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172話 終わりの始まり。
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作戦開始の時間が近づいている。
魔王城にはドレカーの船ハバネロが停泊し、さらに陽動用のジョロキアも全船用意されている。彼が指揮を執るなら、心配は何もない。何しろドレカーは、宇宙一の男なのだから。
「足の準備は私に任せておきたまえ。ハバネロはいつでも出航できるよう整備しておくよ」
「ごめんドレカー。引退している身なのに、こんな無茶をさせて」
「無茶でもなんでもないさ、このような状況で後ろに下がっている方がむしろ落ち着かないからな」
「先輩……心強いです、本当に」
「ふっ、背中は宇宙一頼りになる男、イン・ドレカーに任せておけ。手遅れになる前に、なんとしてもエンディミオンを止めねばならんからな。して、無事に戻った後の事なのだが。是非とも式は妖怪リゾートで挙げるといい」
不意打ちに僕らは赤くなった。このごたごたの中で何言ってんだよ。
「いやいやいや先輩! 状況を考えてくださいよ、そんな呑気に構えている場合じゃ」
『つい先日までディックにへにゃへにゃだった貴様が何を言うか』
「へにゃへにゃ違う! ただデレデレしてただけ!」
『何か違いあるのかそれ?』
無いな。ああもう、めちゃくちゃだよ。
「はっはっは! 少しは肩の力が抜けただろう? あまり肩ひじを張っていては、本番で力を出し切れないぞ」
「はは、確かに。式に関しては、考えさせてもらうよ」
妖怪リゾートにはポルカもいる事だしな、彼女にもシラヌイの晴れ姿を見てもらいたいし、いいかもしれない。
そんな話をしていたら、ポルカに会いたくなってきたな……。
「ハバネロの通信室へ向かうといい。そこにケイ君が居る、家族と話しているはずだよ。ポルカもきっと、顔を見たいはずだ」
「ん……ありがとう、ドレカー」
「行ってみます」
という事で、ケイの所へ向かう。そしたら丁度、彼は家族と話しているところだった。
『あ、お兄ちゃん!』
「ポルカ! 元気にしてた?」
ポルカを見るなり、シラヌイが真っ先に飛んでいく。ポルカも彼女と話せてはしゃいでいて、微笑ましい光景だ。
「やっぱり、ポルカが随分懐いているな。思えば、ポルカを保護してくれたのがきっかけで、俺達は知り合えたんだよな」
「うん、煌力の習得とハヌマーンの覚醒、どちらもケイが居なかったら出来なかった。ケイのおかげで、何度も窮地を乗り越えられたよ」
「なぁに、それを活かしたのはディックだろ。謙遜する事はない、自信を持てよ」
ケイに胸を叩かれた。技の師匠にそう言われると、ちょっと嬉しいな。
『ケイ、エンディミオンの状態はやっぱり』
「ああ、最悪の状況だ。放置すれば、アスラの所にも被害が来るだろう。なんとしても、止めてみせるさ。家族のためにもな」
『気を付けて。私、待っているから。必ず戻ってきてね』
「勿論」
通信機越しにケイはキスをした。仲がいいな、やっぱり。シラヌイともこうした家庭を築ければいいな。
『お姉ちゃんとお兄ちゃんも、またポルカと遊んでね。約束だよ。絶対また、ポルカに会いに来てよ』
「わかった、それじゃ、指きりをしようか」
僕らは通信機越しに指を出し、ポルカと約束した。
「僕とシラヌイは、必ずポルカと会うよ。だから、すぐにこの事態を終わらせる。絶対、絶対約束する」
「だから、待っていて。ポルカが待っていてくれれば、私達も頑張れるから」
『うん!』
ポルカとの約束が力をくれる。戻らなきゃならない理由がまた一つ、増えたな。
◇◇◇
ハバネロから出ると、またしても援軍がやってきていた。
「よう、俺がこうして何度も顔を見せるのは、中々レアだぜ二人とも」
「ワイル。それに……ラピス様」
「こんちわー。来ちゃいました」
もう一人の世界樹の巫女、ラピスまで。それにエルフ軍も大勢来ている。エルフの国の守りはいいのか?
「ちゃんと陛下からの許可は貰ってるよ。勿論危なくなったらすぐに退避するけど、それまでは私も陽動に参加する。こんな状況なのに、勿体ぶってる場合じゃないでしょ」
「姉様と私、世界樹の巫女姉妹が全面的にサポートします。だから心置きなく、戦ってください」
「これほどまでに心強い援軍はないな……ワードは?」
「彼は、流石に後ろに下がってもらっています。彼には事が終わった後、文官としての仕事がありますし。体力を温存してもらわないと」
「別の意味でも温存してもらわないと困るんじゃないのぉ?」
ラピスに指摘され、ラズリが赤らんだ。……いや、ちょっと待て。
「お言葉ですが、貴方まだ巫女ですよね」
「流石に手を出しちゃまずいんでは?」
「ち、違います! ただ……時々抱き枕になってもらっているだけでそれ以外に手を出しては決して!」
きっちり手を出してんだろうが。ワードも可哀そうに、凶悪なお預け食らったらそりゃ心が削られるわ。
「にしても、戦い終わった後の事をもう考えてるのか。捕らぬ狸の皮算用にならなきゃいいけどな」
「けどそれも大事ですよぉ。負ける事考えるよりも勝つ事を考えなくちゃ」
ラピスはラピスでワイルにすり寄っている。頭の中がピンク色な上に自由すぎるだろこの姉妹。
「だからワイル様ぁ、勝ったら一度エルフの国に戻って私に会いに来てくださいねぇ」
「わーったわーった、約束するから離れてくれ。……ディック、それにシラヌイも。互いに心残りのないようにしような。残った時間はそう多くない、今のうちにやりたい事があれば、やっとくべきだと思うぜ」
「ああ、そうだね」
あと、二時間くらいかな。その間にしたい事……うん、一つしかない。
「シラヌイ、一緒にバルドフを回らないか?」
「え? あ、うん……じゃあ」
シラヌイの手を取り、僕はバルドフへ足を向ける。
行く前に一度、帰るべき場所を見ておかないとな。
魔王城にはドレカーの船ハバネロが停泊し、さらに陽動用のジョロキアも全船用意されている。彼が指揮を執るなら、心配は何もない。何しろドレカーは、宇宙一の男なのだから。
「足の準備は私に任せておきたまえ。ハバネロはいつでも出航できるよう整備しておくよ」
「ごめんドレカー。引退している身なのに、こんな無茶をさせて」
「無茶でもなんでもないさ、このような状況で後ろに下がっている方がむしろ落ち着かないからな」
「先輩……心強いです、本当に」
「ふっ、背中は宇宙一頼りになる男、イン・ドレカーに任せておけ。手遅れになる前に、なんとしてもエンディミオンを止めねばならんからな。して、無事に戻った後の事なのだが。是非とも式は妖怪リゾートで挙げるといい」
不意打ちに僕らは赤くなった。このごたごたの中で何言ってんだよ。
「いやいやいや先輩! 状況を考えてくださいよ、そんな呑気に構えている場合じゃ」
『つい先日までディックにへにゃへにゃだった貴様が何を言うか』
「へにゃへにゃ違う! ただデレデレしてただけ!」
『何か違いあるのかそれ?』
無いな。ああもう、めちゃくちゃだよ。
「はっはっは! 少しは肩の力が抜けただろう? あまり肩ひじを張っていては、本番で力を出し切れないぞ」
「はは、確かに。式に関しては、考えさせてもらうよ」
妖怪リゾートにはポルカもいる事だしな、彼女にもシラヌイの晴れ姿を見てもらいたいし、いいかもしれない。
そんな話をしていたら、ポルカに会いたくなってきたな……。
「ハバネロの通信室へ向かうといい。そこにケイ君が居る、家族と話しているはずだよ。ポルカもきっと、顔を見たいはずだ」
「ん……ありがとう、ドレカー」
「行ってみます」
という事で、ケイの所へ向かう。そしたら丁度、彼は家族と話しているところだった。
『あ、お兄ちゃん!』
「ポルカ! 元気にしてた?」
ポルカを見るなり、シラヌイが真っ先に飛んでいく。ポルカも彼女と話せてはしゃいでいて、微笑ましい光景だ。
「やっぱり、ポルカが随分懐いているな。思えば、ポルカを保護してくれたのがきっかけで、俺達は知り合えたんだよな」
「うん、煌力の習得とハヌマーンの覚醒、どちらもケイが居なかったら出来なかった。ケイのおかげで、何度も窮地を乗り越えられたよ」
「なぁに、それを活かしたのはディックだろ。謙遜する事はない、自信を持てよ」
ケイに胸を叩かれた。技の師匠にそう言われると、ちょっと嬉しいな。
『ケイ、エンディミオンの状態はやっぱり』
「ああ、最悪の状況だ。放置すれば、アスラの所にも被害が来るだろう。なんとしても、止めてみせるさ。家族のためにもな」
『気を付けて。私、待っているから。必ず戻ってきてね』
「勿論」
通信機越しにケイはキスをした。仲がいいな、やっぱり。シラヌイともこうした家庭を築ければいいな。
『お姉ちゃんとお兄ちゃんも、またポルカと遊んでね。約束だよ。絶対また、ポルカに会いに来てよ』
「わかった、それじゃ、指きりをしようか」
僕らは通信機越しに指を出し、ポルカと約束した。
「僕とシラヌイは、必ずポルカと会うよ。だから、すぐにこの事態を終わらせる。絶対、絶対約束する」
「だから、待っていて。ポルカが待っていてくれれば、私達も頑張れるから」
『うん!』
ポルカとの約束が力をくれる。戻らなきゃならない理由がまた一つ、増えたな。
◇◇◇
ハバネロから出ると、またしても援軍がやってきていた。
「よう、俺がこうして何度も顔を見せるのは、中々レアだぜ二人とも」
「ワイル。それに……ラピス様」
「こんちわー。来ちゃいました」
もう一人の世界樹の巫女、ラピスまで。それにエルフ軍も大勢来ている。エルフの国の守りはいいのか?
「ちゃんと陛下からの許可は貰ってるよ。勿論危なくなったらすぐに退避するけど、それまでは私も陽動に参加する。こんな状況なのに、勿体ぶってる場合じゃないでしょ」
「姉様と私、世界樹の巫女姉妹が全面的にサポートします。だから心置きなく、戦ってください」
「これほどまでに心強い援軍はないな……ワードは?」
「彼は、流石に後ろに下がってもらっています。彼には事が終わった後、文官としての仕事がありますし。体力を温存してもらわないと」
「別の意味でも温存してもらわないと困るんじゃないのぉ?」
ラピスに指摘され、ラズリが赤らんだ。……いや、ちょっと待て。
「お言葉ですが、貴方まだ巫女ですよね」
「流石に手を出しちゃまずいんでは?」
「ち、違います! ただ……時々抱き枕になってもらっているだけでそれ以外に手を出しては決して!」
きっちり手を出してんだろうが。ワードも可哀そうに、凶悪なお預け食らったらそりゃ心が削られるわ。
「にしても、戦い終わった後の事をもう考えてるのか。捕らぬ狸の皮算用にならなきゃいいけどな」
「けどそれも大事ですよぉ。負ける事考えるよりも勝つ事を考えなくちゃ」
ラピスはラピスでワイルにすり寄っている。頭の中がピンク色な上に自由すぎるだろこの姉妹。
「だからワイル様ぁ、勝ったら一度エルフの国に戻って私に会いに来てくださいねぇ」
「わーったわーった、約束するから離れてくれ。……ディック、それにシラヌイも。互いに心残りのないようにしような。残った時間はそう多くない、今のうちにやりたい事があれば、やっとくべきだと思うぜ」
「ああ、そうだね」
あと、二時間くらいかな。その間にしたい事……うん、一つしかない。
「シラヌイ、一緒にバルドフを回らないか?」
「え? あ、うん……じゃあ」
シラヌイの手を取り、僕はバルドフへ足を向ける。
行く前に一度、帰るべき場所を見ておかないとな。
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