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102 マッチョさん、準備をする
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見知った顔も見知らぬ顔も会議場に集まり、魔物との戦いの準備が始まった。
これほど大規模に軍やギルドが動くのは初めての経験なのだそうだ。
王都の東にハイネスブルク卿の領土がある。その先にニャンコ族の集落があり、さらにその先の崖を超えたところが東の限界領域だ。
ハイネスブルク卿の領土に侵攻している魔物は、私の知らない中将が現場指揮を行い撃退する。城壁で魔物の侵入を阻止してはいるが、籠城戦となっているので外部から軍が魔物を蹴散らさないといけないそうだ。魔物災害が起こっている状況と同じということなのだろう。
次にニャンコ族の集落の解放である。軍の本体がハイネスブルク卿の領土を短時間で平定できなければ、こちらは最近になって少将となったタカロスさんの部隊とドロスさん率いるギルドメンバー、それにニャンコ族の中隊の混成軍で行われる。
最後に限界領域の中だ。精霊の祠を見つけ出しニャンコ族に勇者が出たならば最高の成果だ。
「もっとも厄介だと思われるのは、限界領域の先にいる魔物ニャ。ニャンコ国を襲ってきた魔物は、まるで噂に聞く魔物災害みたいだったからニャ。」
・・・あれ?
「限界領域に魔物を退治する冒険者はいませんよね?」
「魔物にも縄張りがあるのだ。人間国や龍国やドワーフ国で特定の魔物しか出ないのは、その魔物の縄張りだからだ。縄張りを追い出された魔物の集団がニャンコ国を襲ったのだろう。」
つまり、限界領域の先には魔物が逃げるほど強い魔物が出るということか。
「おそらく我々が言うところの固有種相当の相手になるだろう。マッチョ以外にはタカロスにドロス、それに勇者のロキ殿とジェイ殿にもこの作戦には参加してもらう。勇者となった人間が別の精霊に近づけば、精霊の恩寵についてなにか分かるかもしれないからな。」
こういうところは抜かりが無いな。
「まぁ今回の件は悪い話ばかりではない。おそらく魔王と戦うという状況もこれに近いかたちになるだろう。魔物の大軍を軍で抑え込んでギルドメンバーの精鋭でくさびを作り、少数の勇者パーティで魔王に向かうという方法だ。魔法など使われたら軍が一瞬で消えてしまうからな。魔王と戦う前によい演習が出来ると考えたら、軍を動かすのも悪いことでは無い。演習はいずれやるつもりだったしな。」
「人間王よ。ワシらが限界領域に行くのは構わんが、ワシらでも手に負えない魔物が出る可能性もあるぞ。その時はどうする?」
「ドロスが判断してくれ。橋を焼いても構わん。タカロスもそれでいいな?」
「剣聖の判断に従います。夜盗やらその辺の魔物なら私でも判断できますが、固有種レベルの魔物が複数となると私ではちょっとムリですね。」
「それでも山岳はタカロスの戦場じゃ。行軍指揮のほうはお前に頼むぞ。」
「はっ!」
うーむ、困ったな。
軽い気持ちで引き受けてしまったが、魔物退治というよりも戦争ではないか。
しかも私が行くところがもっとも危険な地域のようだ。限界領域を安全に行軍できたのなら問題が無いのだが、人跡未踏の地の平定などさすがに難しいだろう。とっとと例の碑文を見つけ出し、自分の身の安全を最優先にするしか無いか。
対策会議が終わり、明日にでも出発ということになった。私と勇者の人たちはタカロスさんの指揮下に入るという事になった。
私個人も準備をしないとな。ハムにサバス。それに少し戦闘訓練もおさらいしておきたい。最終目的地には固有種相当の魔物が出てくるのだ。
ギルド本部の訓練所に行くと、ロキさんとジェイさんが訓練をしていた。うーむ、二人とも見違えるほどに強くなっている。私が他の仕事をしている間もずっと戦闘訓練と筋トレを続けていたのだ。強くもなるだろう。
「いい鍛えっぷりじゃろう、マッチョ君。」
「強くなりましたよね。私では相手にならないんじゃないでしょうか。」
「試しにやっていくといい。ロキ、ジェイ。マッチョ君に相手をしてもらいなさい。」
久しぶりの模擬戦である。ロキさんジェイさんそれぞれと十本勝負だ。
ロキさんとは五分で分けたが、ジェイさんにはついに勝ち越された。しっぽと体格差をうまく利用する戦い方ができるようになっていた。
「お二人とも強くなりましたね。もう護衛なんていらないんじゃないですか。」
「マッチョさんと五分というのはかなり自信になりました。」
「普段はドロス殿に一方的にやられているからな。我もマッチョ殿に勝ち越せてようやく勇者としての自信がついたと思う。」
これくらい強くなったのであれば、ふつうの魔物なら対峙する前に逃げてくれるだろう。
「私も戦闘訓練は久しぶりだったので、いい練習になりました。ありがとうございました。」
・・・あれ。ドロスさんがなんだか渋い顔をしているな。
「マッチョ君、せっかくだからワシともやっていきなさい。五本勝負で構わん。少し気になることがある。」
斧の大きさを変えてからドロスさんと模擬戦をやるのは初めてだ。
「よろしくお願いします!」
ドロスさんが相手では当然のように一本も取れなかったか。やはり全体的に動きが固いな。斧の軽さにも慣れないし、肘当てで可動域が限定されるとなかなか難しい。
「やはりのう・・・マッチョ君、ちょっと弱くなってしまったの。意外性も無くなってしもうた。」
ドロスさんが言うのだから私は弱くなったのだろう。
「今の斧に慣れたら、それなりに戦えると思うんですけれどね。」
「うーむ・・・」
言った方がいいのかどうか迷っているというカンジだ。
「マッチョ君。今回の戦闘は封印したほうの大斧も持っていきなさい。今日のような動きだと死ぬかもしれんのう。マッチョ君もワシらも固有種を相手にする可能性が高い。肘の状態も心配ではあるが、死んでしまったらどうにもならないからのう。」
「そうですね。アレを持っていくことにします。」
どうも最近はトレーニング機材を作ったり、保養地に行ったり、翻訳をしたり、戦闘をする経験が少なすぎた。筋トレに比べると戦闘訓練がおろそかになっていたことは否定できない。
ここは異世界であり、明日には強い魔物が襲ってくる場所に行くことになるのだ。
これほど大規模に軍やギルドが動くのは初めての経験なのだそうだ。
王都の東にハイネスブルク卿の領土がある。その先にニャンコ族の集落があり、さらにその先の崖を超えたところが東の限界領域だ。
ハイネスブルク卿の領土に侵攻している魔物は、私の知らない中将が現場指揮を行い撃退する。城壁で魔物の侵入を阻止してはいるが、籠城戦となっているので外部から軍が魔物を蹴散らさないといけないそうだ。魔物災害が起こっている状況と同じということなのだろう。
次にニャンコ族の集落の解放である。軍の本体がハイネスブルク卿の領土を短時間で平定できなければ、こちらは最近になって少将となったタカロスさんの部隊とドロスさん率いるギルドメンバー、それにニャンコ族の中隊の混成軍で行われる。
最後に限界領域の中だ。精霊の祠を見つけ出しニャンコ族に勇者が出たならば最高の成果だ。
「もっとも厄介だと思われるのは、限界領域の先にいる魔物ニャ。ニャンコ国を襲ってきた魔物は、まるで噂に聞く魔物災害みたいだったからニャ。」
・・・あれ?
「限界領域に魔物を退治する冒険者はいませんよね?」
「魔物にも縄張りがあるのだ。人間国や龍国やドワーフ国で特定の魔物しか出ないのは、その魔物の縄張りだからだ。縄張りを追い出された魔物の集団がニャンコ国を襲ったのだろう。」
つまり、限界領域の先には魔物が逃げるほど強い魔物が出るということか。
「おそらく我々が言うところの固有種相当の相手になるだろう。マッチョ以外にはタカロスにドロス、それに勇者のロキ殿とジェイ殿にもこの作戦には参加してもらう。勇者となった人間が別の精霊に近づけば、精霊の恩寵についてなにか分かるかもしれないからな。」
こういうところは抜かりが無いな。
「まぁ今回の件は悪い話ばかりではない。おそらく魔王と戦うという状況もこれに近いかたちになるだろう。魔物の大軍を軍で抑え込んでギルドメンバーの精鋭でくさびを作り、少数の勇者パーティで魔王に向かうという方法だ。魔法など使われたら軍が一瞬で消えてしまうからな。魔王と戦う前によい演習が出来ると考えたら、軍を動かすのも悪いことでは無い。演習はいずれやるつもりだったしな。」
「人間王よ。ワシらが限界領域に行くのは構わんが、ワシらでも手に負えない魔物が出る可能性もあるぞ。その時はどうする?」
「ドロスが判断してくれ。橋を焼いても構わん。タカロスもそれでいいな?」
「剣聖の判断に従います。夜盗やらその辺の魔物なら私でも判断できますが、固有種レベルの魔物が複数となると私ではちょっとムリですね。」
「それでも山岳はタカロスの戦場じゃ。行軍指揮のほうはお前に頼むぞ。」
「はっ!」
うーむ、困ったな。
軽い気持ちで引き受けてしまったが、魔物退治というよりも戦争ではないか。
しかも私が行くところがもっとも危険な地域のようだ。限界領域を安全に行軍できたのなら問題が無いのだが、人跡未踏の地の平定などさすがに難しいだろう。とっとと例の碑文を見つけ出し、自分の身の安全を最優先にするしか無いか。
対策会議が終わり、明日にでも出発ということになった。私と勇者の人たちはタカロスさんの指揮下に入るという事になった。
私個人も準備をしないとな。ハムにサバス。それに少し戦闘訓練もおさらいしておきたい。最終目的地には固有種相当の魔物が出てくるのだ。
ギルド本部の訓練所に行くと、ロキさんとジェイさんが訓練をしていた。うーむ、二人とも見違えるほどに強くなっている。私が他の仕事をしている間もずっと戦闘訓練と筋トレを続けていたのだ。強くもなるだろう。
「いい鍛えっぷりじゃろう、マッチョ君。」
「強くなりましたよね。私では相手にならないんじゃないでしょうか。」
「試しにやっていくといい。ロキ、ジェイ。マッチョ君に相手をしてもらいなさい。」
久しぶりの模擬戦である。ロキさんジェイさんそれぞれと十本勝負だ。
ロキさんとは五分で分けたが、ジェイさんにはついに勝ち越された。しっぽと体格差をうまく利用する戦い方ができるようになっていた。
「お二人とも強くなりましたね。もう護衛なんていらないんじゃないですか。」
「マッチョさんと五分というのはかなり自信になりました。」
「普段はドロス殿に一方的にやられているからな。我もマッチョ殿に勝ち越せてようやく勇者としての自信がついたと思う。」
これくらい強くなったのであれば、ふつうの魔物なら対峙する前に逃げてくれるだろう。
「私も戦闘訓練は久しぶりだったので、いい練習になりました。ありがとうございました。」
・・・あれ。ドロスさんがなんだか渋い顔をしているな。
「マッチョ君、せっかくだからワシともやっていきなさい。五本勝負で構わん。少し気になることがある。」
斧の大きさを変えてからドロスさんと模擬戦をやるのは初めてだ。
「よろしくお願いします!」
ドロスさんが相手では当然のように一本も取れなかったか。やはり全体的に動きが固いな。斧の軽さにも慣れないし、肘当てで可動域が限定されるとなかなか難しい。
「やはりのう・・・マッチョ君、ちょっと弱くなってしまったの。意外性も無くなってしもうた。」
ドロスさんが言うのだから私は弱くなったのだろう。
「今の斧に慣れたら、それなりに戦えると思うんですけれどね。」
「うーむ・・・」
言った方がいいのかどうか迷っているというカンジだ。
「マッチョ君。今回の戦闘は封印したほうの大斧も持っていきなさい。今日のような動きだと死ぬかもしれんのう。マッチョ君もワシらも固有種を相手にする可能性が高い。肘の状態も心配ではあるが、死んでしまったらどうにもならないからのう。」
「そうですね。アレを持っていくことにします。」
どうも最近はトレーニング機材を作ったり、保養地に行ったり、翻訳をしたり、戦闘をする経験が少なすぎた。筋トレに比べると戦闘訓練がおろそかになっていたことは否定できない。
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