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戦術眼
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「子供は巨大猿を魔猿熊と呼んだ、岩人の伝説では森の魔人をヤーヴルといそうだ」
「森魔人ヤーヴル、相応しいわね、呼称を統一しましょう」
全員頷いた。
「ひとつ気になることがあるの、なぜヤーヴルは人だけを襲うのかしら」
「確かにそうだ、食うためだけなら羊の方が簡単だろうに」
「人なら恨みや何らかの目的があるはずだか、魔物とはいえ獣が本能的な食欲に従っているはず、人だけを食料と認識しているのは変だな」
「悪魔に近い存在なのか?」
「いいえ、現世に神や悪魔は実体化しないわ、それは精神世界の理、でも今はそこが問題じゃない、どう倒すかよ」
フローラは組んだ腕の片方を首に伸ばしている、最近よく見る仕草だ。
「銃はどれくらいある?」
「そんな高級品は自警団になぞあるわけない、その代わり腕のいい弓遣いはいるぞ、遠的なら銃より威力がある」
ミニエー弾が開発される前のマスケット銃は射程百メートル程度、さらに狙った場所にあたるのは五十メートルほどだ、それ以上はどこに飛んでいくか分からない不確定な武器だった。
これはライフルリングがないため丸い弾丸の軌道が安定しないためだ。
さらに薬莢が無い時代は弾を銃の先から込めて火薬を別に詰めなければならない、基本的に一発撃ちであるため実戦では弓の方が実用的といえた。
「平地におびき出せれば良いけど、森での戦いなった時に猿たちは木々の上から攻撃してくると思う、飛び道具がないと不利だわ」
「上からの攻撃?猿共に何が出来るというのだ」
ガイゼルが馬鹿にしたように言う。
「高さは脅威だわ、石礫を投げ降ろされただけでも盾で防げなければ致命傷になり得るのよ、なにより武器を持って地上と木の上からヒットアンドウェイを繰り返されると剣だけでは打つ手がない、やられっぱなしになる」
冷静に分析するフローラにエドワードたちも感嘆の表情で見返した、マックスは再度驚かされる、フローラの言いようはまるで経験があるように聞こえる。
「それなら我が隊にはジュン少尉がいる、弓遣いとしては超が付く一流だ」
グラマラスな女性兵士が手を上げた。
「例え森の中だろうと私なら当ててみせるよ」
「森の中には障害物となる木や枝が多い、それでも当てられる?」
「もちろんよ、弓は真っ直ぐ撃つだけの銃とは違う、曲げて打つことも私なら可能なの」
「曲射弓術、本当に打てる人がいるのね」
「良く知っているわね、だいたいの人はこの話を聞いても信じないわ」
エミーは聞いた事があった、王都の軍に籍を置く凄腕の弓兵、字名を六月(ジュン)のアポロウーサ(女破壊者)。
弓を縦カーブではなく横にもカーブさせることが出来るという、壁に隠れた敵を開いた扉から射抜くという名手。
「エド、チームに盾役は?」
「通常はガイゼルが立つが、必要なら私も準備がある」
「マックス達も手盾や小盾で構わないから出来るだけ装備するようにして」
「ああ、そうしよう」
「最悪は石榑がジャベリン(槍)になる事ね」
「まさか!?それはないだろう、獣が槍は作れまい、盗まれた話も聞かんぞ」
「そうね、考え過ぎかもしれないけど用心に越した事はないわ」
やはりこの女は普通と違う、ガイゼルたちは疑念を深めた、普通なら一番の脅威を巨大な森魔人ヤーヴルと捉えてその他の危険性など考えない。
戦場で一対一になることなど稀だ、眼前の敵だけ見ている者は脇に立っている凡庸な剣に切られることになる、戦力、脅威とは全体を見なければならない。
戦術の組み立てにおいて個人戦も団体戦でも基本は同じ、弱点を見せずに弱点を突く、フローラは確実にどうすべきかを知っている。
コンッコンッ 執務室の扉がノックされるとアンヌが顔を覗かせた、その表情からまた面倒なことが起こった事が予想できた。
「お嬢様、ちょっとよろしいでしょうか」
「どうしたの、どうぞ入って」
「実は今、玄関に隣領フィーゴ子爵様がおいでになっておられまして」
「フィーゴ子爵様が何用かしら?」
「それが、森の魔獣討伐に協力してやるとギルド長も一緒にきています」
隣領フィーゴ家もギルドも公爵派閥、ギルドなどこちらの依頼を一蹴しておいて馬鹿にした話だ。
「分かったわ、玄関で待たせておきなさい、館内には入れないで」
「フローラ様、なんなら私が対応いたしますが・・・」
エドが立ち上がった、エドが子爵に対応するとは皇太子の身分を明かしてすることになる、明かせばまた無用な憶測と危険が増えるだけだ。
「いいえ、ここは私が対応いたします」
男爵机から離れて玄関に降りていく後姿に迷いも不安も感じられない、堂々と落ち着いている。
「随分としっかりしちまったな」マックスが感嘆の溜息を苦笑いと共に漏らした。
「あなたは幼少からフローラ様をご存知なのか」
ガイゼルがマックスの溜息を聞いて顔を向けた。
「幼馴染さ、俺より二つ下の妹が急に大人びて姉貴になっちまった、人生を置いて行かれたような気分だよ」
少し寂しそうにマックスはフローラが消えた階段に視線を向けた。
「森魔人ヤーヴル、相応しいわね、呼称を統一しましょう」
全員頷いた。
「ひとつ気になることがあるの、なぜヤーヴルは人だけを襲うのかしら」
「確かにそうだ、食うためだけなら羊の方が簡単だろうに」
「人なら恨みや何らかの目的があるはずだか、魔物とはいえ獣が本能的な食欲に従っているはず、人だけを食料と認識しているのは変だな」
「悪魔に近い存在なのか?」
「いいえ、現世に神や悪魔は実体化しないわ、それは精神世界の理、でも今はそこが問題じゃない、どう倒すかよ」
フローラは組んだ腕の片方を首に伸ばしている、最近よく見る仕草だ。
「銃はどれくらいある?」
「そんな高級品は自警団になぞあるわけない、その代わり腕のいい弓遣いはいるぞ、遠的なら銃より威力がある」
ミニエー弾が開発される前のマスケット銃は射程百メートル程度、さらに狙った場所にあたるのは五十メートルほどだ、それ以上はどこに飛んでいくか分からない不確定な武器だった。
これはライフルリングがないため丸い弾丸の軌道が安定しないためだ。
さらに薬莢が無い時代は弾を銃の先から込めて火薬を別に詰めなければならない、基本的に一発撃ちであるため実戦では弓の方が実用的といえた。
「平地におびき出せれば良いけど、森での戦いなった時に猿たちは木々の上から攻撃してくると思う、飛び道具がないと不利だわ」
「上からの攻撃?猿共に何が出来るというのだ」
ガイゼルが馬鹿にしたように言う。
「高さは脅威だわ、石礫を投げ降ろされただけでも盾で防げなければ致命傷になり得るのよ、なにより武器を持って地上と木の上からヒットアンドウェイを繰り返されると剣だけでは打つ手がない、やられっぱなしになる」
冷静に分析するフローラにエドワードたちも感嘆の表情で見返した、マックスは再度驚かされる、フローラの言いようはまるで経験があるように聞こえる。
「それなら我が隊にはジュン少尉がいる、弓遣いとしては超が付く一流だ」
グラマラスな女性兵士が手を上げた。
「例え森の中だろうと私なら当ててみせるよ」
「森の中には障害物となる木や枝が多い、それでも当てられる?」
「もちろんよ、弓は真っ直ぐ撃つだけの銃とは違う、曲げて打つことも私なら可能なの」
「曲射弓術、本当に打てる人がいるのね」
「良く知っているわね、だいたいの人はこの話を聞いても信じないわ」
エミーは聞いた事があった、王都の軍に籍を置く凄腕の弓兵、字名を六月(ジュン)のアポロウーサ(女破壊者)。
弓を縦カーブではなく横にもカーブさせることが出来るという、壁に隠れた敵を開いた扉から射抜くという名手。
「エド、チームに盾役は?」
「通常はガイゼルが立つが、必要なら私も準備がある」
「マックス達も手盾や小盾で構わないから出来るだけ装備するようにして」
「ああ、そうしよう」
「最悪は石榑がジャベリン(槍)になる事ね」
「まさか!?それはないだろう、獣が槍は作れまい、盗まれた話も聞かんぞ」
「そうね、考え過ぎかもしれないけど用心に越した事はないわ」
やはりこの女は普通と違う、ガイゼルたちは疑念を深めた、普通なら一番の脅威を巨大な森魔人ヤーヴルと捉えてその他の危険性など考えない。
戦場で一対一になることなど稀だ、眼前の敵だけ見ている者は脇に立っている凡庸な剣に切られることになる、戦力、脅威とは全体を見なければならない。
戦術の組み立てにおいて個人戦も団体戦でも基本は同じ、弱点を見せずに弱点を突く、フローラは確実にどうすべきかを知っている。
コンッコンッ 執務室の扉がノックされるとアンヌが顔を覗かせた、その表情からまた面倒なことが起こった事が予想できた。
「お嬢様、ちょっとよろしいでしょうか」
「どうしたの、どうぞ入って」
「実は今、玄関に隣領フィーゴ子爵様がおいでになっておられまして」
「フィーゴ子爵様が何用かしら?」
「それが、森の魔獣討伐に協力してやるとギルド長も一緒にきています」
隣領フィーゴ家もギルドも公爵派閥、ギルドなどこちらの依頼を一蹴しておいて馬鹿にした話だ。
「分かったわ、玄関で待たせておきなさい、館内には入れないで」
「フローラ様、なんなら私が対応いたしますが・・・」
エドが立ち上がった、エドが子爵に対応するとは皇太子の身分を明かしてすることになる、明かせばまた無用な憶測と危険が増えるだけだ。
「いいえ、ここは私が対応いたします」
男爵机から離れて玄関に降りていく後姿に迷いも不安も感じられない、堂々と落ち着いている。
「随分としっかりしちまったな」マックスが感嘆の溜息を苦笑いと共に漏らした。
「あなたは幼少からフローラ様をご存知なのか」
ガイゼルがマックスの溜息を聞いて顔を向けた。
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