Deep Heart

輝拓

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友人の時間

隠し事5

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遠くで聞こえる車の行き交う音。
トイレを過ぎ去って行く足音と声。


直ぐ近くで聞こえる光の息遣い。


 

世間とは別世界の空間にいるみたいだ。



苦しそうながらも真っ直ぐ俺を見てきた光の目に正気に戻ったのが分かった。
嬉しくて安心して思わず抱きしめ直した。

球技大会で汗かいて
全力で追いかけっこして汗かいて
狭い空間で抱き合って汗かいて
気持ち悪いくらい臭い…はずだった…
なぜか嫌悪感がこれっぽっちも湧かない


自分でも分かるくらい汗で服は湿ってる。
そんな服に光を押し付けていた。
臭いし気持ち悪いのを知ってて
なのに離せなかった。


しばらくして光が身じろぐのが分かった。

あ…だよなぁ…と思い腕を緩めると

そろそろと光の腕が背中に回されて来た。
しがみついて来た腕とは違う背中に添えるように…

「もう少しだけ…」

小さな声が聞こえた。


「うん…」

内心はビックリし過ぎて一瞬息を飲んだ。
冷静になった今
異様で尋常じゃないこの状況

狭いトイレの個室の地べたで
汗だくの男同士が抱き合ってる。 


ありえない…と思うのが一般だろ?

なのに光はもう少しと言ってきた。
なのにどこか嬉しい自分がいた。
どうかしてるぞ自分…と焦る。

そうこうしている間に
光が俺の胸にすりっと頬擦りをしてきた。

なんだよ…可愛いなぁ…と思ってしまった自分に焦る。


「臭くない?」

「全然…安心するんだ…」

そ…そうですか…


さっきまであんなに激しくて乱暴な抱擁し合ってたくせに緊張して行く


「たく…拓也…」



ちょっと待て…


背中に添えられていただけの光の腕がキュッと力が入る



待て待て…



さっきの死闘にも似た緊迫感から
180度も一変したこの空気



待て待て待て待て……


誤魔化せないほど明白で今度は俺がパニックに陥りそうになる。


光に…男にときめこうとしている…




「ごめん…ごめんね…」


「謝らなくても大丈夫だって」


時折、鼻をグスンッッとすする音がした。
めちゃくちゃ泣いたからなぁ
と、片手を光の顔に触れ様とすると
光自ら顔を手に擦り寄せてきた。


もう止めてくれ…



分かってる
光は傷心しきって俺に拠り所を求めてるだけ
なのに自分は男にドキドキし始めてる変態になってしまった。



「ごめん…怖かっただろ?キモかっただろ?」

「んなことないって…」

「いつか…話すから…拓には聞いてほしい…」

「ん…分かった。」

「ありがとう…」


切実に思って伝えできてくれてる光に対して
よく分からない罪悪感

その瞬間、光がゆっくりと俺から離れていく
久しぶりの自分だけの体温
やっぱり涼しく感じて現実に引き戻された。

先に立ち上がった光に手をさし伸ばされて
その手を掴んで立ち上がればいつもの身長差で光が目線の下にいる。

ちょっと顔を見ようと屈むと
今だに涙目で目も鼻も真っ赤な光が笑った。



光が笑った。



人が笑うのは当たり前なんかじゃないと教えられた。


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