73 / 76
座礁
しおりを挟む
声の主はミストレス・ブラックパール、現ラングドトン公爵であるセオドラ・センテナリオ・ラングトトン。
黒革に身を包んだ長身、黒髪に切れ長の目が怒りに燃えている。
執事リブローと狩人バクラリを従え堂々と奇岩の転がる河原に降り立ってきた。
「出てきなさい!生意気な小娘、貴方の誘いに乗ってあげたのよ、姿を見せなさい」
リブローとバクラリが隙無く周囲を警戒している。
エミーは動かない、相手は間合いの長い銃を持っている、挑発に乗って姿を晒すのは愚かだ。
「バロネス・フローラ提案があります、貴方の力量は評価できます、どうでしょう、今からでも我がミストレスの元で働きませんか、相応の立場を用意いたしましょう、悪い様にはいたしませんよ」
執事リブローは勧誘を始める、もちろん本気ではなく挑発だ、ふざけるなと反応するのを待っている。
その間にも三人はスタスタと奇岩の間を進む。
「なかなかに賢い、まったく気配が見えない」
「おかしいですね、単なる田舎娘では無いのかもしれません」
ドォォンッ ドォォンッ 直ぐ近くの森で爆発音が響いた、この音は……
ナヴィア・シファの爆弾!崖から転がり落ちるようにマンバがシファを抱えて河原に走り込んでくる。
「!!」「あれはマンバとシファか?」
ザザンッ 黒い塊りが落ちてくる、魔猿ヤーグル、榴弾の釘を全身に受けたのか全身の裂傷から血を噴き出してはいるが致命傷ではない、狂った目が獲物を捉えて離さない。
マンバたちが仕掛けたイエローアンバーを喰ったヤーグルは意図したとおりバーサーカーと化して誰彼かまわず人を襲う、視界が狭まり世界が遅くなっていく。
グフゥグフゥッ 涎を垂らした口はだらしなく開き、歯ぐきからも止めどなく出血している。
「バクラリッ!ここにいる令嬢フローラは偽物だ!影武者だ!」
「確かかマンバ!」
「間違いない、マナーハウスから東へ向かった、あっちが本物だ」
抱えられたシファに意識はないが生きているようだ。
「シファは誰にやられた」
「マナーハウスで待ち伏せを喰った、皇太子の仲間だろう、姿が見えない、見たことの無い武器を使う恐ろしい奴だ」
「残念だがシファは置いて行くしかない」
「あ……ああ、そうだな」
マンバはグッタリしているシファを岩に横たわらせ、背中の爆薬だけを手にした。
「やはり偽物か、だとすればこの戦闘に意味はない……ミストレス、ここは一度ニースまで引きましょう」
「……」
ミストレス・ブラックパールにバクラリの声は届いていない、正面を見据えたまま動かない。
「ミストレス?」
視線の先に皇太子エドワードとガイゼルの姿があった。
「あれは……まさか皇太子エドワード様か!?」
「王家派遣の冒険者が皇太子とは……一杯食わされたな」
「くっくっくっ」
ミストレス・ブラックパールに陰惨な笑顔が浮かぶ。
「ちょうどよいじゃない、この場で皇太子の首を貰っていきましょう」
背中のライフルを手にするとシリンダーに火薬を詰める、即座に片付けをして引金を躊躇なく引いた。
バンッ 白い煙と共に発射された弾丸は一直線にエドワードへ向かう。
ガキィンッ エドワードの前に立ち塞がったガイゼルの盾に弾かれて中空に消える。
「ちっ」
ギャアアアアアースッ その音に弾かれたように魔猿ヤーグルは再び身を翻すと森の木を登り枝から枝へと伝い距離を縮めてくる。
ビシュッ ヒュアアアアッ 白壁の上段からジュン少尉のコンパウンドボウの矢がヤーグルに飛ぶ、ガスッ 一射目がヤーグルを掠めて幹に着弾する。
ギャッ 矢に気づいたヤーグルが一瞬動きを緩めた瞬間、二射目が遥か死角からカーブを描いて魔猿を襲った。
ドスッ ギャワワッ 背中を深々と貫かれたヤーグルは枝から力なく地に落ちて動かなくなった。
「!どこから撃ったのだ!?矢が曲がったぞ」
「知っているぞ、曲射弓術のジュン・アポロウーサがいるのだな」
ブゥオンッ エドワードのハルバートが唸った。
「諦めろ伯母上、もはやあなたは袋の鼠、ニースの蒸気船も既に王家禁軍に拿捕されているころだ」
「ぬかすな皇太子、貴様らの旧式な帆船に遅れをとる蒸気船ではないわ」
バクラリが皇太子に向かって吠えた。
「簡単よ、出航出来ないようにすればいいだけ、浅い海は障害物を置きやすい」
「!?」
振り向いたすぐ後ろに、いつの間にかエミーがいた、その声はやはり落ち着いた静かな声、しかし濁流の音の中でも良く通った。
「貴方が影武者なの?似ているわね、何かの運命かしら」
ミストレスが感嘆した。
「障害物とはどういうことだ?」
「浅瀬にガレオン船を座礁させて港を塞いだの、蒸気船は出航できない、動かなければただの鉄の塊、王家は食料が尽きるのをまてばいいだけ、真面な艦長ならもう白旗を上げているでしょうね」
「!!……」
「貴方たちは、わざわざ新型の蒸気船を王家に進呈しにきたのも同然、ここに来るべきじゃなかった」
「……」
バクラリは言葉を失った、目の前にいる影武者の女は只者じゃない、雰囲気で分かる。
全てこいつの策略だ、まんまと嵌められた。
ギリギリギリッ ミストレスが歯を噛む音が聞こえた。
「みなさん、まだ我々が負けたわけではありません、この場からミストレスを逃がします、よろしいですね!」
執事リブローが喝を入れる、ハッとバクラリとマンバが振り返り頷く。
「マンバさん、後ろの女をお願いします、私たちはミストレスを連れて皇太子を突破します」
「御意」「分かった」
二組は距離を置いて対峙すると無言のまま互いに剣を向けた。
黒革に身を包んだ長身、黒髪に切れ長の目が怒りに燃えている。
執事リブローと狩人バクラリを従え堂々と奇岩の転がる河原に降り立ってきた。
「出てきなさい!生意気な小娘、貴方の誘いに乗ってあげたのよ、姿を見せなさい」
リブローとバクラリが隙無く周囲を警戒している。
エミーは動かない、相手は間合いの長い銃を持っている、挑発に乗って姿を晒すのは愚かだ。
「バロネス・フローラ提案があります、貴方の力量は評価できます、どうでしょう、今からでも我がミストレスの元で働きませんか、相応の立場を用意いたしましょう、悪い様にはいたしませんよ」
執事リブローは勧誘を始める、もちろん本気ではなく挑発だ、ふざけるなと反応するのを待っている。
その間にも三人はスタスタと奇岩の間を進む。
「なかなかに賢い、まったく気配が見えない」
「おかしいですね、単なる田舎娘では無いのかもしれません」
ドォォンッ ドォォンッ 直ぐ近くの森で爆発音が響いた、この音は……
ナヴィア・シファの爆弾!崖から転がり落ちるようにマンバがシファを抱えて河原に走り込んでくる。
「!!」「あれはマンバとシファか?」
ザザンッ 黒い塊りが落ちてくる、魔猿ヤーグル、榴弾の釘を全身に受けたのか全身の裂傷から血を噴き出してはいるが致命傷ではない、狂った目が獲物を捉えて離さない。
マンバたちが仕掛けたイエローアンバーを喰ったヤーグルは意図したとおりバーサーカーと化して誰彼かまわず人を襲う、視界が狭まり世界が遅くなっていく。
グフゥグフゥッ 涎を垂らした口はだらしなく開き、歯ぐきからも止めどなく出血している。
「バクラリッ!ここにいる令嬢フローラは偽物だ!影武者だ!」
「確かかマンバ!」
「間違いない、マナーハウスから東へ向かった、あっちが本物だ」
抱えられたシファに意識はないが生きているようだ。
「シファは誰にやられた」
「マナーハウスで待ち伏せを喰った、皇太子の仲間だろう、姿が見えない、見たことの無い武器を使う恐ろしい奴だ」
「残念だがシファは置いて行くしかない」
「あ……ああ、そうだな」
マンバはグッタリしているシファを岩に横たわらせ、背中の爆薬だけを手にした。
「やはり偽物か、だとすればこの戦闘に意味はない……ミストレス、ここは一度ニースまで引きましょう」
「……」
ミストレス・ブラックパールにバクラリの声は届いていない、正面を見据えたまま動かない。
「ミストレス?」
視線の先に皇太子エドワードとガイゼルの姿があった。
「あれは……まさか皇太子エドワード様か!?」
「王家派遣の冒険者が皇太子とは……一杯食わされたな」
「くっくっくっ」
ミストレス・ブラックパールに陰惨な笑顔が浮かぶ。
「ちょうどよいじゃない、この場で皇太子の首を貰っていきましょう」
背中のライフルを手にするとシリンダーに火薬を詰める、即座に片付けをして引金を躊躇なく引いた。
バンッ 白い煙と共に発射された弾丸は一直線にエドワードへ向かう。
ガキィンッ エドワードの前に立ち塞がったガイゼルの盾に弾かれて中空に消える。
「ちっ」
ギャアアアアアースッ その音に弾かれたように魔猿ヤーグルは再び身を翻すと森の木を登り枝から枝へと伝い距離を縮めてくる。
ビシュッ ヒュアアアアッ 白壁の上段からジュン少尉のコンパウンドボウの矢がヤーグルに飛ぶ、ガスッ 一射目がヤーグルを掠めて幹に着弾する。
ギャッ 矢に気づいたヤーグルが一瞬動きを緩めた瞬間、二射目が遥か死角からカーブを描いて魔猿を襲った。
ドスッ ギャワワッ 背中を深々と貫かれたヤーグルは枝から力なく地に落ちて動かなくなった。
「!どこから撃ったのだ!?矢が曲がったぞ」
「知っているぞ、曲射弓術のジュン・アポロウーサがいるのだな」
ブゥオンッ エドワードのハルバートが唸った。
「諦めろ伯母上、もはやあなたは袋の鼠、ニースの蒸気船も既に王家禁軍に拿捕されているころだ」
「ぬかすな皇太子、貴様らの旧式な帆船に遅れをとる蒸気船ではないわ」
バクラリが皇太子に向かって吠えた。
「簡単よ、出航出来ないようにすればいいだけ、浅い海は障害物を置きやすい」
「!?」
振り向いたすぐ後ろに、いつの間にかエミーがいた、その声はやはり落ち着いた静かな声、しかし濁流の音の中でも良く通った。
「貴方が影武者なの?似ているわね、何かの運命かしら」
ミストレスが感嘆した。
「障害物とはどういうことだ?」
「浅瀬にガレオン船を座礁させて港を塞いだの、蒸気船は出航できない、動かなければただの鉄の塊、王家は食料が尽きるのをまてばいいだけ、真面な艦長ならもう白旗を上げているでしょうね」
「!!……」
「貴方たちは、わざわざ新型の蒸気船を王家に進呈しにきたのも同然、ここに来るべきじゃなかった」
「……」
バクラリは言葉を失った、目の前にいる影武者の女は只者じゃない、雰囲気で分かる。
全てこいつの策略だ、まんまと嵌められた。
ギリギリギリッ ミストレスが歯を噛む音が聞こえた。
「みなさん、まだ我々が負けたわけではありません、この場からミストレスを逃がします、よろしいですね!」
執事リブローが喝を入れる、ハッとバクラリとマンバが振り返り頷く。
「マンバさん、後ろの女をお願いします、私たちはミストレスを連れて皇太子を突破します」
「御意」「分かった」
二組は距離を置いて対峙すると無言のまま互いに剣を向けた。
0
あなたにおすすめの小説
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】
藤原遊
恋愛
十八歳で、私はいつも死ぬ。
そしてなぜか、また目を覚ましてしまう。
記憶を抱えたまま、幼い頃に――。
どれほど愛されても、どれほど誰かを愛しても、
結末は変わらない。
何度生きても、十八歳のその日が、私の最後になる。
それでも私は今日も微笑む。
過去を知るのは、私だけ。
もう一度、大切な人たちと過ごすために。
もう一度、恋をするために。
「どうせ死ぬのなら、あなたにまた、恋をしたいの」
十一度目の人生。
これは、記憶を繰り返す令嬢が紡ぐ、優しくて、少しだけ残酷な物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる