kings field 蜂蜜とエリクサー

祥々奈々

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礼拝

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 教会の地下にエリクサーの保管庫がある、普段はアリアによって鍵が掛けられていた、前代から引き継がれ研究されたものの中には原料に何を使用したか分からなくなっている物もある、中には人種にとって有害となりえる材料もあった、禁忌の生物、神殿に巣くう青蛇と赤蛇、魔獣イザナギアリ、これらの血から精製されたエリクサーは人を魔獣へと変えてしまう変身薬、魔獣のミトコンドリアが宿主を乗っ取る、生物は脳だけが支配しているわけではないからだ、極小の微生物や細胞の中に同居するミトコンドリア一つ一つに小さな意思がある、その集合体が生物なのだ。
 魔獣のミトコンドリアが知性を得た時、真の魔人は誕生する。
 その小瓶の中にいる小さな意思は、操る宿主を探していた。
 神に選ばれし選民を。
 
フェス・ド・ラ・クロワ侯爵が信じていた神はいなかった。
 地動説を飛び越えて異世界は幾つも存在し、その次元を超えて神は世界を作った。
 世界は、平坦な地上の上に星を吊るしたわけではない、元の世界は宇宙の中心などではない、単なる星の一つに過ぎなかった。
 「フレディ、これを知ってしまっては我々も異端者だね」
 「異端者・・・・・・この世界では意味をなさない言葉ですね」
 「私は元々異端寄りの考えを持っていましたが、やはり私の考えは正しかった、天国や地獄などないのだ、この世界は魂が次元を超えて異世界を渡る証拠です」
 「我々は元の世界で死んで、この世界に復活したのでしょうか」
 「彼の聖人も磔死罪の後にそのままの姿で復活なされた、何故だと思いますか」
 「私のような輩には知る由もありません、ぜひクロワ様のお考えをお聞かせください」
 「知識です、人は人生で積み上げた知識を死によって失ってしまいます、全てを継承することは不可能です、神は嘆いておられる、受け継がれない知識を、我々は選ばれたのです」
 「選ばれたとは?」
 「エリクサーです、私やグレイさんに起こった若返り、連続投与すればこの身体で永遠(エタニティ)の時を生きる不死(ノスフェラトゥ)となる、失うことなく知識を広められる」
 「おお!では神はその選民にクロワ様をご指名なされたのですね」
 「君もだよ」クロワが差し出したのは黄金ではなく赤いエリクサーだった。

 アリアは日に何度も礼拝を重ねる、時にその頬に涙が伝っている、その姿は美しくも悲しみに満ちていた、なにを願っているのか知りたい。
 自分が祈れば懺悔にしかならない、何十、何百という人間を殺してきた、鋼鉄の翼と機銃は、敵の魂まで粉砕して葬ってきた、彼らの命と屍のうえに立つ自分こそ魔人だ。
 なんと醜悪な人生か、愛する家族や恋人もなくただ命令されるがままに殺した。
 そこには苦痛も快感もない、無機質な銃撃音が響くだけだった。
 殺し合いの相手は空飛ぶ鋼鉄でしかない、血が通っていなかった、あの光景を目にするまでは。
 ジャップのイエローファイター、主翼に黄色のラインが入ったゼロ。
 自身の翼を刀の如く敵機にぶつけて、相手の翼を叩き切った。
 近くでその様子を見た、悪鬼の如き操縦、その闘志に魅入られ呑まれた、怖いと思ったことなどない空戦が恐ろしくなった。
 ゼロを撃ち漏らせば体当たりされる、その機体とパイロットを粉々に粉砕しなければ奴らは蘇りその翼を刀にして向かってくる、機銃など必要としない。
 奴らには生きて戦い抜く猛烈な熱がある、揺らがない信念の上に立つ死。
 なんと眩しく輝く命の使い方!羨望!!
 何がそうさせる、奴らにあって俺に無い物、信念の根幹。

 「何を祈る?」気づいていないアリアに問いかけた。
 「はっ!?・・・・・・マットさん、いらしたのですね」慌てて頬を拭う。
 「すまん、脅かすつもりはなかった」
 「気が付きませんでした・・・・・・」俯き呟いた瞳にみるみる涙が堪る。
 どうしたと手を伸ばして止まった、強く抱けば壊れてしまいそうな肩だ、たった一人山の中で何を祈るのか、それは愛以外にはない、何を背負っているのだろう。
 「マットさん、貴方は似ています・・・・・・感情が抜け落ちている、まるで氷の様な心」
 「ふっ、よく分かるな、心が読めるのか、出来るならそれは十分特殊能力といえるぞ」
 「詳しくは分かりません、でも風景や色としてイメージが伝わります、少しだけ共感が強いだけです」
 「そうなのか」「それで俺が誰に似ているのだ?どこの殺人鬼だ」「・・・・・・」アリアは話すべきか迷っているようだった、マットは急かすことなく扉が開くのを待った。
 「私の・・・・・・子供に、似ています」「!?」「子供って・・・・・・いくつだ」
 「別れた時は二歳でした」
「二歳!」「殺し屋じゃないよな?」
 「ふふっ、もちろんです、ようやく小走りが出来るようになったくらいでした」
 「巻き込まれたのか、あの渦に」
 「そう・・・・・・です、吸い上げられて揉まれている時に手を離してしまいました」
 「転移した時一緒じゃなかったのか」「・・・・・・」アリアは顔を伏せた。
 二歳の子供があの洞窟に一人でいたなら結果は最悪だ。
 「別の世界に転移した可能性だってあるだろ」
 「・・・・・・」ゆっくりと首を揺らす。
トンネルから吐き出されるタイミングが同じだとはいえない、恐らくギガントのドイツ軍が転移勇者だ、自分たちとは数か月の時間差がある。
 「あの子は私に笑う顔も泣く顔も見せてはくれませんでした、透き通った氷、純氷のような子、心に何も持たせず生んでしまった、与えてやりたかった、これも報いなのかもしれません、私の祈りは愛しい息子への贖罪の祈りです」
 「やはり俺とは似ていないな、俺は殺し過ぎておかしくなった、君の息子の様に純粋な心は持っていない、血で濁ったクソ氷さ」
 「私の父が混血のオーガでした、魔族の中でも特に強靭な種族です、そしてあの子の父親も人間です」
 「なに!?混血の可能性は限りなくゼロって言わなかったか」
 「そうです、限りなくゼロの一人でした、私も、そしてあの子も」
 「・・・・・・」
 「許されない愛だったのです、その罪があの子から心を奪ってしまった、空っぽの人形のまま生まれてしまった、その上あの渦の中に一人・・・・・・」
 「取り残した!!」強く目を閉じて震える。
 「探したのか?いや失言だな」
 「どこにも痕跡はなかったわ、救いなのか、報いなのか、神が仕組んだと言うなら私は神を許さない、呪ってやる」
 「あの時、洞窟の前にいたのは息子を探していたのだな、転移現象が起こったことが分かるのか」
 「ええ、叶わないと思いながら行かずにはいられません」
 かけるべき言葉が見つからない、殺し屋は慰めのスキルを持っていない。
 「自分の長寿が嫌になります、死ねば会えるのでは考えずにはいられない、このまま後三百年、四百年と生きなければならないなんて地獄です」
 「その気持ちは分る、俺は四十年生きて、あと一年が耐え難い」
 「生きていればもう十七くらい、髪も瞳も私と同じ、どんな大人になったのか見てみたかった」
 「なにか特徴は?」
 「そう・・・・・・失くしていなければこれと同じ物を持っているはずです」
 首に下げていたのは青い石?
 「勾玉といいます、母子で分け合って持つものです、もし見かけたなら・・・・・・いいえ止めましょう」
 
 力なくアリアは笑った、大切な誰かを失ったことの無いマットにはその痛みがどれ程のなのか想像できない。
 その姿に待つ者の辛さを知った、命を戦禍に散らすよりも待つ者の方が地獄だ、想いを残す人のいない自分は例え死んでも誰も苦しませることはない。

 再びアリアは膝をついて神獣の像に祈りを捧げ始める。
 マットも神獣の像に向き直り手を合わせたが、祈りではなく脅しだ、彼女の願いを聞かないのなら俺が鉛弾を撃ち込んで殺してやる、だから聞け、彼女の願いを!
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