ブラック企業「勇者パーティ」をクビになったら、魔王四天王が嫁になりました。~転職先はホワイト企業な魔王軍〜

歩く、歩く。

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38話 エンディミオンの真実

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「ダイダラボッチが、消えていく……」
「……旦那様……」

 私はクミンの肩を抱き、巨人が轟沈する姿を見つめていた。
 幾度も倒し、その度に蘇ってきた怪物が、息絶えていく。私の愛する者を殺めた憎むべき悪鬼が、消滅していた。

「……クミン、見えるかい?」
「ええ……見えています……!」

 クミンの目に涙がこぼれる。彼女だけではない、妖怪達全員が涙を流し、諸手を挙げている。彼らにとっても忌々しき記憶だったのだ。
 いくら私が倒そうと、奴は何度も襲ってくる。その度に私の守るべき人々がどれだけ怯え、恐怖してきた事だろう。

「私としても、何度も蘇る敵を相手にするのは心が削られていたからな……」
「ずっと……寝ずの番をされていましたものね……」
「私とて常に余裕だったわけではないさ。奴と戦えるのは私だけ……その重圧に何度押しつぶされそうになった事か」

 だがそんな日々とも、今日で終わりだ。
 もう我らは怯える日々を送る事はない。ディックとシラヌイが悪夢を払ってくれたから。

「ドレカー先輩、今戻りました」
「約束された依頼はきちんと果たしたよ」

 件の二人が杖を持って戻ってきた。あの杖がダイダラボッチの核となった魔導具か。
 二人は私達にとって恩人だ。伝えたい事は山ほどあるが、全てを一言に集約させてもらおう。

「……二人とも、ありがとう……!」

  ◇◇◇
<ディック視点>

 僕はドレカーの屋敷に戻ってきた。
 応接間に通され、改めてお礼を言われる。いくらドレカーでも、何度も襲ってくるダイダラボッチには心が削られていたらしい。
 それでもクミンを守るため、独り懸命に戦っていたのか。改めて凄い男だよ、本当に……。

「ハヌマーンを得て、フェイスと戦う力を手に入れた。これであいつに、一太刀浴びせられるよ」
「うむ。エンディミオンを破壊できれば、戦争の終結にも近づく。君には期待しているよ」
「……戦争の終結?」

 なんだか話がかみ合ってない。そう言えば、人間軍と魔王軍が争っている理由がいまだにはっきりしていないんだよな。

「ドレカー。僕は人間側に居たから、魔王軍が一方的に攻めてきたと聞いている。でも魔王軍に居ると、決して無意味に喧嘩を売るような奴らじゃないのが分かるんだ。教えてくれるか? 魔王軍はどうして人間達と争っている?」
「ふむ、シラヌイは教えてなかったのか?」
「てっきり知っているものかと……」
「そうか、ならば改めて教えよう。我々が人間軍と争っている理由、それは……エンディミオンにあるんだ」
「フェイスの剣が戦争の理由?」

 聖剣エンディミオンがこの戦争の発端……それって、フェイスが戦争の原因とも言えるよな。

「そもそも聖剣と呼んでいるが、あの剣は決してそんな大層な物ではない。むしろ真逆の性質を持つ危険な魔導具なんだよ」
「というと?」
「結論を話せば、戦争の発端は魔王軍ではない。人間軍が攻めてきた事がそもそもの始まりなのさ」
「なんだって?」

「開戦のきっかけは国境付近の、人間軍の砦が攻撃された事から始まる。だがそれは人間側の自作自演だ。我々の攻撃として、開戦の大義名分にするためにね」
「なぜそんな事を……そもそも戦う理由はなんだ? なんで僕達人間は君達に喧嘩を売った?」
「うん、ここで話が元に戻るな。エンディミオンが関係しているんだ。あの魔導具は、所有した種族の「欲望」を増幅させる、傲慢の剣なんだ。勇者フェイスと一緒に居て、敵対した君なら、なんとなくわかるんじゃないかな」

 確かに、フェイスは勇者の名を語る価値のない強欲な男だ。それにエンディミオンの能力……相手の力を奪い、自分だけの物にして、なおかつ不死と無限の力を与えている……どれも人の欲をくすぐる能力ばかりだ。

「欲望……人間は魔王軍の領地を手に入れて拡大したり、魔王の持っている財を欲しているのか?」
「半分当たりだ。人間軍は魔王軍だけでなく、大陸の全てを狙っている。エンディミオンの声に従ってね。勇者フェイスはいわば、欲望の象徴と言っていいだろう」
「じゃあ、エンディミオンを破壊すれば?」
「戦争が終わる可能性は高いだろうね」

 思わぬ勝利条件が現れた。僕は驚いて言葉が出ない。

「そもそも勇者というのは、エンディミオンが自身に適合する存在として育てた、剣の従僕と呼ぶべき存在なんだ。言ってみればフェイスは聖剣を使っているのではなく、聖剣に使われていると言っていい」
「……フェイスが聖剣に選ばれたのは、丁度三年前。戦争が始まったころだ」
「だろうな。エンディミオンは力を取り戻す度、欲望の象徴たる勇者を生み出し、人を戦争へ駆り立てる。そして力を使い果たすと眠りにつき、再び戦争を起こすための力を蓄える。そうやって聖剣は幾度も復活と敗北を繰り返しているんだ」
「私達魔王軍が聖剣の破壊を目的としているのも、その繰り返しを止めるためなの。だけどエンディミオンは力を使い果たすと、勝手に守りの手厚い人間の国の王都へ逃げてしまう。それが今まで破壊できていない理由なのよ」
「じゃあ、エンディミオンの目的は? どうしてエンディミオンはそんな事をする、それに聖剣の適合条件はなんなんだ?」
「目的は分からない。ただ、エンディミオンの適合条件は……」

 条件を聞いた時、僕は目を見開いた。
 それがエンディミオンの適合条件……奴が執拗に僕と母さんを否定し続けた理由が分かった気がする。

「……同情するつもりはない、でも哀れだ。聖剣にあいつは人生をゆがめられたのか……」
「話を聞く限り、ろくでもない人間なのは確かだろう。だがろくでもない奴には、そうなった背景がある。その背景を知れば、次戦う時に役に立つ。君の母親から何か聞いていないかい?」
「……剣は心技体が揃ってこそ意味がある。母さんからそう教わったよ」

 悔しいけど、あいつには歪んでいても確かな心があったんだ。それを否定するばかりの僕じゃ、心で負けて当然だ。

「けど今のあんたなら、フェイスに必ず勝てる。でしょう」

 シラヌイが腕を掴んできた。
 勿論。ハヌマーンを手にした今、奴とまともに戦える。

「ところで、先輩。エンディミオンが人間の欲望を先導しているなら、なんでディックは影響を受けていないんですか? もし話の通りなら、ディックもフェイスみたいになっているんじゃ」
「言われてみれば……」
「いい所に気付いたね。エンディミオンの影響は、特定の条件を満たした人間には現れない。なんだかわかるかい?」
「いや……」

「深い愛情に満たされている事、つまり君の母親が守ってくれたんだ。欲望は愛情に満たされていない者に沸き起こる、君のように幼い頃から愛されてきた人間には、効果がないのさ」

 そうか、母さんが僕を……本当に、敵わないな。
 それこそが、フェイスを倒す一番の武器なのかもしれないや。

「また勇者と戦う時は、私も当然ついていく。だから約束しなさい、私を必ず守るって。あんたは誰かを守っているくらいが丁度いい、むしろ一番力を発揮できるから」
「……分かった、約束する。母さんから受け継いだこの剣に誓って」

 僕はもう前の僕じゃない、覚悟していろフェイス。今度こそ、お前に勝つ!

  ◇◇◇
<シラヌイ視点>

 ディックも完全復活したし、魔導具ハヌマーンも手に入った。これにて仕事完了ね。
 という事で私とディックは全ての目的を果たし、バルドフに戻る事となった。

「明日まで滞在していればいいだろう、折角の宇宙一の温泉だと言うのに」
「そうはいきませんよ、私達は仕事で来たのですし」

 それに経費で遊んだら流石にまずいでしょ。四天王がコンプライアンス違反なんかしたら重大なスキャンダルだわ。
「僕が有給を取得したら改めて来るよ。今度はちゃんと温泉を堪能したいしね」
「ああ是非とも来てくれ。その時はまた私が案内してあげよう、この宇宙一の漢! イン・ドレカーがな!」
「……またのお越しを、お待ちしております……」

 ドレカー先輩を始め、妖怪達が歓声を上げた。
 ダイダラボッチを倒しても、妖怪達が元の姿に戻ったり、成仏したりはしなかった。先輩曰く、すでに影響を受けた後だから仕方がないとのこと。
 でも誰一人として落ち込んでいない、むしろ真逆で、皆イキイキしていた。
 やっぱり恐怖の象徴だったダイダラボッチが居なくなったのが大きいみたい。あちこちから感謝の言葉を言われて、ちょっとくすぐったいな。

「必ずリベンジを果たせよ、青年、シラヌイ。もし困った事があったら、この宇宙一の大海賊、イン・ドレカーを頼るといい」
「……私達も、応援していますから……」
「うん。色々ありがとう、この恩は必ず返すよ」

 ディックは先輩としっかり握手を交わした。
 私達は妖怪達に見送られながら、リージョンとの合流地点へ向かった。その間も先輩達の声が聞こえ続けていた。

「いい人達だったね。それにとても……愛情深い人だった」
「そうね……奥様のためにどこまでも一途で、その人のために強くあろうとしていて……ん?」

 ふと思うけど、ディックとドレカー先輩って結構似てるわね。
 先輩みたいに私に一途だし、私のためにとか言って色々気を回すし……。

「……って何考えてんのよ私は!」
「いたっ!? なんで背中蹴ったんだ?」
「うっさい! あんたが悪いのよ!」
「顔が赤いけど、風邪でも」
「ひいてない!」

 ディックの一言一言に一喜一憂する私が居る。悔しくて認めるのは癪だけど……やっぱり私はこいつが好きだ。

  ◇◇◇

「もう姿は見えないか。久しぶりに楽しい客だったな」
「……ええ……」

 ディックとシラヌイが見えなくなるまで見送り、私はクミンの肩を抱いた。
 魔導具ハヌマーンは絆だけではない、愛情深く繋がった者が居なければ適合者として認められない武具だ。
 生半可な関係ではなく、それこそ心も繋がっていなければ真の力は発揮できない。人間と淫魔だと言うのに、宇宙一素晴らしい関係じゃないか。

「エンディミオンとハヌマーン、フェイスとディック……まるで写し鏡のようだな」
「……彼らは、越えられるでしょうか……?」
「分からない。私達は見守るだけだよ」

 せめて、彼らの行く先に幸多からんことを。
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