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らしくない
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ミストレスを庇いながらリブローがサーベル、バクラリがダガーナイフを両手に抜いた、どちらもエドのハルバートの前では火力不足、開けた場所では勝負にはならない、勝機は森の中だ、バクラリが皇太子に向けて突進するとリブローとミストレスは森へ向けて走り出した。
「女、騎馬兵にスイセンの毒を盛ったのはお前か?」
マンバは腰から抜いた半月刀シャムールをエミーに突き出した。
だらりと脱力したままのエミーは僅かに体重を踵に残したまま片足を後ろに退き、腰を落としていく、質問には答えない、マンバには間合いが遠くなったように見えているが実は違う、仙骨に乗った股関節はノーモーションで前後に距離を滑る、マンバは既にエミーの間合いに捉えられている。
「なぜ殺さなかった、その後猿に使ったのはフグ毒だろう、敵を生かしたのはなぜだ?教えてくれ」
懇願するようなマンバの問いに普段なら戦闘中の会話など全て無視するエミーが答えた。
「あれは皇太子のリクエスト、ランドルトンの兵士とはいえ自国民を無暗に殺したくはないとの思いを汲んだ……私は殺すべきだといった」
「そうか……皇太子は王の器か」
バヒュッ 言い終わる前にマンバは半月刀を投げつけると地を後ろに蹴って懐から吹き矢を出して咥える、針は蛇毒テンドロドキシン。
ヒュッ 狙いすましたはずの吹き矢はエミーが居た筈の空中を空しく飛んだ。
マンバが見たのは地を這う蛇、顎を擦る程の地面すれすれを女は走るように迫ってきた、信じられない動き。
「!!」
地面から銀鱗が伸びるのが一瞬だけ見えた気がした、直後に熱い痛みが右手首を襲う。
「ぐあああっ」
ボトリッとマンバの右手が落ちた。
地面すれすれから抜かれた居合は肩関節がないのかと思わせるように背面に跳ね上がり逃げ遅れたマンバの手首を切断した。
既に女は吹き矢を警戒して深追いはせずに間合いの外に後退している、戦闘のセンスと技量が違いすぎる。
ドバドバと出血している手首を押さえて蹲るマンバを前にしても迂闊に近づこうとはしない、両手が塞がっていても吹き矢は使えるからだ。
女は小盾に仕込まれていたボウガンに矢を番える、冷酷なほどの慎重さ、付け入る隙が無い。
「まっ、待ってくれ、頼む!」
マンバはその場に正座をするとエミーに向かって頭を下げた。
「身勝手な懇願だとは承知した上で頼む……見逃してくれ!」
「……」罠を警戒してエミーは奇岩の影に身を伏せる、しかし視線は外さない。
「俺の負けだ、俺はあそこにいる女を助けたい、もう戦いからは身を引く、御願いだ、殺さないでくれ!」
「何を言っているの……意味が分からないわ」
今までのフレジィ・エミーなら返事などしなかっただろう。
「調子のいい話なのは承知している、だが!それでも頼む!」
マンバは自分の血で濡れた地面に額を擦りつけた。
「……」同情する余地はない、でも……
「あなたは、その女の人も含めてムートンに敵対しないと約束できるの?」
「もちろんだ!約束する!」
「……」思案したのは数秒。
「わかったわ、直ぐに離脱しなさい、でも次に顔をみたら殺すわよ」
「本当か!?本当に見逃してくれるのか」
「気が変わらないうちに消えて」
「わかった、恩に着る」
マンバは手首を紐できつく縛ると意識のないシファを背負った。
ボウガンの矢を向けたままエミーは頷く、マンバは振り返ることなく戦場から離脱して森へ消えていった。
見えなくなったところでエミーはボウガンの弦を緩めて溜息をつく、逃がしていいはずはない、あの男の言葉は到底信頼できない。
「私らしくない……」自嘲気味に笑った。
何に対して情けを掛けたのか、男が助けたいと言った女も敵の一人、殺すつもりでこちらに刃を向けてきた、酌量すべき余地はない敵だ。
しかしフローラなら無駄に殺すことも傷つけることもしないだろう、人らしくフローラらしく演じられただろうか。
少し首を回せば倒木の下で息絶えた騎馬兵たちの赤い服が見えた、直接ではないが殺したのは自分だ、二十人を殺して二人を気まぐれで助けた。
その作戦と命を奪うことに一ミリの後悔もない、必要な殺しだった。
人らしくあれと努力を続ければ、いつか誰も殺さず傷つけずに誰かを守ることが出来るようになるだろうか。
その景色は遥か遠いけれど、見えないほどに遠くはないのだと知った。
初夏の川風が血の匂いと共に硝煙の匂いをエミーに届けた。
「!!」
光る銃口が森の中から伸びているのが見えた、その先には皇太子エドワードがいる。
「いけない!!」
エミーは射線上に向かって飛び出した。
ガイィンッ ギイッンッ ガイゼルの盾の前にバクラリの攻撃は通らない、間隙をついてエドのハルバートが襲う、二人の連携は完璧だ、バクラリの付け入る隙はない。
「無駄だ、諦めて投降しろ!」
ガイゼルの巨大な盾はまるで壁だ、それを片手で自在に操る剛腕、その圧倒的な質量はダガーソードでは揺らすことも出来ない。
「ちっ」
バクラリはエドたちのサイドに周り込もうと周囲を回るが、右も左も盾の後ろからエドのハルバートが飛んでくる。
「くそっ、皇太子はスイッチヒッターか!?」
「その通り、私は右も左も同じように剣を振れる、サイドを突くことは出来んぞ」
その圧力に押されて後退する、しかしバクラリの口元がニヤリと笑う。
エドたちのサイド方向の先には銃口が光る、狙いはミストレスのライフルの射線上に皇太子を誘き出すことだった。
「いいわよ、バクラリさん、もう少しよ」
執事リブローの肩に銃口を付けてミストレス・ブラックパールは皇太子エドワードに狙いを付ける、この場で最も王家にダメージを与えることが出来ることは男爵令嬢などよりも皇太子を殺すことだ、ましてバロネス・フローラは替え玉、もはや意味はない。
「積年の恨み、もらったわ!!」
パアァンッ ミストレスの銃口が火を吹いた。
「女、騎馬兵にスイセンの毒を盛ったのはお前か?」
マンバは腰から抜いた半月刀シャムールをエミーに突き出した。
だらりと脱力したままのエミーは僅かに体重を踵に残したまま片足を後ろに退き、腰を落としていく、質問には答えない、マンバには間合いが遠くなったように見えているが実は違う、仙骨に乗った股関節はノーモーションで前後に距離を滑る、マンバは既にエミーの間合いに捉えられている。
「なぜ殺さなかった、その後猿に使ったのはフグ毒だろう、敵を生かしたのはなぜだ?教えてくれ」
懇願するようなマンバの問いに普段なら戦闘中の会話など全て無視するエミーが答えた。
「あれは皇太子のリクエスト、ランドルトンの兵士とはいえ自国民を無暗に殺したくはないとの思いを汲んだ……私は殺すべきだといった」
「そうか……皇太子は王の器か」
バヒュッ 言い終わる前にマンバは半月刀を投げつけると地を後ろに蹴って懐から吹き矢を出して咥える、針は蛇毒テンドロドキシン。
ヒュッ 狙いすましたはずの吹き矢はエミーが居た筈の空中を空しく飛んだ。
マンバが見たのは地を這う蛇、顎を擦る程の地面すれすれを女は走るように迫ってきた、信じられない動き。
「!!」
地面から銀鱗が伸びるのが一瞬だけ見えた気がした、直後に熱い痛みが右手首を襲う。
「ぐあああっ」
ボトリッとマンバの右手が落ちた。
地面すれすれから抜かれた居合は肩関節がないのかと思わせるように背面に跳ね上がり逃げ遅れたマンバの手首を切断した。
既に女は吹き矢を警戒して深追いはせずに間合いの外に後退している、戦闘のセンスと技量が違いすぎる。
ドバドバと出血している手首を押さえて蹲るマンバを前にしても迂闊に近づこうとはしない、両手が塞がっていても吹き矢は使えるからだ。
女は小盾に仕込まれていたボウガンに矢を番える、冷酷なほどの慎重さ、付け入る隙が無い。
「まっ、待ってくれ、頼む!」
マンバはその場に正座をするとエミーに向かって頭を下げた。
「身勝手な懇願だとは承知した上で頼む……見逃してくれ!」
「……」罠を警戒してエミーは奇岩の影に身を伏せる、しかし視線は外さない。
「俺の負けだ、俺はあそこにいる女を助けたい、もう戦いからは身を引く、御願いだ、殺さないでくれ!」
「何を言っているの……意味が分からないわ」
今までのフレジィ・エミーなら返事などしなかっただろう。
「調子のいい話なのは承知している、だが!それでも頼む!」
マンバは自分の血で濡れた地面に額を擦りつけた。
「……」同情する余地はない、でも……
「あなたは、その女の人も含めてムートンに敵対しないと約束できるの?」
「もちろんだ!約束する!」
「……」思案したのは数秒。
「わかったわ、直ぐに離脱しなさい、でも次に顔をみたら殺すわよ」
「本当か!?本当に見逃してくれるのか」
「気が変わらないうちに消えて」
「わかった、恩に着る」
マンバは手首を紐できつく縛ると意識のないシファを背負った。
ボウガンの矢を向けたままエミーは頷く、マンバは振り返ることなく戦場から離脱して森へ消えていった。
見えなくなったところでエミーはボウガンの弦を緩めて溜息をつく、逃がしていいはずはない、あの男の言葉は到底信頼できない。
「私らしくない……」自嘲気味に笑った。
何に対して情けを掛けたのか、男が助けたいと言った女も敵の一人、殺すつもりでこちらに刃を向けてきた、酌量すべき余地はない敵だ。
しかしフローラなら無駄に殺すことも傷つけることもしないだろう、人らしくフローラらしく演じられただろうか。
少し首を回せば倒木の下で息絶えた騎馬兵たちの赤い服が見えた、直接ではないが殺したのは自分だ、二十人を殺して二人を気まぐれで助けた。
その作戦と命を奪うことに一ミリの後悔もない、必要な殺しだった。
人らしくあれと努力を続ければ、いつか誰も殺さず傷つけずに誰かを守ることが出来るようになるだろうか。
その景色は遥か遠いけれど、見えないほどに遠くはないのだと知った。
初夏の川風が血の匂いと共に硝煙の匂いをエミーに届けた。
「!!」
光る銃口が森の中から伸びているのが見えた、その先には皇太子エドワードがいる。
「いけない!!」
エミーは射線上に向かって飛び出した。
ガイィンッ ギイッンッ ガイゼルの盾の前にバクラリの攻撃は通らない、間隙をついてエドのハルバートが襲う、二人の連携は完璧だ、バクラリの付け入る隙はない。
「無駄だ、諦めて投降しろ!」
ガイゼルの巨大な盾はまるで壁だ、それを片手で自在に操る剛腕、その圧倒的な質量はダガーソードでは揺らすことも出来ない。
「ちっ」
バクラリはエドたちのサイドに周り込もうと周囲を回るが、右も左も盾の後ろからエドのハルバートが飛んでくる。
「くそっ、皇太子はスイッチヒッターか!?」
「その通り、私は右も左も同じように剣を振れる、サイドを突くことは出来んぞ」
その圧力に押されて後退する、しかしバクラリの口元がニヤリと笑う。
エドたちのサイド方向の先には銃口が光る、狙いはミストレスのライフルの射線上に皇太子を誘き出すことだった。
「いいわよ、バクラリさん、もう少しよ」
執事リブローの肩に銃口を付けてミストレス・ブラックパールは皇太子エドワードに狙いを付ける、この場で最も王家にダメージを与えることが出来ることは男爵令嬢などよりも皇太子を殺すことだ、ましてバロネス・フローラは替え玉、もはや意味はない。
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パアァンッ ミストレスの銃口が火を吹いた。
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