kings field 蜂蜜とエリクサー

祥々奈々

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旅たちの朝に

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 「みんなに挨拶しなくていいの?」
 ムートンの森は早朝に霧が出ることが多い、白く煙った中に二頭の馬がいた。
 騎乗しているのはエミーとティア、もう一頭にはカツミとシープが乗っている。
 「いいんだ、会えば名残惜しくなる」
 「そうだよね、これが最後って訳じゃないし、さよならは言わないよね」
 「・・・・・・」
 ティアの顔は少し寂しそうだ、あの渓谷での三人だけの暮らしから一転して、王宮では多くの人と関わった、デルとルイスという父親を失った後も支えてくれる大人たちがいた。
旅立てば彼の地を目指せば帰れるかは分からないことを理解している。
 それでも行く、親子の約束、必ず母に、マヒメに会う。

 「カツミ、大丈夫か?」
 「ダメと言っても行くのだろ」
 「ああ、付き合わせて悪いが私はここを早く離れなければならない」
 「世話になっているのはこっちの方だ、恩にきる」
 「円卓の六人だけじゃなくファーストの追手が数人きたら私とカツミだけでは対処できない・・・・・・正直頼りにしているわ」
 「ふっふっふ、ブラックコーラル号は最新鋭の豪華クルーザー、文字通り二人とも既に大船に乗っている」
 エミー渾身のジョークだったが二人はキョトンと顔を見合わせただけだった。
 微妙な空気は霧に隠れて消えた。 
 「エミーさん、ひとつ聞きたい」
 「ええ、どうぞ」
 「貴方は他人の感情を見ることが出来ると聞いた、本当なの?」
 「共感の事か・・・・・・確かに私は任意の相手の感情をある程度感じることができる、特に殺気や敵意に対しては敏感だ」
 「どんな訓練をしたなら出来るようになるのか教えてほしい」
 「訓練?いやこれは訓練で得た訳ではない、元々何もないから映りやすいだけだ」
 「何もないから?逆でしょ、全て持っているくせに、筋力、スピード、洞察力、卓越した技、おまけにその美貌、これ以上持てないほど持っているじゃない、どんな嫌味なの?」
 一つ足りない、それは卓越した演技だ。
 「確かに武力の意味では人並み以上といえる、でもね、皆が普通に持っている物が私にはない」
 「それは何?」
 「直ぐに分かるわ」
 そこまでと言うようにエミーは正面を向くと馬に鞭を入れて王都の港へ向けて出発した。
 霧の中、ムートンの森を超えてマナーハウスを取り過ぎる。
 厚い霧が景色を見せない、少し残念だが仕方がない、別離は静かな方が良い。

 エミーーーーー 霧の中に大きな合唱が響いた!
 「!!」
 ティアーーーー もう一度、かなりの人数で叫んでいる、高台から降ってくる声は男女混声、マナーハウス裏手の丘の方角だ。
 「お姉ちゃん!」ティアはエミーの事をお姉ちゃんとしか呼ばない。
 「皆が見送ってくれている!」
 「バレてないと思っていたのは私だけか」
 見えない霧の丘に顔を向けた。
 エミーーーーー ティアーーーーー 混声の中に幾つもの顔が浮かぶ。
 「貴方たちって慕われていたのね、羨ましい」
 シープが目を細める。
 「俺達を待っていたのは刺客だけだものな」
 カツミも苦い表情だ。
 「人に見送って貰えるなんて私も初めてさ、いいものだな」
 「ティアも初めてだよ」
 「何て返そうか?」「うーん、そうだな、サヨナラじゃないし・・・・・・やっぱり」

 エミーーーーー ティアーーーーー
 まーたーねーー

 まーたーねーー

 最後まで霧は晴れずにお互いの姿は見ることが叶わなかった。
 昨日の結婚式が遠い昔の様だ、一緒に過ごしたほんの短い時間が鮮明な記憶となって荒寥とした荒地に思い出の神殿を築いた。
 その神殿はフローラと、皆と共有されている。
 例えどこで自分が死んでも皆が死なない限り自分もまたその神殿の片隅で生きて行ける、そこに行けば自分を呼ぶ声が聞こえる、無力で不出来な自分でも必要としてくれる、その声はいつも優しい。
 人と正しく関わる、東郷師父の言葉、自分の不出来を理由に一人で生きていくことは出来ても人生に意味は生まれない。

 デルとルイスのエリクサー小屋、そしてここムートンの森、帰れる場所が増えていく、思い出の宿木が必要だ、カツミとシープとの出会いも宿木の苗、人との出会いは全てそうだ、ゆっくりと水をあげて育てなければ枯れてしまう、荒地に帰ってしまう、苗木を守るために武はある、武なくとも生きることは出来るが守ることはできない。
 今まで人と関わることを避けて生きてきた、育てていなかった。
 苗を育て、やがてこのムートンのように豊な森になれば自分もフローラのような感情を持てるかもしれない、そして愛を生み出すことが出来そうな気がする。

 「カツミ、シープ、人と関われ、そのために使ってこその剣だ」
 「また何の話なの、うちら暫くは隠匿生活だよ、目立ったら刺客に殺されちまう」
 「なら私とくるか、海へ」
 「彼の地ってところ、本当にあるの?」
 「あるよ、お母さんが待っているの」
 「親子か、俺も家庭ってやつを持ってみたいよ」
 カツミがシープの反応を横目で確かめている。
 「二人はもう持っているのだな、羨ましい」

 ムートンの森にいつまでも呼ぶ声が木霊する、その声を背に四人はブラックコーラル号が待つ港へと向かった。
 森を抜けて草原に出ると霧が一篇に晴れてくる、ティアが仰ぎ見たエミーの顔に初夏の日差しが淡い影を作る、優しく微笑む表情は演技には見えなかった。


Fin
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