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里の冬
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「結婚式をここで挙げる!?」カーニャとギルの事を依頼するために訪れた岩人の里で以外な事をアオギリとサイゾウから聞かされた。
二人は岩人の若衆、共に戦った仲だった。
「貴方にはもう会えないと諦めていたんだ、良かった、エドワード皇太子とフローラの結婚式だ、エミーには出席する義務があるぞ」
二人は最初に驚き、少し怒った顔をした後、泣き笑いになって迎えてくれた。
「そうだよ、黙って居なくなって!どれだけ皆が心配したか・・・・・・」
アオギリの涙は止まらなかった。
「すまない、最後の戦いで公爵が放った銃弾を胸に受けた、里の御婆が編んでくれたブラックシルクを着ていなければ死んでいたよ、それに片づけるべき敵が残っていて、油断を誘うために暫く森に潜んでいたの」
「聞いたよ、自分の編んだブラックシルクがエミーの命を救ったなら天国で御婆も喜んでいるだろう」
「後で御婆が眠る墓の場所を教えてくれないか」
「もちろんよ、顔を見せてあげて」
雪に覆われた純白の世界はあの夏の惨劇を隠している、まるで違う場所のようだ。
「フローラがどうしてもこっちでも式をしたいって譲らなかったらしいわ、王宮での挙式には私たち参加できないしね」
「だから親しい者だけで質素に挙げたいのだそうだ、流石に警備隊やらなにやらは付いてくるだろうがフローラが決断したんだ、新たな門出を見てやってくれ」
「私は・・・・・・」躊躇する、諸手を上げて分かったとは言えない。
「エミー!また危険なことに顔を突っ込んでいるのじゃないでしょうね」
「成り行きでね、現時点ではどうなるかは分からない」
「でも!何とかして!!でないと私たち二人もフローラに殺されちゃうわ、ほんとに怒っていたわよ」
「むうっ、それほどか」
「それほどよっ!!」アオギリが頭に指で角を作った。
アハハハハハッ 三人の笑い声が雪に跳ね返る。
「エミーの話を聞かせてくれ、岩人の里は貴方に大きな恩がある、なんでも聞こう」
「実は・・・・・・」
岩人の里はカーニャの願いを快く受けてくれた、洞窟住居と手仕事を準備してくれる。
「助かるわ、元子爵令嬢だから仕事自体の経験がないの、いろいろ世話を掛けてしまうと思う、でも父親代わりのおっさんが付いてくるから身の回りの事は心配ないわ、悪い子じゃない、よろしくお願いします」
「やはり女言葉の方が違和感がないな」
「あれ、意識していなかった、二人の顔を見ていたら・・・・・・やっぱり思い出すよ」
「簡単には抜けないわね、怖い夏だったもの」
「この里に爵位は無いけど仕事だけは山ほどあるからね、お嬢様には辛いかもよ」
「お手柔らかに頼むよ」
「ムートンのマナーハウスには寄ったのか」
「いや、まだだ」
「顔を出さないつもりなの」「それは駄目だぞ、ハリーさんやアンヌさんのためだと思って寄っていけ」
「ああ、今の話を聞いたら寄らないわけにはいかないな、でもフローラには迷惑を掛けたくない、私は彼女から離れていなければならない」
「そんな、考えすぎじゃ・・・・・・」
「王家に敵対する者にとってこの顔は使いようがある、例えば私に人を殺させておいてフローラに罪を着せる、単純な罠でも私たちの容姿は似すぎている、人々は陰謀でも自分に都合のいい事を信じてしまう、真実かどうかは重要じゃない」
「そんな悪魔みたいなこと考えるヤツそうはいないだろ」
「いえ、ここにいる、私ならそうする」
「!」「エミー・・・・・・」
首元に指が伸びて目が細くなる、周囲の温度が下がる、エミーの影が溶けかけた雪を氷に戻していた。
クロワ侯爵家のマナーハウス、侯爵の命を受けてフレディの執務室にJBとエロースはいた。
幽霊女のサンプルを取得するためにフレディはハウンドを二班に分けた、次席タロスをリーダーとする班と、フレディ自身をリーダーとする班だ。
黒服の執事フレディ、その年は五十を超えているというのに二十代中頃の容姿、長い黒髪は紫の影を放ち、切れ長の目に薄い茶色の瞳はエキゾチックな魅力を隠さない。
「幽霊女の顔は覚えているのですね」ゆっくりと聞き取りやすい声だ。
「はい、上半分はベールで確認出来ませんでしたが鼻から下は覚えています、それに彼女の匂い、あれは花の香り、ブラック・カラントなんかじゃない」
「香水ではなく体臭が花のような香り?」
「私の鼻は特別です、恐怖や怒り、愉悦や快楽の匂いを嗅ぎ分けられます、ですが彼女からは花の香り以外は感じなかった、暴漢三人を戦闘不能に叩きのめした直後だというのに緊張も高揚も無い、まるで雪原、真っ白な雪原のようでした」
JBは自分の言葉に酔っているようには見えない、冷静な分析、事実を言っている、その表現が詩的なのはオペラ好きが高じての事か。
「いいでしょう、案内してください、私が雪原の香りを確認してみましょう」
「御意」
「エロースさん、今の事はハウンドの皆さんにも報告してください、それからJBさんにもドラゴンスーツを・・・・・・」
ドラゴンスーツはハウンドの七人の証、だがJBは首を振る。
「ノンッ、フレディ様、私は彼女に完敗しました、そのスーツを着る資格はありません」
JBは首を振った。
(チッ、赤いスーツが好きなだけだろ!カッコつけやがって変態野郎が)
声にはしないエロースの顔が皮肉に歪む。
「いいでしょう、ですがそのスーツはやや品格に欠けます、私と行くのですから黒のスーツに着替えてください」
赤いスーツはフレディの趣味ではなかったようだ。
「御・・・・・・意」JBは苦虫を嚙み潰す、「ぷっ」歯を喰いしばったエロースは堪えきれなかった。
「さて、彼女のヤサは・・・・・・おっと口が悪い、私も昔の癖が抜けませんね、所在は分かるのですか」
「はい、恐らく彼女は新バーモント領主に雇われた冒険者、良きサンプルとなった白髪鬼や短槍使いの女たちと一緒に行動していると思われます」
「何故分かるのです?」
「あの夜、街に白髪鬼たちもいました、何のつもりか変装もせず帯剣したままでしたが」
「くっくっくっ、貴方を誘い出すための罠だった訳ですね」
「それまでサンプル取りのための精を出し過ぎたようです、目立ち過ぎました」
(楽しんでやってたじゃねえか)どうもエロースは好きではないらしい。
「分かりました、行きましょう、新バーモント領へ!!」
「!?」
振り向いたフレディの瞳はアルコールランプの光を受けて金色に輝いた、影の中に浮き出た輪郭は人の形をしていない。
二人は岩人の若衆、共に戦った仲だった。
「貴方にはもう会えないと諦めていたんだ、良かった、エドワード皇太子とフローラの結婚式だ、エミーには出席する義務があるぞ」
二人は最初に驚き、少し怒った顔をした後、泣き笑いになって迎えてくれた。
「そうだよ、黙って居なくなって!どれだけ皆が心配したか・・・・・・」
アオギリの涙は止まらなかった。
「すまない、最後の戦いで公爵が放った銃弾を胸に受けた、里の御婆が編んでくれたブラックシルクを着ていなければ死んでいたよ、それに片づけるべき敵が残っていて、油断を誘うために暫く森に潜んでいたの」
「聞いたよ、自分の編んだブラックシルクがエミーの命を救ったなら天国で御婆も喜んでいるだろう」
「後で御婆が眠る墓の場所を教えてくれないか」
「もちろんよ、顔を見せてあげて」
雪に覆われた純白の世界はあの夏の惨劇を隠している、まるで違う場所のようだ。
「フローラがどうしてもこっちでも式をしたいって譲らなかったらしいわ、王宮での挙式には私たち参加できないしね」
「だから親しい者だけで質素に挙げたいのだそうだ、流石に警備隊やらなにやらは付いてくるだろうがフローラが決断したんだ、新たな門出を見てやってくれ」
「私は・・・・・・」躊躇する、諸手を上げて分かったとは言えない。
「エミー!また危険なことに顔を突っ込んでいるのじゃないでしょうね」
「成り行きでね、現時点ではどうなるかは分からない」
「でも!何とかして!!でないと私たち二人もフローラに殺されちゃうわ、ほんとに怒っていたわよ」
「むうっ、それほどか」
「それほどよっ!!」アオギリが頭に指で角を作った。
アハハハハハッ 三人の笑い声が雪に跳ね返る。
「エミーの話を聞かせてくれ、岩人の里は貴方に大きな恩がある、なんでも聞こう」
「実は・・・・・・」
岩人の里はカーニャの願いを快く受けてくれた、洞窟住居と手仕事を準備してくれる。
「助かるわ、元子爵令嬢だから仕事自体の経験がないの、いろいろ世話を掛けてしまうと思う、でも父親代わりのおっさんが付いてくるから身の回りの事は心配ないわ、悪い子じゃない、よろしくお願いします」
「やはり女言葉の方が違和感がないな」
「あれ、意識していなかった、二人の顔を見ていたら・・・・・・やっぱり思い出すよ」
「簡単には抜けないわね、怖い夏だったもの」
「この里に爵位は無いけど仕事だけは山ほどあるからね、お嬢様には辛いかもよ」
「お手柔らかに頼むよ」
「ムートンのマナーハウスには寄ったのか」
「いや、まだだ」
「顔を出さないつもりなの」「それは駄目だぞ、ハリーさんやアンヌさんのためだと思って寄っていけ」
「ああ、今の話を聞いたら寄らないわけにはいかないな、でもフローラには迷惑を掛けたくない、私は彼女から離れていなければならない」
「そんな、考えすぎじゃ・・・・・・」
「王家に敵対する者にとってこの顔は使いようがある、例えば私に人を殺させておいてフローラに罪を着せる、単純な罠でも私たちの容姿は似すぎている、人々は陰謀でも自分に都合のいい事を信じてしまう、真実かどうかは重要じゃない」
「そんな悪魔みたいなこと考えるヤツそうはいないだろ」
「いえ、ここにいる、私ならそうする」
「!」「エミー・・・・・・」
首元に指が伸びて目が細くなる、周囲の温度が下がる、エミーの影が溶けかけた雪を氷に戻していた。
クロワ侯爵家のマナーハウス、侯爵の命を受けてフレディの執務室にJBとエロースはいた。
幽霊女のサンプルを取得するためにフレディはハウンドを二班に分けた、次席タロスをリーダーとする班と、フレディ自身をリーダーとする班だ。
黒服の執事フレディ、その年は五十を超えているというのに二十代中頃の容姿、長い黒髪は紫の影を放ち、切れ長の目に薄い茶色の瞳はエキゾチックな魅力を隠さない。
「幽霊女の顔は覚えているのですね」ゆっくりと聞き取りやすい声だ。
「はい、上半分はベールで確認出来ませんでしたが鼻から下は覚えています、それに彼女の匂い、あれは花の香り、ブラック・カラントなんかじゃない」
「香水ではなく体臭が花のような香り?」
「私の鼻は特別です、恐怖や怒り、愉悦や快楽の匂いを嗅ぎ分けられます、ですが彼女からは花の香り以外は感じなかった、暴漢三人を戦闘不能に叩きのめした直後だというのに緊張も高揚も無い、まるで雪原、真っ白な雪原のようでした」
JBは自分の言葉に酔っているようには見えない、冷静な分析、事実を言っている、その表現が詩的なのはオペラ好きが高じての事か。
「いいでしょう、案内してください、私が雪原の香りを確認してみましょう」
「御意」
「エロースさん、今の事はハウンドの皆さんにも報告してください、それからJBさんにもドラゴンスーツを・・・・・・」
ドラゴンスーツはハウンドの七人の証、だがJBは首を振る。
「ノンッ、フレディ様、私は彼女に完敗しました、そのスーツを着る資格はありません」
JBは首を振った。
(チッ、赤いスーツが好きなだけだろ!カッコつけやがって変態野郎が)
声にはしないエロースの顔が皮肉に歪む。
「いいでしょう、ですがそのスーツはやや品格に欠けます、私と行くのですから黒のスーツに着替えてください」
赤いスーツはフレディの趣味ではなかったようだ。
「御・・・・・・意」JBは苦虫を嚙み潰す、「ぷっ」歯を喰いしばったエロースは堪えきれなかった。
「さて、彼女のヤサは・・・・・・おっと口が悪い、私も昔の癖が抜けませんね、所在は分かるのですか」
「はい、恐らく彼女は新バーモント領主に雇われた冒険者、良きサンプルとなった白髪鬼や短槍使いの女たちと一緒に行動していると思われます」
「何故分かるのです?」
「あの夜、街に白髪鬼たちもいました、何のつもりか変装もせず帯剣したままでしたが」
「くっくっくっ、貴方を誘い出すための罠だった訳ですね」
「それまでサンプル取りのための精を出し過ぎたようです、目立ち過ぎました」
(楽しんでやってたじゃねえか)どうもエロースは好きではないらしい。
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