kings field 蝶の森 

祥々奈々

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氷の嘲笑

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 小屋の中は酷い悪臭が充満している、放置された男の身体は青黒く変色し、ぱんぱんに腫れて最早人相も性別もはっきりとはしない。
 「ぬおっ」悪臭にエドたちが顔をしかめる中、ハンカチで口を押えたフローラが眉一つ動かさないのを建物の影からムトゥは”やはりそうか”と見ていた。
 かろうじて状況が確認できる程度の蝋燭が灯されている。
 「どうだ、酷いものだろう、ムートンの魔獣に間違いない、どう責任をとるつもりだね、バロネス・フローラ」
 下から小さな目が睨めつける視線をフローラに向けたが、首筋に指を伸ばしたフローラは言葉には反応せずに死体と散乱した室内を見回す。
 「これは単に人による殺人事件ね、魔獣は関係ないわ」
 「なっ、何故だ、腹を裂かれて死んでいるのだ、物を盗られたわけでもない、まっ魔獣以外の誰がこんなことをするというのだ!?」
 「嘘をつくならもっと落ち着いていなといけないわ、吃ったり冷や汗を流していたり挙動不審な目の動き、簡単に見破られる、もっとも、残された状況がお粗末すぎだけどね」
 「なんだと、貴様は儂が嘘を言っているというのか!?侮辱だぞ」
 思わずフィーゴは腰の剣に手を掛けた。
 ガッ ブオンッ 手を伸ばした瞬間にエドの大剣が神速でフィーゴの目の前に突き付けられた。
 「ひっ」
 「貴様、今抜こうとしたな、フローラ様に剣を向けようとするとはどういう了見だ、抜くなら切るぞ」
 ズイと先端が低い鼻にキスする。
 「ひええっ」ドッと腰を落としてへたり込むフィーゴはエドを睨む気力も失っていた。
 「教えてあげるわ、一つ魔獣は殺した獲物の内臓を残さない、二つ残された足跡が靴だけしかない、三つドアノブに付いた血の跡、魔獣にしては小さすぎるし、魔獣なら上品に扉を開いて出て行ったりしない、何故なら魔獣とは巨大な猿なのだから」
 「っ!!」フィーゴは絶句した、魔獣の正体を知られている。
 「さっ、ささささっ、猿の……訳ないだろう!!」吃りまくる。
 「図星ね、そして貴方はそれを知っていた」
 「しっ、知らん、何の話だかわからんなっ!」
 「付け加えれば、この真新しい建物には生活感がまるでない、食器も食料さえ置いていない小屋でこの男は何をしていたのかしら、猟?山仕事?引退した暇人?大方この小屋に住むことを条件に雇われた冒険者ね」
 「くっ!?」全て知られているのかと後退る。
 「つまりは、この殺しは貴方の自作自演、くだらない嘘、これで私をどうにかしようなんて……馬鹿な男」
 ショックで青ざめたところに氷の嘲笑が浴びせられる。
 青くなっていた顔が再び紅潮する、なんとも忙しい。
 「きさまあぁぁぁーっ!!」言い返すことが出来ずに意味のない叫びをあげる。
 ガシャッ 「やるというのか、いいぜ、抜いてみなよ」
 小屋の外に出たフローラを中心にエドたちが囲み守る。
 「小屋の後ろにいるのは……七人、いやもう一人いるね、八人だね」
 ジュン少尉が気配を読む。
 「八人?それで儂達を相手にしようというのか、笑わせてくれる」
 「隠れているつもりなら無駄だ、ここからでも少尉の矢は当たるぞ」
 「!?」
 「フィーゴとか言ったな、貴様は王家皇太子が婚約しようとしている相手に何をしているか理解しているか、これは王家に弓を引く行為だ、断じて看過できん」
 「そっ、それは関係ないだろう、これはムートンの森の魔獣の話だ!」
 「それはどうかしら、神や悪魔なんていないし、猿も降って湧いたりしない、誰かが放牧したようね、それは誰かしら?」
 見透かした視線がフィーゴに向けられる。
 「ねぇ、貴方もそう思わない、そう、その陰にいるあなたよ」
 フローラが視線を向けた先には黒衣の男ムトゥが潜んでいた。
 「!!」
 まさか見つかるとは思わなかったムトゥはガサッと木々を揺らしてしまう。
 バヒュッ モリス少尉の投げナイフが飛ぶ。
 ギイイッンッ 金属同士がぶつかりあってムトゥの気配は消えた。
 「逃げたな」
 「怪しげな者まで潜ませているとは、反逆者確定だな」
 護衛チーム五人の闘気が燃え上がるのが見える。
 「ひっ、もっ、もうよいわ、いずれにしろムートンの森に魔獣はいるのだ、こちらでも討伐のために其方の領内に入る、承知しろ……いやしてください」
 右肩下がりに負け惜しみの声は小さくなっていく。
 「はて?魔獣と仰いました子爵様、魔獣は巨大な猿、狼などではありませんよ、討伐隊を動かすというなら決して狼が魔獣だなどという討伐は認めません」
 「うっ、しかし、それは……」フィーゴは言葉に詰まる、これも読まれている。
 「それから討伐前に必ず私の了承を得る事、もし勝手に踏み込めば侵略者としてこちらも応戦します」
 「は……ああ……」有耶無耶な答え。
 「”ああ”では答えになっていない、分かったのですか!!」一際大きな声が響く。
 「はっ、はい!分かりました!」叱られた子供の用にチビッコの背筋が伸びた。
 「よろしい、解散しなさい!」

 やはり役者が違い過ぎた、なにより隠密に長けているはずの自分の存在をあの娘は分かっていた、見破られたプライドとナイフが命中した兜は割れて額に血が滲む。
 甘く見ていると狩られるのはこっちだ、ムトゥはキャンバスが簡単に手に入らない事を理解した。
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