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2話 魔王四天王、翡焔のシラヌイ
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「翡焔のシラヌイ、帰還しました」
魔王様より命じられた人間軍の討伐を終え、私は魔都バルドフに戻っていた。
私は魔王様直下の精鋭、魔王四天王の一人、シラヌイだ。翡焔の名の通り、炎魔法を得意とするサキュバスだ。
魔王様への報告を終え、一度自室に戻る。その途中、鏡で自分の姿を見てみた。
やはり酷い顔をしている。長い黒髪は手入れがされておらずぼさぼさで、青目は隈のせいで台無しになっている。ローブに隠れて見えないが、肌だってかさかさだ。
男を魅了し、精気を餌とする悪魔だというのに、こんな疲れた顔では誰も魅了出来やしないだろう。そう言えば、最後に笑ったのもいつだろう。もう何年も笑った記憶がない。
「ようシラヌイ、今回も大活躍だったな」
後ろから背を叩かれ、驚き振り返る。私と同じく魔王四天王の一人、空情のリージョンだ。私達四天王のリーダー的存在である、大柄な青鬼だ。
上半身半裸の鬼は豪快に肩を叩いてきて、つい体がふらついた。
「貴方と会うのはどれくらいぶりだったかしら」
「大まか二ヶ月ぶりだな。互いに忙しい身で中々会えないものな。それより聞いたぞ、人間軍の兵站拠点を三つも叩いたんだろう? 凄い戦果じゃないか。ソユーズとメイライトも祝ってくれてるぞ」
「あの二人も戻っているの?」
「ああ、丁度お前と同じく任務から戻った所だ」
四天王が揃うなんて珍しい。全員多忙な身だから、バルドフに集結するなんて滅多にない事だ。
「二人ともサロンに居るぞ、寄って行けよ」
「悪いけど、まだ事後処理が残っているの。それに次の出兵準備もあるし、そんな時間はないわ」
「何言っている、四天王全員が揃う日なんて滅多にないんだぞ。たまには顔を出せ。それに当面俺達が出張る仕事はないらしい。暫くは顔つき合わせて仕事するんだからな」
私に選択肢はない、ってわけね。
という事で、四天王専用のサロンへ連れていかれる。そこには残りの四天王、煌金のソユーズと創生のメイライトが居た。
メイライトは女堕天使だ。黒いカラスのような翼を生やし、サキュバスよりも過激な服を着た破廉恥女。
一方のソユーズは常にペストマスクを被っていて、ぼろきれのようなマントを好んで纏う根暗野郎だ。
「シラヌイちゃーん。久しぶりね、元気にしてたー?」
「……息災、何より」
相変わらず両極端な二人だ。メイライトは底抜けに明るく、私に会うなり抱き着いて来るけど、ソユーズは直立不動でぽつりとつぶやくのみ。
「よし、四天王が暫くぶりに揃ったんだ。再会を祝して一杯やるか?」
「悪いけど、私は貴方に言われて顔出しただけよ。これでいいでしょう? 強い強い貴方達と違って、弱い私はやる事が多すぎるの。それじゃあね」
義理は果たしたし、さっさと退散する。さっきも言った通り、私は彼らに比べて、遥かに弱い。
何度でも言う。私は四天王の中で、最弱だ。
リージョンは空間と感情を操る力を持っている。空間を繋げての瞬間移動に加えて、空間に中途半端に留めさせた状態で能力を解除し、防御不能の攻撃を与える事が出来る。
おまけに敵の感情を自在に操り、思うがままに行動させる事も出来る。恐怖の感情を受け付けて竦ませるのは勿論、殺人に悦楽を覚えさせて同士討ちさせる事も可能だ。
ソユーズは金属と光を操る。自在に金属を生み出し、体に纏う事で攻守アップするだけでなく、鎖を鞭のように操って相手を拘束したり、敵の剣や槍を操作して武器破壊や、鎧の内側に棘を作ってアイアンメイデンのように刺殺したり……。
更には光をビームとして撃ち出し、絨毯爆撃する事も可能だ。おまけに金属を鏡のように扱い、光を反射する事でオールレンジ攻撃までしてしまう。
メイライトに至っては創造の力と時間を操る力を持っている。創造の力は武器や道具は勿論の事、生命体まで作り出せるから、圧倒的な物量戦を行う事が出来る。おまけに時を操る力で製作時間を極端に短くしているから、数秒で数千の大群を生み出せる。
私以外の四天王は、これだけすさまじい力を持っている。それに対して私は、単に炎を操る事が出来るだけ。
火力だけなら確かに、私の右に出る者はいないだろう。だけど炎に耐性を持つ敵には効果が薄いし、他の四天王と違って防御手段も多いし、対抗手段が多すぎる。
おまけに私は、肉弾戦が弱すぎる。三人は接近されても余裕で対応できるけど、私は懐に潜られればクソ雑魚ナメクジだ。
他に私が出来る事と言ったら、サキュバス故のチャーム位。でも私は、サキュバスなのにチャームの魔法が苦手だ。そのせいで弱った相手か、遥か格下の相手にしか使えない。
「私がどれだけ努力して四天王になったのか、才能ある奴に分かるわけない」
魅了がへたくそ過ぎて、私は昔から周りの連中に馬鹿にされていた。サキュバスの中でも私は底辺、味噌っかすの女だった。
私を馬鹿にした連中を見返してやるために、私は四天王を目指し、努力してきた。
魅了がヘタなら、他の魔法を。そう考え、唯一得意だった炎魔法を徹底的に磨き上げた。得意と言っても、他の連中と比べれば平均より下程度の物だった。それを毎日休まず、徹底的に鍛え続けた。
結果として、炎魔法だけは誰にも負けないくらい得意になった。魔王軍に入ってからはファイアボール一本で人間軍を蹴散らし、ひたすら功績を重ね続けた。
そんな努力の末、私は魔王様直属の部下、四天王の地位に就いた。だけどチートめいた力を持つ連中と違って、私が四天王で居続けるには変わらず努力し続けなければならない。
炎魔法が通用しない敵への対抗策、兵站振り分けの計画立案……ちょっと力を振るえば成果を挙げられる三人と違って、欠点塗れの私は入念な準備をしなければいけないのだ。
同じ四天王でも、私達は対等じゃない。一度でも失敗すれば、あの三人は私を馬鹿にするだろう。裏では絶対、私の事を雑魚だと嘲笑っているに決まっている。
そして部下達の期待もある。こんな私に憧れ、羨望を向ける彼らに情けない姿を見せる事も許さない。
あいつらを見返すために、私に期待する人に応えるために、私はずっと戦い続けなくちゃいけないんだ。
「四天王で居続けないと、また馬鹿にされる……そんなの、嫌よ……!」
寝る時間すら惜しい。もっと頑張らないと、誰よりも頑張らないと……。
ただ、時々分からなくなってしまう。
どうして私がそこまで頑張ろうとしているのかが。
◇◇◇
「シラヌイの奴、また随分無理をしているな」
「そうねぇ。あの子ってば思い込み激しいから、しなくていい無茶をするものねぇ」
「……彼女は我々が馬鹿にしていると思っているだろうが、そんな事はない。むしろ、一目置いている……」
「ああ、実際大した奴だよ。炎魔法一本で俺達以上の成果を挙げて、肩を並べて戦っているんだぞ? 頑張る奴をどうして馬鹿に出来るんだ」
「でも口で言って分かってくれる子じゃないものねぇ。自己評価が低すぎて、自分に重圧かけっぱなしだし。そのせいで必要以上に頑張り過ぎちゃうのよね」
「あのままじゃいずれ過労でぶっ倒れるだろうし、どうにかならない物か」
「……大きなきっかけがない限り、不可能。彼女に元気を取り戻す作戦を、我々が立てるべきだ……」
「シラヌイちゃんは私達で助けてあげないとねぇ。魔王四天王は仲間を見捨てない、そうでしょう?」
「当然だ。というわけで今から考えよう、名付けて、「シラヌイに元気を取り戻そう大作戦」だ!」
「……お前のネームセンス、壊滅的……むっ、ノックの音」
「誰かしら、随分慌ただしいけど」
「多分俺の部下だろうな。おい、何用だ」
その後、部下からの報告を受けたリージョンは、急いでシラヌイの下へ向かった。
◇◇◇
「勇者パーティの一人を捕らえた、ですって?」
リージョンから報告を受け、私は驚いた。
勇者パーティは魔王様を倒すため、バルドフへ向かっている人類最強のメンバーだったはず。その内の一人をまさか末端の兵が捕まえるなんて……。
「勇者フェイスの情報を得る絶好の機会だ。そこでシラヌイ、お前に勇者の尋問を頼みたい。尋問官が丁度有給で全員居なくてな」
「そこで魅了を使える私に白羽の矢が立ったってわけ?」
つーか有給使うなら代理くらい立てておきなさいよ、シフトガバガバじゃない。
「でも知ってるでしょ。私は魅了がへたくそなサキュバスよ、相手が勇者の仲間じゃ通用するはずがない」
「俺も同席する。俺が恐怖の感情を与えれば、魅了をかけやすくなるはずだ。俺は思考までは操れないからな、直接思考を弄れる魅了でないと意味がない」
「……そこまで言われたら、仕方ないわね」
私の手柄にも繋がるし、勇者パーティの一人がどんな面構えなのかも気になる。リージョンについて行き、地下牢へ向かった。
件の男は角部屋に収められていた。後ろ手に錠をかけられた彼はボロボロになっていて、激しい戦いの後を思わせる。
聞けば仲間を逃がすため、たった一人で二千の軍勢を相手に戦ったそうな。最終的には物量差に押し負けて捕まったそうだけど。
随分無茶な事をする、馬鹿な男だ。
「名前は、ディックって言うのね。確か刀を使う剣士だったかしら」
「剣術だけならば俺達四天王に匹敵するだろうな。無力化しているが、気を付けろよ」
「分かってる」
細心の注意を払いつつ、ディックを牢から出す。彼の目は死んでいて、生気を感じられない。まるで死ねなかった事を後悔しているような、そんな感じがした。
ともあれ、彼から情報を引き出さなければ。尋問室に連れて行き、魅了を使う支度をする。
「顔を上げなさい。これから洗いざらい、情報を教えてもらうわよ」
「……好きにしろ。僕から引き出せる情報なんて、そんな……」
私の顔を見るなり、ディックの目が見開かれた。
食い入るように見つめられ、少し恐くなる。なんでそんなに私を見つめるの?
「何? 私の顔になにかついてる?」
聞くなり、ディックの首にぶら下がるロケットペンダントが目に付く。
中を検めさせると、私に瓜二つの女の肖像画が。
なんでこいつ、私の肖像画を? そう思って顔を上げるなり、ディックは呟いた。
「……母、さん?」
魔王様より命じられた人間軍の討伐を終え、私は魔都バルドフに戻っていた。
私は魔王様直下の精鋭、魔王四天王の一人、シラヌイだ。翡焔の名の通り、炎魔法を得意とするサキュバスだ。
魔王様への報告を終え、一度自室に戻る。その途中、鏡で自分の姿を見てみた。
やはり酷い顔をしている。長い黒髪は手入れがされておらずぼさぼさで、青目は隈のせいで台無しになっている。ローブに隠れて見えないが、肌だってかさかさだ。
男を魅了し、精気を餌とする悪魔だというのに、こんな疲れた顔では誰も魅了出来やしないだろう。そう言えば、最後に笑ったのもいつだろう。もう何年も笑った記憶がない。
「ようシラヌイ、今回も大活躍だったな」
後ろから背を叩かれ、驚き振り返る。私と同じく魔王四天王の一人、空情のリージョンだ。私達四天王のリーダー的存在である、大柄な青鬼だ。
上半身半裸の鬼は豪快に肩を叩いてきて、つい体がふらついた。
「貴方と会うのはどれくらいぶりだったかしら」
「大まか二ヶ月ぶりだな。互いに忙しい身で中々会えないものな。それより聞いたぞ、人間軍の兵站拠点を三つも叩いたんだろう? 凄い戦果じゃないか。ソユーズとメイライトも祝ってくれてるぞ」
「あの二人も戻っているの?」
「ああ、丁度お前と同じく任務から戻った所だ」
四天王が揃うなんて珍しい。全員多忙な身だから、バルドフに集結するなんて滅多にない事だ。
「二人ともサロンに居るぞ、寄って行けよ」
「悪いけど、まだ事後処理が残っているの。それに次の出兵準備もあるし、そんな時間はないわ」
「何言っている、四天王全員が揃う日なんて滅多にないんだぞ。たまには顔を出せ。それに当面俺達が出張る仕事はないらしい。暫くは顔つき合わせて仕事するんだからな」
私に選択肢はない、ってわけね。
という事で、四天王専用のサロンへ連れていかれる。そこには残りの四天王、煌金のソユーズと創生のメイライトが居た。
メイライトは女堕天使だ。黒いカラスのような翼を生やし、サキュバスよりも過激な服を着た破廉恥女。
一方のソユーズは常にペストマスクを被っていて、ぼろきれのようなマントを好んで纏う根暗野郎だ。
「シラヌイちゃーん。久しぶりね、元気にしてたー?」
「……息災、何より」
相変わらず両極端な二人だ。メイライトは底抜けに明るく、私に会うなり抱き着いて来るけど、ソユーズは直立不動でぽつりとつぶやくのみ。
「よし、四天王が暫くぶりに揃ったんだ。再会を祝して一杯やるか?」
「悪いけど、私は貴方に言われて顔出しただけよ。これでいいでしょう? 強い強い貴方達と違って、弱い私はやる事が多すぎるの。それじゃあね」
義理は果たしたし、さっさと退散する。さっきも言った通り、私は彼らに比べて、遥かに弱い。
何度でも言う。私は四天王の中で、最弱だ。
リージョンは空間と感情を操る力を持っている。空間を繋げての瞬間移動に加えて、空間に中途半端に留めさせた状態で能力を解除し、防御不能の攻撃を与える事が出来る。
おまけに敵の感情を自在に操り、思うがままに行動させる事も出来る。恐怖の感情を受け付けて竦ませるのは勿論、殺人に悦楽を覚えさせて同士討ちさせる事も可能だ。
ソユーズは金属と光を操る。自在に金属を生み出し、体に纏う事で攻守アップするだけでなく、鎖を鞭のように操って相手を拘束したり、敵の剣や槍を操作して武器破壊や、鎧の内側に棘を作ってアイアンメイデンのように刺殺したり……。
更には光をビームとして撃ち出し、絨毯爆撃する事も可能だ。おまけに金属を鏡のように扱い、光を反射する事でオールレンジ攻撃までしてしまう。
メイライトに至っては創造の力と時間を操る力を持っている。創造の力は武器や道具は勿論の事、生命体まで作り出せるから、圧倒的な物量戦を行う事が出来る。おまけに時を操る力で製作時間を極端に短くしているから、数秒で数千の大群を生み出せる。
私以外の四天王は、これだけすさまじい力を持っている。それに対して私は、単に炎を操る事が出来るだけ。
火力だけなら確かに、私の右に出る者はいないだろう。だけど炎に耐性を持つ敵には効果が薄いし、他の四天王と違って防御手段も多いし、対抗手段が多すぎる。
おまけに私は、肉弾戦が弱すぎる。三人は接近されても余裕で対応できるけど、私は懐に潜られればクソ雑魚ナメクジだ。
他に私が出来る事と言ったら、サキュバス故のチャーム位。でも私は、サキュバスなのにチャームの魔法が苦手だ。そのせいで弱った相手か、遥か格下の相手にしか使えない。
「私がどれだけ努力して四天王になったのか、才能ある奴に分かるわけない」
魅了がへたくそ過ぎて、私は昔から周りの連中に馬鹿にされていた。サキュバスの中でも私は底辺、味噌っかすの女だった。
私を馬鹿にした連中を見返してやるために、私は四天王を目指し、努力してきた。
魅了がヘタなら、他の魔法を。そう考え、唯一得意だった炎魔法を徹底的に磨き上げた。得意と言っても、他の連中と比べれば平均より下程度の物だった。それを毎日休まず、徹底的に鍛え続けた。
結果として、炎魔法だけは誰にも負けないくらい得意になった。魔王軍に入ってからはファイアボール一本で人間軍を蹴散らし、ひたすら功績を重ね続けた。
そんな努力の末、私は魔王様直属の部下、四天王の地位に就いた。だけどチートめいた力を持つ連中と違って、私が四天王で居続けるには変わらず努力し続けなければならない。
炎魔法が通用しない敵への対抗策、兵站振り分けの計画立案……ちょっと力を振るえば成果を挙げられる三人と違って、欠点塗れの私は入念な準備をしなければいけないのだ。
同じ四天王でも、私達は対等じゃない。一度でも失敗すれば、あの三人は私を馬鹿にするだろう。裏では絶対、私の事を雑魚だと嘲笑っているに決まっている。
そして部下達の期待もある。こんな私に憧れ、羨望を向ける彼らに情けない姿を見せる事も許さない。
あいつらを見返すために、私に期待する人に応えるために、私はずっと戦い続けなくちゃいけないんだ。
「四天王で居続けないと、また馬鹿にされる……そんなの、嫌よ……!」
寝る時間すら惜しい。もっと頑張らないと、誰よりも頑張らないと……。
ただ、時々分からなくなってしまう。
どうして私がそこまで頑張ろうとしているのかが。
◇◇◇
「シラヌイの奴、また随分無理をしているな」
「そうねぇ。あの子ってば思い込み激しいから、しなくていい無茶をするものねぇ」
「……彼女は我々が馬鹿にしていると思っているだろうが、そんな事はない。むしろ、一目置いている……」
「ああ、実際大した奴だよ。炎魔法一本で俺達以上の成果を挙げて、肩を並べて戦っているんだぞ? 頑張る奴をどうして馬鹿に出来るんだ」
「でも口で言って分かってくれる子じゃないものねぇ。自己評価が低すぎて、自分に重圧かけっぱなしだし。そのせいで必要以上に頑張り過ぎちゃうのよね」
「あのままじゃいずれ過労でぶっ倒れるだろうし、どうにかならない物か」
「……大きなきっかけがない限り、不可能。彼女に元気を取り戻す作戦を、我々が立てるべきだ……」
「シラヌイちゃんは私達で助けてあげないとねぇ。魔王四天王は仲間を見捨てない、そうでしょう?」
「当然だ。というわけで今から考えよう、名付けて、「シラヌイに元気を取り戻そう大作戦」だ!」
「……お前のネームセンス、壊滅的……むっ、ノックの音」
「誰かしら、随分慌ただしいけど」
「多分俺の部下だろうな。おい、何用だ」
その後、部下からの報告を受けたリージョンは、急いでシラヌイの下へ向かった。
◇◇◇
「勇者パーティの一人を捕らえた、ですって?」
リージョンから報告を受け、私は驚いた。
勇者パーティは魔王様を倒すため、バルドフへ向かっている人類最強のメンバーだったはず。その内の一人をまさか末端の兵が捕まえるなんて……。
「勇者フェイスの情報を得る絶好の機会だ。そこでシラヌイ、お前に勇者の尋問を頼みたい。尋問官が丁度有給で全員居なくてな」
「そこで魅了を使える私に白羽の矢が立ったってわけ?」
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「でも知ってるでしょ。私は魅了がへたくそなサキュバスよ、相手が勇者の仲間じゃ通用するはずがない」
「俺も同席する。俺が恐怖の感情を与えれば、魅了をかけやすくなるはずだ。俺は思考までは操れないからな、直接思考を弄れる魅了でないと意味がない」
「……そこまで言われたら、仕方ないわね」
私の手柄にも繋がるし、勇者パーティの一人がどんな面構えなのかも気になる。リージョンについて行き、地下牢へ向かった。
件の男は角部屋に収められていた。後ろ手に錠をかけられた彼はボロボロになっていて、激しい戦いの後を思わせる。
聞けば仲間を逃がすため、たった一人で二千の軍勢を相手に戦ったそうな。最終的には物量差に押し負けて捕まったそうだけど。
随分無茶な事をする、馬鹿な男だ。
「名前は、ディックって言うのね。確か刀を使う剣士だったかしら」
「剣術だけならば俺達四天王に匹敵するだろうな。無力化しているが、気を付けろよ」
「分かってる」
細心の注意を払いつつ、ディックを牢から出す。彼の目は死んでいて、生気を感じられない。まるで死ねなかった事を後悔しているような、そんな感じがした。
ともあれ、彼から情報を引き出さなければ。尋問室に連れて行き、魅了を使う支度をする。
「顔を上げなさい。これから洗いざらい、情報を教えてもらうわよ」
「……好きにしろ。僕から引き出せる情報なんて、そんな……」
私の顔を見るなり、ディックの目が見開かれた。
食い入るように見つめられ、少し恐くなる。なんでそんなに私を見つめるの?
「何? 私の顔になにかついてる?」
聞くなり、ディックの首にぶら下がるロケットペンダントが目に付く。
中を検めさせると、私に瓜二つの女の肖像画が。
なんでこいつ、私の肖像画を? そう思って顔を上げるなり、ディックは呟いた。
「……母、さん?」
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