青春聖戦 24年の思い出

くらまゆうき

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第10章 それは突然に・・・

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祐輝には一輝だけいてくれればそれで良かった。


しかしそんなある日の週末。


タイガースの練習に来た祐輝は唖然とする。


勝が取り巻きを連れて嬉しそうにしている。


取り巻きの中にはこの間いじめられていた。


弘人までいた。




「へっ。 一人ぼっちだー!」
「弘人。 いいのかよ。」
「また友達って言ってくれたからねー。」
「祐輝は一人ぼっちだー!」
「別に。 俺には一輝がいるからな。」




その言葉に嘘はなかった。


タイガースの誰が敵になっても一輝だけがいてくれればそれで良かった。


弘人が勝の元に戻っても、父親に人間じゃないと言われても一輝だけは味方だった。


すると勝は勝ち誇った顔で祐輝に言った。




「その一輝もタイガース辞めたんだよ! これでお前は一人ぼっちだー! 誰もキャッチボールの相手もいないぞー!」
『ははははははー!!!!』




勝の言葉は本当だった。


グランドに一輝の姿がない。


何処にもいない。


父親の祐一は腕を組んで見ている。


隣は一輝の父の浩一がいつもいたはずなのに。


しかし誰も一輝がいなくなった事には触れもせず、練習は始まった。


勝の言葉通りキャッチボールの相手がいなかった。


仕方なくコーチが祐輝とキャッチボールをした。


その後の練習でも誰も祐輝の相手をしてくれなかった。


タイガースのコーチも祐輝が学校でチームメイトをいじめていると知っていた。


監督が話した事で祐輝はチームの悪者になっていた。


そして土日が終わり月曜日になって学校に行くと一輝が待っていた。




「何でだよ・・・」
「ごめんね祐輝・・・でも父ちゃんと祐輝のおじちゃんが喧嘩したみたいで・・・おじちゃんが監督に言って俺・・・辞めさせられちゃった・・・ごめん・・・」
「父さんが・・・」




祐輝の頭の中は真っ白になった。


自分の父のせいで一輝は辞めさせられたのか。


理解ができなかった。


親と親の喧嘩でチームを辞めさせられるなんて。


その場に座り込んで泣き始める祐輝。


一輝も一緒に泣いている。



「謝るのは俺の方だよ・・・野球選手になるんだって言ってたのにな・・・」
「うん・・・隣の中野区のチームに行く事になったから・・・野球は続けるよ・・・」



申し訳なさで祐輝は気が狂いそうだった。


すると勝が取り巻きを連れて嬉しそうに歩いている。


祐輝と一輝を見て大声で叫んだ。




「あー! 祐輝が一輝君の事泣かしてるー! 先生ー! また祐輝がいじめてるー!」




いつもなら真っ先に勝をぶちのめす所だが、今回は勝なんてどうでも良かった。


たった1人の親友と引き裂かれた。


祐輝がタイガースで野球を頑張れる唯一の原動力がなくなった。


いくら泣いても涙が出る。


先生に保健室に連れて行かれた2人は授業を少し休んでから教室に戻った。


そして学校が終わり家に帰った。




「祐輝・・・」
「母ちゃん。 どうしてよ!!」
「私にもわからないの。 パパがいきなり浩一はクズだとか言って監督に電話して・・・」




しばらくすると祐一が帰ってきた。


何も言わずに着替えて酒を飲み始めた。


祐輝は泣きながら祐一に説明を求めた。




「お前は知らなくていい。」
「何でだよ!! 俺のたった1人の親友だったのに!!」
「うるさい出ていけ。」
「返せよ! 一輝を返せ!!」




すると祐一は祐輝を殴り飛ばして家の外に出した。


家の鍵を閉められて入れなくなった。


悲しそうに行く宛がなくなった祐輝は一輝の家に向かった。


浩一からも話が聞きたかった。




「祐輝ー!」
「か、一輝・・・」




一輝が飛び出してきて、浩一の姿もあった。


悲しそうに浩一は祐輝に近づいてきた。


頭をなでようとしたが祐輝は手で振り払いギロッと睨んだ。




「説明してよおじさん。」
「おじさんはね。 祐一さんにいじめられているのは一輝と祐輝だって言ったんだよ。 そうしたら祐一さんが監督の息子でそんなわけない。 嘘つくなって怒ってさ。」
「それで辞めさせられた?」
「ごめんな。」




祐輝の中でぽっかり空いた穴は塞がらなかった。


自分の父親によって親友と引き裂かれた。


この時から祐輝は父親に対して復讐を誓った。


小学校2年生の梅雨の事だ。


雨は祐輝の涙を消し去った。
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