kings field 蜂蜜とエリクサー

祥々奈々

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ブーケトス

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 岩人の里、古くから養蚕が生業だ、ムートンの森に自生するワイルド・マルベリーが特別な蚕により上質なシルクを生み出す。
 生産されるシルクの中に極稀に黒い糸を吐く個体が生れる、通常のものでも鋏が入らないほどの強度を持つがブラック・シルクに至っては銃弾も通さない・・・・・・ただし相当に痛い。
 その養蚕に予想外の副産物が生まれた、死んだ蚕を埋めていた場所から上質のリン酸が発見されたのだ、それにランドルトン公爵が目を付けた、世界は剣から銃の世界に変わりつつある、火薬の精製にリン酸が必要だからだ。
 その価値ある物質が穏やかだったムートンの森に魔獣の陰謀を呼び寄せた。

 蝶の楽園だったムートンの森でフローラとエミーは出会った。

 陰謀に巻き込まれ瀕死となったフローラを助け、そっくりだったことから身代わりとしてエミーは魔獣とランドルトン公爵と対決して退けた、そして皇太子エドワードとの仲も取り持ち二人のキューピットになった。
 エミーがいなければフローラは命を落とし、エドは最愛の伴侶を得ることは叶わなかっただろう。

 今、白い協会の扉が開かれてカーニャたちが織り上げた純白のドレスを着てウェディングブーケをかけた花嫁がバーシンロードに進み出た。
 「おおっ・・・・・・」
 「なんて美しいの・・・・・・」
 「天使だ!天使が二人いる!」
 本来なら新婦の父がエスコートするバージンロードを二人の新婦が歩いている。
 同じ純白のドレスはシンプルで装飾はほとんどない、銃創を隠したショルダースタイルが右左で違うこととブーケを片方は持っていない事を除けば身長や体格、ベールから覗く緑色の瞳、光を受けて金色に輝くブロンズの髪、赤いルージュに透けるオレンジの唇も同じだ。
 
 ( 二時間前 )

 エミーは当初から式には参列することを渋っていた、似すぎている自分を世間に知らしめることでフローラに害が及ぶことを恐れたからだ。
 その説得に一役買ったのはベス婆、さすがに年の功に諭されては断り切れなくなった。
 不承不承で着替えが用意されたフローラの自室にエミーは案内される、既に花嫁は着替えを済ませて待っていた、バレットメイドのアンヌも一緒だ。
 着替えが終わっているフローラの隣に同じドレスがもう一着あった。
 嫌な予感。
 「待っていたわ、エミー、来てくれてありがとう」
 フローラが悪戯っぽく笑った。
 「まさか、それを着ろって言わないよな」
 「ウフフッ、さすがに察しがいいわね、その通り、私と同じドレスでエミーにエスコートしてほしいの」
 「冗談はよせ、花嫁が二人いてどうする」
 「いいの、おもしろいじゃない」
 「神の前の挙式だぞ、だいたいエドの前で不敬だ」
 「エドも承知の上よ、それに神父様も参列の皆も大賛成してくれているわ」
 「なっ、それじゃ知らないのは私だけなの!?」
 「そういう事になるわね」
 「諦めてください、エミーさん、エミーさんが着てくれないと里の皆が創ったドレスが無駄になっちゃいます、皆が泣きますよ」
 アンヌも少し意地悪に笑う。
 「ううーっ、やられた!何かあるとは思っていたが・・・・・・」
 フローラが立ち上がるとエミーの手を取った。
 「エミー、私がこうして生きているのは貴方のお蔭だわ、本当にありがとう、これから彼の地へ向かう貴方と会えるのはこれが最後かもしれない、恩人で、親友で、少し妹な貴方を私は決して忘れない」
 「フローラ・・・・・・」
 どちらからともなく抱き合った、フローラの目には涙がある。
 その感情を共感すると流れ込んでくる、瑞々しく暖かな優しさ、好意、自分に向けられた愛情・・・・・・フローラの感情には恐れがない、エミーに好意を持つ者でも畏怖や気味悪さを少なからず含んでいる、唯一フローラだけに負の感情がない。
 フローラが生涯自分を忘れないでいてくれる、これで自分の一生には意味が出来た、ああ、これが幸せか。
 「あっ、ああっ」
 乱れない脈が乱れる、どんなものより価値がある感情。
 「ありがとう、フローラ、とても・・・とても嬉しいよ」
 流せない涙を流してエミーも泣いた、嬉しい時も涙を流す訳が分かった。
 
 抱き合う姉妹は手を握って教会の扉を押し開く。

 バージンロードを挟んだ参列席には里の民とムートンの庶民が顔を揃えている、アオギリとサイゾウ、ムートンから里までの道を均したマックスたち、ドレスを織った婆たち、その末席には次のムートンを納めなければならないトマス男爵とカーニャもいた。
 皆静かに白い絨毯の上を行く二人のフローラを見つめた。
 一年前、森は魔獣と陰謀に蹂躙された、当主であるムートン男爵は殺され、令嬢だったフローラも暗殺の的となった。
 その中で里も魔獣に襲われ幾人もの犠牲者を出した、その中には小さな子供も含まれた。
 鎮魂の思いも込めて二人は白い絨毯を一歩一歩踏みしめていく、見送る参列者の胸にも様々な想いが横切る、皆その想いを消化し変換し生きていく、未来を見る。
 
 その先に皇太子エドワードと神父役の聖女グラディが待っている。
 二人はゆっくりと・・・・・・残された時間を慈しむようにゆっくりと進む、ステンドグラスから太陽の光が神殿に差し込みフローラを照らした。
 「エド、フローラを頼む、幸せにしてあげて」
 「ああ、約束する」
 握っていたフローラの手をエドに繋ぐ。
 「フローラ幸せになれ、遠くから見ている」
 「貴方もよエミー、貴方も幸せを見つけて」
 「もう見つけた」
 微笑と共にエミーは最前列に用意されたベンチに座った。

 挙式はグラディによって進められる、今日は飲んでいないようだ。
二列目に国王夫婦が座っているのにこの時初めて気づいた、国王も王妃から誇らしさと安堵が伝わってくる、エドとフローラなら次期国王にふさわしい。

初めて結婚式というものを見た、庶民でも式は挙げるが十四から冒険者生活のエミーには縁が無かった、エドとフローラが神の前で誓いを立てる、二人が眩しい。
二歳で東郷塾に拾われ、それから武道の道を歩んだ、直ぐに自分が他の子供とは決定的に違う事を理解した、世界には喜怒哀楽があり愛があった、皆それぞれの感情を持ち、時々で生み出すことが出来た、自分に出来ない事。
共感することでしか感じることが出来ない、集団の中にいることは辛い、疎外感ではない、幼かった自分には多すぎる感情の波に溺れてしまっていた。
今は制御できる、耳を塞ぐことも開くことも自由だ。
同じ子供が興味を抱き遊ぶこと、仲間をつくること、世界を知ること、エミーには出来なかった、ただ剣を振り磨いた、どう切るか、どこを切るか、どう殺すか。
師は殺す先に生かすがあると説いた。
信じて目指した先にあったもの、この愛が答えならやはり師東郷は正しかった。
不出来な自分でも手に入れることができた。
あの森でフローらを助けることが出来て本当に良かった。

フローラが放ったブーケトスはカーニャの手の中に落ちた。
「エミーも投げて!」
「私が結婚したわけではないのに変だろう」
「いいのよ!思いっきりね!!」
フローラがエミーの手にブーケを握らせた、ここまで来たら断っても仕方ない。
「じゃあ、いくね!」
後ろ向きに構えて跳ね上げるように神速のトス、バヒュツ 急加速して空中に放たれたブーケは、後方で待っていた娘たちに花びらを降らしながら教会の屋根を越えて晴天の空に消えた。
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