kings field 蜂蜜とエリクサー

祥々奈々

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マンティコア・ファーム

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 ヴァンデッタ・エージェント、マンティコアの村は徹底した共産主義、私物としての財産はない、全てが村の、一族の財産。
 物はもちろん、技術や知識、経験さえも共通して一族のもの、個人で占有することは許されない。
 結婚という概念も存在しない、生まれた子供は一族で育てる、産みの親の意義は薄い、父母という概念もない。
 皆、自分の親が誰なのか、自分の子供が誰なのかを知らない、知っているのは一族の幹部のみだ。
 血が濃くならないように定期的に優秀な異人の遺伝子を受け入れる、強制的にだ。
 幼少より格闘術や剣技を学ぶ、潜入任務を可能にする語学も学ぶ、やがて完成した兵士は各国の国家や貴族、犯罪集団と契約を結び暗殺から戦争、諜報活動までを生業にする。
 世は未だ不安定だ、仕事の発注は多く生業を同じくする他の一族との抗争もまた日常だ、常に死亡者が発生する、優秀な素質を持つ者を鍛えなければならない。
 「名を呼ばれた者は本日よりファームに行ってもらう!」
 子供たちの顔に緊張が走る、ファームとは二軍、一族はカースト制度と同様の階級社会で成り立っている、決定づけるのは戦闘力に他ならない、強ければ商売になり金を一族にもたらす、弱ければ養ってもらう立場に追い込まれる、これは男女ともにだ、弱者から強者は生まれない、遺伝思想から生まれた教義。
 「四番!十番!十四番!二十二番!・・・・・・」十歳になるクラス三十人の内三分の一、十人が篩にかけられて落とされる、一度落とされると再びファーストに返り咲くのはほぼ不可能だ。
 番号を呼ばれた子供の顔に絶望が浮かぶ、下を向き泣き声をかみ殺す者、目を見開いたまま固まる者、身体を丸めて震えている者、虚脱したように呆けた者、反応はそれぞれだが人生の半分が失われたに等しい。
 実践投入されればファーストであろうと命を落とす場合もある、しかし、それは実力次第、ファーム以下は雑兵として弾避けにされるか奴隷として売られるかだ。
 ファームでの戦闘訓練には指導者がつかない、自主訓練のみだ、マンティコア一族の教義、技術と知識の共有がなされない、それはつまり人であって人でないに等しいのだ。
 
 十五歳クラス、商品となる年齢、時間は残されていない。
 マンティコア教義の恩恵を受けられず搾取されるだけの底辺は生き残るために脱出を考える、年に数回ファームの警備がまるで誘うように緩くなる。
 月が姿を隠し、朝日が顔を覗かせようとする前(彼は誰時)、五人の子供たちが黒衣に身を包み影から蔭へと足音を殺して移動していた。
 脱走だ。
 「十番!間に合いますか!?」
 「コウヅキ!その言い方はやめろ!俺には先生から頂いたカミツという名前がある、お前だってそうだろう!」
 ファーストクラス以外に名前は無い、先生と呼べる人間もいないはずだが・・・
 ザザザサッ 一列の鼠のように走る、ファームの住居を離れて森へと駆け込む。
 太い木が乱立する森は光が届かず日の出前の今は漆黒の闇だ、下草を踏む音だけが心臓の鼓動以上の大音量で響く、後ろの四人まで含めるとオーケストラだ。
 「もう少しで谷にでるぞ、川に出れば船があるはずだ!」
 「頼む、このまま行かせてくれっ!」
 奴隷送りのセカンドクラスを支援している者がいる、先生と呼ばれる者の正体は分からない。
 森の出口から朝日が差し込んでいる、太陽が顔を出したようだ。
 「そろそろ・・・・・・来るぞ!覚悟はいいな!」
 ザザッ 出口に人影が現れた!「来た!!」ドクンッ 心臓の拍動が大きくなる、生死の分岐点に来た。
 「先生の言った通りだ!生き残ったらニースの街で落ち合おう!」
 鼠たちは一列から散開、待ち伏せを予測していた。
 
 「本当に来ましたね、セカンドの鼠さんたち、可哀そうに・・・・・・」
 「少し少ないようです、ですが滅多に出来ない実戦的な狩りです、有意義な経験としてください」
 待ち伏せていたのは同年齢のファーストクラス、更に円卓の六人が一人、ニッコウが付き添っている。
 この脱走劇はマンティコアが仕組んだ実践訓練だ、自主的に逃げ出すように獲物を誘き出した、毎年恒例の行事、ただ一点違うのは獲物が待ち伏せを知っていたことだ。
 「行きなさい!」
 ニッコウの合図で十五歳のファーストクラス十人がそれぞれに定めた獲物に向い狩りを始めた。

 必然的に二対一の構図、セカンドクラスは不利だ。
 そのうちの一組、ファーストクラスのニジとシープという男女、獲物となったのはセカンドクラスのリーダー、カミツだった。
 「待っていたよ、十番」大木の幹に隠れて見事に気配を消したまま、通り過ぎたカミツの背後から声をかけたのは成績筆頭のニジという男。
 ザザッ カミツも木を影に隠れる。
 「久しぶりですね、元気にしていましたか?」
 マンティコアには個性が少ない、口調も統一されている。
 「・・・・・・ニジか!?」
 ガサッ お互いに姿を晒す、懐かしくもある顔がそこにあった。
 「もう一人は・・・・・・シープだな」カミツの視線がニジの後方にいる女を捉えた、ボウガンを構えている。
 「・・・・・・」シープは言葉を発しない、その表情は複雑だ。
 「本来なら貴方がファーストクラス筆頭になれたはず、運が無い」
 「それはどうかな、俺はこれで良かったと思っている、ファーストでは持てないものを得られた、世界は広い」
 「負け惜しみを、貴方の弱点は当然知っています、貴方は怪我によって右手に剣を持つことは出来ない、両手剣の私とでは勝負になりません、割引して私も片手でお相手しましょう、シープさんは手を出さないでくださいね」
 ギインッ ロングソードを腰の鞘から引き抜く、金属の擦れあう音が宣戦を布告する。
 カミツの額に汗が伝う、左手で短いダガーソードを握り前に突き出す、右手は庇うように後ろに引いている。
 「情報は共有されています、貴方の手の内は知っている、その左手だけではどのような剣技を使っても無駄!無駄です、大人しく殺されれば痛みは少なくて済みますよ、諦めて我が糧となりなさい」
 血の繋がりは無くとも元々は兄弟といっていい仲の三人、幼き日には同じ訓練で助け合った事もある、歳と共に門は狭められ兄弟はその数を減らしていく、マンティコアを名乗れるのは毎年三分の一ほどだ。
 初めての殺しが身内だ、ここで情を捨てることが出来れば殺し屋としてのメンタルは完成され、非情な依頼にも対応出来る事となる。
 薄笑いを浮かべるニジにその心配はなさそうだ、絶対の自信が悠々とカミツに向かって踏み出させる、カミツはその後ろに控えるシープとの射線を殺しながら慎重に立ち位置を探っている。
 ブワッ ニジのロングソードが振り下ろされる!ギャインッ ギャインッ 連撃をカミツのダガーソードが弾く、手加減して遊んでいる、弄んでいるのだ。
 「くくくくっ、待っていました、この時を!ようやく完全に屈辱を晴らすことができます、勝ち逃げは許せません」
 ガインッ ギャインッ 一方的な展開、カミツの左手は防御のみで塞がっている。
 「私はいつでも二番、貴方の影だった、あの日兄弟を助けるために自分の右腕を犠牲にした愚行!許すことなど出来ましょうか、今ここで貴方を自分の手で屠ってこそ私の心は癒される、さあ!そろそろいいでしょう、止めです!」
 片手もちから両手で剣を握ると大上段に振りかぶる、受ける剣ごと両断するつもりだ。
 ビシュッ カミツの右手から何かが発射せれた! その技は三本の指で釘を敵に向かって撃ちこむ指弾という戦闘術、鍛えられた指から放たれる釘は近距離なら拳銃弾の威力がある、ドスッ ニジの首に小さな穴が空いた、釘は全て没して見えない。
 「あがっ!?」衝撃に仰け反りながら首を押さえると血で濡れている、頸動脈をやられた。
 急速に力が抜ける、ガクリと膝を付いてロングソードを落とした。
 「なっ、なんだ、その技は!?私はしらない、何故そんなことが出来る!?」
 技も技術も知識も共有されているはずのマンティコアにおいてセカンドの技術をファーストクラスが出来ないどころか知らないということはあり得ない。
 「これは俺の個性だ、誰にも真似はできない、円卓の六人でさえな」
 「個性だと・・・・・・ふざけるな、自分だけで!?」ガボッ、喉まで釘が達して血を溢れさせる。
 「動くと体内の釘が更に深く食い込んでいく、じっとしていることだ」
 その声は哀れみさえ感じる、首席のプライドが引き裂かれる。
 「くっ、忘れているぞ、もう一人いる、シープの矢がお前を射抜くだろう、地獄へは道連れだ」
 ガサッ 後ろからの足音 「なに!?」振り向くとそこにはシープがいた、引かれたボウガンは自分に向けられている、全てを察した。
 「済まないニジ、我々は出ていく、お前は運が良ければ助かるだろう」
 「ごめんなさい、私はカミツと共に生きます」
 「ぬくくっ、最初からできていたとは!裏切りは許されないぞ」
 「どちらにしても死ぬのなら自由に向かって前向きに倒れるさ、俺達は自分で選択した、行こう、先生のもとへ」
 「さようなら、ニジ」
 二人の藪を踏む足音が遠ざかる、「まっっ・・・!!まて、許さない、許さないぞぉ!がっあっ!!」 指弾で弾かれた釘が完全に血管を切断する、屈辱に塗れた表情はデスマスクとなってニジの顔に焼き付いた。

 この日、数年ぶりの脱出者がマンティコアに生まれることになった。
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