ブラック企業「勇者パーティ」をクビになったら、魔王四天王が嫁になりました。~転職先はホワイト企業な魔王軍〜

歩く、歩く。

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35話 蘇る抜刀術と、おかえりのキス

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 僕は翌朝、シラヌイと一緒に、いつもより遅くに起床した。
 シラヌイとの一夜は刺激的過ぎて、今も色濃く記憶に残っている。ただ……やっぱサキュバスだな。ものすごく疲れた気がする。

「……あんたね、優しすぎ。危うく溺れて息できなくなる所だったわ」
「シラヌイこそ、欲張りすぎ。おかげで理性が外れっぱなしだったよ」
「サキュバスだからね、文句ある?」
「ない」
「……これ以上は、黙ってましょう」
「そうしよう。なんか、恥ずかしくて間が持たない……」

 互いにぎくしゃくしたまま食堂へ向かう。目を合わせられないまま着くと、ドレカーとクミンが微笑ましく迎えてくれた。

「おや、少々遅いお目覚めだね。二人とも」

 ドレカーに指摘されると気恥ずかしくなる。シラヌイも心無しか赤らんでいて、より昨夜の事が現実味を帯びていた。

「……朝食に自然薯をすりおろした物がございます、食せばそれだけで精力が戻るかと……」
「へ、変な気遣いはやめてください!」

 シラヌイが真っ赤になって、頭から湯気を出した。やっぱクミンはドレカーの嫁だ、悪乗りする所とかそっくりだよ。
 ともあれ朝食にありつく。その中でドレカーは魔導具について話してくれた。

「依頼されていた魔導具の充填はあと数時間で終わるだろう。ディックが適合者に選ばれたんだったな」
「魔王様はそう言っていたけど」
「勇者フェイスに立ち向かうには、あの魔導具が必要不可欠だ。よって君は、魔導具に認められるために試練を受けねばならない」
「……試練を乗り越えて初めて、所有者として認められるのです……」
「魔導具を使うには、どれもそのような工程を経ないとだめなんですか?」
「勿論」

 ドレカーは即答した。まるで意志を持っているようだな。

「ぜひともディックには魔導具を使えるようになってもらわないとな。私から頼みたい依頼があるのでね」
「僕に依頼?」
「そう、その依頼とは」

 ドレカーが言いかけた途端、地響きが鳴った。同時にガランとマサラが飛び込んでくる。

「大変だキャプテン! また奴が出た!」
「ダイダラボッチのお出ましなんだなぁ!」
「巨人が出たのか」

 僕とシラヌイは立ち上がった。ドレカーも顔をしかめつつ、

「ふむ、普段なら一週間のインターバルが空くのだが……あの魔導具が来たせいか。どうやら自身の危機を感じ取ったようだな」
「自身の危機?」
「話は後だ。まずはダイダラボッチを迎撃せねばな」

 ドレカーの後を追い、僕達も向かおうとした。そしたらシラヌイは、

「ほらこれ、忘れ物!」
「! 刀……」

 母さんの刀を持ってきてくれた。

「あんたにはこれが無いとダメでしょ」
「……そうだね」

 街に出ると、昨日の巨人がまた出現していた。
 まっすぐ、僕達の居る街へ向かっている。昨日よりも進撃の速度が速い気がした。
 ……試し斬りには、丁度いいかな。

「全く、せっかちな奴だ」
「待ってくれドレカー、あいつは僕がやる」

 刀を握り、僕は前に出た。行く前に、シラヌイを見やる。
 シラヌイは心配していない。信頼して、僕を見つめてくれていた。

「すぐに戻る」
「ん、待ってる」

 その言葉だけで充分だ。ダイダラボッチと戦うべく、僕は駆け出した。
 
  ◇◇◇

 ダイダラボッチの間近に着くと、その大きさに息をのんだ。
 まるで山が意志を持って動いているようだ。ドレカーはたった一人でこんな怪物と戦い続けてきたんだな。

「それも、ただ一人の女性と幸せになるために……男として尊敬するよ」

 僕も改めて示さないとな。僕が決めた、新しい覚悟と決意を。

「……僕は今まで、幸せになってはいけないと思っていた」

 母さんを失ったのは、神様が与えた罰だと感じていた。僕が何か悪い事をしたから、神様が僕から大事な物を奪って、罰を与えているのだと思っていたんだ。
 でもそれは、僕が勝手に抱いていた妄想だった。
 だって母さんが言ってくれたんだ。僕は幸せになっていいんだって。僕の幸せが自分の幸せなんだって、他ならぬ母さん自身が伝えてくれたんだ。

 そして僕の背を押すのは母さんだけじゃない。

 手にはまだ、シラヌイの柔らかさが残っている。耳にはまだ、シラヌイの声が残っている。体には、シラヌイの温もりが残っている。彼女の命が、僕の中に浸透して広がっているんだ。
 そう思うと、力が湧いてくる。何でもできる気がして、勇気がわいてきた。
 刀を握っても体が固まらないし、悪いイメージも出てこない。僕はもう、何も怖くなかった。

「母さん、今一度誓うよ」

 ブレスが襲ってくる。けど見えている、そんな物には当たらない。
 前進して回避すると、ダイダラボッチが剛腕を振り下ろしてきた。柄を握りしめ、僕は。

「僕は生きるよ、母さんの分までずっと長く。そして幸せになる! 僕が貴方より愛したサキュバス、シラヌイとともに! 彼女と添い遂げるために! 僕は刃を振るうんだ!」

 跳躍と同時に抜刀した。
 ダイダラボッチの頭上を越えるなり、奴の動きが止まる。僕の手には、何の手ごたえも残っていない。

「まるで羽を持っているようだよ」

 久しぶりに抜いた刃は、紫の輝きを放っている。母さんの力を受けて、武器として一段上に昇華していた。

「メイライトに聞いたけど……シラヌイは僕の抜刀術が奇麗だって言ってたんだよな」

 なら、少し格好つけてみよう。ドレカーではないけれども、僕だって惚れた女の前では、恰好つけていたいからさ。
 刀を背中越しに納刀する。シラヌイに見せつけるために、ゆっくりと。
 やがて鞘に納めた時、ダイダラボッチは真っ二つに切り裂かれた。

  ◇◇◇
<シラヌイ視点>

 私の前で、ダイダラボッチが倒れていく。
 ディックは背中越しに刀を収めている。珍しく格好つけているわね。
 ……自惚れではなく、私に見せつけるために、気取った納刀をしたのが分かる。私に格好良かったと言わせようとしてるわね。

 けど、実際格好良いのだから言うしかない。

 やっぱりディックの抜刀術は奇麗だ。所作が滑らかで、流麗な舞いのようで。だけど今まで見た中でも、今日のは一番奇麗だったと思う。
 魂がこもっていたの。私のために振るった刀だと一目でわかった。

「迎えに行かなくていいのかな?」
「行きますよ、今すぐに」

 先輩に背を押され、私はディックを迎えに行った。
 言ってあげなくちゃいけない事がある。他でもない私がかけるべき言葉だ。

「イザヨイさん、貴方が譲ってくれた宝物は……とても重いですね」

 でも私にしか受け入れられないでしょうね。
 ディックは一途で重すぎる男だわ。好意を持った相手にとことんまで尽くすし、その人しか見なくなるし。あんな愛情深すぎる奴、誰も受け止められやしないわよ。
 だから、私が責任を持ってもらってやる。
 あいつを受け入れられるのは私しかいない。はっきりとわかる。理由なんて決まってる、私はディックと肌を重ねたんだから。

「私を傷物にした以上、責任は取ってもらうから」

 到着すると、ダイダラボッチは煙となって消えていく。同時にディックの姿も見えてきた。

「シラヌイ? 迎えに来てくれたのか?」
「ま、ね。言っておきたいこともあるし。それより刀」
「うん、使えるようになった。元通りの僕に戻れたよ」
「そっか。散々心配かけてまぁ、治ったら治ったでケロッとしていて。あんたのそう言う所、やっぱ嫌い」

 でもそんな所も好きよ、ディック。
 イザヨイさんはいい事があったら、ディックを抱きしめ頭を撫でたって言っていた。だから私も同じようにしてやる。
 ディックの頭を胸に押し付け、むりやり頭を撫でて、それから。

「おかえりなさい」
「うん、ただいま」

 思い切りキスして、ディックの復活をお祝いしてあげた。
 長いトンネルを抜けて、本当にお疲れ様。私の愛しい人。
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