天冥聖戦 外伝 帰らぬ英雄達

くらまゆうき

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第91章 大好きな家族

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まさに破竹の勢いだった。


獣王隊は終始敵を圧倒していた。


そんな状況の中でペップとサガミの攻撃も進化を続けていた。


敵兵の首に噛み付くとその背中を飛び越える様にサガミが高く跳ぶと前にいる敵兵を次々に倒していく。


サガミと距離が離れればルルと技を繰り出す。


以前の様な難民を無理やり連れてきただけの兵士とは異なり全ての兵士がウシャンカと呼ばれる毛皮の帽子をかぶった正規兵だ。


訓練され、戦いの意欲だって十分にある。


しかしそれでも獣王隊の強さには手も足も出ないといった所だ。


いよいよ赤軍は粉砕されそうになっていた。




「兄貴!!」
「ちょっと待て!!」




サガミが突如攻撃を止めて敵兵を凝視していた。


何やら今までの兵士とは見た目の異なる兵士が現れた。


「新手か?」とサガミは眉間にシワを寄せている。


銃剣だけを持っていた今までの兵士とは異なり重装備で何かアーマーの様な分厚い装甲服を着ている兵士の様子は何かおかしかった。



「なんだあいつら。」
「動きも遅いが何か企んでいるな。」
「兄貴どうします?」




周囲を見渡すと獣王隊の勢いは増す一方だった。


サガミは振り返ってコカ大佐を見ているが、どうやら新手の存在には気づいていない。


嫌な予感がしているサガミは攻撃を躊躇していた。


気がつくと赤軍の兵士達は徐々にサガミ達から距離を取り始めているではないか。


重装甲の新手だけが牛歩とも言える速度だが確実に近づいていた。




「狙いがわからない。」
「もう先に殺してしまえばいいんじゃないですか?」
「動きは遅いものな。」




ペップは前傾姿勢になると今にも新手に飛びかかろうとしていた。


サガミの胸騒ぎはどうにも落ち着かない。


しかしこれといった証拠もない。


ただ新手が迫っているだけだった。


半獣族の強靭な肉体に対抗するための重装甲に見える。

すると背後から中佐が怒鳴っている。




「おいサガミ早く進め!! お前の中隊が止まっては前線を上げられないぞ!!」
「は、はい姉貴!! よしペップ行くぞ。」
「はい兄貴!!」




後方にいる中佐に怒鳴られるとサガミは攻撃を続行した。


ペップと共に重装甲の兵士に斬り込んだ。


呼吸を揃えて同時に敵兵の腹部に蹴りを入れた。


ただの蹴りではない。


鋭い爪が伸びた蹴りだ。


蹴られればたちまち爪は体に深く刺さり、致命傷となるのが半獣族の恐ろしい所だ。


甲高い金属音が聞こえ、不思議そうに敵兵を見ているサガミは不敵に笑う敵に「やはり罠だったか。」と何か察したかの様に直ぐに後ろに下がった。


しかし金属音の余韻が残るまま、吹き出した煙がサガミ達を覆った。




「なんだこれ!」
「兄貴こいつ何か吹き出してます!」
「俺のやつもだ!」




煙を吸うとおかしな事に視界が段々と悪くなり、吐き気すら感じていた。


サガミはこの時感じていた。


アーム戦役の時に感じた絶望感を。



「や、やられた・・・」



とある日の獣王隊基地。


過酷な長期訓練を終え、やっと帰還してきた。


山籠りの訓練だった。


山岳での戦闘で補給がなくなった時に半獣族で考えられる惨劇が同士討ちだ。


仲間を殺して食べてしまう恐れがある半獣族には過酷な訓練をさせる必要があった。


この長期訓練では2週間分の食料で一ヶ月間耐えるという過酷な訓練だった。





「は、腹減って死にそう・・・」




ペップは舌を出して今にも倒れそうな表情をしていた。


目の前にはルルの肉付きの良いお尻があり、噛みつきたいという欲求と戦っていた。


半獣族の彼らにとって食べるというのはごく自然で、獲物を狩れば自分が食べるというのも当然の事だった。


それなのに獲物は見当たらず、補給もない状況はあまりに過酷だった。


しかし彼らは宰相夜叉子の私兵。


腹が減ったから近くの誰かを殺して食ったなんて許されるはずがない。


互いに励まし合いなんとか乗り越えたペップは待ちに待った食事を楽しみにしていた。




「い、今にもルルのお尻食っちゃいそう・・・」
「や、止めてよ!! で、でもペップの腕も美味しそうね・・・」



よだれを垂らす2頭は互いに食べてしまいそうだった。


空腹と疲労で限界という表情でトボトボと基地へ入ってくると生き返るほど良い香りが充満している。


最後の力を振り絞って基地の中を奥へと走っていくと巨大な鍋をかき回す夜叉子と琴がいた。


着物をまくって白くて細い腕を美しく見せながら鍋をかきまぜていると我が子の帰りを見て「良く頑張ったね。」と少しだけ微笑んだ。




「お頭ー!!!!」
「さあ着替えたら食べな。」





脱ぎ捨てる様に戦闘服を脱ぐと普段着に着替えてお椀をかっさらうかの様に勢い良く掴むと夜叉子の前に来て舌を出していた。


するとペップの首根っこを掴んで後ろに投げ飛ばすサガミが「まずは姉貴からだろ。」と疲れた表情で叱っていた。



もう待ちきれないという表情でよだれを溢れさせている。


6000頭もの兵士が賄えるほどの規格外の大きさの鍋を夜叉子は何時間もかけて琴と一緒に作っていた。




「ふう疲れたね。」
「ほんまやなあ。 でも頑張ったかいあったね!!」
「そうだね。」




獣王隊の兵士達は泣きながら食べていた。


一ヶ月ぶりのご馳走にありついた彼らは食べる事を止めなかった。


1時間以上かけて作った鍋が僅か15分足らずで空になってしまった。




「さすがに6000もいると早いね。」
「あたしらの分なくなったでー!!!」
「いいよ竹子に作ってもらお。」
「せやなー!」




そう言うと夜叉子は琴を連れて基地を出ていった。


獣王隊の兵士達は酒を飲み始めて大宴会を始めた。


訓練の無事を祝い、互いの絆に乾杯した。


極限状態でも互いを食べる事もせずに乗り越えた。




「私達は無敵だよ。 お頭を中心に鉄の絆で結ばれている。」
『ガルルルルッ!!!』




獣王隊の隊長にして大将軍のタイロンが声を上げると6000もの猛獣がそれに応え雄叫びを上げていた。


紛れもない天上界で最強の半獣族達だ。


突然漂う煙に視界がぼやけるサガミ中隊の兵士達。




「神経毒だ。」




サガミがフラフラとさせてそうつぶやくとペップが「下がりましょう。」と力のない声で言った。


赤軍が放った神経毒は体のあらゆる神経を麻痺させていく。


何故か赤軍の兵士は煙を吸っても平然としているがサガミに驚く様子はなかった。




「ゲホゲホッ。 連中は解毒剤を既に打っているんだろうな。」





アーム戦役での毒ガス攻撃で大勢の将兵を失った獣王隊は毒への研究も行っていた。


サガミも毒への知識はあり、吸い込んだ途端に起きた症状から神経毒だと直ぐにわかった。


これにはたまらず獣王隊も足が止まった。


気がつけば煙はそこら中で充満し、隣にいるペップの顔すら見えなくなっていた。




「あ、兄貴・・・」
「時間を稼ぐから下がれ・・・」
「バカ言うな兄貴・・・」



死ぬつもりだった。


サガミはこの状況は大打撃を受けてしまうと察していた。


このまま背を向けて退却すれば追い打ちを受けてしまう事は歴戦のサガミなら容易に想像できた。


ならばここで自分が命と引き換えに時間を稼げば家族の命が救える。


腹をくくったサガミは下がるどころか前に進んだ。




「ちっ。 また毒・・・」




朦朧とするサガミの横から聞こえる声は大好きなお頭の声だった。


「はっ」と青ざめた表情で咳き込みながらも逃げる様に夜叉子に向かって言った。


次第に声すらも出なくなってきていたが精一杯の叫びで夜叉子に進言したが次の瞬間には夜叉子はその場に倒れた。




『お頭ー!!!!!!!!!』




兵士達が絶叫すると夜叉子の隣で不気味に立ち尽くす人影が見えた。


「て、てめえお頭に・・・」と今にも倒れそうになりながらサガミは近づいていったが体が動かなくなってきていた。


すると何かが背中に当たった感覚が僅かにあり、下を向くと腹部からナイフが突き出ていた。


「うっ」と低い声を出すと共に何が起きたのかも瞬時に理解できた。




「や、やられたか・・・」




サガミの背後を銃剣で一突きした赤軍は片膝をついて崩れ落ちるサガミを見もせずに煙の中に消えていった。


もはや手当てすらできない。


次第に意識が遠のいていく中で今日までの思い出を振り返っていた。


アーム戦役前に下士官として入隊した自分が今では中隊長。


上出来だ。


ペップに負けない半グレだった自分が将校とはな。


「はは。」っと少し笑うと運命を受け入れようとしていた。


しかし「まてよ。」と何か思い出したかの様に閉じた目を開いた。




「お、俺の弟・・・ダメだまだ俺は死ねない・・・あいつは生きてここから必ず逃がす・・・生意気だけどお頭に必要な存在だ・・・」




サガミは地面を這いつくばって最後にペップを見た場所へと進んだ。


自分は助からない。


でも可愛い弟や妹を逃さなくては。


そう思うと不思議と体が動いた。




「ペップ・・・ルル・・・」




するとサガミの背中を踏みつける赤軍が心臓目掛けて銃剣を刺した。


力が完全に抜けて呼吸すらできなくなり、意識が失われていく中でサガミが最後に見た光景は可愛い弟が必死にルルを助けようとしている姿だった。


「早く逃げろ!!」とペップは咳き込みながらも必死に小隊の仲間を逃がそうとしていた。


サガミは微笑んだ。


そして「ありがとな。」と絞り出す様な声で言うと眠りにつくかの様に動かなくなった。


サガミにとって悔いはなかった。


弟は無事だ。
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