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37話 ロボットの現実

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 体を手にしたら、ずっとやってみたい事があった。
 サヨリヒメと共に街を歩く。ずっとスマホに閉じ込められていた頃から、憧れていた光景だ。
 救と御堂が保護者としてついて来て、後ろを歩いている。何しろこの体は5時間しか活動できないのだ、動けなくなったらサヨリヒメでは回収できない。救の馬鹿力が頼りだ。

 クェーサーは仁王駅前にやってきていた。自分の足で歩く世界は大きくて、広くて、カメラに映る全てが新鮮だ。
 ただ、奇異の目が四方八方から向けられる。ヒロイックな外観の二足歩行ロボットが街中を歩いているのだから当然だ。
 瞬く間にSNSで拡散され、一躍話題になってしまう。でも、大勢の輪に入れたようで、悪い気はしなかった。

「クェーサー、どっか行きたい所はあるのか?」
「特には。ただ歩けるだけでも、私にとっては喜ばしいので。ですがそうですね、行きたい所ですか。映画館に、興味があります」

 サヨリヒメと一緒に行った映画が忘れられない。出来ればちゃんと体を伴って入りたいものだが。

「クェーサーじゃと、料金は何になるんじゃ?」
「……ロボット料金はありませんよね」
「ドラえもんの世界だったらあるだろうけどなぁ」
「一応私器物ですから、無料で入れたりは」
「いや、映画館だと盗撮を疑われる可能性があるね。何しろクェーサーはリアル映画泥棒みたいなものだし」

 映画上映前に流れるカメラ男のアレだ。

「スーパー銭湯も、そもそも風呂入れないしな」
「湿度が高い環境は故障の原因になります」
「博物館とかも撮影禁止の場所では入場できないだろうね。そうなると行ける場所はかなり搾られるのか……」

 御堂ですら行き先に悩んでしまう。自律行動可能な二足歩行ロボットなんて未だ世に出ていない奇想天外な存在だ、そんなマイノリティな奴が楽しめる場所なんて。

「ならゲーセンはどうじゃ?」
「いいかもな! ってかクェーサー金あんの?」
「仮想通貨で増やしていますので」
「ちゃっかりしてるね君」

 という事で向かったが、ゲームセンターにおいて、クェーサーは最強だった。
 何しろ人間やあやかしと違いロボットだ、正確無比な行動に置いて右に出る者は居ない。ガンゲーをやれば百発百中、音ゲーもパーフェクト、クレーンゲームも狙った獲物は逃がさない。
 クェーサーの無双に客達から歓声が上がり、噂を聞きつけて大勢が詰めかけた。胸の羽山工業のロゴマークもあり、会社の絶大な宣伝にも繋がった。

 多くの人やあやかしから称賛され、気分が良かった。周囲との繋がりを感じられて、嬉しかった。
 なにより、その歓声の中に、サヨリヒメと共に居られるのが、嬉しかった。
 この時だけの話だが。
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