ブラック企業「勇者パーティ」をクビになったら、魔王四天王が嫁になりました。~転職先はホワイト企業な魔王軍〜

歩く、歩く。

文字の大きさ
80 / 181

79話 いつも家で「あーん♡」してるんですか?

しおりを挟む
 ラズリのワードに対する好意は、何度も暴走していた。
 私とディックはその度に彼女を止めて、ワードが襲われないよう守り続けている。
 調剤薬局を紹介された時には危うくワードが媚薬を飲まされそうになったし、長寿の湖を紹介された時には人気のない所に連れていこうとするし、エルフが使う移動手段、エポナホースの厩舎に来た時なんかは、馬で連れ攫おうとしたし……!

 その度に私らはブレーキをかけたのだけど、これがまた大変すぎる。何しろ相手は山一つを拳でぶっ壊すようなパワフル巫女だ。
 勢いあまって私が媚薬を被り大変な目に遭うわ、こけた私と助けようとしたディックが思いっきり湖にダイブしたし、エポナホースの時なんかは二人で一頭の馬に乗って追い掛け回したし……なんで動ける馬一頭しかいないのよっ!

 ラズリのせいで尻拭いをする度、周りから白い目で見られるし……もう最悪よぉ……!

「あの、シラヌイ様。先程からディックさんとデート気分なのはいかがなものかと……」
「申し訳ありません、ワード大臣……」

 あんたを守る為にこっちは必死こいて戦ってんのよ! 叫びたい気持ちを必死に抑え、私は唇を噛んだ。
 しかもラズリまで呆れた目でこっちを見てくるし……見んな、あんたにだけはその目で見られたくないっ!

「さて、次の場所で一度プログラムを切りましょう。次はエルフの国が誇る生産施設、畑と果樹園です」

 もう心身共にボロボロだ、早く終わってくれい……。
 エルフは菜食主義だから、野菜や果物の生育にはとことんまでこだわっている。森の一部を切り開いて作った畑には野菜の性質に合わせて土や肥料を変え、魔法で0,1度単位での気温管理を行っている。

 例えばキュウリの畑には、しっとりと水分を蓄えさせて、気候も二十四度前後に調整しているけど、トマトの畑にはカラカラの干からびた土に十五度以下の過酷な環境に調整している。トマトはストレスを与える事で実が美味しくなるんだって。

「試食はいかがですか?」

 ワード大臣の御厚意により、いくつか野菜を食べさせてもらう。そしたら、感動の嵐!

「うわ……このキュウリすんごい歯ごたえ! 味も強いし……これ生で食べたほうが美味しいわ!」
「トマトも信じられないくらい甘い、まるで果物だ。青臭さもないし、皮のぷつんと弾ける触感がたまらないな……!」

 なんだか食べるごとに健康になっていくみたい。朝にたべた野菜もおいしかったけど、とれたては格別だわ。

「もしよろしければ、お豆腐も試してみますか?」

 豆腐? エルフが豆腐を作るの?
 豆腐はドレカー先輩の所でも食べたけど、東洋の文化じゃなかったかしら。

「あはは、エルフはたんぱく質を豆でとっていますからね。効率よくたんぱく質を取る方法を模索した結果、豆腐にたどり着いたんです」
「へぇ、そうなんですか」

 菜食主義だと動物性たんぱく質を取れないし、栄養失調になっちゃうものね。
 って事で豆腐を出されたけど、なにこれ?
 ちょっと濁った汁の中に、ぐずぐずの豆腐が浮かんでいる。あれ? 豆腐って固める物じゃなかったかしら。なんか食べるの恐いんだけど……。

「シラヌイ……! これ、食べた方がいい……ドレカーには悪いけど、比較にならない美味さだ……!」
「え、嘘」

 ディックがそこまで言うんだから本当なんでしょうけど、恐る恐る一口。
 そしたら、口の中で豆の旨味が弾ける。鼻を突き抜ける風味も鮮烈で、ドレカー先輩の豆腐がかすんでしまうくらい美味しい。

「なんで、どうしてこんなに美味しいの? なんですかこれ?」
「汲みだし豆腐、と言うんです。本来豆腐は汁を絞って固めるのですけど、その汁が旨味や栄養を持っているんです。保存するには適しませんけど、エルフの国の中で消費する分には問題ないので、この形で食べているんですよ」

 ははぁ……エルフの知恵って侮れないわね。美味しくて栄養もあるなんて最高の食べものじゃない。

「野菜に関してはエルフの方が上だな、残念だけど、この美味さには勝てないや」
「本当だわ……毎日来て食べたいくらいよ」
「お気に召してくれたようでなによりです。では次に果樹園をどうぞ」

 果樹園には、ブドウやリンゴ、ミカンといった果物が栽培されている。一つずつ食べさせてくれたけど、やっぱどれも美味しいなぁ。

「そういや、さっきからラズリが大人しくない?」
「確かに……不気味だな」

 さっきまで散々暴れてくれたから余計に恐く感じる。って事で様子を見ると、彼女はブドウを持ってもじもじしていた。

「……何しているんですか?」
「えっ、あっ、その……今なら彼に「あーん♡」って出来るかなって……ちょっとだけでも、恋人気分を味わいたくて」

 ……さっきまでの暴れっぷりがなければ、素直に応援できるんだけどなぁ……。
 どうもこの巫女、自分の気持ちと力を上手くセーブできてないみたいだ。幼い心に世界を相手取れる力……なんちゅうアンバランスな(汗)。
 けどまぁ、せめて一回くらいは普通に女の子らしい事をさせてやろうかな……一回だけよ? 絶対その先に進めるような事はしないからね。

「ディック」
「わかってる。ワード大臣」

 ディックがワードを連れてきた後、私達で壁を作る。これならスキャンダルも大丈夫でしょう。

「ラズリ様が貴方にしてあげたい事があるそうですよ」
「僕達がフォローしますので、どうぞお気になさらずに」
「え、あの、え?」

 ワードは困惑した様子だった。そりゃ、いきなり意中の相手の前に突き出されたらそうなるわな。
 ラズリも降ってわいたチャンスにドキドキしている様子。さ、今のうちにやりなさいな。
 だけど、待てども待てども動き出さない。どうしたのよ、このチャンス逃すようなタマじゃないでしょうに。

「……あの、すみません……」
「なんでしょう」
「い、今まで過激な想像ばかりしていたので……いざこうなると、どう普通に食べさせればいいのかわからないんですけど……!」

 この抜け作巫女めがぁっ! 目をぐるぐる眼にして顔真っ赤にして、肝心なところで足踏みしてどーすんだ!
 なんでこんな簡単な事が出来ないのよっ! 変に意識するからそうなるんでしょうがっ! ブドウを一個千切ったら、

「ほらディック、あーんしなさい」
「え? シラヌイ、君何をして……」
「四の五の言わずにとっととあーんする! いっつも家でやってるでしょうが!」

 相手の口を開けさせて、ブドウを放り込む。こんだけでしょうが、難しい事なんか何もないじゃない。

「こんな感じで良いんですよ、こんな感じで」
「……あの、随分手馴れていませんか、シラヌイ様……」
「へ?」

 私今、何したっけ? えーっとラズリのポンコツ具合にイラついて、手本を見せようとディックにあーんして、それも大勢の目の前でどえらい事カミングアウトしちゃって……!

「あ、あわ、わわわわ……ぼふんっ!」

 自分のポンコツ具合に大爆発! ラズリの事全然言えないじゃないのよ!

「ディックぅぅぅぅ! あんたの、あんたのせいでぇっ!」
「僕は何も悪くないだろ!? 痛い! 杖で殴らないでくれ!」
「うっさいうっさいうっさーい! 私とあんたは一蓮托生、わたしの責任はあんたの責任でもあんのよぉっ!」
「羞恥心のあまり大暴走しないでくれっ! あ、だめ! 古代魔法はだめだシラヌイ!」

 もう誰かをぶちのめさないと気が済まないのよ、大人しく魔法を受けなさいディック!
 つか、私らが暴れる横でちゃっかりラズリが「あーん♡」成功させてるし! 私の居る意味って何なのよぉっ!?
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】パパ、私は犯人じゃないよ ~処刑予定の私、冷徹公爵(パパ)に溺愛されるまで~

チャビューヘ
ファンタジー
※タイトル変更しました。 「掃除(処分)しろ」と私を捨てた冷徹な父。生き残るために「心を無」にして媚びを売ったら。 「……お前の声だけが、うるさくない」 心の声が聞こえるパパと、それを知らずに生存戦略を練る娘の物語。 ----- 感想送っていただいている皆様へ たくさんの嬉しい言葉や厳しい意見も届いており一つ一つがすごく嬉しいのと頑張ろうと感じています。ご意見を元に修正必要な部分は随時更新していきます。 成長のため感想欄を閉じませんが公開はする予定ありません。ですが必ず全て目を通しています。拙作にお時間を頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...