天冥聖戦 外伝 帰らぬ英雄達

くらまゆうき

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第85章 北への遠征

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「全軍前進!!」


虎白の声が響き渡り100万を超える白陸軍が北側領土へと出陣した。


天上界の王都であるオリュンポスへ入り威風堂々と進軍する白陸軍の隊列は終わりが見えないほどの大軍勢だ。


一時的にオリュンポスの人口が爆発してしまうほどの人口密度でオリュンポスのインフラすら混乱するほどだ。


北側領土の小国で起きる不可解な事件の終息に向けて進軍する白陸軍は言えば平和維持軍である。


主鞍馬虎白の目指す戦争のない天上界のために平和維持軍は北へ向かった。


その中にペップは相棒ルルと共にいた。


夜叉子の第4軍と獣王隊は隊列の先頭近くにいた。


ペップは遠くに見える親友白斗の背中を見ながら歩いていた。



「これから何が起きるのかなあ。 白斗大丈夫かな。」
「そーんな事より自分の心配しなよー! うちらにとっても白陸軍以外の相手は初めてなんだよー?」



ペップは獣王隊に入ってから実戦経験はなかった。


今回の北側遠征は限りなく実戦に近いが使用される武器は衝撃信管弾であり、命を落とす心配はなかった。


経験を積むには最高の機会である。


ペップは振り返り延々と続く白陸軍を見て「強い軍隊だよなあ。」と漏らすとルルも得意げに笑っていた。


この広い天上界でも最強に近い存在となった白陸軍の北側遠征は世界に衝撃を与えた。


白陸を良く思わない北の諸国は畏怖する他ない。


同盟国スタシアが日々苦戦する中で駆けつけた南の超大国。


下手な動きをして白陸の怒りを買う事だけは避けようと諸国は息を潜めて今回のローズベリー帝国の様子を見ていた。


行軍を続けるペップ達白陸軍の中から振り返りペップを見つけると近づいてくる皇太子が一人。


白斗は嬉しそうな表情でペップに近づいてくると頭をガシガシと撫でている。



「子供扱いするなよお!」
「まあまあ。 俺はいい事考えたんだ。 もし戦闘が始まったら俺とお前の部隊で奇襲を仕掛けよう。」




相変わらず勝手な事を言っては得意げにしている白斗に「お頭の許可をもらえとよ。」と返すと「もう貰っている。」と言い放った。


驚いたペップは上官のサガミ大尉を見ると黙ってうなずいていた。


「お頭は少数の奇襲部隊に殿下を同行させるらしいぞ。」と言うものだからペップの空いた口は塞がらない。




「安心しろよ。 偉そうに指揮したりしないから。 あくまで現場の将校の指揮に従うさ。 俺も勉強しないとな。」




これでも少しは成長しただろうか。


以前の白斗なら指揮権すら欲しがったものだ。


若さ故に空回りしているが、白斗は純粋に白陸のためを思い活躍をしようと息巻いている。


奇襲の話を聞いたペップは嬉しそうにうなずいて行軍を続けた。




「まあ叔母上達からは耳にタコができるほど戦闘は避ける様に言われてるけどな。」
「ほ、本音を言えばそりゃ俺だってさー。」



「暴れたい。」と、口にする前にサガミ大尉に頭を殴られて慌てたペップは何も言わずに前を見て歩いている。


白斗は笑いながら「まあまあサガミ。」となだめている。


「殿下。」と呆れ顔のサガミ大尉は早く白斗に隊列に戻ってほしそうにしている。


すると虎白から怒鳴られて戻る白斗はいたずら顔で笑いながら「またな!」と声を上げて隊列に戻っていった。




「言っとくがペップ。 今の殿下の振る舞いは見習うなよ。」
「はい。 これは遊びではありませんからね。」
「わかってるならいい。 お前は成長したな。 粘り強くお前を面倒見た甲斐があったよ。」



サガミは嬉しそうにペップの頭をライフルでコツコツと叩いている。


「止めてくださいよ。」と言いつつも表情は緩んで嬉しさを隠せないペップを見て笑うサガミ。


やがてオリュンポスを抜けるとしばらくは平地が続いた。


平地の先に見える巨大な城壁と赤い旗。



「あの旗は?」
「そうかお前は知らないよな。 同盟国のスタシア軍の旗だ。」



初めて見る白陸軍以外の旗や中世ヨーロッパの様な造りの城壁を見たペップは改めて遠征に来たのだと自覚した。


スタシアに入ってしばらくすると驚く知らせが白陸軍に届いた。



「南軍諸将一斉発起!」



主力の大部分を連れて北へ出発した白陸の守りは薄くなったと見た南軍が一斉に白陸へ模擬演習を仕掛けて来たのだ。


南軍に足並みを揃える様に性懲りも無く西の連合軍も白陸へ向かって侵攻中だ。


しかしこの状況においても鞍馬虎白は顔色一つ変えることなかったが皇太子白斗は激昂して声を上げていた。


直ぐ後ろにいるペップにも白斗の怒鳴り声は聞こえていた。




「俺は白斗の言いたい事わかるなあ。 なんで宰相様達もあんな落ち着いてるのかなあ。 北の連中なんて放っておいてもいいんじゃないかな。」




国内が攻め込まれている状況にあって遠く離れた北を助けに向かうなんてペップには理解できなかった。


驚きの知らせを聞いても宰相達も顔色一つ変えていなかった。


白斗が何やら虎白と口論していると馬を反転させてメリッサと共に歩き始めた。


ペップはたまらず白斗に近づいた。




「どうするの!?」




白斗に尋ねると勇ましい表情で「俺が戻って蹴散らしてくる。」と言って馬を走らせた。


ペップは大きな声で「全員やっつけちまえー!」と白斗に懇願すると馬上で片手を高々と上げて走り去って行った。


内心では共に北で活躍を期待していたが、こんな危機的状況では仕方ないとペップは白斗を見送った。


しかしこの状況においても国へ戻ったのは白斗とメリッサだけ。


鞍馬虎白には何か作戦でもあるのかとペップは不安そうに進軍を続けた。


やがてスタシアを通り抜けてローズベリーとの国境付近に到着すると白陸の大軍は野営地を設営した。


その兵力の多さから野営地というよりもはや巨大な街ができたかの様だった。


賑やかな野営地で将兵達は休息を取り、主からの指示を待った。


ペップも装備をある程度外すとライフルだけを持って国境をブラブラと歩いていた。


遠くに見えるローズベリーの街は一見すると美しいが、所々で煙が上がっている。



「一体何が起きてるんだあ?」
「タイロン姉さんが言ってたけど兄妹で喧嘩してるんだってー。」




目を細めるペップは「喧嘩の仲裁かよ。」と呆れた表情でローズベリー帝国を見ている。


ルルは原っぱに寝そべって携帯口糧を食べ始めた。


まるでピクニックだ。


それから何時間も命令が出される事なく白陸軍は野営地で時間を潰していた。


気が抜けてしまったペップも夕方まで原っぱで昼寝すると獣王隊の野営地に戻ってきた。



「あー暇だなあ。」
「そうだねえ。 食堂行こうよ!」



ルルはすっかり観光気分で白陸軍の食堂へと尻尾をフリフリとさせながら歩いていった。


伸びをしてあくびをするペップもルルについて行くと食堂には白陸軍の将兵が溢れかえっていて、週末のフードコートの様だ。


特にやる事のない全軍の将兵が食堂に来ている。


100万を超える白陸軍のために炊事班が用意した食堂は何ヵ所もあったがそれでも溢れかえるほど兵士達は時間を持て余していた。


食堂の隣には酒場までできていた。


この用意の良さからして鞍馬虎白は白陸軍に即時戦闘をさせる気はなかったとわかる。


将兵は状況がどうなってるのかもよく分からず、有り余る時間をただ、潰すのだった。


もはや都市となった白陸軍野営地にはローズベリーでの内戦を避ける難民達が続々と集まってきていた。


「何か食べ物をください。」と物乞いを始める。


白陸軍の歩哨達は殺到する難民に困り果てていた。


朝目を覚まして煙管を吸い始める夜叉子は外がガヤガヤと騒がしい事に気がつくと髪の毛を櫛で綺麗に溶かして制服を着ると様子を見に行った。




「あ、お頭!」
「随分うるさいね。」



獣王隊兵士が事情を説明すると夜叉子は食糧庫をじっと見ていた。


難民を保護する分の食糧がない事に気がついた夜叉子は直ぐに虎白の元へ歩いていった。


本陣では虎白が難民をどう扱うか既に莉久と話していた。



「おお夜叉子。」
「どうする?」
「連中に飯食わせたら俺の兵士が飯なくなる。」
「スタシアに頼めないの?」



これから何が起きるか全くわからない状況で食糧を難民に配る余裕はなかった。


夜叉子の言葉を聞いた虎白はメアリーを呼んでスタシアに援助を頼めないか相談を始めた。


本来ならこれも全てスタシアが解決するべき問題だが、今のスタシアも四面楚歌といった状況だった。



「白陸からも食糧運びたいけど今攻め込まれてんだよなあ。」
「スタシアとスラグから食糧用意させるしかないでしょ。」
「何日かかるのかな。」



夜叉子はため息をつくと「そんなに難民は待っていられないよ。」と言うと白陸軍の食糧庫の在庫状況を確認して難民へ配ろうとしている。


虎白は頭をかいて困った顔をしているが夜叉子らしいと少し微笑んだ。


兵士の食糧を難民へ直ぐに配って兵士達にはスタシアとスラグの援助で喰い繋がせるという考えだ。


虎白は夜叉子の顔を見て「もう長期戦は無理だな。」と言うと「上等だよ。」と鼻で笑って見せた。




「ダラダラ長引いても解決しないよ。」
「賢いのに急ぐ理由が難民のためなんてな。 短期決戦がどれだけ危ないのかわかってるのにこんな判断しちゃうんだからよお。 相変わらずたまらねえなあ俺の嫁はよ。」



ローズベリーで起きている問題がまだ謎に包まれているのに夜叉子は短期決戦を決めた。


最終決定は虎白だというのにこれでは短期決戦にするしかなかった。


虎白は困り顔ではあるが夜叉子の弱気を助ける姿勢が何年経っても変わらない所に安心した。


机を叩いて立ち上がった虎白は莉久に「食糧配ってやれ!」と命令すると直ぐに兵士達が難民に食糧を配り始めて予備のテントで仮設のキャンプを作った。


そして「空腹でも難民に怒りをぶつけるな。」と厳重に命令された。


夜叉子は煙管を吸って澄ました顔をしている。



「こういう時のために空腹に耐える訓練やってんだよ。 それにこうでもしないとスタシアも急がないでしょ。」



盟友スタシアのアルデンは虎白に大恩があり、今回の遠征にも深く感謝していた。


その白陸軍が自分達の食糧やテントを難民に配ったと聞いたらアルデンは血眼になって白陸軍への援助を急ぐだろうと夜叉子は踏んでいた。


全ての状況を理解した上での行動において優先するのは難民の保護。


夜叉子という女性はこれだから虎白も愛してやまない。



「自慢の嫁だ。 いいぜ何とかしてやるよ。」



虎白もスタシアへの食糧援助を急がせた。


だがここで予想外の出来事が虎白の耳に入る。


食糧援助の話を持ちかけようと無線機を取った瞬間に宰相サラが驚くべき事を言い始めた。




「ねー虎白ー。 スタシア軍の第3軍団が食糧と弾薬を分けてほしいって頼んできたよーうんうん。」
「ああ!?」
「多方面に部隊を展開しているスタシア軍も食糧足りてないんだねえ。」



虎白は白陸軍の食糧を涙ながらに食べている難民を見てため息をついている。


本国には有り余るほどに食糧がある。


しかしそれをこの北側領土にまで運ぶとなると相当な人員が必要になるが、今の白陸は西南の連合軍と戦闘中だった。


補給部隊は広大な白陸国内で弾薬運びで手一杯だった。


ため息をついた虎白は携帯電話を取り出して誰かに電話をかけようとしていた。




「巻き込みたくなかったが仕方ねえなあ。」
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