陰キャ貧乏女子高生の成り上がり~借金回避するためにはフォロワー一万人をゲットせよ!~

すだもみぢ

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第一話 私はただ早く帰りたかっただけなのに

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「金がないというのなら、俺の言うことを聞いてもらうよ」

「……そ、それって脅迫ですか?」


 目の前のイケメン男性は、口の端に嫌な笑みを浮かべている。
 頭の中で、エンコーだのパパ活だの身の危険を感じるワードがぐるぐると回っていたが、肩をすくめて首を振られた。

「言っておくけど、俺は女子高生に性的な興味を持つ人種じゃないからね」

 私の考えが読めるのだろうか、この人は。でもよかった。良識ある大人らしい。一応。
 しかし、次に彼が口にした言葉で、目の前の人物は常識が欠けてる大人だということがわかった。

「君はこれからSNSでインフルエンサーとなって、二木本航大を応援してほしい。期限は三カ月。それ以内に一万人にフォローされてくれ」

「はいいいいい!?」

 少しでもSNSを触ったことのある人間なら、この人が言ってる事が無茶ぶりだとわかる。
 そんなの無理だろ!?と必死になって抗議するが、目の前の男は「じゃあ、金払ってよ」とけろりというのだ。この金がないというのを背負って歩いているような私に!
 目の前が暗くなってきた。

 ……なんでこんなことになったんだろう。

 つい2時間ほど前までは、私は貧乏で陰キャではあるが、普通の女子高生であったのに。





「バカじゃん、ほんとに来てんの」
 
 通用門は通用門だというのに、利用する人がほとんどいない。
 門を覆い隠すように柳の木がかぶさり、シーズンになると毛虫が大発生するのでも生徒に嫌われている。

 真島浩司なる男性から呼び出しを受けているというからそこまで足を運んだのだが、そこに男性の姿は見えず、いたのは女生徒たちだけだった。

「お前なんかをコージが相手するわけないだろ」
「だっさー」
「期待して来てまじウケるぅ」

 じーっと彼女たちを見て、右を見て、左を見て、周囲を見渡し、真島なる人物がいなさそうなのを確認する。

 この状況はあれだろうか。
 告白を装って本気にしてのこのこやってきたのを笑うというお遊びだろうか。
 なんて暇なんだろう……羨ましい。その時間分けてほしい。
 とりあえず、事実確認をしようと声を掛けた。

「私を呼び出したのは、貴方達なのかな? 用事がないなら、私、もう帰っていいかな?」
「しほちゃん、怒ってるぅ~?」
「きゃははは、かわいそぉ~」

 お話している最中に失礼かと思ったが、ポケットからスマートフォンを取り出すと時間を確認する。
 今日は近所のスーパーが特売で、卵が1パック98円で売っているのだ。
 よかった。用事が早く済みそうだから、今からなら間に合いそう。
 しかし、そんな風に私が気もそぞろな様子だったのがどうもお気に召さなかったらしい。

 大体、呼び出しの手紙も大事な話がある、という書き方がズルいと思わないかい?
 後ろ暗い陰キャなんて、びくびくしながらどんな脅迫があるんだろうと思うものだ。 
 陽キャの皆さんは知らないのだろうが、陰キャは自分というものを知っているのだよ。

 普段の自分を知っているから、この私にコクるような存在は老若男女、犬猫なんて生ぬるい。脊椎動物のうちになんて存在するなんて思ってもいない!
 無表情の裏側で『よかったー! 学校に内緒でバイトしていることを脅迫されるわけじゃなかったんだー』と思っているだなんて、きっと思ってもみないのだろう。

 それと…………。今、この状況は相当怖い。だから警戒して彼女たちから距離を取っている。

 集団で囲まれて、カツアゲでもされたら、ただでさえ赤貧の我が家は飢え死にする。
 私が怪我でもさせられて働けなくなったら、母が病気で働けなくなっていて、私のバイトで賄っている家計が破綻する。そんな細い綱渡りの中で生きているのだ。

「もし真島浩司くんなる人が来ても、私が来ていたことを証明してね。よろしく」

 義務は果たしたから、さぁスーパーに行こう。
 四時からの特売に間に合わせなければ。

 用事は済んだと油断し、そして私はさらに間違えた。私の態度は彼女たちのプライドを傷つけてしまったのだ。
 ここで屈辱にまみれた顔をして見せればよかったのだろうけれど、生憎私は空気は吸うもので読めない人。
 
「お高くとまってるんじゃないよ!」

 手近にいた小出さん……だったかな? 相手の名前もうろ覚えという時点で、私のクラスメイトへの認知の薄さも物語っているのだけれど……に背を突き飛ばされ、通用門の先にある狭い歩道も突き抜け、車道に勢いよく外に飛び出してしまった。

「げっ」

 そこに現れた大きな物体。最近はやりのハイブリッドカーとかいうやつなのだろうか、全然車の音が聞こえてなかったから、車が通行しているなんて気づかなかった。

「危ない!!」

 誰かの声がしたけれど、慣性の法則の支配下の元、物体は急には止まらない。

 キキーッというブレーキの音と、それより大きなガシャン!!という大きな音。
 腹の辺りに大きな衝撃が走る。それにぐえっと我ながら乙女らしくない声を上げてしまった。
 私、死ぬのかなと思いながらも腹を押さえ、道路の脇にうずくまった。
 異世界転生するならきっとこのタイミング、とか変なことを考えた。

「何をしてるんだ!」

 低い男の人の怒気混じりのその声に。

「やばい、逃げろ!!」

 息を飲んでみていた彼女たちが悲鳴を上げながら逃げて行く。
 その去っていく数人の足音に、ちょっと待てよ、あんたら! と置いていかれた怒りがわいたのは当然だろう。
 助けろよ!クラスメイトだろ! クラスメイトでも顔と名前も一致してないけどね!

「君、大丈夫かい?」

 そう訊かれた言葉に、呻きながらも答える。

「あ、はい……」
「よかった、意識はあるようだね」

 車から降りてきたその人は、自分にハンカチを差し出した。
 先ほどの怒声とは違い、自分に向けられた言葉はひどく優しくてほっとする。
 ハンカチを持ち歩いているなんてマメな男性だな、と皺になってもわからないハンドタオル派な自分はそう思う。アイロンがかかってぴしっとなっているハンカチを遠慮なく握りしめて冷や汗を拭いた。
 しばらく下を向いてうずくまっていたが、そうしていれば徐々に痛みが取れてきて、周囲を見る余裕がわいてくる。
 高そうな車のフロント部分が、電信柱にぶつかって凹んでいるのが見える。頑丈な車なのだろうか。自分を避けてぶつかったわりには、それほどダメージがなさそうにも見えるが。
 車にご縁のない人生で、車に対してまるっきり知識がないからわからないのだけれど。

「警察と救急呼ぶから動かないで」

 自分が元気になったせいか、別に後ろ暗い生活を送っているわけでもないのに、警察という言葉を聞いて口の端を引きつらせてしまった。
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