107 / 109
オアシス
しおりを挟む
カツミとシープ、マンティコア一族の脱走者、歳は十五歳、カツミはセカンドと呼ばれる雑兵クラスの男の子、シープはファーストと呼ばれるエリートクラスの女の子だがカツミの怪我はシープを庇ってのものだという。
複数の切り傷、追手の三人は二人に対して実力が相当に上だった、殺すだけなら一撃で良かったはずだ、弄び嬲った。
バカな連中だ、自分の強さをひけらかす様な事をしなければエミーに命を取られることはなかった。
部屋にいたシープは緊張の糸が切れてグッタリとしていたが、エミーの姿を見てビクリと身体を強張らせる。
自分たちを嬲った三人をいとも簡単に葬った、森の悪魔が再び目の前に現れた。
「一つ言っておく、私達の事については詮索しないで、知ってもいい事はないわ」
「分かりました・・・・・・エミー・・・さん」
「君たちは今後どうしたい?何処か当てがあるの」
「・・・・・・」
シープは疑り深い、処置を受けて寝ているカツミの前に立ち塞がる、その目の奥から警戒の色が消えることはなかった。
「君たちを如何にかしても私にメリットが無い事は分かるだろう、知りたいのは今後も追撃の手が伸びるのかだ、あるなら迎撃が必要だ」
「私たちを放り出せば済むことです」
「私ならそうする、でも彼女は絶対にしないわ」
「彼女?双子なのね、あっ、ごめん、聞かない約束だった」
「違う、他人の空似よ」
「そう・・・・・・なんだ」上目遣いの目は疑いに満ちている。
「君たちも暴力を生業にしてきたものなら分かるだろう」
氷雪のような気配に打ち付けられる、悪魔がその気になれば自分たちの生涯は今この瞬間に終わる、話さなければ殺される、選択肢は無かった。
「王都で仲間と先生たちと合流することになっているの・・・・・・生き残っていればだけど」
「期限と場所は?」
「分からない、行けば先生の方から接触してくるはず」
「先生の正体を知っているのか」
「私は・・・・・・知らない、カツミは知っていると思う」
「思う、か、いいだろう、王都まで送るわ」
「えっ!?」
「追撃は必ずある、その責任の一端は私にもあると言える、私と来るなら君たちを守る」
「何故、どうして私たちのために!?」
「貴方たちは期待できるから・・・・・・いえ、私の都合ね」
「?」
「こっちの話、私と来るなら最大限の安全を保障するわ、出発は今週中になる、それまでにカツミを歩けるようにして」
黄金の液体が入った小瓶をテーブルに置いた。
関わった多くの人と再び会う、共感することで多くの感情を貰うことができる。
それぞれに複雑な色、人には様々な感情が生きている。
自分の望みは何なのか、物心が付くまで分からなかった、他人にあるものが自分には無い事を知った。
その羨望は心を静かに焼く、悲しくも辛くもない絶望があった、エミーの心の世界には乾いて凍てつく荒野が広がっている、そんな荒寥とした景色の中にあるオアシスのような場所、幸せな人と出会い共感することでのみ永久凍土を溶かすことができる。
そこは何処よりも心地よい、もっとオアシスを広げたい、暖かな春の風で満たしたなら自分にも人を愛する心が生れるだろうか。
それはどんな気持ちで感覚なのだろう、共感しただけでは全てを理解することは出来ない、そこはフローラやカーニャたちが住まう場所だ。
そこは彼の地よりも遠い場所、永遠の憧れ。
手に入れたオアシスを何より失いたくはない、そのためならどんな代償でも払おう、毒蜂に堕ちてでも守る。
さざ波の音が聞こえる、ゆっくりと揺れるベッドが心地よい、ああ、そうだ、儂がいる場所はこうでなければ!地面が揺れていないと酔ってしまう、揺れているからこそ正常を保てる、船乗りとはそういうものだ。
木の匂いが新しい、新造船?・・・・・・儂は・・・・・・
ミューウッ 目の前で鳴き声がした、胸の上が僅かに重い。
ザリザリと鼻の頭を舐められている、なんだ、よせ、くすぐったい、無意識に手が伸びた。
ガブッ 「あ痛ぁ!」鼻の頭を齧られた。
覚醒した視界にあの黒猫がいた。
「あんたよっぽど好かれたねぇ、ここまで追ってきているとは思わなかったよ、どうやってここまで来たんだか」
「!?」窓のない船室にいたのは浅黒い骨太の女、おおよそ海とは関係なさそうに見える。
女の腕の中に灰色の猫が丸まっている。
「あんたは誰だ?ここは何処なんだ、何故儂は・・・・・・」
「覚えていないのかい、あんた多分丘の崖から落ちたんじゃないか、この子猫たちがあたしたちを案内してくれなきゃ死んでたよ」
「あっ!」思い出した、そうだ、この黒猫を抱いたまま足を滑らせた、滑落したのか。
「思い出したようだね」「あたしは短槍のエルザ、冒険者さ」
エルザと名乗った女がカップにお湯を注いでくれる。
「世話になった、儂はフェン・ウィックと申す者じゃ、少し前まで船乗りじゃったが今は無職じゃ」
「んっ、船乗りだって!?その割には日焼けしていないねぇ」
「ああ、儂はエンジニアじゃったからの、ずっと船室の籠っとったんじゃ」
「ほう、どんな船に乗っていたんだい?」
「最後はランドルトン公爵様の船じゃわい、ブラック・ローズといってな、でかくて足の速い最新鋭の軍艦じゃった、まあ、一度も戦うことは無かったがの」
ミャウッ ミャアアッ 黒と灰の二匹がフェンのベッドからエルザに向かって訴えるように鳴いた。
「おや、子猫ちゃんたちも一緒に行くってのかい?」
ミャーウッ 小さな肉球が探るように空を握った。
数日後、ブラックコーラル号は煙突から黒い煙を吐いて大海を走っていた。
複数の切り傷、追手の三人は二人に対して実力が相当に上だった、殺すだけなら一撃で良かったはずだ、弄び嬲った。
バカな連中だ、自分の強さをひけらかす様な事をしなければエミーに命を取られることはなかった。
部屋にいたシープは緊張の糸が切れてグッタリとしていたが、エミーの姿を見てビクリと身体を強張らせる。
自分たちを嬲った三人をいとも簡単に葬った、森の悪魔が再び目の前に現れた。
「一つ言っておく、私達の事については詮索しないで、知ってもいい事はないわ」
「分かりました・・・・・・エミー・・・さん」
「君たちは今後どうしたい?何処か当てがあるの」
「・・・・・・」
シープは疑り深い、処置を受けて寝ているカツミの前に立ち塞がる、その目の奥から警戒の色が消えることはなかった。
「君たちを如何にかしても私にメリットが無い事は分かるだろう、知りたいのは今後も追撃の手が伸びるのかだ、あるなら迎撃が必要だ」
「私たちを放り出せば済むことです」
「私ならそうする、でも彼女は絶対にしないわ」
「彼女?双子なのね、あっ、ごめん、聞かない約束だった」
「違う、他人の空似よ」
「そう・・・・・・なんだ」上目遣いの目は疑いに満ちている。
「君たちも暴力を生業にしてきたものなら分かるだろう」
氷雪のような気配に打ち付けられる、悪魔がその気になれば自分たちの生涯は今この瞬間に終わる、話さなければ殺される、選択肢は無かった。
「王都で仲間と先生たちと合流することになっているの・・・・・・生き残っていればだけど」
「期限と場所は?」
「分からない、行けば先生の方から接触してくるはず」
「先生の正体を知っているのか」
「私は・・・・・・知らない、カツミは知っていると思う」
「思う、か、いいだろう、王都まで送るわ」
「えっ!?」
「追撃は必ずある、その責任の一端は私にもあると言える、私と来るなら君たちを守る」
「何故、どうして私たちのために!?」
「貴方たちは期待できるから・・・・・・いえ、私の都合ね」
「?」
「こっちの話、私と来るなら最大限の安全を保障するわ、出発は今週中になる、それまでにカツミを歩けるようにして」
黄金の液体が入った小瓶をテーブルに置いた。
関わった多くの人と再び会う、共感することで多くの感情を貰うことができる。
それぞれに複雑な色、人には様々な感情が生きている。
自分の望みは何なのか、物心が付くまで分からなかった、他人にあるものが自分には無い事を知った。
その羨望は心を静かに焼く、悲しくも辛くもない絶望があった、エミーの心の世界には乾いて凍てつく荒野が広がっている、そんな荒寥とした景色の中にあるオアシスのような場所、幸せな人と出会い共感することでのみ永久凍土を溶かすことができる。
そこは何処よりも心地よい、もっとオアシスを広げたい、暖かな春の風で満たしたなら自分にも人を愛する心が生れるだろうか。
それはどんな気持ちで感覚なのだろう、共感しただけでは全てを理解することは出来ない、そこはフローラやカーニャたちが住まう場所だ。
そこは彼の地よりも遠い場所、永遠の憧れ。
手に入れたオアシスを何より失いたくはない、そのためならどんな代償でも払おう、毒蜂に堕ちてでも守る。
さざ波の音が聞こえる、ゆっくりと揺れるベッドが心地よい、ああ、そうだ、儂がいる場所はこうでなければ!地面が揺れていないと酔ってしまう、揺れているからこそ正常を保てる、船乗りとはそういうものだ。
木の匂いが新しい、新造船?・・・・・・儂は・・・・・・
ミューウッ 目の前で鳴き声がした、胸の上が僅かに重い。
ザリザリと鼻の頭を舐められている、なんだ、よせ、くすぐったい、無意識に手が伸びた。
ガブッ 「あ痛ぁ!」鼻の頭を齧られた。
覚醒した視界にあの黒猫がいた。
「あんたよっぽど好かれたねぇ、ここまで追ってきているとは思わなかったよ、どうやってここまで来たんだか」
「!?」窓のない船室にいたのは浅黒い骨太の女、おおよそ海とは関係なさそうに見える。
女の腕の中に灰色の猫が丸まっている。
「あんたは誰だ?ここは何処なんだ、何故儂は・・・・・・」
「覚えていないのかい、あんた多分丘の崖から落ちたんじゃないか、この子猫たちがあたしたちを案内してくれなきゃ死んでたよ」
「あっ!」思い出した、そうだ、この黒猫を抱いたまま足を滑らせた、滑落したのか。
「思い出したようだね」「あたしは短槍のエルザ、冒険者さ」
エルザと名乗った女がカップにお湯を注いでくれる。
「世話になった、儂はフェン・ウィックと申す者じゃ、少し前まで船乗りじゃったが今は無職じゃ」
「んっ、船乗りだって!?その割には日焼けしていないねぇ」
「ああ、儂はエンジニアじゃったからの、ずっと船室の籠っとったんじゃ」
「ほう、どんな船に乗っていたんだい?」
「最後はランドルトン公爵様の船じゃわい、ブラック・ローズといってな、でかくて足の速い最新鋭の軍艦じゃった、まあ、一度も戦うことは無かったがの」
ミャウッ ミャアアッ 黒と灰の二匹がフェンのベッドからエルザに向かって訴えるように鳴いた。
「おや、子猫ちゃんたちも一緒に行くってのかい?」
ミャーウッ 小さな肉球が探るように空を握った。
数日後、ブラックコーラル号は煙突から黒い煙を吐いて大海を走っていた。
0
あなたにおすすめの小説
精霊のお仕事
ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
【完結】
オレは前世の記憶を思い出した。
あの世で、ダメじゃん。
でもそこにいたのは地球で慣れ親しんだ神様。神様のおかげで復活がなったが…今世の記憶が飛んでいた。
まあ、オレを拾ってくれたのはいい人達だしオレは彼等と家族になって新しい人生を生きる。
ときどき神様の依頼があったり。
わけのわからん敵が出てきたりする。
たまには人間を蹂躙したりもする。?
まあいいか。
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」
チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。
だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。
魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。
だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。
追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。
訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。
そして助けた少女は、実は王国の姫!?
「もう面倒ごとはごめんだ」
そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。
異世界に召喚されたら職業がストレンジャー(異邦”神”)だった件【改訂版】
ぽて
ファンタジー
異世界にクラスごと召喚された龍司だったが、職業はただの『旅人』?
案の定、異世界の王族貴族たちに疎まれて冷遇されていたのだが、本当の職業は神様!? でも一般人より弱いぞ、どゆこと?
そんな折に暗殺されかけた挙句、どさくさに紛れてダンジョンマスターのシータにプロポーズされる。彼女とともに国を出奔した龍司は、元の世界に戻る方法を探すための旅をはじめた。……草刈りに精を出しながら。
「小説家になろう」と「ノベルバ」にも改定前版を掲載中です。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる