kings field 蜂蜜とエリクサー

祥々奈々

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太陽を追え

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 翌日になってもオルガは意識を取り戻していないが顔色は改善し脈拍もしっかりと感じ取れる、吸血骸骨によって失われた血液は回復してきている。
 同様に銃創で血を失ったエミーの方は早朝から既に目覚めて活動を開始できるまでに復調している。
 「もう、起きて大丈夫なのか?」ボーンが心配そうに声をかけたが、エミーはキョトンとしている、まるで意味が分かっていないようだ。
 「なんのことかしら?」真顔の返事が返ってくる。
 「お前、覚えていないのか、昨日失血で気を失ったのだぞ」
 「ああ、そのことね、迷惑をかけた、でももう問題ない、体調はベストに近い」
 そんなはずはない、胸の銃創は一日でどうにかなるはずは無かった。
 エミーはジグロを片手に馬車を降りると朝のルーティーンを始める、軽い柔軟から変な体操、そしてジグロを腰に差し込む。
 「おい、無理はするなよ」諦めて馬車に寄りかかると型を始めるエミーを眺めた。
 「ありがとう」振り向くとニコリと笑顔を向けてくるが感情が伴っていない、作り笑顔だと分かる。
 剣技でも徒手術でも同じ、脳の指令を手足に伝達するだけでは足らない、小脳に創ったショートカットキーだけでも足らない、達人の技は手足、身体そのものが感覚制御を行なう、例え頭がなくとも手足に目があり耳があるように剣と拳を振る事が出来る。
 脳のイメージと視覚の情報、そして手足の感覚、全てを同調させる。
 そして基盤となるフレームは骨格だ、筋肉や腱によって繋がっている骨は疲れや緊張、バランスを欠いた発達によって本来の位置からずれてくる、可動すべき部位は人体の骨二百六個全てだ、エミーは意識して骨を動かすことが出来る、以前にギルにやって見せた様に肋骨でさえ個別に動かすことが可能だ。
 ジグロの柄に手を乗せて抜く、抜き手、刺し手、繰り返す動き、特に何という事は無いように見える。
 「!!」ボーンはその動作が異常である事に気付いた。
 「音がしない!!」鞘から刀を抜くときに生じる擦過音、金属がぶつかる音が全くしない、鞘の内側と刀が触っていないのだ。
 ジグロはその切っ先のみ諸刃、鞘に収める時に指を添えれば自分の指を落とすことになる、エミーはその狭い鞘に手を添える事無く内側の空間にジクロを出し入れさせる、手足の間隔は刀と鞘までその神経を伸ばしていた。
 フシュッ 僅かに聞こえる音は押し出された空気の音、さらに身体を動かした時の衣擦れも聞こえない、ウルトラスムーズな動きはゆっくり見えて鋭く速い。
 同じ動作を繰り返しながら目を閉じる、視覚情報がなくても自分の手と、そこから延びた剣の位置を寸分違わずに把握しているからこそできる技だ。
 「凄げえな、人間技とは思えない、どれほど鍛錬したらその域に立てるようになるんだ?」
 「それほど難しくはないわ、問題は剣の取り扱いではなくて身体操作、筋力に頼ると身体が勝手に動こうとする、必然それは理想的な動きではなくなってしまう、一つズレてしまえば速度、威力、正確さが失われる、必要なのは骨格を正常な位置に保ち筋力の伝え方を知っておく事ね」
 「へえ、意外とインテリなんだな、単にぶっ叩いただけじゃだめなのか」
 「・・・・・・貴方の立ち方を見るとだいたいのことは分かる、得意分野は剣よりも徒手術、しかも足技をあまり使わない拳闘、懐が深くリーチが長い、剣と対峙しても間合いは互角がそれ以上の自信があるのね、腰のトンファー・・・・・・少し細工がしてある?・・・・・・なるほど左右で長さを変えているのね、見せる短い左と決める長い右、戦いの途中でスイッチも出来るの!?一対一ならかなり有効ね」
 「はっ!?」初見で全てを見透かされた驚きがボーンの口を閉じさせない、さらにエミーの分析は続く。
 「貴方の苦手は面で振ってくる剣よりも点を突く槍ね、面の守りに有効なトンファーも突きには弱い、身体を左右にダッキングするかウェービングで躱すか、でも一流の槍使いなら突きの動作の中で穂先を振る技を混ぜる、正中を狙われたら命取りになるわ、ディフェンスに自信があっても根本的な対策と工夫が必要ね・・・・・・私なら、トンファーの先端に鍵爪を仕込んで置くわね、突いてきた槍の穂先を絡め取る」
 「まったくマジかよ・・・・・・」腰のトンファーを抜くと握り手のトリガーを引く、カチャッ 先端に仕込まれた鍵爪が突出した。
 「フフッ、やるじゃない」
 「なんなんだ、その洞察力は?いったいどこで覚えた!?」
 「師父が超一流の武芸者だった、貴方の様に恵まれた体格が私にはない、小さく弱い筋力を補うには工夫が必要だった」
 実際に筋力が弱いわけではない、体重がないのだ、下方向への動作は反作用の関係で体重以上には力を発揮できない。
 「師父?孤児院の師父が武芸者、なるほど住居が道場だったわけか」
 エミーは刀を納めると焚き火の傍に腰を降ろした、ボーンも向かいに腰を降ろすと煙草に火を点ける。
 「吸うか?」
 「ありがとう、頂くわ」口紅を塗ったわけでもないのに唇はオレンジシャドーに紅い、血の気は完全に戻っている、目を細めて軽く吸い込む仕草は可愛くさえある。
 「ありがとう」
 戻された煙草を受け取るとボーンは口元に咥えて弄ぶ。
 「なあエミー、お前はこの後どうするのだ?ブラック・コーラル号とは船のことだろう?航海に出るのだな」
 「そうだ、行かなければならない所がある、どの位かかるかは分からない」
 「俺も乗せては貰えないか?もちろん船員としてだ」
 「船の経験があるの?」
 「ああ、少しの間だが商船で外国を周っていた、少しは役に立つぜ」
 「給料はでないのは想像がついているだろう、何故?理由が知りたいわ」
 「まあ、なんだ、俺もこんなだからいろいろ生き辛くてな」帽子を取って側頭から後ろに向かって伸びた白い角を見せる。
 「それは生まれつき?」
 「そうだ、ダーク・エリクサーは飲んでいない」
 「貴方にも彼の地出身の可能性があるかもね、なるほど分ったわ」
 「それに今回の件で教団やらマフィアに追われることになる、ホトボリを冷ますのに海の上は好都合だ」
 「その話が本当なら儂も頼みたい」
 薪を集めに行っていたサムレイとエロースが帰ってきた。
 「エロース、お前はいいのか?」ボーンが話を振る。
 「私は・・・・・・そんな事を言える立場にはないわ、それにオルガの傍に居てやりたい」
 エミーは頷くと立ち上がり頭を下げた。
 「皆には世話になった、礼を言うわ」
 「よしとくれ、何回も助けてもらっている、礼を言うのはこっちよ」
 「なんの、それよりデージ回復力じゃ、益々超人だな、世界は広い、儂はもともとウミンチュだったのだ、船は得意だぞ」
 「こちらにとっては好都合だが・・・・・・返事は航海の目的を聞いてからにしてもらおう」
 焚き火を挟んで三人はエミーの話に聞き入った、驚きと半信半疑、にわかには信じられないお伽噺、しかしエロースの話とも符合する、異世界の彼の地は現実のものだ。

 「異世界に通じる渦、発生するトリガーやメカニズムは分からない、しかしデル兄たちが残してくれた資料で以前の発声場所と時期は分った、まずはそこを目指す」
 「行ってどうする気なの、その神獣の女の子を置いてくる?幼い子に背負わせるにはちと酷じゃない」
 「そうかも知れない、デル兄たちは彼の地に自分も残るつもりだった、それならティアも寂しくはなかったろう、私が残っても良いが歓迎されるかは分からない、相手は彼の地の神の如き存在、どんな反応になるのか想像できないがデル兄の自伝を読む限り話は通じそうだ」
 「行ったきり戻れないかもしれない、それでも良ければ歓迎する、この世界に未練がある限りは勧めない航海よ、」「ホーン・ボーン、そしてアイアン・サムレイ、その覚悟はある?」
 「ああ、俺はお前に惚れちまったようだ、付いていくことに決めた!」
 「は?惚れたとはどういう事?私は男だと言ったはずよ・・・・・・でも変ね、貴方から性欲は感じない、惚れるには他の意味もあるの?」
 「ああ、そうだ、何処までも人の為に尽くそうとするお前の姿勢や考え方、総じて生き方に惚れたのさ、今後お前がどう生きていくのかを見てみたくなった、それが理由だ」
 「よく分からない、ボーンは私を見て気持ち悪いとは思わないの?」
 「全く思わない、性差など関係ない、エミーは美しくそして強い、何で気持ち悪いと思うのかが俺には理解できないね、それを言うなら怖いだろう」
 ボーンの口調には誤魔化しがない、臆することも恥ずかしがるところもなくストレートに自分の気持ちを伝える、今までエミーが会った事がないタイプの人間。
 「そう・・・・・・初めて言われた、ちょっと戸惑っている」
 「俺の感覚が異常なわけじゃあないぜ、皆思っていても口には出さないだけだ」
 「儂はエミー殿から学びたい、その身体操作は儂の理想に近いように思う、弟子入りさせてくれとは言わん、今後どう戦うのかを見たい」
 「私など大した域にはいない、教えを乞うなら師父トーゴーを紹介してもいいが」
 「いや、実戦の中でなければ意味がない、四十近い身で型をいくらやっても無駄だ、実戦の中でこそ見いだせるものがある、強き群れの中にいてこそ武は磨かれる、そうだろう」
 「分かった、港で皆に紹介しよう、現状クルーとなることが決定しているのはティアと私を入れて五人だ、全員船の経験はない素人ばかり、少しでも経験があるなら皆異議は言わないと思う」
 「短槍のエルザ、白髪鬼ホランド、バウンド・インプだろ、一緒にいるのを見た」
 「フッ、彼らは有名人だな」
 「それじゃあ決まりだ、首都の王家禁軍艦隊の港、行こうじゃないか」
 
 今日の日が昇っていく、エミーたちは太陽を追いかけるように首都へと馬車を走らせていった。
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