天冥聖戦 外伝 帰らぬ英雄達

くらまゆうき

文字の大きさ
87 / 99

第87章 謎の軍隊と対峙

しおりを挟む
野営地でののんびりとした生活は何の前触れもなく突如として終わりを告げた。



『ウラアアアアッ!!!』



赤い旗を掲げて突撃してくる大軍にペップは驚愕していた。


昨日まで仲良く遊んでいた難民達が突如として姿を消し、朝になれば赤い旗の軍隊が襲いかかって来ていた。


難民と過ごす時間は実に平和で歩哨の警備がかなり薄くなっていた。


謎の敵は警備が薄くなった事をいい事に攻め込んできた。




「難民はどこ行ったんだよ!」



ペップは叫びながら武器を取った。


突然の強襲に反撃が遅れた白陸軍は初動でかなりの被害が出た。


衝撃信管弾こそ使用はしていたが襲いかかる敵はまさに血眼だった。




「あんたら。 蹴散らしてやりな。」



夜叉子の一言で獣王隊は猛反撃を開始した。


せめてもの救いは周囲に多くの宰相達の私兵が存在していた事だった。


獣王隊を始め、竹子の白神隊に優子の美楽隊。


そして現在ローズベリーへ外交官として赴いているレミテリシアの正覇隊もペップ達の近くにいた。


白陸軍の一般兵を次々と倒す敵はいよいよ私兵達の前に現れた。



「ここで止めてやる!!」



ペップは歯茎を剥き出しにして敵を睨みつけていた。


そして私兵達も戦闘を開始して野営地は大乱戦となった。


この場所を突破されれば虎白達の司令部まで敵が入ってきてしまう。


しかしペップを始めとする私兵達の反撃は熾烈を極めた。


これにはたまらず敵も足が止まり、戦闘は更に激化していった。


地獄とも言える乱戦の中でペップは異彩を放ち続けた。


地面に足がついている時間がほとんどないと言っても過言ではないほどにペップは次々に敵を倒していた。


自慢の跳躍力で前に跳ねると敵の首元に噛み付いて負傷させると次へまた次へと敵兵の首元に噛み付いた。


まるで狂戦士だ。


獣王隊の凶暴性は敵兵を恐怖に陥れた。




「ガルルルルルッ! 何人でも来いよ人間が!」



生まれながらにして屈強な半獣族の肉体は多少の衝撃信管弾ではびくともしなかった。


獣王隊は敵を押し返し始めると周囲の私兵もそれに続いた。


白神隊のルーナが獣王隊の側面に押し進めると援護射撃を始めた。




「全私兵隊! 獣王隊を主軸とした防御陣形を展開せよ!」



ルーナの一声で私兵達は獣王隊の両側面を援護する形で反撃を始めた。


理由は簡単だ。


追い込まれた獣の強さは何よりも恐ろしいからだ。


突然の攻撃に驚いた半獣族は生まれながらに備えられた防衛本能が働き、凶暴性が増していた。


我を失ってしまうのが半獣族の弱点だが彼らは宰相夜叉子の私兵。


厳しい訓練で我を失わずに防衛本能だけを剥き出しにして戦う事ができた。


思考は冷静であり動きだけは凶暴そのもの。


ルーナという傑物はその一点の勝機を逃さなかった。


猛反撃が始まり数分もすると敵兵は士気が低下して背を向け始めたが驚く事に逃亡する兵士を敵軍の将校は拳銃で撃っていた。


前後どちらに進んでも撃たれるならせめて白陸軍を倒そうと死に物狂いで襲いかかる敵軍は次々に私兵の強力な戦闘力に翻弄されていった。


しかしそれでも敵軍は諦めなかった。


一体何が起きているのか。


一つわかる事はこの事件は必ず天上史に残ると言う事だ。


病室のベットで目を覚ます白斗は慌ただしい帝都の様子を見ていた。



「俺が刺されたのにも意味があるのか。 ペップのやつ大丈夫かな。」



心配そうに空を見つめる白斗は何が起きているのか確認するために叔母に当たる恋華の元へ向かった。


そして状況を説明されると更にペップが心配になった。


同時多発的に白陸軍が攻撃されているという事態において虎白の本軍の中に白斗の親友はいる。


居ても立っても居られない白斗は早々に本国を攻撃してくる謎の軍隊を撃滅する様に恋華に懇願した。



「あなたは黙ってなさい。 そもそも帝都まで敵が迫っているのはあなたと宮衛党の警備が甘かったせい。」



恋華には相手にされず、自分の責任を感じて部屋に戻ると妻のメリッサが地図を見ながら考え込んでいた。


何を考えているのか尋ねるとメリッサは敵の出現の経緯が不明だと不思議そうに地図を凝視している。


白斗はソファに座り込むと「ペップが心配だ。」とため息をついていた。



「そもそもあんな大軍が動いたら絶対わかるはずなんだよなあ。」
「賢いメリッサがわからねえなら俺もわからねえよ。 それに叔母上達でもわからなかったんだろ。」



白斗の言っている通り、知略に長けた恋華や夜叉子達でさえ敵の大軍の接近に気がつかなかった。


虎白の本軍には情報将校のサラまでいる。


宰相春花の空軍を偵察飛行をしていたのに誰も気がつかなかった。


一体敵はどうやってこの距離まで近づいて来たのか。


メリッサはどうしても腑に落ちなかった。



「夜叉子叔母さんの妹さんは地下に領地を持ってるってパパが言ってたけどまさかそこ通ったのかな?」
「それじゃ修羅子さんが裏切った事になるぞ!」
「だよなあ。 あーメリッサわかんないよおー。」



連日の様に状況が移り変わっている中で確かなのは何か異様な勢力が存在しているという事だった。


しかし誰もがその正体にまで辿り着けず、次に何をしてくるのかわからなかった。


頭を抱えるメリッサの横で白斗は親友の事が気になって仕方なかった。




「ペップ。 お前やられたりしてないよな・・・」



虎白からの問いに即答で「本国に戻る」と言い放った白斗だが、今では北側領土が心配で何も集中できずにいた。


恋華から命令がない限り、白斗は動けなかった。


特に何もできずに帝都をウロウロと歩いている。


すると白王隊の兵士が血相を変えて白斗に向かってくる。




「殿下!! 何をなさっているのです護衛もつけずに!」
「やる事ないんだよ。」
「それでも今は危険ですからせめて宮衛党の護衛だけでもつけてください!」
「あーもううるせえなあ。」



白王隊の兵士を振り解いて城の中にある自分の部屋に戻っていく。


若く勇ましい青年は白陸の力になりたいが恋華は白斗を動かすつもりがなかった。


城の中で恋華は恋人にして側近の紅葉と話し合っていた。



「宮衛党が戦わずに逃げて来たのは問題だった。」
「うん。 白斗が刺されたのも原因だけどそもそも護衛なしに夜に彷徨くから悪いの。」



せっかく初戦では活躍したのに台無しになってしまったと恋華と紅葉は話していた。


まだまだ爪が甘い若き皇太子がもっと後の皇帝としての自覚を持つのはいつだろうか。


恋華はため息をついて今後の事を考えていた。


戦場で奮戦するペップもある事を考えていた。



「白斗は国で敵をやっつけたかな。」



国に戻った親友の事が心配だった。


予想外の連合軍に苦戦しているんじゃないか。


まさか負けて捕まっていないだろうか。


考え始めるとキリがなかった。


やがてペップの攻撃は雑になり、隙が見え始める。


1人敵を倒すと隙だらけのペップの背中目掛けて銃剣を突き立てて走ってくる。


気がついていないペップは無防備だった。


するとサガミが敵兵を倒してペップの顔を平手打ちする。



「気抜いてんじゃねえぞペップ!!」
「はっ!?」
「何考えてるか知らねえが今は目の前の敵だけ倒せ!!」
「は、はいっ!!」



サガミに助けられたペップは考える事をやめた。


しかし親友の事が頭から離れないという心境は変わらなかった。


そこでペップは考え方を変えた。




「大丈夫だよな。 白斗は強いもんな。 見てろよ白斗! 俺だって強いんだぞ!」




ペップは敵兵を1人倒すたびに「どうだ白斗。」と考えた。


その事によってペップは戦いに集中できた。


しかし敵兵は減るどころか増えているかの様に次々に私兵達に襲い掛かってくる。



「はあ・・・はあ・・・」



まるで減らない敵の波にペップもいよいよ呼吸が荒くなりフラフラとよろめき始めた。


その光景を見たサガミはペップの首根っこを掴んで後方へ押しのけた。


「少し休め!」と言い放って戦闘に戻ろうとするサガミの腕を掴んでペップは首を振った。




「ま、まだまだ・・・」
「初めての実戦で無理しすぎるな!」
「俺は行けます!」
「たまには俺の命令を聞け!」



そしてサガミに腹部を蹴られて後方に吹き飛ぶと大の字で倒れた。


空は青く美しかった。


終わりの見えない過酷な戦闘を空はどう思って見下ろしているのかとペップは見上げていた。


美しい青空の下で響き渡る怒号と剣戟。



「戦争のない天上界かあ。 お頭。 そんな未来来ますかね。」



大の字で横たわるペップの元へルルが駆け寄って来た。


「やられたの?」と目を見開いて心配そうにしていた。


「大丈夫。」と言いながらルルの手を借りて立ち上がるとゆっくりと歩きながら戦闘へ戻った。


早朝から仕掛けて来た敵の攻撃は、気がつけば既に昼になっていた。


5時間以上も乱戦が続いている。


双方の負傷者で溢れかえる戦場はあまりに残酷で目も当てられない。


白陸の一般兵にはとても耐えられる戦闘ではなかった。


次々に一般兵はその場に倒れて気絶していく。


その状況にあっても私兵だけは奮戦を続けていた。


しかしペップを含む多くの私兵達も既に限界にまで来ていた。




「はあ・・・はあ・・・」
「はあ・・・サガミ大尉・・・」
「さすがに苦しいな・・・」




ペップは既に立つ事すら苦しそうだ。


歴戦のサガミですら呼吸が上がり肩の力がすっかり抜けていた。


昼を過ぎたがまだまだ敵軍は襲い掛かって来た。


推定でも100万人は敵がいる中でまともに戦闘ができているのは僅かな白陸軍と私兵だけでせいぜい30万前後だ。


他の白陸兵は既に気絶している。


敵の勢いはそれでも止まらなかった。




「はあ・・・サガミ大尉・・・」
「なんだ?」
「し、死んでも通さねえ。 死んでも負けねえ。」



ペップはサガミの腕を掴んで必死に訴えている。


負けたくない。


呼吸は上がり口も開き唾液が滴るペップはそれでも瞳だけは闘志に満ちていた。


サガミはペップの頭をガシガシ撫でると大きく息を吸って武器を握り直した。



「当たり前の事言ってんじゃねえ。 行くぞ。」



そしてまた迫る敵軍を迎え撃つのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

攻略. 解析. 分離. 制作. が出来る鑑定って何ですか?

mabu
ファンタジー
平民レベルの鑑定持ちと婚約破棄されたらスキルがチート化しました。 乙ゲー攻略?製産チートの成り上がり?いくらチートでもソレは無理なんじゃないでしょうか? 前世の記憶とかまで分かるって神スキルですか?

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

退屈令嬢のフィクサーな日々

ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。 直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

『悪役令嬢』は始めません!

月親
恋愛
侯爵令嬢アデリシアは、日本から異世界転生を果たして十八年目になる。そんな折、ここ数年ほど抱いてきた自身への『悪役令嬢疑惑』が遂に確信に変わる出来事と遭遇した。 突き付けられた婚約破棄、別の女性と愛を語る元婚約者……前世で見かけたベタ過ぎる展開。それを前にアデリシアは、「これは悪役令嬢な自分が逆ざまぁする方の物語では」と判断。 と、そこでアデリシアはハッとする。今なら自分はフリー。よって、今まで想いを秘めてきた片想いの相手に告白できると。 アデリシアが想いを寄せているレンは平民だった。それも二十も年上で子持ちの元既婚者という、これから始まると思われる『悪役令嬢物語』の男主人公にはおよそ当て嵌まらないだろう人。だからレンに告白したアデリシアに在ったのは、ただ彼に気持ちを伝えたいという思いだけだった。 ところがレンから来た返事は、「今日から一ヶ月、僕と秘密の恋人になろう」というものだった。 そこでアデリシアは何故『一ヶ月』なのかに思い至る。アデリシアが暮らすローク王国は、婚約破棄をした者は一ヶ月、新たな婚約を結べない。それを逆手に取れば、確かにその間だけであるならレンと恋人になることが可能だと。 アデリシアはレンの提案に飛び付いた。 そして、こうなってしまったからには悪役令嬢の物語は始めないようにすると誓った。だってレンは男主人公ではないのだから。 そんなわけで、自分一人で立派にざまぁしてみせると決意したアデリシアだったのだが―― ※この作品は、『小説家になろう』様でも公開しています。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました

ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!  フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!  ※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』  ……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。  彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。  しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!? ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています

処理中です...