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22話 魔導具の捜索

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「……すまないな。我々も各地への派遣が決まっている」
「合流はそれが終わってからになりそうなのぉ。それが遅れちゃう理由」

 僕は出発前に四天王の二人から見送りを受けていた。今回、シラヌイが連れていくのは僕一人。彼女の能力を考えると、大人数を連れていくのは逆効果だしな。
 ……一名居ないけど、シラヌイに丸焦げにされて医務室送りになった、とだけ言っておこうか。リージョン無しで転送できるのかな。
 当のシラヌイは不機嫌だ。そりゃ、リージョンにあんなダイレクトなセクハラ受けたら誰だって怒るに決まってる。あいつも学習しないな……。

「……勇者が近づいているそうだな。お前の因縁の相手」
「うん。認めたくないけど、あいつは僕より強い。戦って勝てる自信はない」
「それなら無理しちゃだめよぉ? 絶対一人で戦っちゃダメ。勿論二人でもね」
「分かってるわよ。エンディミオンのやばさは教えて貰ったから」

 シラヌイも少し緊張気味だ。こんな時に不安を和らげてあげればいいのだけれど。

「それじゃ、お守りをあげるわね」

 メイライトは僕達の手に指輪を押し付けてきた。裏地に紋様が描かれている。

「……常に身に着けていろ、いいな」
「ありがとう。行ってくる」

 本当にこいつら、優しすぎるな。
 刀の手入れは充分、もう一つの剣も背中にちゃんと付いている。よし……行こう。

  ◇◇◇

 二人に見送られながら転送された先は、深い樹海の中だった。
 森の一部を切り開いて拠点が作られている。バルドフからはかなり離れていて、多分馬車で二ヶ月くらいはかかるんじゃないだろうか。

「お待ちしていました、シラヌイ様」
「ん。早速調査に入りたいし、打合せといきましょう」

 拠点を統括している兵士に案内され、司令部のテントへ向かう。そこで僕達は改めて、今回の目的を確認する事にした。

「我々が発見した遺跡は、ここから北東へ一キロ向かった先に位置しています。調査の結果、そこで強力なエネルギーを感知しました」
「エネルギーね、魔力じゃないわけ?」
「近くて遠い、というべきでしょうか。確かに魔力的な反応はあるのですが、それにしては微妙に違う感じもするのです」
「ふーん。発信元は?」
「遺跡の深部です。その遺跡には地下空間があるのですが、そこに開かずの扉がありまして。恐らくその先に存在しているはずなのです」
「って事は魔導具の可能性が高いわね」

 魔導具は大昔に作られた、古代魔法を施した道具だ。
 僕の記憶では、聖剣エンディミオンがそれにあたる。所有するだけで絶大な力を発揮するオーパーツと呼ぶべき物だ。
 製造方法や製作者は明らかにされていない。所在に関しては、貴族や特殊な血族の家で代々に渡り保管されているか、今回のように遺跡の奥で安置されているかに分かれている。
 いずれにせよ、入手すれば大きな力を使えるようになる事は間違いない。

「私達の目的はそのエネルギー源、魔導具の確保か。よぅし、じゃあ行ってみましょうか」
「それより一つ。フェイスが近づいているらしいけど、今どの辺りか分かるかな」
「勇者でしたら、樹海の先にある街に滞在しています。諜報部隊を派遣し、逐一情報を受けています」
「分かった……フェイスが動いたらすぐに知らせてくれ」

 フェイスがもし近づいたら、早急に退散する必要がある。あいつはそれだけ危険な奴なんだ。

「あんたがそれだけ警戒するのも珍しいわね。大体、魔物の群れに恐れをなして逃げ出したんでしょ?」
「違う、あいつは単に面倒だったのと、僕を処分する理由を見つけたからそうしただけだ。フェイスは自分の興味を示した物事にしか動かない。強いうえに狡猾な奴なんだ」

 勇者の名を被った魔王だよあいつは。出来る事なら戦闘は避けないと。

「魔導具の回収、早急に行おう」
「ん、分かった。今日中に仕上げちゃいましょう」

 その後僕は、フェイスの足止めプランを幾つか提案した。多少なりとも時間稼ぎにはなる。
 ただもし、フェイスと遭遇してしまったら、その時僕は……。

  ◇◇◇
<シラヌイ視点>

「見えた。あれが遺跡かぁ」

 私は報告にあった遺跡に到着した。
 樹海の中の開けた空間に、石を積み上げて造られたカスティーヨが聳えている。外見はピラミッドに似ているけど、四方に階段が伸びていて、頂上に神殿が設置されている。カスティーヨを囲うように石柱が並んでいて、顔だけの石像もいくつか置かれていた。

 調査団に案内されているけど、結構広い。こんな場所が今まで見つからなかったのはちょっと不自然ね。

「少しだけど、結界の余韻を感じる……成程、神殿を隠す結界が消えたのね」
「はい。神殿内に結界を発生させる魔法陣があったのですが、一部が破損していまして。数日前に地震が起きましたから、その影響でしょう」
「見た感じ、数百年前の遺跡みたいだしね。経年劣化で壊れやすくなっていたんだろうな」
「なるほどね。んで? 問題の地下室ってのはどこよ?」
「はっ、こちらです」

 案内され、ディックと一緒にカスティーヨへ向かう。頂上部の神殿部に入り口があって、そこから下へ降りていく不思議な造りをしていた。
 何を考えてこんな構造にしたんだろ、めんどくさっ。それに中は外観よりもずっと広い。空間魔法でスペースを確保してるのね。

 その証拠に、窓がある。灯り取りのため魔法で作り出したようね。大広間に、石造りの椅子やテーブル、ベッドと言った調度品もある。
 それに槍や剣とかの武器も置いてあるし、大昔の軍隊か何かが使っていた施設なのかしらね。

「件のエネルギー源はこの先です。入口付近は段差が高く、転びやすくなっていますのでご注意を」
「そんな前フリされても転ばないわよ、子供じゃないんだしぃいっ!?」

 即座にフラグ回収、地下室目前で私は見事に転んでしまった。
 けどディックが素早く支えてくれたから、怪我はしなかった。……のはいいんだけど……。

「……ねぇ、すっごく見られてんだけど」
「……ごめん」

 私の体勢は膝立ちになったディックに抱えられている状態。そして地下室には調査中の兵士が居る。
 そいつらからしてみりゃあ、私らがいちゃついてるように見えたんでしょうね。

「シラヌイ様が人間と? 話は聞いていたが、本当だったのか」
「ようやくサキュバスらしさに目覚められたようでなによりです」
「それにとても素直になられて……ツンケンした態度もそそられたものだが」
「あんたら何好き勝手抜かしてんの! 燃やすわよ!?」

 別に転んでも怪我なんかしないし、こいつが余計な世話焼いただけだし、他意なんかないし。……少しも嬉しくないし。

「シラヌイ、尻尾が誤魔化せてないよ」
「いちいち指摘しなくていいわよっ、殴るわよ!」
「いてっ、殴ってから言わなくていいだろう?」
「るっさい! 大体前から思ってたけど、あんたには上司への敬意が足りない気がするんだけど! 助けるなら助けるでもうちょっと普通に助けろっての!」

「普通じゃないかな、充分」
「人前で姫抱っこすんじゃないって事! あんな抱え方されたらこっちはその……とにかく色々持たないのよ!」
「と言っても、変に胴を抱えれば苦しいし、かと言って肩を掴むとバランスが崩れるし、それに胸とか下手な所触るわけにもいかないし」
「サキュバス相手に何遠慮してんのよ、あんたに胸とか触られても私は……私……って何言わせようとしてんのよ!」

「君が自爆しただけじゃないか。それに母さんが言ってたんだ、同意なしで女のそうした場所に触るなって」
「ここで母さん来るか! あんたとことんブレないわねぇ……こっちとしてはちょっとはぶれてもいいと言うか、何と言うか……」
「どういう意味だい?」
「女の口からそんなん言わせるな馬鹿! こっちにもそうした恥じらいがあると言うかなんというか……だから言わせるな!」
「だから僕は何も言ってないよ。前から思っていたけど、そうやって自爆した後に八つ当たりするのは止めた方がいいんじゃないかな」
「上司に口答えしないの! あんたこそねぇ」

「……あの、そろそろ喧嘩を止めてください」

『……ごめんなさい』

 全く、ディックのせいで大恥かいたわ。
 ってか何よあんた達、何「痴話喧嘩ならよそでやってろ」みたいな顔で私ら見てんのさ。こいつとはそんな間柄じゃないし、これ以上こっち見てたら焼き払うわよ。
 って、なんか女兵士が寄ってきてんだけど。

「シラヌイ様、彼とお付き合いされてどのくらい経つのですか?」
「とても仲睦まじそうで羨ましいです。私の彼と交換してほしいくらいですわ」
「だから彼氏じゃないっての! 大体交換したくなるくらい嫌気がさしてんなら相手に直してほしい所をきちんと言って改善させればいいじゃないの」

 ……って何言ってんだ私は。そんな偉そうに言えるほど恋愛経験ないってのにぃ……。

「全部あんたのせいよっ!」
「分かったよ、以降気を付ける」
「そう素直に謝られると私が悪いように見えるじゃない。謝るなら後でいいでしょうが」
「だって今直してほしい所を改善しろって」
「ド天然発揮すんな!」

 ……だから女ども、私を見んじゃない。本気で焼き尽くしてやろうか? あぁん?

「尻尾振って凄んでも、何の脅しにもならないと思うけど」
「えっ!? 私また尻尾振ってた!?」

 ああもう、これじゃ四天王の威厳台無しじゃない。誰よ尻尾出してみろって言ったの。メイライトか、よし後で蒸し焼きにしてやろう(錯乱)。

「とりあえず場も和んだし、問題の開かずの扉に行こう」
「ええいもう、話の続きは帰ったらみっちりさせてもらうわよ」

 私に恥かかせた事、きっちり後悔させてやるんだから。覚悟なさいよディック。

「ここです。この扉の先に大きなエネルギー反応があるのですが、開け方が分からなくて」

 地下室の奥には、獅子のレリーフが施された扉が佇んでいた。
 見た所取っ手のような物はない。切れ目がないから開き戸でもなさそう。ディックに剣で叩いてもらうと、軽い音が聞こえた。そこまで厚さはないみたいね。

「爆薬や魔法は試してみたの?」
「はい。ですが見ての通り、傷一つ付かず」
「ふーん、なるほどね」

 魔法で扉を守っているわけか。ならその魔法を無力化してしまえばいい。
 もし魔道具があるのなら、古代魔法を使っているはずよね。なら、こっちも同じ魔法で扉を溶かせばいいのよ。

「蜿、繧医j譚・縺溘l蜴溷?縺ョ辟斐?ょ、ェ蜿、縺ョ鬲疲ーキ繧呈カ医@鬟帙?縺帙?」

 掌に真っ白な炎を生み出す。これは魂と魔力だけを焼く古代魔法。生物に当てれば肉体を焼く事なく殺す事が出来、結界やゴーレム等の魔法生物に当てれば動力源である魔力を消し去る事が出来る。

「開かない結界は溶かすべし、ってね」

 扉に押し付けると、炎が燃え移った。かかっていた魔法が焼け消えて、扉がすとんと真下に滑り落ちた。
 兵達が驚きの声をあげる。ま、私にかかりゃこんなもんよ。
 それにしても、やっぱり古代魔法で固定していたのね。これでも四天王の端くれ、この程度の障害で足止めできると思うなよ。

「シラヌイ、気を付けて。どうもこの先ダンジョンになっているみたいだ」
「気で探ったようね。簡単には手に入らないってことか。この先の探索は私達がやる、あんた達は引き続き周辺の警護をして頂戴」
「はっ!」

 この先にもいくつか古代魔法で開けなきゃいけない箇所もありそうだし……骨が折れそうだわ。

「折角扉が開いたんだ、フェイスが来る前に回収してしまおう」
「そうね。あいつらの仕事、奪ってやるわ」

 それじゃ魔導具の探索、スタートね。
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