?」
「剣聖の判断に従います。夜盗やらその辺の魔物なら私でも判断できますが、固有種レベルの魔物が複数となると私ではちょっとムリですね。」
「それでも山岳はタカロスの戦場じゃ。行軍指揮のほうはお前に頼むぞ。」
「はっ!」
うーむ、困ったな。
軽い気持ちで引き受けてしまったが、魔物退治というよりも戦争ではないか。
しかも私が行くところがもっとも危険な地域のようだ。限界領域を安全に行軍できたのなら問題が無いのだが、人跡未踏の地の平定などさすがに難しいだろう。とっとと例の碑文を見つけ出し、自分の身の安全を最優先にするしか無いか。
対策会議が終わり、明日にでも出発ということになった。私と勇者の人たちはタカロスさんの指揮下に入るという事になった。
私個人も準備をしないとな。ハムにサバス。それに少し戦闘訓練もおさらいしておきたい。最終目的地には固有種相当の魔物が出てくるのだ。
ギルド本部の訓練所に行くと、ロキさんとジェイさんが訓練をしていた。うーむ、二人とも見違えるほどに強くなっている。私が他の仕事をしている間もずっと戦闘訓練と筋トレを続けていたのだ。強くもなるだろう。
「いい鍛えっぷりじゃろう、マッチョ君。」
「強くなりましたよね。私では相手にならないんじゃないでしょうか。」
「試しにやっていくといい。ロキ、ジェイ。マッチョ君に相手をしてもらいなさい。」
久しぶりの模擬戦である。ロキさんジェイさんそれぞれと十本勝負だ。
ロキさんとは五分で分けたが、ジェイさんにはついに勝ち越された。しっぽと体格差をうまく利用する戦い方ができるようになっていた。
「お二人とも強くなりましたね。もう護衛なんていらないんじゃないですか。」
「マッチョさんと五分というのはかなり自信になりました。」
「普段はドロス殿に一方的にやられているからな。我もマッチョ殿に勝ち越せてようやく勇者としての自信がついたと思う。」
これくらい強くなったのであれば、ふつうの魔物なら対峙する前に逃げてくれるだろう。
「私も戦闘訓練は久しぶりだったので、いい練習になりました。ありがとうございました。」
・・・あれ。ドロスさんがなんだか渋い顔をしているな。
「マッチョ君、せっかくだからワシともやっていきなさい。五本勝負で構わん。少し気になることがある。」
斧の大きさを変えてからドロスさんと模擬戦をやるのは初めてだ。
「よろしくお願いします!」
ドロスさんが相手では当然のように一本も取れなかったか。やはり全体的に動きが固いな。斧の軽さにも慣れないし、肘当てで可動域が限定されるとなかなか難しい。
「やはりのう・・・マッチョ君、ちょっと弱くなってしまったの。意外性も無くなってしもうた。」
ドロスさんが言うのだから私は弱くなったのだろう。
「今の斧に慣れたら、それなりに戦えると思うんですけれどね。」
「うーむ・・・」
言った方がいいのかどうか迷っているというカンジだ。
「マッチョ君。今回の戦闘は封印したほうの大斧も持っていきなさい。今日のような動きだと死ぬかもしれんのう。マッチョ君もワシらも固有種を相手にする可能性が高い。肘の状態も心配ではあるが、死んでしまったらどうにもならないからのう。」
「そうですね。アレを持っていくことにします。」
どうも最近はトレーニング機材を作ったり、保養地に行ったり、翻訳をしたり、戦闘をする経験が少なすぎた。筋トレに比べると戦闘訓練がおろそかになっていたことは否定できない。
ここは異世界であり、明日には強い魔物が襲ってくる場所に行くことになるのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。
日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。
両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日――
「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」
女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。
目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。
作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。
けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。
――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。
誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。
そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。
ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。
癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる