kings field 蝶の森 

祥々奈々

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悪戯

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 ガーゼに消毒液を沁み込ませると傷口を拭いていく、血で濡れていた白い肌が現れるがそこに双丘はない。
 「なにをする気なの!?」
 ハリーの処置を手伝っていたアンヌが気付く。
 「弾が体内に残っている、鉛中毒では輸血できない、摘出する」
 「自分でやるっていうの!?無茶よ」
 「そうでもないさ」
 言うが早くメスで少し傷口を切開すると、火で消毒したピンセットを銃創に差し込む。
 「くっ……」さすがに苦痛の呻きが漏れる、肉が焼ける嫌な臭いが漂う。
 「ひっ……」アンヌが目を覆う中で二度三度ピンセットの先を回して潰れた弾丸を探す。
 カチャッ 先端が触れた、やはり骨にあたって止まっている、変形した弾丸は侵入した時よりも潰れて表面積が大きくなる、摘出には痛みが伴う。
 「がっ!!」時間を掛けずに慎重に引き抜く、カランッ ピンセットと弾丸を置くと
再度消毒液を振りかけて拭き取り針で縫っていく、迷いがない、自分の処置を終えると額から汗が滴る、フローラに視線を移す。
 「どうだ、じいさん、助かるか?」
 覗き込んだフローラの顔は蒼白だ。
 「傷口は縫合出来るが射出側の胸の傷口からの出血が酷かったようだ、失血死の恐れが……」
 「やはりそうか、侵入側は弾丸の熱で止血される場合があるが、射出側では熱を失う、銃創も大きくなるから失血しやすくなる、やはり輸血が必要だな」
 「しかし、型が合わなければ最悪、身体の中で血が凝固してしまうぞ」
 「知っている、型が合うか試験しよう」
 「混合凝固試験か!?」
 「そうだ、俺で試そう、ここまで似ているのだ、血液も似ていておかしくはないだろう」
 「うーん、確かに……よし試そう、アンヌ、小皿に水を用意してくれ」
 抗凝固剤もABO型の概念もない時代は血液同志を混ぜて固まるかで判断していた時代があった。
長い期間輸血は表立ってすることは出来なかった、しかし民間治療では強健な人間の血を輸血して病気の改善を得ることなどがあったため密かにその方法は受け継がれていた。

 「大丈夫よ!!二人の血は混ざる、固まらないわ」
 検査が終わるころ銃創の縫合は終わったが、フローラの脈は確認出来ないほど弱くかすかになっている、失血による血圧低下が顕著だ。
 「急ごう、このままでは助からない」
 「あなたは……大丈夫なのか、相当な出血だったはず」
 「ああ、問題ない」 嘘だった、人に分割するほど残ってはいないがここで諦める訳にはいかない。
 ハリーは輸血の作業に慣れていた、普段から施術しているのだろう。
 ひとつ高いベッドから見下ろすフローラの腕に自分の腕からゴム管が伸びていた。
 少しずつフローラの顔に赤みが戻っているように感じる。
 意識が戻る気配はないが一命は取り留めたと思う。
 エミーは半身を殺さずに済んだかのような感覚になった、今日まで関わることの無かった自分そっくりの女に命を懸けた後悔はなかった。
 なにかの悪戯でもここまで似ているのには意味があると思えた。

 処置室の外が騒がしい、村の自警団の連中まで集まって来て玄関前で騒いでいる、ハウスメイドたちがなだめているが今にも館の中に踏み込んできそうだった。
 「おいっ、フローラ様が襲われたって聞いたぞ、本当なのか!?」
 「さっき遠くで銃声のような音がしたぞ、まさか撃たれたりしてないよな!?」
 「怪我をしているそうじゃないか、大丈夫なのか」
 「床に血の跡があるぞ!!」

 今真実を知られれば中央まであっという間に話は伝わる。
 男爵を魔獣に殺され、仮の当主に立った娘まで倒れてはこの土地は他の貴族に接収されて住民は虐げられることになる。
 それを反王勢力は狙っている、瀕死のフローラの状況を知られるわけにはいかなかった。
 
 「今、お嬢様の状態を知られるわけにはいかない、どうにかごまかせないか!?」
 ハリーとアンヌの視線がエミーに注がれた、何を期待しているかは直ぐに理解できた。
 「冗談だろ、身代わりになれっていうのか」
 「後生じゃ、その窓からちょっと顔と声を聞かせれば納得するに違いない」
 「お願いします、今、公になってしまえばお嬢様の居場所がなくなってしまいます」
 「……」
 首の頸動脈に触れる、心音に乱れはない、クリアな思考、冷静な状況判断が出来ている。

 答えは?

 「分かったよ、着替えを用意してくれ」
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