天冥聖戦 外伝 帰らぬ英雄達

くらまゆうき

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第90章 ペップの思い出

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北側領土出陣前。


皇太子と兵士は広い花畑へと足を運んでいた。


そこは帝都にある宮衛党領土内にある色鮮やかな花が咲き乱れる美しい場所だった。




「なあペップ。 俺は必ず皇帝になって父上の悲願である戦争のない天上界を守ってみせる。」
「どうしたあ急に。」




美しい風景とは異なり、白斗は真剣な表情で淡々と語り始めた。


不思議そうに首をかしげるペップは咲き乱れる花の香りを楽しんでいた。


まだずっと先の事なのに白斗にはまるで直ぐに訪れる未来の様に話していた。


天上界を吹く暖かく心地よい風が2人を優しくなでると花が揺れ、ペップの髪の毛も風に揺られている。


だが白斗は真っ直ぐ前を見ていた。





「父上と叔母上達なら必ず天上界を平和にできる。 しかしあの方々が引退すればきっと荒れる。 だから俺がもっと優秀にならなくてはダメだ。」
「そうだなあ。 俺も頑張るから。」




白斗はペップの頭をなでると嬉しそうに目を細めて笑っていた。


偉大すぎる父の背中を見ている若き皇太子はいつの日か自分が皇帝になったらどうなるのかと考えてばかりだった。


それ故に励めるが、それ故に過ちも犯す。


この後の赤軍の奇襲に対して反撃もせずに退却した事の恋華に追求されてしまうのだが、まだ白斗はそうなるとは思いもせずに未来に胸を踊らせていた。




「いいかペップ。 俺達は必ず上に行く。」
「うん! お頭の目指す平和な世界を一緒に守ろうね!」
「ここに誓え。 俺達は兄弟の様に固い絆で結ばれてどんな時も共に乗り越えるって。」
「誓うよ!」





白斗は白陸に来て、父や叔母の凄さを体感した。


そして「いつの日か自分も」と夢見る様になっていた。


国民から愛され、兵士から信頼される存在はあまりにも眩しかった。


いざ戦いとなれば誰もが賢くも強かった。


その頂点に立つのが自分の父親だと考えるだけで気分が高揚してしまった。


父の凄さを思うと同時に叔母の様な側近達にも憧れを抱き、自分も優秀な側近に囲まれたいと思っていた。


妻のメリッサを筆頭にペップにも同じ舞台に立ってほしかったのだ。


兄弟の誓いを立てた2人は固く握手をすると花畑を後にした。



美しい花が美しい若者を見送った。


そして今、兄弟達は場所は違えど約束のために奮闘していた。


同じ空の下で繋がる2人の熱き思い。


いつの日か必ず実現させる。



「ペップ。」
「白斗。」




ペップ達は夜叉子の指示で進軍を止めると傾斜のかかった丘をじっと見ている。


嗅覚の長けた半獣族は直ぐに敵がいる事に気がついた。


武器を抜いた獣王隊はじりじりと敵に近づいていく。


しかしその時だった。




『ウラアアアアアアッ!!!!』




丘を越えて溢れかえる様に出てくる赤い津波は獣王隊に押し寄せた。


「反撃しな。」と夜叉子は全軍に指示すると一斉に赤軍に向けて走り出した。


のどかな平原はあっという間に戦場と化した。



「やってやるぞルル!!」
「うん!! ガルルルッ!!!」



天上史に残る大事件の最前線だ。


とある日の事。


まだ北への出撃すら決まっていないある日、獣王隊の基地ではペップとサガミが何やら口論していた。




「いいか、そこでこうやってだな。」
「ですからこっちの方が。」
「それじゃ俺が大変だろうが!」
「俺もですよ!!」




「ああ。」と顔を見合わせてうなだれる2頭はいつまでも「ああでもないこうでもない。」と議論していた。


それをルルや仲間達が笑いながら見ていた。


しばらく議論するとルルの元へ来て「お前ならどう思う?」と尋ねてきたがニヤニヤと笑って「種族が違うからねえ。」とそっぽ向いていた。


ため息をついてペップは基地の中をトボトボと歩いていた。


次の日になるとサガミはまたしてもペップの元に来て議論を始めた。




「お前は俺の副官なんだぞ!」
「わかってますよ! だからいい方法がないか話しているんですって!」




1日中こんな調子で言い合いを続けてはタイロンやクロフォードに怒鳴られて逃げていくペップとサガミ。


毎日毎日「ああでもないこうでもない。」と話す2頭は獣王隊の恒例になっていた。


「今日も始まるぞ。」と兵士達がケラケラ笑っている中でもペップとサガミは真剣な顔をして言い合っていた。


それでも話がまとまらないペップとサガミは険悪な雰囲気のまま、姉貴分のタイロンとクロフォードをじっと見つめている。




「ああすげえ姉貴。」
「お前も見習え!」
「違います! サガミ大尉が見習ってください!」
「なんだとこの野郎!!」




歯茎を剥き出しにして取っ組み合いをしてはルル達に止められる始末だ。


仲がいいのは結構だが毎日良くも飽きずに続けるものだ。


それからも口論は何日も何週間も何ヶ月も続いた。


話がまとまったかと思えばまたしても口論を始める2頭。




「本当に物分りが悪いな。」
「ですから今のは大尉がこうですって!!」
「なんだとこの野郎!!」




そしてまた取っ組み合い。


「またやっているよ。」といよいよ呆れ顔の獣王隊の兄妹達はもはや止めにも入らなかった。



互いに胸ぐらを掴んだり耳に噛み付いたりと凄まじい喧嘩をしている。


本来なら上官犯行罪でペップは捕まるが、この2頭だけは例外だった。




「いい加減にしやがれ!! このバカが!!」
「大尉こそ頭が硬いんだよ!!」
「なんだとこの野郎!!」




サガミが振り抜いた拳をかがんで避けると、下から突き上げる様に拳を振り上げようとペップは下半身に力を入れていた。


するとサガミはペップの腹部に体当たりをしようと掴みかかったがペップは自慢の脚力を活かしてサガミの背中を転がる様にして後ろに回り込むと拳を振り抜いた。


しかし互いの拳は寸前の所で止まった。




『これだっ!!!!』




互いに鼻血を出して顔を腫らしながら殺し合いとも言える喧嘩をしていたかと思えば突如として顔を見合わせて抱き合った。


何やら歓喜する2頭はその日以来、口論をしなくなった。


そして今、北側領土で赤軍と戦闘が始まった獣王隊の中でペップとサガミは最前線にいた。


双方の兵士がぶつかり、いよいよ開戦という時にしてもサガミは何やら浮かれているかの様だった。



「行くぞ弟よ!」
「はい兄貴!!」



サガミは迫る赤軍の兵士に体当たりをするとペップはサガミの背中を転がる様にして前に出ると直ぐ後ろに迫っていた赤軍の兵士を2人ほど倒すと、慌てた赤軍はペップを取り押さえた。


「兄貴!!」と叫ぶとペップは赤軍の兵士と共に倒れ込もうと体重を前に倒すとサガミが背中を転がるかの様にして前に出てきて更に3名ほど倒した。



長い間議論したかいがあった。


妥協せずに殴り合いの喧嘩までしたからこそだ。




「いいぞペップ!!」
「俺達も他の将校と同じですね!!」




獣王隊の隊長は必ずと言っていいほど副官との共同攻撃技を持っているのだ。


サガミが憧れたペップとの技が見事に決まった瞬間だった。


サガミとペップはジャガーとチーターというとても似た種族だった。


互いに攻撃スタイルは素早く動いて相手の急所に襲いかかるタイプだった。


対してルルはライオンの半獣族であり、力で相手を圧倒する戦い方を好んだ。


既にペップとルルとの間には共同技が存在していた。


迫る赤軍の兵士がルルに襲いかかると喉元に噛み付いてペップに向かってそのまま放り投げると自慢の脚力で宙に浮くと地面に叩き落としてみせた。


力と速度を活かしたペップとルルの戦いは非常に効果的だった。


しかしサガミとペップは言わば速度と速度。


どちらも速度を活かしたいと主張してなかなか話がまとまらなかった。


だが今では阿吽の呼吸とも言える息の合い方で速度と速度を武器に赤軍を翻弄していた。


ペップを攻撃しようとすれば背後からサガミが現れる。


その逆も同様に。




「兄貴最高ですね!」
「ああ!! 気を抜くなよ! 集中してろ!!」
「はい!!」




技は極限の戦闘の中で進化を続けていた。


気がつけば声をかけずに攻撃を合わせる事までできていた。


それどころか様々な体勢でも連続攻撃を繰り出せていた。


敵の銃剣がペップの腹部を捉えかけ、慌てて短剣で防いでいる。


足に踏ん張りを利かせて反撃しようとしているとペップの太ももを踏み台の様にしてサガミが飛び上がり3名ほどをあっという間に倒してみせた。


これは日頃から「家族」と呼び合う獣王隊だからこそできる芸当だった。


森に潜んで奇襲するのが獣王隊の真骨頂だが、平原での乱戦も桁外れに強かった。


エリュシオン戦などを経験して平原での戦いにも磨きがかかっていた。


ペップとサガミの回りでもコカとリークやタイロンとクロフォードなど将校達は共同攻撃を披露していた。


これにはさすがにお手上げ状態の赤軍もただ倒されるだけという始末だ。


戦況圧倒的有利。


タイロンは「狩りつくせ!!」と叫んだ。


大口を開いて襲いかかってくる獣の群れに赤軍の兵士は腰を抜かしていた。




「このまま敵を崩壊させられますねサガミの兄貴!!」
「ああ!!」




獣王隊は圧倒的に優勢だったが目を戦場全体に向けると一進一退という状況だ。


中央軍である竹子と優子の軍は赤軍の猛攻を受けて激戦を繰り広げていた。


夜叉子は「流しな。」とタイロンに一言だけ口を開いた。


流すとは獣王隊の兵士達に手加減をしろという意味だった。


危険な戦場で何を言っているのかと思うが、これには歴戦の夜叉子だからこそ把握できる状況があった。


このまま、獣王隊で赤軍の粉砕に乗り出したいが中央軍が遅れている中で無理やりねじ込んでも意味がなかった。


下手をすれば獣王隊だけが包囲される可能性や伏兵が存在していた場合に多大な被害が出る事もあり得た。


仮にそれがなかったとしても前線が伸び切ると補給が間に合わなくなる。


夜叉子は瞬時に判断した上で「流し」を行った。


サガミとペップが破竹の勢いで進む中で発動された「流し」は言ってみれば休憩の様だ。


あまりの破壊力の前に赤軍は腰を抜かしているが将校が拳銃を向けて無理やり戦わせている。


戦意の低い赤軍は強引には獣王隊に攻めかからなかった。


双方の兵士と兵士の間で手を抜いた戦闘が行われていた。


近づく赤軍を蹴っ飛ばして距離を取るだけで追撃をしない。


しかし確実に赤軍の前線兵士の神通力だけが減っていくという戦法だ。


次に「狩りな」と夜叉子が言う頃には今以上の破壊力が赤軍を襲う事になるのだ。


いよいよ極みの域に達した宰相夜叉子とその私兵達だ。
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