kings field 蝶の森 

祥々奈々

文字の大きさ
7 / 76

成り行き

しおりを挟む
 「うるさーい!!一体なんの騒ぎなの!?」
 「!!」
 玄関正面の大階段に仁王立ちのバロネス・フローラが現れた。
 「ああっ、フローラ様ご無事だったのですね」
 「ホントだ、フローラ様だ」
 珍しく不機嫌そうなフローラに押し掛けた住民たちは以外だという顔になった。
 「!」フローラ役を演じているエミーは住民たちの空気を素早く読み取る、この口調はフローラらしくなかったようだ。
 「怒鳴ってごめんなさい、ギルドの件でイライラしてしまって」
 即座に口調をワントーン柔らかくして階段を降りると住民の前に立った。
 「夕刻に銃声が聞こえて、その後フローラ様たちが早駆けしているのを見たっていうので、てっきり怪我でもなさったのかと」
 「そいで森の道に血だまりがあったんじゃ、だれかが争ったあともあったらしい」
 「ああ、あれは森の中に狼らしき動物が見えたのでアンヌが脅しで一発撃ったのよ、驚かせてしまってごめんなさい、でも血だまりって言うのは分からないわ」
 「いや、謝らんでください、儂らはフローラ様がご無事ならそれでええです」
 「てっきり怪我でもなさったのではと慌てて飛んできたんです」
 「心配してくれてありがとう、でもこの通り何でもないわ」
 一瞬しか見ていないがフローラの笑顔を思い出す、口角を上げて目を細めながら笑う。
 「イライラなさっても当然じゃ、ギルドの連中も忠義を忘れおって、許しがたい事じゃ」
 「フローラ様、やはりここは皇太子様にお会いになってみてはいかがでしょう、きっと良い方向に取り計らっていただけるのでは」
 詰めかけた住民たちの奥に違和感のある連中がいる、農夫でも猟民でもない、雰囲気か違う。
 「みなさん夜道は危険です、そろそろお帰り下さい」
 アンヌも降りてくると住民の話を遮り解散を促した。
 「今後の事は明日以降にでもまた話し合いましょう、今日は私も疲れました」
 「そうじゃ、これは失礼した、皆フローラ様に心配をかける前に引き上げよう」
 年嵩のゴドー爺の発声で住民たちはようやく領主館を後にしていった。

 「ふうっ、誤魔化せたかな」
 「はい、疑っていた人はいないと思います」
 「いや、あそこで話を切ってくれて助かった、ぼろが出ずにすんだ」
 大階段に座り込んだ、輸血のせいで立ち眩みがひどい、血が下がっていくのが分かる。
 「大丈夫ですか、酷い怪我の上に輸血まで、あなたはムートン家の恩人です」
 「成り行きさ、畏まることはないよ」
 「まだ、お名前さえ伺っていませんでした、教えていただけますか」
 そうだ、お互いの名前さえ知らない。
 「ああ、俺はエミリアン、エミリアン・ギョー・東郷、流れ者の冒険者だ、こんな見てくれなのでエミーと呼ばれている」
 「本当に男性なのですね、声までフローラ様そっくりなんて……神がムートン家の危機に遣わしてくださったのでしょうか」
 「どうかな、神か悪魔か、誰かの悪戯だ」
 「私はムートン家にお仕えしているヴァレット・メイドのアンヌ・マリと申します、治療していた執事がハリー・エドモンドです」
 「フローラを襲った連中に心当たりはあるか?」
 「大体は……ランドルトン公爵の息のかかった者でしょう、雇われた殺し屋か私設軍隊、そんなところだと思います」
 「何が目的なのだ?」
 「あのムートンの森で硝石が発見されたのです、王家も公爵家もそれが欲しいのです」
 「硝石か、爆薬の材料だな、今は誰も欲しがっている」
 「男爵様は採掘に反対しておられました、そこへ魔獣騒ぎ、タイミングが良すぎます」
 「一つ気になることがある、さっき爺さんの一人が街道に血だまりがあったと言っていた」
 「それは貴方が切り捨てた者たちの血ではないですか」
 「死体はどうした?(四人の死体があった)ではなく血だまりがあったと言った、誰が死体を片付けた?」
 「そう言えば確かに……変ですね」
 「あの短時間に四人の遺体を隠した者がいる、四人の仲間だったとしたら、追撃してこないのは変だ、それに、さっきの村人の中に変な連中が混じっていた、恐らくどちらかのスパイだろう」
 「やはり、魔獣なのかもしれません」
 「本当に存在すると思うのか」
 「男爵様の遺体を見ました、殺して内臓を持ち去るなんて人のすることではありません」
 黒髪を結って綺麗に束ねた顔は何処か異国的だった、眼鏡の奥に隈が出来ている。
 「襲撃犯の中の銃を持った男、あれはお前が撃ったのか?」
 「……そう、私が……撃ちました」
 その文字を言葉にする唇が震えている。
 「いい判断だった、あいつが生き残っていたら今は無かっただろう」
 「初めて人を殺しました……」
 エミーはアンヌの葛藤と恐れを感じた、主人を守るための明確な戦い、殺そうとしてきた相手を返り討ちにしたことに何を後悔することがあるのか。
 自分が人殺しになった恐怖はアンヌの心を修復出来ないほどに抉っている。
 自分に決定的に欠如しているもの、どんな時も冷静さを失わない心の替わりに失ったものだ。
 
 「君は……アンヌは殺していない、あの時やつにはまだ息があった」
 肩に手を置いてやると震えが伝わってくる、やはり止めを刺しておけば良かった、殺したのは俺だと言ってあげられた。
 「あなたは優しい人なのですね」
 「……」
 
 優しい?俺は単なる嘘つきだ。

  見知らぬ階段の下、やっと一日が終わろうとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】

藤原遊
恋愛
十八歳で、私はいつも死ぬ。 そしてなぜか、また目を覚ましてしまう。 記憶を抱えたまま、幼い頃に――。 どれほど愛されても、どれほど誰かを愛しても、 結末は変わらない。 何度生きても、十八歳のその日が、私の最後になる。 それでも私は今日も微笑む。 過去を知るのは、私だけ。 もう一度、大切な人たちと過ごすために。 もう一度、恋をするために。 「どうせ死ぬのなら、あなたにまた、恋をしたいの」 十一度目の人生。 これは、記憶を繰り返す令嬢が紡ぐ、優しくて、少しだけ残酷な物語。

処理中です...