青春聖戦 24年の思い出

くらまゆうき

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第26話 エースへの道

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中学生活が始まり最初の夏を向かえた。


相変わらず祐輝は友人を作らずにいた。


しかしそんな祐輝だって少年だ。


夏になれば祭りにだって行く。


お小遣いを財布に入れて屋台の立ち並ぶ神社を歩いている。


周りは友人を連れているのに祐輝は1人。


たこ焼きと焼きそばを買うと神社から少し離れた所で食べている。


そこは人気のない公園だ。


神社の賑わいが聞こえる風流な公園だ。


夜風に当たり心地よさそうにも汗をかいている。




「あれー? 祐輝君?」




聞き慣れた声に振り返るとそこには浴衣姿でりんご飴を食べるミズキの姿。


祐輝は一度振り返るとまた焼きそばを食べ始めた。


ミズキは祐輝の隣に座ってりんご飴を食べている。




「甚平着ないんだ。」
「そんなもん持ってない。」
「そっかあ。 りんご飴美味しいよ。」
「そっか。」
「もー。 でも意外だった祐輝君もお祭り来るんだね!」





祐輝は何処か鬱陶しそうにしている。


中学生にして人と関わる事が嫌いになった祐輝は1人の時間を好んでいる。


好きなものは先人の生きた証。


野球だって自分の成績が全てだった。




「祐輝君は高校には野球で行くの?」
「うん。」
「そっかあ。 何処の高校?」
「知らん。 あのさ。 1人にしてくれないか?」
「え・・・」





どうしてこうなのか。


しかし祐輝はミズキとは学校だけの関係だと思っていた。


放課後の自主練についてくる事も嫌だった。


ミズキを置いて家に帰ると歴史の本を読み漁った。




「孤軍奮闘の兵。 真田幸村。 大阪夏の陣で徳川の大軍相手に騎馬突撃で家康を追い詰める・・・カッコいいなあ。 やっぱその気になれば1人で大局を変えられる。」




祐輝が小学校6年間で歪んだ心は「孤独」を求めた。


誰かと一緒にいても良い結果にはならない。


頼れる存在なんていなかった。


そんな祐輝が向かえたナインズの夏合宿。


歴史の本を読み終えると眠りについた。


明日からは初の合宿だ。


眠りについて朝を向かえた祐輝は新宿のバスターミナルへ行くとナインズのチームメイトが揃っている。


ナインズの合宿は恐ろしく過酷という事で有名だった。


普段は監督と佐藤コーチの2人が練習を見ているが合宿にしか現れないコーチがいると先輩に聞かされていた。


バスに乗った祐輝は隣に座る健太と謎のコーチの話をしている。




「怖いなあ・・・」
「キツいんだってね。」
「どうしよお祐輝・・・」
「やるしかないでしょ。 まあなんとかなるだろ。」




バスは数時間走って長野県の山奥のグラウンドに着いた。


そこに立つサングラスの強面の男性。


先輩達はバスから降りると笑顔で男性と握手している。


整列して脱帽して男性に挨拶する。





「気をつけ!! 礼!!」
『おはようございます!!』




すると男性は大きな声で叫んだ。




「高田でーす!! お願いします!!!」




甲高い声で叫ぶ高田。


祐輝は思わず吹き出しそうになっていた。


先輩達も高田を見てニコニコしている。


すると健太が小声で話しかけてくる。




「あの人かな例のコーチ。」
「なんか声高いし怖くなさそうだね。」
「うん・・・良かったあ・・・」




そしていつもの様にナインズは練習を開始するために準備運動に入った。


すると高田コーチが甲高い声で叫んでいる。


驚いた祐輝は振り返り見ている。





「1年は別メニュー!! 俺の所まで10秒以内!!」





わけがわからないまま、グラウンドの端にいる高田コーチの元へ小走りで行った。


ストップウォッチを持っている高田コーチはダラダラと走って来る祐輝と健太とエルドの3人だけの1年生を見て叫んだ。






「はいやり直し!!! 向こうまで行ってまた帰って来い!! じゃないと練習しません!!!」





ナインズ恒例の「通過儀礼」だ。


この地獄の特訓は毎年1年生だけ行われる。


そしてこの事を後輩に言ってはいけないという守秘義務が先輩にはあった。




「はいやり直し!!! エルドが間に合わなかった!! 練習しません!!! 帰りたければ帰ってください!!!!」




気温は30度を超えている。


そんな灼熱の中で祐輝は通過儀礼を始めた。


合宿初日わずか30分。


祐輝は倒れる寸前になっているのだった。
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