ブラック企業「勇者パーティ」をクビになったら、魔王四天王が嫁になりました。~転職先はホワイト企業な魔王軍〜

歩く、歩く。

文字の大きさ
100 / 181

99話 結成、ディック・サーカス団

しおりを挟む
「次同じ事したらあんたのボンジリ切り落として食ってやるからね」
『うん、もうしないって約束する。だから足のひもをほどいてくれないか?』

 シラヌイはシルフィを捕まえて、足をひもで縛って逆さづりにしていた。出刃包丁も握りしめていて……おいおい、首を切って活〆にしちゃだめだよ?
 僕は苦笑しつつ、さっきの子シラヌイを思い出した。
 ……めちゃくちゃ可愛かったよな、あの子シラヌイ……好意を全開に表現してくる彼女に鼻血が出そうになる。シラヌイには悪いけど、ナイスだシルフィ。

(後でアップルマンゴーを買ってあげようかな……)
(感謝するぞ色男よ。じゅるり)

 シルフィと心の中でやり取りした後、僕はワードとの話を続けた。

「ドラゴンの攻勢に乗じて、他国から進撃の気配はありますか?」
「今の所は。魔王様が女王様と連携して、情報を上手く隠してくれているようです」

 エルフの国を狙う輩は、結構な数に上る。人間以外にも、この大陸各地にある勢力から、世界樹の力や希少種族エルフを簒奪しようと謀る勢力は多いのだ。
 ドラゴンとの戦いが知られれば、その隙にエルフの国を掠め取ろうとする勢力は沢山出るはずだ。乱戦になれば、エルフの国に未来はないだろう。

「流石は、魔王だな。ちゃんと先々を見据えて行動している」
「あえて人間軍を挑発して、エルフの国以外にもドラゴンの戦線を伸ばす事で、奴らの狙いが分からないようにしているみたいね。仮にわかっても、ディアボロスが出張る戦場に出てくる物好きはいないでしょうし」
「確かに、遠方から見張っていても、戦いの余波で全滅しかねないしね」

 実際、ラズリとの戦闘では三つの山が消え去った。あれじゃあ、近づきたくても近づけないだろうな。

「僕も各所と連携して、国外の情勢に対応しています。ラズリ様のように前線には行けませんが、文官には文官の戦いがあります。例え隣に立てなくても、僕は皆さんと共に戦います」

 子供のような外見だけど、男らしいな。ラズリが惚れるのも分かる気がする。堂々と胸を張り、しっかり僕達を見据える彼は、一人の戦士だ。

「ただ、ディアボロスが動くとなると、人間軍と魔王軍の戦線が活発化するだろうな。ディアボロスが攻めれば、各地の戦線が一気に活性化するだろう?」
「間違いなくね。リージョン達も要所に配置されたみたいだし……多分あんたが入軍してから、一番の山場になると思うわ。フェイスも本腰入れて攻めてくるみたいだしね」

 予感はしていたけど、きつい戦いになりそうだな……。

「ま、悩んでいてもしょーがないんじゃね? どんなに恐がっても、嫌な事ってのは襲い掛かってくるもんだ」

 険しい顔をする僕に、ワイルは肩を叩いて、にかっと笑った。

「ならさ、受け入れるしかねぇよ。そんでもって、笑って立ち向かえばいい。暗い顔してちゃ、悪い運命に食われるだけだ。だから、辛い時、苦しい時ほど笑って挑みな。そうすりゃ、幸運の女神様がきっと助けてくれるさ」
「盗賊が運命の女神を当てにするとはね。けど、励ましてくれてありがとう」
「なぁに、あんたの彼女が散々っぱら笑わせてくれたお礼だよ」
「あんた焼き殺すわよ」

 シラヌイが真っ赤になって炎を出した。急いでワイルは僕の後ろに隠れる。
 茶目っ気強い奴だよ、まったく。

「笑う……そうだ、皆さんに相談したい事がもう一つあったんです」

 ワードは困った顔で、

「住民達は近日中に、世界樹の地下にある避難所へ再度誘導させる予定なんですが、どうもドラゴンの侵攻に強いストレスを感じているようで……体調不良を訴える者が続出しているんです」
「そっか、ディアボロス、凄く恐かったもんね。あんなのがまた襲ってくるんじゃ、皆怖がっちゃうよ……」

 ラピスも暗い顔になった。放置すれば、最悪暴動に繋がる事態になりかねないな。
 ドラゴン達が次に攻めてくるのは、計画書によれば三日後だ。まだ多少の猶予はある。その間にエルフ達を安心させる行事が出来ればいいんだけど……。

「楽隊でも呼んでジャズでも弾かせるか?」
「こんな困窮した時に来れる楽隊なんか居ないでしょ。手軽なのは炊き出しだけど、それだけじゃちょっと弱いわよね」
「となると、それに加えてもう一つ、催しを行うべきですね。うぅ……私は戦う事以外はからっきしだから、こういうのはいいアイディアが……」
「ラズリってガチガチさんだもんねぇ。けど私も娯楽に関してはあんまりだし……格闘技なんて余計に不安煽りそうだもんなぁ」
「時間も限られていますから、演劇などの大掛かりな催し物も苦しいかと……」

 皆で色々意見を出し合うけど、中々決まらない。
 なるべく短時間で仕上げられて、なおかつエルフのストレスを和らげるものか……そう思った時、僕の頭に一つの案が浮かんだ。

「……大道芸とか、どうだろうか」
「大道芸? それの方が余計に無理でしょうが」
「いいや、そこまで難しく考える必要はないさ」

 僕は手近にあった文鎮や爪楊枝入れなどを手に取り、ジャグリングを披露した。
 母さんが昔教えてくれた、お手玉って遊びだ。片手ずつで回したり、股越しに放ったり、背面キャッチやリフティングでの軌道変更を交えれば、変幻自在の大道芸の完成っと。

「こんな感じに、自分の特技を活かせばそれっぽく見えるはずだ。ワイルだって、盗みの技術を見せればみんな驚くんじゃないか?」
「なぁるほど、悪いアイディアじゃねぇな。ずっとシリアス続きだったし、ここらで遊んで一息つくのも一興か」

 ワイルはかなり乗り気だ。そしたら当然ラピスも手を上げ、

「はいはーい! 世界樹の力を使えば、私も面白い事出来るよ! ラズリと一緒にやってる遊びもあるから、それ見せたら皆喜ぶと思うよ!」
「わ、私も、演武くらいならできます……!」
「いいですね、即席サーカス団だ。エルフ軍の騎馬隊も馬術のパフォーマンスが出来ますし、早速当たってみます」

 着々と準備が進み始めている。大戦がはじまる前の小休止だ、ちょっとだけ戦いから頭をそらした方が、僕達にも丁度いいだろう。

「……どうしよ、私なんもできないんだけど……」

 そんな中で、シラヌイだけが立ち尽くしていた。
 彼女は驚くほど不器用だ、炎魔法以外の事柄に関しては、からっきしを通り越してポンコツの領域に達している。
 炎魔法をそのまま見せても、多分あまり驚かれないだろう。なんらかのエンターテイメント性を含んだ演出が必要だ。
 ライオンとかが居れば、彼女の炎魔法を駆使して火の輪くぐりとかが出来るんだけど、エルフの国にそんな猛獣なんかいないし……。

『ふっふっふ、そんな時こそ幻術よ』

 困っているシラヌイに、シルフィが助け船を出した。

『さっきは悪ふざけが過ぎたが、今度はきちんと協力してやる。貴様が得た新たな魔法、幻術の真骨頂を、大道芸とやらで披露してやろうではないか』
「……ごめん、全く信じられないわ」
「同じく」
『あんれまぁ』

 シルフィはしょぼんとうなだれた。そんな反応するなら余計な悪ふざけをしなければいいのに。
 ともあれ、ドラゴンの前にエルフ達の心を救わないと。短時間なら大丈夫だろうし、念のため、応援も呼んでおこうかな。
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。 2/26 番外編を投稿しました。 読んでいただけると嬉しいです。 思っていたよりずっとたくさん読んでいただいていてとても嬉しいです。 とてもとてもありがとうございます!!   

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...