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戻れぬ橋
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岩人の里から戻ると直ぐにチビッコ子爵からの呼び出しとしてギルド長が待ち構えていた。
「バロネス・フローラ、お疲れのところ申し訳ないがムートンの森に隣接するフィーゴ子爵家領地において魔獣による被害者が発生した、死体状況の見分をお願いしたい」
今度はギルド長も軽口は叩かず慇懃に言葉を選んだ。
馬から降りたフローラは企みが透けて見えるギルド長を汚い物でも見るように眉根を寄せる。
「今から来いというのか、礼儀を知らんのは其方ではないのか」
王都の冒険者だと言っていたリーダー格の男が前に出てきた、ただでかいだけでなく凄みのある圧力を持っている、ギルド長は気圧されて後退る。
「わっ悪いとは思っている、しかし遺体をいつまでもそのままにしてはおけない、ご理解願いたい」
「貴様、何を言っている、領地内で起こったことなら其方で見分すればよいではないか、獣がどこから来ようと知ったことではあるまい」
リーダー格以上にデカい盾持ちに凄まれる、腕周りが一般人の太ももだ、早く帰りたい。
「ひいいっ、私はフィーゴ子爵の使いです、どうかご容赦ください」
「何だい、この辺のギルドっていうのは子爵の子飼いなのかい、王都のギルドは貴族にだって靡いたりしない、誇りってもんがないのかい」
「なんとも情けねえな、しっかりしろや」
コテンパンに言われてギルド長は涙目で反撃にでた。
「だっ、だいたい貴方たちは何なのですか、この土地の者ではないでしょう、私はバロネスに申し上げているのです、よそ者は黙っていて頂きたい」
「私たちはフローラ様を警護するために雇われた王家派遣の冒険者だ、貴様たちの事は王家にも報告せねばならんな」
「なっ……王家派遣!?」
王家と聞いてギルド長の顔が青ざめる。
「みなさん、嬲るのはその辺にしてあげてください、分かりました、行きましょう」
「フローラ様、なんでしたら私たちで行ってまいりますが」
「大丈夫です、お手数ですが同行をお願いできますか」
「もちろんです」
予定外だ、とんでもない援軍が来ていた、とっくに王家側に策略を掴まれていた、呑気な王様だと侮っていた、公爵は裏をかかれている。
ムトゥは此方が先手を打っていると言っていたが、とんだ誤りだ。
全てはこの女を見誤ったのが始まりだ、ただのガキだと思っていたがとんでもない、鬼神と謳われた父親同様に鋭い、既に王家との繋がりを確立している、皇太子との婚約は既に成立しているのかもしれない。
ムートン家だけを敵にするのと王家を敵にするのでは訳が違う、こうなる前に片付けるはずだったのに最悪な事態だ。
このままでは逆賊としてトカゲの尻尾にされかねない、後ろからの殺気と圧力に気を失いそうになる思いで小屋まで案内するために馬を走らせる。
ウマイは話だと思っていた、上手くいけばムートン家無きあとの男爵として自分が貴族になる手筈だった、それもこれも公爵の統治があってこそだ、国家転覆が無ければ自分はただの逆賊、終わりだ。
「こんなことなら、もう少し成り行きを待ってから話にのるべきだったか……」
日が落ちて冷えてくる空気が冷や汗を更に冷たくする。
だめだ、自分の替わりなど幾らもいる、公爵の力を持ってすれば簡単なことだ。
出世の甘い夢に釣られて欲を身分不相応の欲を持ったことが間違いだと気づいた時には戻れない一本橋を渡り始めていた。
今は公爵と王家の力に大きく揺れる一本橋から落とされぬようにギルド長はしがみ付くだけだった。
「いつもいつも待たせおって、時は金なり、私の時給は安くは無いのですよ」
フィーゴ子爵は上手いと思っている嫌みからフローラにぶつけてみるが、その声は壁のようにフローラの前に立っている冒険者たちにより跳ね返されて届かない。
「これでは帰りが遅くなってしまいますね、申し訳ありません」
フローラの言葉が聞こえたがフィーゴではなくエドたちに向けて発せられたものだ。
「いいえ、かまいません、こんな暗い道をフローラ様一人で走らせるなどありえません」
「やい!貴様、どけっ、儂が見えんではないか」
「あん!?なんだお前は、子供がこんな時間に出歩いちゃいかんぞ」
ググゥーと腰を屈めてエドが顔を近づける。
「誰が子供か!儂は子爵だぞ、無礼者め!」
「あら本当だわ、子供にしてはハゲだわ、子供だったら抱いてあげようと思ったのに残念な人ね」
ジュン少尉が巨乳を揺らして挑発する。
「うっ、煩い、何だこの失礼な輩共は、バロネス・フローラ!説明したまえ!!」
「私たちは王家の命により派遣された王都ギルド所属の冒険者チームです、フローラ様の警護とムートンの森の魔獣討伐を任務としてやってまいりました」
聖女がやや声を落として返答するが後ろに控えた戦士たちの気配は闘争を厭わない剣呑さを露にしている。
「おっ、王家派遣の冒険者だと!?そんなことは聞いておらんぞ!!」
「なんで地方の子爵ごときに王家が断りを入れねばならんのだ、ふざけるなよ」
リーダー格の男が凄んだ、整った顔立ちが怒りに満ちている。
「なっ、なんだと……」
フローラに対する言葉や扱いにエドワードの堪忍袋は限界だ。
「みなさん、ここは早く見分を済ませて帰りましょう、酒神ディオ様がお待ちです」
そう切り出したのはフローラだった、冒険者たちの間を細い身体が縫って現れると平然と小屋の扉を開けた、チビッコは目の端にも留めない。
「ななななななっ」
完全無視でスルーされたフィーゴはまたしても茹蛸になる、あと数回続けばどっかの血管が切れるだろう。
ここに来てようやくフィーゴは自分の見積もりが間違っていたことに気付いた。
「バロネス・フローラ、お疲れのところ申し訳ないがムートンの森に隣接するフィーゴ子爵家領地において魔獣による被害者が発生した、死体状況の見分をお願いしたい」
今度はギルド長も軽口は叩かず慇懃に言葉を選んだ。
馬から降りたフローラは企みが透けて見えるギルド長を汚い物でも見るように眉根を寄せる。
「今から来いというのか、礼儀を知らんのは其方ではないのか」
王都の冒険者だと言っていたリーダー格の男が前に出てきた、ただでかいだけでなく凄みのある圧力を持っている、ギルド長は気圧されて後退る。
「わっ悪いとは思っている、しかし遺体をいつまでもそのままにしてはおけない、ご理解願いたい」
「貴様、何を言っている、領地内で起こったことなら其方で見分すればよいではないか、獣がどこから来ようと知ったことではあるまい」
リーダー格以上にデカい盾持ちに凄まれる、腕周りが一般人の太ももだ、早く帰りたい。
「ひいいっ、私はフィーゴ子爵の使いです、どうかご容赦ください」
「何だい、この辺のギルドっていうのは子爵の子飼いなのかい、王都のギルドは貴族にだって靡いたりしない、誇りってもんがないのかい」
「なんとも情けねえな、しっかりしろや」
コテンパンに言われてギルド長は涙目で反撃にでた。
「だっ、だいたい貴方たちは何なのですか、この土地の者ではないでしょう、私はバロネスに申し上げているのです、よそ者は黙っていて頂きたい」
「私たちはフローラ様を警護するために雇われた王家派遣の冒険者だ、貴様たちの事は王家にも報告せねばならんな」
「なっ……王家派遣!?」
王家と聞いてギルド長の顔が青ざめる。
「みなさん、嬲るのはその辺にしてあげてください、分かりました、行きましょう」
「フローラ様、なんでしたら私たちで行ってまいりますが」
「大丈夫です、お手数ですが同行をお願いできますか」
「もちろんです」
予定外だ、とんでもない援軍が来ていた、とっくに王家側に策略を掴まれていた、呑気な王様だと侮っていた、公爵は裏をかかれている。
ムトゥは此方が先手を打っていると言っていたが、とんだ誤りだ。
全てはこの女を見誤ったのが始まりだ、ただのガキだと思っていたがとんでもない、鬼神と謳われた父親同様に鋭い、既に王家との繋がりを確立している、皇太子との婚約は既に成立しているのかもしれない。
ムートン家だけを敵にするのと王家を敵にするのでは訳が違う、こうなる前に片付けるはずだったのに最悪な事態だ。
このままでは逆賊としてトカゲの尻尾にされかねない、後ろからの殺気と圧力に気を失いそうになる思いで小屋まで案内するために馬を走らせる。
ウマイは話だと思っていた、上手くいけばムートン家無きあとの男爵として自分が貴族になる手筈だった、それもこれも公爵の統治があってこそだ、国家転覆が無ければ自分はただの逆賊、終わりだ。
「こんなことなら、もう少し成り行きを待ってから話にのるべきだったか……」
日が落ちて冷えてくる空気が冷や汗を更に冷たくする。
だめだ、自分の替わりなど幾らもいる、公爵の力を持ってすれば簡単なことだ。
出世の甘い夢に釣られて欲を身分不相応の欲を持ったことが間違いだと気づいた時には戻れない一本橋を渡り始めていた。
今は公爵と王家の力に大きく揺れる一本橋から落とされぬようにギルド長はしがみ付くだけだった。
「いつもいつも待たせおって、時は金なり、私の時給は安くは無いのですよ」
フィーゴ子爵は上手いと思っている嫌みからフローラにぶつけてみるが、その声は壁のようにフローラの前に立っている冒険者たちにより跳ね返されて届かない。
「これでは帰りが遅くなってしまいますね、申し訳ありません」
フローラの言葉が聞こえたがフィーゴではなくエドたちに向けて発せられたものだ。
「いいえ、かまいません、こんな暗い道をフローラ様一人で走らせるなどありえません」
「やい!貴様、どけっ、儂が見えんではないか」
「あん!?なんだお前は、子供がこんな時間に出歩いちゃいかんぞ」
ググゥーと腰を屈めてエドが顔を近づける。
「誰が子供か!儂は子爵だぞ、無礼者め!」
「あら本当だわ、子供にしてはハゲだわ、子供だったら抱いてあげようと思ったのに残念な人ね」
ジュン少尉が巨乳を揺らして挑発する。
「うっ、煩い、何だこの失礼な輩共は、バロネス・フローラ!説明したまえ!!」
「私たちは王家の命により派遣された王都ギルド所属の冒険者チームです、フローラ様の警護とムートンの森の魔獣討伐を任務としてやってまいりました」
聖女がやや声を落として返答するが後ろに控えた戦士たちの気配は闘争を厭わない剣呑さを露にしている。
「おっ、王家派遣の冒険者だと!?そんなことは聞いておらんぞ!!」
「なんで地方の子爵ごときに王家が断りを入れねばならんのだ、ふざけるなよ」
リーダー格の男が凄んだ、整った顔立ちが怒りに満ちている。
「なっ、なんだと……」
フローラに対する言葉や扱いにエドワードの堪忍袋は限界だ。
「みなさん、ここは早く見分を済ませて帰りましょう、酒神ディオ様がお待ちです」
そう切り出したのはフローラだった、冒険者たちの間を細い身体が縫って現れると平然と小屋の扉を開けた、チビッコは目の端にも留めない。
「ななななななっ」
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ここに来てようやくフィーゴは自分の見積もりが間違っていたことに気付いた。
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