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70話 ディックVS世界樹の巫女
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エルフの国への出張の日が来た。
私は荷物を確認し、旅行鞄を閉じた。
エルフの国、世界樹のある場所か。実は結構憧れの場所だったりする。
世界樹の周囲は大量の魔力で包まれていて、そこで育ったエルフは非常に優秀な魔法使いになると言う。そんな魔法使いと交流できる機会なんて滅多にない。
サキュバスとはいえ、一応私も魔法使いの端くれ。エルフから勉強できる事は沢山あるはずだ。なんだかわくわくしてきちゃうな。
旅行鞄を持ったところで、何となくシュヴァリエを出してみる。シュヴァリエには相変わらず、神と鬼の魔石がはめられていた。
アブソーバーで力を封じているとは言え、あの力を見た後だと恐く感じる。ディックからも言われたけど、魔石の力は人を嘲り、弄ぶだけの意志しか伝わってこなかった。
「それでも、あんたの力が欲しいの」
私を嘲り笑うのなら、思う存分笑えばいい。笑われるのにはもう慣れてる。
けど覚えておきなさい、あんたが笑うこのサキュバスは、とことんまでに諦めの悪いサキュバスよ。
絶対あんた達を屈服させて、その力を手に入れてやる。精々覚悟しておくことね。
「ディック、準備はできた?」
「ああ、うん。大丈夫」
リビングに出ると、ディックが浮かない顔をしていた。
手にはソユーズから貰った大剣が握られている。それを見て難しい顔をしているわね。
「どしたの?」
「どうも剣の耐久が限界みたいなんだ。フェイスとの戦いで無茶させたせいか、ガタガタになっててね」
って言われても、剣に関して素人の私じゃいまいちわからない。見た目は別に変わってないんだけど、剣士にしか分からない何かがあるんでしょうね。
「多分、この調子だとあと二、三回で折れるな。ソユーズに修理してもらったけど、この間の哨戒任務で使っただけですぐにダメになっちゃったんだ」
「それって、あんたの腕についてこれてないんじゃないの?」
煌力を習得する過程で、ディックはゾーンに自在に入れるようになった。
ゾーンは持ちうる力を限界以上に引き出す究極の境地だ、ただでさえ達人レベルのディックがより強くなるのなら、生半可な剣じゃついてこれずに壊れるでしょうね。
「元々が展示用のガラクタだものね。そんなんでフェイスと戦ったんだから、その剣も本望なんじゃない?」
「かもしれないけど、やっぱ使っていると愛着が湧くからね。それにソユーズが仕立て直してくれたし、友達の気持ちも入っている分、大事に使っていたんだ」
ディックらしい理由だ、案外友達想いでもあるのよね。
気持ちは分かるけど、武器の不調は命に関わるわ。残念だけど、買い替えなくちゃね。
「ただ、あんた刀一本で足りるんじゃないの?」
「最近双剣に慣れててね。途中で武器を変えて戦うと相手のリズムを崩せるし、重い武器を持つと重心を利用しての変則攻撃もできて、何かと便利なんだ」
「んー、成程ねぇ。」
けどディックの腕に見合う剣となると……そうそう無いんじゃないかしら。
「バルドフの鍛冶職人を見渡しても、あんたの剣を作れるとなると、そうそう居ないわねぇ」
「まぁ、折れるまでもう少し使ってみるよ。さて、そろそろ時間だ。行こう」
「ええ」
よーし、それじゃあエルフの国へ出発よ!
◇◇◇
リージョンの能力で直接向かうのは流石に失礼に当たるから、ペガサス便で向かう事になった。
外交官を伴なって、空の上を走る事数時間。目的地のエルフの国が見えてきた。
妖怪リゾートに行くときは通り過ぎるだけだったけど、こうして近づくと、世界樹のサイズに圧倒されてしまう。
ずっしりと根を張り、雲より高く聳えている。まるで壁のように立ちふさがり、私達に威圧感を与えていた。
世界樹の領域に入ると、蛍火のような光が周囲に漂い始める。世界樹の魔力が結晶化した物ね。触れると指先が涼しくなって、ちょっと気持ちがいい。
眼下を見れば、そこにはエルフ達が居る。世界樹の根に穴を掘って住居にしているんだ。
そして世界樹をくりぬくように、城が造られている。
世界樹の幹に、まるで彫刻のように掘り抜かれているのだ。あれが世界樹の巫女が住むエルフの国の中心施設、エルフ城だ。
「って、ちょっとひねりが無さすぎかな」
まぁ、それを言っちゃあ魔王城も似たようなネーミングだけどさ。
城の中腹には来賓者を迎える馬車乗り場がある。そこに降り立つと、エルフ軍の兵士が出迎えてくれた。
「ようこそお出でくださいました。女王様がお待ちになっています、こちらへ」
エルフの国を統括しているのは女王、ミハエル2世だ。そんな重要人物と会うのか、なんか緊張しちゃうな。粗相のないようにしよう。
にしても、世界樹をくりぬいて造られた城なだけあって、魔王城とは雰囲気が大分違う。
魔王城は石造りの建築物だけど、ここは完全木造だ。壁は綺麗に研磨されてつるつるだけど、木の温かみがあって、柔らかな質感が伝わってくる。明り取りのランタンも世界樹の蛍火を集めて照らす物だから、日光より神秘的な光を出していた。
うーん、この雰囲気好きだわ。魔王城よりも理想的な職場ね。
エルフ城を堪能しながら進んでいると、謁見の間にたどり着く。玉座には、見惚れるほど美しい女性が座っていた。
薄い金髪に、若々しい容姿。淡い緑のガウンを羽織って、ローレルの冠を被っている。彼女がミハエル2世、エルフの国を統治する女王様だ。
「魔王よりの使者か、よくぞ参られた。名を教えて貰えるか」
凛とした声が響く。魔王様と違って、威厳にあふれた人だ。
跪いて身分を名乗り、首を垂れる。するとミハエル様は小さく笑い、
「そうまで畏まらなくてよい。これより同盟を結ぼうとする者同士だ、そうまで堅苦しくする必要はないだろう」
「は、お心遣い感謝いたします」
「ふっ、愛い娘だ。魔王四天王の一角ならば、我々の置かれている状況も分かるであろう」
「人間軍がドラゴンとの同盟を結ぼうとしている、その脅威に対抗するべく、利害が一致した。故に我々魔王軍と協定を結ぶ事を決定した。相違ないでしょうか?」
「その通りだ。ドラゴンは世界最強の種族、そ奴らの牙が我らに向かうのならば、相応の力を得ねばならない。我らが主、世界樹に危害が加わる恐れもあるからな」
一通り前置きをしたところで、ミハエル様は手を叩いた。
「大臣! 協定決議の支度を。これより魔王軍との同盟協議を執り行おう。協議が終わり次第、魔王との会談へ向かう。細かな調整は任せたぞ」
ものすごくすんなりと話が進んでいく。エルフは閉鎖的な種族と聞いていたけど、やっぱり女王となると柔軟な対応が求められる。排他的な考えは持ってないみたいね。
「さて、頭を使う仕事は専門者に任せるとして、四天王シラヌイ。そこに居る人間について伺ってもよいか?」
あ、でもやっぱ問題が来たか。
エルフは人間嫌いだ。なのに魔王軍に人間が居る。疑問に思わないわけがないな。
「私の副官、ディックでございます。人間の身ですが魔王軍に所属しており、人間軍最高戦力、勇者フェイスを倒せる唯一の戦士です」
とりあえずこう紹介しておけばいいか。そこまで言って、魔王様の意図にも気付く。
フェイスはエルフにとっても脅威だ。ハヌマーンが無ければ、エルフ軍最高戦力の巫女でもエンディミオンに勝てない。それはミハエル様も分かっているだろう。
だからこそ、唯一フェイスに対抗できるディックを紹介しておきたかったんだ。
フェイスに対抗できる手段を教えておけば、外交上の切り札にもなる。勇者襲撃の際は魔王軍に頭を下げなくちゃならないしね。
エルフと同盟を結びつつも、立場的に優位に立つ。ディックはその状況を作るために送り出されたわけか。
「かのフェイスを倒せる戦士だと?」
「は、先に魔王軍は勇者の襲撃を受けましたが、ディックの活躍により退けました。人間軍との戦いにおいて、ディックは我が魔王軍の切り札と呼べる男なのです」
「信じられぬな、エンディミオンの力を退けるほどの戦士とは、耳にした事がない」
ミハエル様は半信半疑の様子だった。
すると、また手を叩いた。
「巫女を呼べ」
「はっ!」
兵士への指示を聞いて、私は眉をひそめた。世界樹の巫女をこの場に連れてくるって事は、つまり……。
「僕の出番か」
ディックが小さくささやいた。ほぼ間違いなく、腕試しをさせるつもりだろう。でもってディックを打ち倒して、魔王軍との外交的立場を確保しようって算段ね。
政治の世界って、やっぱドロドロしてて嫌いだな。
「勇者フェイスを倒す程の実力、ぜひ目にしておきたい。我らエルフ軍最高戦力と一戦、交えてもらえるか?」
「かしこまりました」
ディックは即答した。同時に、謁見の間に二人の女性が入ってくる。どちらもウェーブのかかった、薄緑色の長い髪を持った人だ。
一人はまだ少女で、あどけない顔立ちをしている。質素なドレスに身を包み、可憐な印象をうけた。好奇心旺盛なのか、私とディックを興味深そうに見ていた。
もう一人は、背の高い女性だ。ディックと同じくらいの背丈で、軍服を着こんでいる。吊り上がった目をしていて、厳格そうな空気を纏っていた。
あれが世界樹の巫女。エルフの国の最重要人物……って、二人?
「わぁ、貴方人間? 私人間って初めて見たよ」
「姉様、私語は慎んでください。特に、人間の前ですよ」
姉様? ちっこいほうが、姉様。って事はデカい方が妹……!
え、世界樹の巫女って二人居たの!? しかも姉妹! ってか身長逆じゃない?
「紹介しよう、世界樹の巫女ラピスと、わが軍最高戦力、巫女戦士ラズリだ。ディックとやら、ラズリと手合わせを行い、その力を示してみよ。勇者を倒すと豪語するそなたの力、楽しみにさせてもらおう。ラズリ」
「はっ!」
ラズリが前に出て、ディックをにらんできた。
瞬間、謁見の間の空気がずしりと重くなる。エルフとは思えない程のプレッシャーが、私の心を圧迫してくる。
あれが、エルフ軍最高戦力、世界樹の巫女ラズリ。一人で一国を相手取る、史上最強のエルフか……。
「……フェイス戦以来だな、命の危険を感じるのは」
私の横でディックは頬を拭い、刀を握りしめた。
私は荷物を確認し、旅行鞄を閉じた。
エルフの国、世界樹のある場所か。実は結構憧れの場所だったりする。
世界樹の周囲は大量の魔力で包まれていて、そこで育ったエルフは非常に優秀な魔法使いになると言う。そんな魔法使いと交流できる機会なんて滅多にない。
サキュバスとはいえ、一応私も魔法使いの端くれ。エルフから勉強できる事は沢山あるはずだ。なんだかわくわくしてきちゃうな。
旅行鞄を持ったところで、何となくシュヴァリエを出してみる。シュヴァリエには相変わらず、神と鬼の魔石がはめられていた。
アブソーバーで力を封じているとは言え、あの力を見た後だと恐く感じる。ディックからも言われたけど、魔石の力は人を嘲り、弄ぶだけの意志しか伝わってこなかった。
「それでも、あんたの力が欲しいの」
私を嘲り笑うのなら、思う存分笑えばいい。笑われるのにはもう慣れてる。
けど覚えておきなさい、あんたが笑うこのサキュバスは、とことんまでに諦めの悪いサキュバスよ。
絶対あんた達を屈服させて、その力を手に入れてやる。精々覚悟しておくことね。
「ディック、準備はできた?」
「ああ、うん。大丈夫」
リビングに出ると、ディックが浮かない顔をしていた。
手にはソユーズから貰った大剣が握られている。それを見て難しい顔をしているわね。
「どしたの?」
「どうも剣の耐久が限界みたいなんだ。フェイスとの戦いで無茶させたせいか、ガタガタになっててね」
って言われても、剣に関して素人の私じゃいまいちわからない。見た目は別に変わってないんだけど、剣士にしか分からない何かがあるんでしょうね。
「多分、この調子だとあと二、三回で折れるな。ソユーズに修理してもらったけど、この間の哨戒任務で使っただけですぐにダメになっちゃったんだ」
「それって、あんたの腕についてこれてないんじゃないの?」
煌力を習得する過程で、ディックはゾーンに自在に入れるようになった。
ゾーンは持ちうる力を限界以上に引き出す究極の境地だ、ただでさえ達人レベルのディックがより強くなるのなら、生半可な剣じゃついてこれずに壊れるでしょうね。
「元々が展示用のガラクタだものね。そんなんでフェイスと戦ったんだから、その剣も本望なんじゃない?」
「かもしれないけど、やっぱ使っていると愛着が湧くからね。それにソユーズが仕立て直してくれたし、友達の気持ちも入っている分、大事に使っていたんだ」
ディックらしい理由だ、案外友達想いでもあるのよね。
気持ちは分かるけど、武器の不調は命に関わるわ。残念だけど、買い替えなくちゃね。
「ただ、あんた刀一本で足りるんじゃないの?」
「最近双剣に慣れててね。途中で武器を変えて戦うと相手のリズムを崩せるし、重い武器を持つと重心を利用しての変則攻撃もできて、何かと便利なんだ」
「んー、成程ねぇ。」
けどディックの腕に見合う剣となると……そうそう無いんじゃないかしら。
「バルドフの鍛冶職人を見渡しても、あんたの剣を作れるとなると、そうそう居ないわねぇ」
「まぁ、折れるまでもう少し使ってみるよ。さて、そろそろ時間だ。行こう」
「ええ」
よーし、それじゃあエルフの国へ出発よ!
◇◇◇
リージョンの能力で直接向かうのは流石に失礼に当たるから、ペガサス便で向かう事になった。
外交官を伴なって、空の上を走る事数時間。目的地のエルフの国が見えてきた。
妖怪リゾートに行くときは通り過ぎるだけだったけど、こうして近づくと、世界樹のサイズに圧倒されてしまう。
ずっしりと根を張り、雲より高く聳えている。まるで壁のように立ちふさがり、私達に威圧感を与えていた。
世界樹の領域に入ると、蛍火のような光が周囲に漂い始める。世界樹の魔力が結晶化した物ね。触れると指先が涼しくなって、ちょっと気持ちがいい。
眼下を見れば、そこにはエルフ達が居る。世界樹の根に穴を掘って住居にしているんだ。
そして世界樹をくりぬくように、城が造られている。
世界樹の幹に、まるで彫刻のように掘り抜かれているのだ。あれが世界樹の巫女が住むエルフの国の中心施設、エルフ城だ。
「って、ちょっとひねりが無さすぎかな」
まぁ、それを言っちゃあ魔王城も似たようなネーミングだけどさ。
城の中腹には来賓者を迎える馬車乗り場がある。そこに降り立つと、エルフ軍の兵士が出迎えてくれた。
「ようこそお出でくださいました。女王様がお待ちになっています、こちらへ」
エルフの国を統括しているのは女王、ミハエル2世だ。そんな重要人物と会うのか、なんか緊張しちゃうな。粗相のないようにしよう。
にしても、世界樹をくりぬいて造られた城なだけあって、魔王城とは雰囲気が大分違う。
魔王城は石造りの建築物だけど、ここは完全木造だ。壁は綺麗に研磨されてつるつるだけど、木の温かみがあって、柔らかな質感が伝わってくる。明り取りのランタンも世界樹の蛍火を集めて照らす物だから、日光より神秘的な光を出していた。
うーん、この雰囲気好きだわ。魔王城よりも理想的な職場ね。
エルフ城を堪能しながら進んでいると、謁見の間にたどり着く。玉座には、見惚れるほど美しい女性が座っていた。
薄い金髪に、若々しい容姿。淡い緑のガウンを羽織って、ローレルの冠を被っている。彼女がミハエル2世、エルフの国を統治する女王様だ。
「魔王よりの使者か、よくぞ参られた。名を教えて貰えるか」
凛とした声が響く。魔王様と違って、威厳にあふれた人だ。
跪いて身分を名乗り、首を垂れる。するとミハエル様は小さく笑い、
「そうまで畏まらなくてよい。これより同盟を結ぼうとする者同士だ、そうまで堅苦しくする必要はないだろう」
「は、お心遣い感謝いたします」
「ふっ、愛い娘だ。魔王四天王の一角ならば、我々の置かれている状況も分かるであろう」
「人間軍がドラゴンとの同盟を結ぼうとしている、その脅威に対抗するべく、利害が一致した。故に我々魔王軍と協定を結ぶ事を決定した。相違ないでしょうか?」
「その通りだ。ドラゴンは世界最強の種族、そ奴らの牙が我らに向かうのならば、相応の力を得ねばならない。我らが主、世界樹に危害が加わる恐れもあるからな」
一通り前置きをしたところで、ミハエル様は手を叩いた。
「大臣! 協定決議の支度を。これより魔王軍との同盟協議を執り行おう。協議が終わり次第、魔王との会談へ向かう。細かな調整は任せたぞ」
ものすごくすんなりと話が進んでいく。エルフは閉鎖的な種族と聞いていたけど、やっぱり女王となると柔軟な対応が求められる。排他的な考えは持ってないみたいね。
「さて、頭を使う仕事は専門者に任せるとして、四天王シラヌイ。そこに居る人間について伺ってもよいか?」
あ、でもやっぱ問題が来たか。
エルフは人間嫌いだ。なのに魔王軍に人間が居る。疑問に思わないわけがないな。
「私の副官、ディックでございます。人間の身ですが魔王軍に所属しており、人間軍最高戦力、勇者フェイスを倒せる唯一の戦士です」
とりあえずこう紹介しておけばいいか。そこまで言って、魔王様の意図にも気付く。
フェイスはエルフにとっても脅威だ。ハヌマーンが無ければ、エルフ軍最高戦力の巫女でもエンディミオンに勝てない。それはミハエル様も分かっているだろう。
だからこそ、唯一フェイスに対抗できるディックを紹介しておきたかったんだ。
フェイスに対抗できる手段を教えておけば、外交上の切り札にもなる。勇者襲撃の際は魔王軍に頭を下げなくちゃならないしね。
エルフと同盟を結びつつも、立場的に優位に立つ。ディックはその状況を作るために送り出されたわけか。
「かのフェイスを倒せる戦士だと?」
「は、先に魔王軍は勇者の襲撃を受けましたが、ディックの活躍により退けました。人間軍との戦いにおいて、ディックは我が魔王軍の切り札と呼べる男なのです」
「信じられぬな、エンディミオンの力を退けるほどの戦士とは、耳にした事がない」
ミハエル様は半信半疑の様子だった。
すると、また手を叩いた。
「巫女を呼べ」
「はっ!」
兵士への指示を聞いて、私は眉をひそめた。世界樹の巫女をこの場に連れてくるって事は、つまり……。
「僕の出番か」
ディックが小さくささやいた。ほぼ間違いなく、腕試しをさせるつもりだろう。でもってディックを打ち倒して、魔王軍との外交的立場を確保しようって算段ね。
政治の世界って、やっぱドロドロしてて嫌いだな。
「勇者フェイスを倒す程の実力、ぜひ目にしておきたい。我らエルフ軍最高戦力と一戦、交えてもらえるか?」
「かしこまりました」
ディックは即答した。同時に、謁見の間に二人の女性が入ってくる。どちらもウェーブのかかった、薄緑色の長い髪を持った人だ。
一人はまだ少女で、あどけない顔立ちをしている。質素なドレスに身を包み、可憐な印象をうけた。好奇心旺盛なのか、私とディックを興味深そうに見ていた。
もう一人は、背の高い女性だ。ディックと同じくらいの背丈で、軍服を着こんでいる。吊り上がった目をしていて、厳格そうな空気を纏っていた。
あれが世界樹の巫女。エルフの国の最重要人物……って、二人?
「わぁ、貴方人間? 私人間って初めて見たよ」
「姉様、私語は慎んでください。特に、人間の前ですよ」
姉様? ちっこいほうが、姉様。って事はデカい方が妹……!
え、世界樹の巫女って二人居たの!? しかも姉妹! ってか身長逆じゃない?
「紹介しよう、世界樹の巫女ラピスと、わが軍最高戦力、巫女戦士ラズリだ。ディックとやら、ラズリと手合わせを行い、その力を示してみよ。勇者を倒すと豪語するそなたの力、楽しみにさせてもらおう。ラズリ」
「はっ!」
ラズリが前に出て、ディックをにらんできた。
瞬間、謁見の間の空気がずしりと重くなる。エルフとは思えない程のプレッシャーが、私の心を圧迫してくる。
あれが、エルフ軍最高戦力、世界樹の巫女ラズリ。一人で一国を相手取る、史上最強のエルフか……。
「……フェイス戦以来だな、命の危険を感じるのは」
私の横でディックは頬を拭い、刀を握りしめた。
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