Deep Heart

輝拓

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友人の時間

まさかの場所

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「…着替えたら合流すっか?」



「オレ、帰る…明日ちゃんと謝るよ」



トイレから出ると拓也はTシャツを脱いだ。
それもそうだ。
シャツの色が変わってしまうくらいの汗。

オレとは違う締まった男らしい身体にドキっとした。

あの身体に抱きしめられてたんだ…と一瞬くぎ付けになってしまったからだ



あの後
ギクシャクしてしまうかと思ったのに
拓也は何もなかったみたいに普通で何も聞いてこない

それがまた不安で緊張する。


拓也は忘れていた携帯を出すと友人からの連絡が何回もあったのを教えてくれた。
気まずいに決まってるし
正直、身体も心もヘトヘトだった。


「じゃぁ送って行くから着替えておいで?」


何処と無く拓也の口調が優しくなってるのはオレの気のせい…?


「えっいいよ!大丈夫…一人で帰れるから!」


「いいから…先に車で着替えてて?
俺一服して行きたいから後で車に行く」


一度、拓也にタバコ止めたら?と学校の喫煙所について行った時に言ったことがある。
仕事場は男だらけで
休憩中はほとんど皆が喫煙所に向かって行く
その為にコミュニケーションで始めたタバコだったけど今はもう止められないと言っていた。
でも、吸っている姿が様になっていて
やっぱり大人の男性なんだなぁと羨ましく見ていた。

オレが裸を見られたくないって知ってて
わざと先に一服…なんて言ってくれる気遣いにも大人の何かを感じた。



「言うこと聞け
キー渡しとくから先に行ってな?」

と突き出されたキーを受け取って黙って頷いた。
今日だけ…今日だけ甘えさせてもらおう。
そう思っていると気持ちを汲んでくれたように
拓也が優しい手で頭を撫でてきてくれた。

もう少し…このまま…と目を細めてしまうと拓也の小さな笑い声だけが聞える。







ひと足早く拓也の車に向かい着替え始めた。
汗で湿る服は脱ぎにくくて拓也がその間に戻って来るじゃないかと焦って着替えたのに拓也は一向に来ない。

でも着替え終えて助手席で待ってる間考えてた。

初めて人に抱きしめられた感覚が忘れられなくて拓也を意識してしまいそうな自分が怖い
この感覚に身に覚えがあったから…


ただパニック起こした自分を介抱してくれただけだ


なにより拓也はゲイじゃない
バレたら気持ち悪がられて一緒にいれなくなる。

一度経験した…
傍にいるから嬉しいのに気持ちが言えないで苦しむ
傍にいたいから苦しむ辛さ
苦しいけど傍にいたい辛さ


過去の記憶がチラリと顔を覗かせてきて
たまらず窓に頭を預けて目を瞑った。


拓也とは絶対にそんな関係になりたくない
一緒にいたい
普通でいられる友人と言う楽しいポジションのまま…

一番見られたくないとこを見られて優しくされたから嬉しくて勘違いしてるんだ。
明日になればまた普通に思える。



「大丈夫か?」


はっっと息を飲んだ。
声がした隣りに勢いよく顔を向けると拓也が運転席に乗り込もうとしていた。
ドアが開く音に全く気づかなかった。


「あ…大丈夫、ちょっと考え事」

「そっか、ほれ」


運転席に着いた拓也にペットボトルを渡された。
オレがいつも飲んでるもの…

「ありがとう…」

「ん…大丈夫だな?」

ポンポンと軽く撫でられた頭


たった今さっき言い聞かせてたのに嬉しいなぁとニヤけそうになる自分にショックを受けて頷くしか出来なかった。

身長が高い拓也は誰彼構わず人の頭を撫でるまでもないポンポンと優しく叩くことがただあった。
昨日まではそれを何も思わないでいたのに
変わった自分にショックだった…


「コンビニまで行ったんだ」

「喉乾いてたから調度良かったから、飯は?」

「大丈夫、帰って食べるよ」

「…帰らないと無理そう?」

「え…なんで…?」

「光…海に行こ!」

「はぁ?!」

こっちにくるっと顔を向けた拓也は二カッと笑ってエンジンをかけた。


「海?!なんで!」

「ぶっちゃけ言う
こんなことがあった後で明日から普通に戻れるか?」

「……分かんない…」

「だろ?
だったら遊びに行ってスッキリしよう
身体辛いなら本当に帰るし…どうしたい?」


「……行きたい…」


「よしっじゃぁ着くまで寝てろ
東京の海なら1時間ちょい掛かるか掛からないで着く」

「うん…」

言われてすぐに拓也に背を向けて身体を倒した。


こんなに優しくされたのは初めてだった
それが嬉しくて嬉しくて…


くそっ泣くな!泣くな!



拓也にバレたくなくて慌てて背中を向けたのに
拓也は出発する直前に今度は本当に撫でるように頭に触れてくれた。


あぁ…なんでもお見通しなのかもしれないなぁ…


「たく…あの…本当にありがとう…」


それでも堪えて言うと拓也はまた頭をよしよしと撫でた。
それが嬉しくて気持ち良くてそのまま本当にウトウトとオレは眠ってしまった。








海…


海に行ったことは無かったから見てみたいと思った。
でも海に着いたらどういう所か分からないし
海の近くに何があるのかも分からない…
ただ…これだけはハッキリ分かった。




ここは海じゃない。






数分前
拓也が誰かと話をしてる声で目が覚めた。
ぼ~っと拓也を振り返ると拓也は窓を開けて女の人と喋っていた。


ドライブスルー?
海の駐車場?
高速道路の料金所?


呑気にアクビをして車が向かう先を見つめていた。
海の駐車場ってスゴくデカいんだなぁ…と


誘導をする棒を振って止める場所を教えてくれてる女の人
こっちには男の人


海って凄いなぁ…
駐車場だけでこんな人数で案内すんだ…


「起きたか?着いたぞ!光!」

「うん…ごめん…爆睡してたからまだボーッと…


「目バッチリ覚ますから大丈夫だ!」


なんかめちゃくちゃ嬉しそうな拓也
声が何処と無くはしゃい出るように少しテンションが高い気がした。



止まった車から降りて
オレは本日2回目のパニックを起こしそうになった。


降りた瞬間に上品な放送案内が流れていた。
日本語の案内が終わると英語訳に変わる…


誘導棒で案内してくれていた女の人が満面の笑みで話掛けてきた。




「ようこそ!東京ランドへ!」


ここは海じゃない
海だけど海じゃなかった。




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