72 / 181
71話 人外の戦い
しおりを挟む
「それじゃ、結界をはりまーす」
世界樹の巫女、ラピスがはしゃぎながらバルコニー席に出た。
僕達は世界樹の裏手に造られた闘技場に連れてこられている。エルフ軍の訓練場も兼ねていて、ミハエル女王がバルコニー席から僕らを見下ろしていた。
にしても、同じ巫女なのに随分違うな。
世界樹の巫女は大抵、一人しか生まれない。だけどこの二人は双子として生まれてきたそうだ。
エルフの国の歴史でも類を見ない事例らしい。しかも二人そろって世界樹の加護を受けられるそうで、今がこの国の最盛期だとの事だ。
「世界樹さーん、結界をはってくださいなー。祈りっ!」
ラピスが手を握り合わせるなり、彼女の体がぼんやりと輝く。同時に僕とラズリにも、世界樹の光が浮かんだ。
「はいこれで大丈夫。どんなに暴れても世界樹さんも街の人たちにも、姉様達にも怪我はなくなるよ。思い切り戦っても死なないから、二人とも頑張ってね!」
さり気なく物騒な事を言ったなこの子。ようは死ぬ気で戦えって事か。
「私ね、ラズリが戦う姿が大好きなんだ。とくに血がぶしゃーって出てくる瞬間とか、素プラッタで綺麗でうっとりしちゃうよね。でも模擬戦だとそれやっちゃいけないから残念。でもでも試合を見るの大好きだから別にいいんだー」
……別口のバトルジャンキーかよこの巫女。人が戦う姿を見て楽しむって、殺伐としてんなおい。
一方のラズリはと言うと、脈を測るように左の手首を握り、目を閉じている。あれが精神統一のルーティンなのかもな。
さて、と。僕も心の準備をしておくか。
母さんの刀を握り、刀身を見る。母さんから受け取った紫のオーラが、僕に勇気を与えてくれる。
それに、シラヌイの前だ。格好悪い姿は見せたくない。相手は一国を亡ぼす力を持った、最強のエルフだ。持ちうるすべての力を使って、絶対に勝つ。
……思えば、全力戦闘はフェイス戦以来か。
あれから僕は、強くなった。それがどれほどの物か試すのに、丁度いい機会だな。
「無様に負ける覚悟はいいな人間。言っておくが、私は人間が嫌いだ。私達を執拗に狙い、挙句の果ては数万もの兵を率いて襲ってきた。そんな奴に好意的な感情を持つことはできない」
「胸中、お察しします」
「自分には関係ないと言った顔か。いや、まぁ確かにお前に言っても仕方は無いのだけど……と言うかもうそれ二百年前の話だから、お前にぶつけるのはお門違いというか何と言うか……それに勇者を倒すって事は人間の敵だから、むしろ悪感情を向けるのは筋が違うか?」
「ん?」
「そうだよな、人間にもいい奴がいれば悪い奴も居る。人間嫌いだからってお前一人に怒りをぶつけるのは違うな、うん。後で謝っておくから、さっきの発言は忘れろ。うん」
あれ? ものすごい勢いでメッキが剥がれてないか?
ちょっとにじみ出た良い子オーラに毒気が抜かれた。案外シリアスが苦手なエルフなのかもしれない。
けど、それはそれ、勝負は勝負だ。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ胸を貸そう。姉様、合図を」
「はーい。じゃあコインを投げるから、落ちたらスタートね。それーっ!」
バルコニーからコインが落ちてくる。刀に手を触れると同時に、小さな音がした。
「しっ!」
瞬間、ラズリが剛腕を突き出した。
反射的に身をよじるなり、鼻先を衝撃波がかすめる。衝撃は減衰する事無く直進し、木々を思い切り傾がせ、遥か遠方にある山の中腹を抉り取った。
驚く間もなく、ラズリが襲ってくる。ほんの一瞬で距離を詰め、嵐のような連撃を繰り出してきた。
彼女が拳を振るい、足を踏みだす度、地震や暴風が起こる。まともに食らえば最後、体が消滅するだろう。一撃必殺の攻撃を、ラズリは息も切らさず連発していた。
まるで災害だ。もしここに人が居れば、爆風や衝撃波で秒も持たず消え去っている。
いったん距離を取るべくバックステップするも、引き離せない。この狭い場所じゃ戦いにくいな。
なら、場所を変えるか。
「煌力、僕を助けてくれ」
足首から先に煌力を纏う。全身を覆えば反動は大きいけど、部分的に使えば抑えられる。ケイのメモにあった技術だ。
あとは、引力を発生させれば……幹を走れる!
ラズリの拳を避けると同時に幹へ飛びつく。足がぴったりとくっつき、僕は世界樹の幹に立っていた。
「なん、だと? そんな事が出来るのか」
ラズリは驚きながらも幹を駆け上がり、僕に肉薄する。ちょっとだけ、新しい魔法でも使ってみるか。
「煌刃剣」
煌力で剣を形成し、射出する。煌力を手に入れてから習得した遠距離攻撃だ。
ラズリはそれを拳で粉砕して防御するけど、正面だけに気を向けてたら危ないよ。
彼女の周囲に剣を生み出し、時間差で撃ち出す。場所を問わず生成できるのがこの魔法の強み……なんだけど、全部回避している。凄い反射神経だ。
舞台が世界樹の幹に変わっても、ラズリの攻勢は変わらない。にしてもすさまじいパワーとスピードだ。世界樹がぐらぐら揺れるほどの破壊力、ラピスが結界を張っていなければ、きっとへし折れている事だろう。実際山を壊したしな。
たった一人で一国を相手取る、エルフ軍の最高戦力。噂以上の力だ。
「だけど、なんだろうな」
手合わせしてふと思う。想像よりも、戦いやすい。
多分、前の僕なら気配察知の先読みをしても、追いつけずに拳が当たっていただろう。だけど今の僕は、当たる気がしない。ゾーンに入っていなくても、このエルフについてこれる。
フェイスを倒して得た自信は、僕を想像以上に強くしてくれたみたいだ。
……様子見はここまでにしよう、そろそろ入るか!
「ゾーン……強制突破!」
一気に集中力を最大まで引き上げる。瞬間、ラズリの手が止まった。
頭の中が軽くなり、体に力が漲るような感覚。自分がどこを狙うべきか、導く光が見える。
「なんだこの男……空気が変わった?」
ラズリが警戒して、攻撃の手を緩めた。そんな事をしていいのかな?
今度は僕から接近して居合切りを振るう。ラズリの顔色が変わって、大きく後退した。斬撃は威力を減衰せずに飛んで、遠くの山を切り裂いた。真っ二つになった山が崩れていく。
ラズリが驚く間に、距離を詰めて斬撃を繰り出し、一転して彼女を追い詰めた。
「まさかお前、ゾーンに!? 私ですら到達していない境地に、立っているだと!?」
ラズリも反撃に出た。拳と刀が何度も交差し、ぶつかり合って火花が散った。
くそ、素手で刀を殴って平気とか……どんな体しているんだ。
互いの攻撃で弾きあい、大きく距離が空く。ラズリは幹から落ちるけど、なんと空を蹴って空を飛んでいた。
「そんなのありかよ」
身体能力高いで済まないぞ、脚力凄すぎるだろ。
……煌力を纏った足なら、空飛べるかな。
引力から斥力に切り替えて、試しに飛んでみる。そしたら出来た、僕も空を蹴って飛んでいる。
「お前、本当に人間か? 魔術を使っているわけでもない、どんな体をしている」
「そっくりそのまま、全部返させてもらうよ」
第三ラウンド、空中戦に入る。互いに空を蹴り、拳と刀で互いを崩す一手を探った。
「なら、双剣に切り替えるか」
リズムを変えるべく、大剣を握る。突然のスタイルチェンジに反応が遅れて、ラズリが出遅れた。
よし、先制打が入る! そう思い、大剣を彼女の肩に当てた時。
「ふん!」
ラズリは肩をかちあげて剣を弾き飛ばす。そしてその拍子に、刃が折れた。
今度は僕が驚く番だった。その隙にラズリは体勢を立て直してしまう。
「ライトニングボルト!」
とうとうラズリが魔法を使い始めた。襲ってきた紫電を咄嗟に刀でぶった切るも、衝撃で腕がしびれた。
初級の雷魔法なのに、まるで上級魔法のような威力だ。シラヌイ同様、魔法を限界まで研磨しているんだな。
「世界樹よ……力を!」
ラズリが祈るなり、世界樹が光って、彼女に力を与える。威圧感がより強くなった。
魔法と格闘を交え、翻弄し、僕を潰そうと迫ってくる。範囲も威力も絶大で、多種多様。緩急をつけた変幻自在の戦闘術だ。
いよいよラズリが本気を出してきたな。彼女が暴れるたびに未曽有の大災害が起きて、森に住む動物や昆虫達が一斉に逃げ出した。
同時に、彼女が起こす暴風により上昇気流が発生して、空に巨大な雨雲まででき始めている。地震も全く止まらない。
やがて嵐が起こり、エルフの国に暴風雨が吹き荒れた。大地が抉れ、大気が揺れ、山がいくつも崩れていく。
間違いない、本気のラズリだ。ステゴロで天変地異を起こす、生きる大災害。エルフ軍最高戦力の真の力か。
……この力、いったいどれほどの努力を重ねたんだろう。同じ武の道を歩く者として尊敬してしまう。
本気を出してくれた彼女に敬意を示さなければ。奥の手を、煌力を最大で使う!
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
煌力をとりこみ、全身に浸透させる。曲線模様が浮かび上がって、全身の感覚が一段鋭くなる。スパークがほとばしり、視界に緑のスクリーンがかかる。
煌力モード、発動。今の僕が出せる、最大最高の力だ。
「それが、お前の真の力か」
「……貴方ほどの戦士への、敬意の証だ」
「……そうか、ならば私も敬意を払おう! そして認めよう、貴公は素晴らしい剣士だ!」
「ありがとう、嬉しいよ!」
僕とラズリがぶつかり合う。彼女の振りかざした拳をぎりぎりで避け、胴に一太刀を浴びせる。
その一撃が、勝敗を決していた。
「……私の負けだな。実戦ならば、体が真っ二つになっていた。貴公の勝利だ」
「……手合わせ、ありがとうございました」
勝った、エルフ軍最高戦力に、僕は勝ったんだ。
そう思うなり、力が抜けそうになる。急いで戻らないと、煌力モードが解けて落ちてしまうな。
闘技場に戻るなり、煌力モードが解ける。今の所、三分維持するのが限界って所か。けど使った後に気絶していない、充分な進歩だ。
「ラズリが負けた、だと? なんと……信じられぬ。夢ではあるまいな?」
「ふわぁ……凄い物見ちゃったぁ……」
ミハエル女王とラピスは勿論、見学していたエルフ兵たちも動揺している。目の前で最高戦力が負けたんだ、当然の反応だよな。
けど僕も紙一重だった。最後の瞬間、もし拳が当たっていたら、負けていたのは僕だった。
彼女は強い、それも理屈をこねた強さじゃない。
基礎能力が段違いなんだ。パワー・スピード・ディフェンス……その全てが異次元の領域に達している、シンプルでわかりやすい強さだ。
「ラズリ、貴方の実力、素晴らしかった」
「こちらこそ、得難い経験をさせてもらったよ。人間は嫌いだが、剣士ディック、貴公だけは認めさせてもらおう」
僕達は固い握手を交わした。握った瞬間、彼女の手に肉刺ができているのが分かった。
……きっと何百年もの間、絶やさず努力をしてきたんだろう。その末の力だ。
「勇者フェイスを倒すか、成程……決して嘘ではなさそうだな。魔王軍は優秀な戦力を手に入れたようだ」
「お褒めに預かり光栄です」
なぜかシラヌイがドヤ顔で答えた。僕が勝ったのがよほどうれしかったみたいだ。
なんにせよ、エルフ軍最高戦力との試合は、最高の結果で終われたな。けど……。
「ごめんソユーズ、君の剣、壊してしまったよ」
大剣が折れてしまったのは、ちょっとショックだな。
世界樹の巫女、ラピスがはしゃぎながらバルコニー席に出た。
僕達は世界樹の裏手に造られた闘技場に連れてこられている。エルフ軍の訓練場も兼ねていて、ミハエル女王がバルコニー席から僕らを見下ろしていた。
にしても、同じ巫女なのに随分違うな。
世界樹の巫女は大抵、一人しか生まれない。だけどこの二人は双子として生まれてきたそうだ。
エルフの国の歴史でも類を見ない事例らしい。しかも二人そろって世界樹の加護を受けられるそうで、今がこの国の最盛期だとの事だ。
「世界樹さーん、結界をはってくださいなー。祈りっ!」
ラピスが手を握り合わせるなり、彼女の体がぼんやりと輝く。同時に僕とラズリにも、世界樹の光が浮かんだ。
「はいこれで大丈夫。どんなに暴れても世界樹さんも街の人たちにも、姉様達にも怪我はなくなるよ。思い切り戦っても死なないから、二人とも頑張ってね!」
さり気なく物騒な事を言ったなこの子。ようは死ぬ気で戦えって事か。
「私ね、ラズリが戦う姿が大好きなんだ。とくに血がぶしゃーって出てくる瞬間とか、素プラッタで綺麗でうっとりしちゃうよね。でも模擬戦だとそれやっちゃいけないから残念。でもでも試合を見るの大好きだから別にいいんだー」
……別口のバトルジャンキーかよこの巫女。人が戦う姿を見て楽しむって、殺伐としてんなおい。
一方のラズリはと言うと、脈を測るように左の手首を握り、目を閉じている。あれが精神統一のルーティンなのかもな。
さて、と。僕も心の準備をしておくか。
母さんの刀を握り、刀身を見る。母さんから受け取った紫のオーラが、僕に勇気を与えてくれる。
それに、シラヌイの前だ。格好悪い姿は見せたくない。相手は一国を亡ぼす力を持った、最強のエルフだ。持ちうるすべての力を使って、絶対に勝つ。
……思えば、全力戦闘はフェイス戦以来か。
あれから僕は、強くなった。それがどれほどの物か試すのに、丁度いい機会だな。
「無様に負ける覚悟はいいな人間。言っておくが、私は人間が嫌いだ。私達を執拗に狙い、挙句の果ては数万もの兵を率いて襲ってきた。そんな奴に好意的な感情を持つことはできない」
「胸中、お察しします」
「自分には関係ないと言った顔か。いや、まぁ確かにお前に言っても仕方は無いのだけど……と言うかもうそれ二百年前の話だから、お前にぶつけるのはお門違いというか何と言うか……それに勇者を倒すって事は人間の敵だから、むしろ悪感情を向けるのは筋が違うか?」
「ん?」
「そうだよな、人間にもいい奴がいれば悪い奴も居る。人間嫌いだからってお前一人に怒りをぶつけるのは違うな、うん。後で謝っておくから、さっきの発言は忘れろ。うん」
あれ? ものすごい勢いでメッキが剥がれてないか?
ちょっとにじみ出た良い子オーラに毒気が抜かれた。案外シリアスが苦手なエルフなのかもしれない。
けど、それはそれ、勝負は勝負だ。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ胸を貸そう。姉様、合図を」
「はーい。じゃあコインを投げるから、落ちたらスタートね。それーっ!」
バルコニーからコインが落ちてくる。刀に手を触れると同時に、小さな音がした。
「しっ!」
瞬間、ラズリが剛腕を突き出した。
反射的に身をよじるなり、鼻先を衝撃波がかすめる。衝撃は減衰する事無く直進し、木々を思い切り傾がせ、遥か遠方にある山の中腹を抉り取った。
驚く間もなく、ラズリが襲ってくる。ほんの一瞬で距離を詰め、嵐のような連撃を繰り出してきた。
彼女が拳を振るい、足を踏みだす度、地震や暴風が起こる。まともに食らえば最後、体が消滅するだろう。一撃必殺の攻撃を、ラズリは息も切らさず連発していた。
まるで災害だ。もしここに人が居れば、爆風や衝撃波で秒も持たず消え去っている。
いったん距離を取るべくバックステップするも、引き離せない。この狭い場所じゃ戦いにくいな。
なら、場所を変えるか。
「煌力、僕を助けてくれ」
足首から先に煌力を纏う。全身を覆えば反動は大きいけど、部分的に使えば抑えられる。ケイのメモにあった技術だ。
あとは、引力を発生させれば……幹を走れる!
ラズリの拳を避けると同時に幹へ飛びつく。足がぴったりとくっつき、僕は世界樹の幹に立っていた。
「なん、だと? そんな事が出来るのか」
ラズリは驚きながらも幹を駆け上がり、僕に肉薄する。ちょっとだけ、新しい魔法でも使ってみるか。
「煌刃剣」
煌力で剣を形成し、射出する。煌力を手に入れてから習得した遠距離攻撃だ。
ラズリはそれを拳で粉砕して防御するけど、正面だけに気を向けてたら危ないよ。
彼女の周囲に剣を生み出し、時間差で撃ち出す。場所を問わず生成できるのがこの魔法の強み……なんだけど、全部回避している。凄い反射神経だ。
舞台が世界樹の幹に変わっても、ラズリの攻勢は変わらない。にしてもすさまじいパワーとスピードだ。世界樹がぐらぐら揺れるほどの破壊力、ラピスが結界を張っていなければ、きっとへし折れている事だろう。実際山を壊したしな。
たった一人で一国を相手取る、エルフ軍の最高戦力。噂以上の力だ。
「だけど、なんだろうな」
手合わせしてふと思う。想像よりも、戦いやすい。
多分、前の僕なら気配察知の先読みをしても、追いつけずに拳が当たっていただろう。だけど今の僕は、当たる気がしない。ゾーンに入っていなくても、このエルフについてこれる。
フェイスを倒して得た自信は、僕を想像以上に強くしてくれたみたいだ。
……様子見はここまでにしよう、そろそろ入るか!
「ゾーン……強制突破!」
一気に集中力を最大まで引き上げる。瞬間、ラズリの手が止まった。
頭の中が軽くなり、体に力が漲るような感覚。自分がどこを狙うべきか、導く光が見える。
「なんだこの男……空気が変わった?」
ラズリが警戒して、攻撃の手を緩めた。そんな事をしていいのかな?
今度は僕から接近して居合切りを振るう。ラズリの顔色が変わって、大きく後退した。斬撃は威力を減衰せずに飛んで、遠くの山を切り裂いた。真っ二つになった山が崩れていく。
ラズリが驚く間に、距離を詰めて斬撃を繰り出し、一転して彼女を追い詰めた。
「まさかお前、ゾーンに!? 私ですら到達していない境地に、立っているだと!?」
ラズリも反撃に出た。拳と刀が何度も交差し、ぶつかり合って火花が散った。
くそ、素手で刀を殴って平気とか……どんな体しているんだ。
互いの攻撃で弾きあい、大きく距離が空く。ラズリは幹から落ちるけど、なんと空を蹴って空を飛んでいた。
「そんなのありかよ」
身体能力高いで済まないぞ、脚力凄すぎるだろ。
……煌力を纏った足なら、空飛べるかな。
引力から斥力に切り替えて、試しに飛んでみる。そしたら出来た、僕も空を蹴って飛んでいる。
「お前、本当に人間か? 魔術を使っているわけでもない、どんな体をしている」
「そっくりそのまま、全部返させてもらうよ」
第三ラウンド、空中戦に入る。互いに空を蹴り、拳と刀で互いを崩す一手を探った。
「なら、双剣に切り替えるか」
リズムを変えるべく、大剣を握る。突然のスタイルチェンジに反応が遅れて、ラズリが出遅れた。
よし、先制打が入る! そう思い、大剣を彼女の肩に当てた時。
「ふん!」
ラズリは肩をかちあげて剣を弾き飛ばす。そしてその拍子に、刃が折れた。
今度は僕が驚く番だった。その隙にラズリは体勢を立て直してしまう。
「ライトニングボルト!」
とうとうラズリが魔法を使い始めた。襲ってきた紫電を咄嗟に刀でぶった切るも、衝撃で腕がしびれた。
初級の雷魔法なのに、まるで上級魔法のような威力だ。シラヌイ同様、魔法を限界まで研磨しているんだな。
「世界樹よ……力を!」
ラズリが祈るなり、世界樹が光って、彼女に力を与える。威圧感がより強くなった。
魔法と格闘を交え、翻弄し、僕を潰そうと迫ってくる。範囲も威力も絶大で、多種多様。緩急をつけた変幻自在の戦闘術だ。
いよいよラズリが本気を出してきたな。彼女が暴れるたびに未曽有の大災害が起きて、森に住む動物や昆虫達が一斉に逃げ出した。
同時に、彼女が起こす暴風により上昇気流が発生して、空に巨大な雨雲まででき始めている。地震も全く止まらない。
やがて嵐が起こり、エルフの国に暴風雨が吹き荒れた。大地が抉れ、大気が揺れ、山がいくつも崩れていく。
間違いない、本気のラズリだ。ステゴロで天変地異を起こす、生きる大災害。エルフ軍最高戦力の真の力か。
……この力、いったいどれほどの努力を重ねたんだろう。同じ武の道を歩く者として尊敬してしまう。
本気を出してくれた彼女に敬意を示さなければ。奥の手を、煌力を最大で使う!
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
煌力をとりこみ、全身に浸透させる。曲線模様が浮かび上がって、全身の感覚が一段鋭くなる。スパークがほとばしり、視界に緑のスクリーンがかかる。
煌力モード、発動。今の僕が出せる、最大最高の力だ。
「それが、お前の真の力か」
「……貴方ほどの戦士への、敬意の証だ」
「……そうか、ならば私も敬意を払おう! そして認めよう、貴公は素晴らしい剣士だ!」
「ありがとう、嬉しいよ!」
僕とラズリがぶつかり合う。彼女の振りかざした拳をぎりぎりで避け、胴に一太刀を浴びせる。
その一撃が、勝敗を決していた。
「……私の負けだな。実戦ならば、体が真っ二つになっていた。貴公の勝利だ」
「……手合わせ、ありがとうございました」
勝った、エルフ軍最高戦力に、僕は勝ったんだ。
そう思うなり、力が抜けそうになる。急いで戻らないと、煌力モードが解けて落ちてしまうな。
闘技場に戻るなり、煌力モードが解ける。今の所、三分維持するのが限界って所か。けど使った後に気絶していない、充分な進歩だ。
「ラズリが負けた、だと? なんと……信じられぬ。夢ではあるまいな?」
「ふわぁ……凄い物見ちゃったぁ……」
ミハエル女王とラピスは勿論、見学していたエルフ兵たちも動揺している。目の前で最高戦力が負けたんだ、当然の反応だよな。
けど僕も紙一重だった。最後の瞬間、もし拳が当たっていたら、負けていたのは僕だった。
彼女は強い、それも理屈をこねた強さじゃない。
基礎能力が段違いなんだ。パワー・スピード・ディフェンス……その全てが異次元の領域に達している、シンプルでわかりやすい強さだ。
「ラズリ、貴方の実力、素晴らしかった」
「こちらこそ、得難い経験をさせてもらったよ。人間は嫌いだが、剣士ディック、貴公だけは認めさせてもらおう」
僕達は固い握手を交わした。握った瞬間、彼女の手に肉刺ができているのが分かった。
……きっと何百年もの間、絶やさず努力をしてきたんだろう。その末の力だ。
「勇者フェイスを倒すか、成程……決して嘘ではなさそうだな。魔王軍は優秀な戦力を手に入れたようだ」
「お褒めに預かり光栄です」
なぜかシラヌイがドヤ顔で答えた。僕が勝ったのがよほどうれしかったみたいだ。
なんにせよ、エルフ軍最高戦力との試合は、最高の結果で終われたな。けど……。
「ごめんソユーズ、君の剣、壊してしまったよ」
大剣が折れてしまったのは、ちょっとショックだな。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
【完結】パパ、私は犯人じゃないよ ~処刑予定の私、冷徹公爵(パパ)に溺愛されるまで~
チャビューヘ
ファンタジー
※タイトル変更しました。
「掃除(処分)しろ」と私を捨てた冷徹な父。生き残るために「心を無」にして媚びを売ったら。
「……お前の声だけが、うるさくない」
心の声が聞こえるパパと、それを知らずに生存戦略を練る娘の物語。
-----
感想送っていただいている皆様へ
たくさんの嬉しい言葉や厳しい意見も届いており一つ一つがすごく嬉しいのと頑張ろうと感じています。ご意見を元に修正必要な部分は随時更新していきます。
成長のため感想欄を閉じませんが公開はする予定ありません。ですが必ず全て目を通しています。拙作にお時間を頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる