霧の魔女と青銀の翼

祥々奈々

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霧の魔女

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 発熱と悪寒が同時にやってくる、カチカチと歯が鳴ってしまう。
 きっとだらしない顔になっている、侯爵家の令嬢としては下品だ、なんとか止めなければと必死に抗うが止まらない。
 「御免……な……さい……」苦痛に顔を歪めながら謝罪の言葉を呻くように吐き出す。
 「ああっ、アリス!しっかりして」
 手を握ってくれるのは母様だ、暖かい、握り返したかったが力が入らない。

 アリス・ドゥ・ラ・ゴードン、侯爵家の長女でこの時七歳、半年前から原因不明の高熱が続き最近は口の中が腫れて上手く話せなくなっていた、身体中が痛い。
 医者の見立てでは灰血病という病気らしい、子供のうちに罹患するとほぼ助からないと両親が医者と話しているのを聞いてしまった。
 
 世界が揺れている、馬車に乗っているのだと理解したころに揺れは止まった。
 灰血病で死んだ子供は山に捨てられる、自分もそうなる、その時が来たのだと思った。
 不思議に怖くは無い、それよりもこの苦痛から解放されることが嬉しくさえある、ただ両親を悲しませることが申し訳なかった。
 死んだら神様の元へ行けるのだろうか、無理かもしれない、自分には善行を積む時間が無かった、きっと天国には行けない。
 不公平だ、神に仕える時間がなかったのに、そのせいで地獄に行かなくちゃいけない、頑張りようがない。
 ああ、そうか、自分は前世で悪者だったのだ、その罰を今生で受けている、それならこれでチャラになるのかな、生まれ変わったら次で頑張ろう。
 少し苦痛が遠のいた気がした、しかし!次の瞬間霞んだ視界に映ったのは黒い影、漆黒の長い髪に血の気のない白い肌、爪だけが血のように赤い黒衣を纏った女の人、魔女の姿をした死神!!
 「ひぃっ!!」声にならない悲鳴、甘かった、自分は地獄行きだ。

 いやだ!いやだ!!いやだ!!!
 助けて!助けて!!助けて!!!
 地獄には行きたくない!!あんまりだ、こんなに痛くて苦しいのに!神様はまだ罰し足りないの!
 
 「大丈夫、怖がらないで……」
 魔女の掌が額に触れる、母様と違って冷たい手だった。
 「私……に……触ら……ない……で」
 魔女から顔を背けようと首を捩じったが、冷たい手ががっちりと頭を押さえていて微動に出来ない。
 「シックファージ」
 魔女が呪文を唱えた、身体から何かが引き剝がされる。
魂が吸い取られている!魔女に食べられちゃう!
止めて!私を食べないで! た……す……け……て……

暗い痛みの渦を抜けるとそこは白い霧の中。
私は魔女に手を引かれて真っ白な霧の中を歩いていた。
黒衣の魔女の赤い唇が薄く笑っている、不意に繋いだ手が離れると魔女は霧の中を指さしていた。
「さあ、帰りなさい」
( え!? ) 真っ白な霧の中に光が見えた、光が加速する、身体が吸い込まれる。
振り返ると霧の魔女が手を振っていた、霧が茨になって魔女を飲み込んでいく、やがて黒衣も黒髪も全て茨に呑まれて魔女は消えた。

光から外へ戻るとアリスの身体から灰血病は消えていた。
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