ブラック企業「勇者パーティ」をクビになったら、魔王四天王が嫁になりました。~転職先はホワイト企業な魔王軍〜

歩く、歩く。

文字の大きさ
22 / 181

21話 炎舞い散る鬼は外

しおりを挟む
 僕は少し気まずい空気に辟易していた。
 ちらと横を見れば、シラヌイが仕事をしている。いつも通りのデスクワークだが、一つだけ違う所がある。

 彼女の尻尾だ。

 先週彼女と外出して以来、シラヌイは尻尾を出す様になっていた。
 彼女曰く、「変に誤解されて仕事に手がつかなくなると困る」との事なんだが……彼女は尻尾に出るタイプだ。
 今は、尻尾は緩やかなカーブを描いて立っている。これがデフォルト、通常の状態だ。でも。

「シラヌイ、一昨日出た申請の件だけど」
「え!? あ、ああ! あれね、どうなった?」

 僕が一声かける度に尻尾がピンと立って、緊張状態になってしまう。さらに近づけば、直立した尻尾を残像が見える勢いで左右に振ってくる。
 これを見てしまうと、僕としても気恥ずかしさが勝って、言葉に詰まってしまう。

 彼女としては、僕に「嫌っていない」と示すために尻尾を出しているのだろう。でもそのせいで、こちらとしてはやり辛くなっている。
 先週の外出ではっきりした答えを出さなかった僕も悪い。いっそきちんと言葉にしてしまえばいいのも分かる。

 だけど踏ん切りがつかないんだ。シラヌイの心内が分かるからこそ、変な言葉かけをしてしまったらどうしようと恐れてしまって、一歩先に踏み込めない。
 こう考えてしまう時点で僕の中の答えはほぼ固まっている。固まっているのに……口に出すのが恐いから言えないとかどんだけチキンなんだ僕は。

「…(中略)…って所で落としておいたけど」
「い、いいんじゃない? それで回しといていいから」

 仕事の話が終われば、また無言の時間が来る。僕達はいつまで、この膠着状態を続ければいいのだろう。

  ◇◇◇
<シラヌイ視点>

「……また言い出さないんかい……」

 私はディックに気付かれないようちた打ち……じゃなくて舌打ちした。……決して独自で噛んだわけではない。断じて私は噛んでいない。んなどうでもいい事はいいとして。

 先週はメイライトにしてやられた。あんにゃろう、どうして私が尻尾に出やすいと知っていたんだろう。私ですら知らなかったのに。

 おかげで大恥をかいたけれども、私は出来るだけ尻尾を出すようにしようと決めた。

 以前からリージョンに「性格キツいから部下から勘違いされやすい」と注意されていた。魔王様からももう少し愛想よくしろと言われていたし、自分なりに直そうとはしていた。
 でも、昨日まで不愛想で過ごしていた奴がいきなり変化できるわけない。なら私が何を思っているのか分かるようにしたらどうだろう。

 そう判断して尻尾を出し始めた。そのせいか知らないけど、部下が怯えなくなった気がする。むしろ(生)温かい目を向けられ始めた気がする。昨日なんかは「シラヌイ様可愛くなった」って噂も聞こえたし、意外と受けがいいのだ。

 ……だってぇのに、こいつはどうして距離を取ろうとすんのかなぁ。

 こちとら勇気出して尻尾出してんのに、男ならもっと攻めてこいや。あん時の察しの良さならこっちの意図くらいわかってんでしょうが。
 まさかと思うけど、察し良すぎて逆に近寄れないとかそんな女々しい理由はないでしょうね。

「……って何考えてんだボケがぁ!」
「シラヌイ!? どうした急に壁に頭叩きつけて!?」

 これじゃ私がこいつから告白されんの待ってるように思われるでしょうが! って誰が告白されたがってんだアホか私は!

 いや別にこいつが女から人気あるのなんてなんも関係ないしそいつら差し置いて色々気ぃ遣われて嬉しいなーとか思ったりするけどそれはあんまり関係なくてそよれり私がここまで恥晒してんのになんもアクション無しなのがむかつくというか

「ぬがー! だから私は何を考えてんだアホは私かぁ!?」
「だから落ち着けシラヌイ! 額から血が出てる!」

 不意にディックが肩を抑えてきた。振り向くなりバランス崩して、私は壁に追い込まれる。でもって奴は私越しに壁に腕を押し付けて、額に手を当てた。

「強く額を打ち過ぎだ。じっとしていて」
「はぅ……」

 額にハンカチを押し付けられ、抵抗できない。だからどうしてこういう時だけ察しがいいんだってぇの……。
 ディックを直視できず、私は思わず目を閉じた。そしたら……。

「おいシラヌイ、魔王様から呼び出しだ。全くどうして俺がこんな役目を……」

 ……タイミング悪くリージョンが入ってきやがった。

「……すまん、失礼した。オフィスラブも程ほどにな……」
「セクハラっ!」

 とりあえず憂さ晴らしも兼ねてリージョンは焼き払っとくとしましょうか。

 ◇◇◇

『やっぱりリージョンは焼き払われたかー。そうなるだろうと思って向かわせたんだけどね』

 謁見の間に着くなり、魔王様はけたけた笑いながらそう言った。
 やっぱあれは魔王様の差し金だったか。確信犯だろこの上司。

『間の悪い四天王はさておいて、二人にお仕事をお任せしちゃおうかな。南方に魔王軍の拠点があるんだけど、そこに遺跡が見つかったそうなんだって』
「遺跡、ですか?」
『そう。もしかしたら有効利用できるかもしれないから調査してもらってるんだけど、そこの視察をお願いしたいんだよぉ』

 魔王様がそう仰るって事は、その遺跡に重要なアイテムが眠っている可能性があるわね。それも四天王を派遣する程に重要な物が。
 四天王に登り詰めた者なら、これくらい言葉の意図を汲み上げて当然よ。魔王様が一見単純な任務を出す時、その裏には何かしら大きな目的が隠されているんだから。

『シラヌイは先行部隊だからね。後から他の四天王も向かわせるから。合流まで現地の事は任せたよ』
「承知しました。至急支度を進めます」

 ほら、やっぱり。四天王総出で向かわせるんだから、大きな理由があるのよ。

『現地の報告だと、どうも勇者が近づいているみたいだからねぇ。くれぐれも一人で立ち向かわないように気を付けるんだよ』

 ……思った以上に大きな理由があったわ。
 一旦部屋に戻ると、ディックは険しい顔で刀を握りしめていた。

「フェイスが近くに居るのか。そうか……」
「そういや、あんたは勇者に捨てられたんだっけか」
「捨てられたなんて生易しい物じゃない、完全に奴隷扱いだったよ。思い出すだけでも忌々しくなる程、あいつには借りがある」

 余程フェイスに恨みがあるのだろう、ディックから激しい怒りが伝わってくる。
 フェイスの話は私も聞いている。ディックを切り捨てた後も、奴は各地で随分好き勝手やっているみたいだ。

 魔王軍の名を偽って悪戯に人を傷つけたり、人間軍の物資を略奪したりとやりたい放題。勇者の名を免罪符にして、各地で暴れまわっているらしい。どっちが魔王なんだかわかりゃしないわね。

「ただ……借りはあっても返せないかもしれないな。フェイスは卑劣な男だけど、強い。多分四天王でも、三人以上いなければ返り討ちに遭う危険が高い」
「そんだけヤバいの?」
「ああ。人格は最低でも、実力は人類最高だ。それに聖剣の加護もある……正直、奴を攻略する糸口が掴めないな」

 ディックも相当強い男なのに、こうまで言わせるんだ。

「僕達にも聖剣と言うか、それに類する武器があればいいんだけど。正直今の装備じゃ糸口すらない」
「あんたの刀も随分な得物だと思うけど。それにソユーズの剣もあるじゃない」

 ディックは刀の他に、先週の剣も装備するようになっている。ソユーズが能力で錬成し直したから、そこらの魔剣並みの戦力になっているはずなのだけど。

「聖剣エンディミオンはただの剣じゃない。あれがある限り、フェイスを倒すのは難しいだろうな」
「ただ一本の剣に、なんの力があるってのよ」
「それは……」

 ディックから聖剣の力を聞き、言葉を失った。持っているだけでそれだけの力を渡してくれるわけ?

「そんなチートアイテムがフェイスに力を貸しているの? 勇者の血族ってだけで? そんなの持っていたら私達でも戦い辛いじゃない」
「だから奴は危険なんだ。そして力があるからこそ、魔王軍と人間軍の戦いを高みの見物して楽しんでいるんだよ」
「どんだけ性悪なのよ、フェイスって男は」

 おまけに聖剣抜きにしても、本人の実力もけた違いみたいだし。
 現に奴には、魔王軍の師団を二つ潰されている。それも単独でだ。
 一騎当千の実力者が近くに居るのか、なんだか気が重くなってくるわね。

「だとしても、簡単に負けてやるつもりもない。最悪刺し違える覚悟で殺してやる」
「こら、自殺すんのは止めなさい」

 あんたが死んだら私の出社するモチベが無くなるでしょうが。って何言ってんだ私は!
 ……まぁ、それはさておいて。

「いくら最弱でも私は四天王よ? フェイスだろうと構わずぶっ飛ばしてやるから、そんな悲しい事言わないの。けどもし私がやばくなったら、あんたが助けてよね」
「……了解、ボス」
「私ゃ男かっ」

 ったくこいつめ……やっとこのやりとり楽しく感じ始めたんだから、軽々しく死ぬとか口にすんじゃねーっての。

「……おーい、二人とも、ちょっといいか?」

 そんな時だった。不意に声がかかって扉を向くとそこに。

「!? リージョン!? いつから!?」
「さっきからずっとノックしていたんだが、様子を伺ってみたらなんというか、イチャイチャしていたんで話しかけられずに今に至ってな……」
「だ、誰がいちゃついてんの!? どこから? どこから見てた!?」
「ディックが険しい顔で刀を握っている所から……」
「完璧ド頭からじゃないの!?」
「いいんだよシラヌイ。むしろお前にそう言った話が出るとは思わなかったから俺は嬉しくて嬉しくて。ただ、付き合い始めなんだから避妊はしろよ」
「黙れセクハラ大明神!」

 って事で本日二度目の丸焼きになりなさい! 鬼は外ぉ!
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

処理中です...